タマリンドの研究
近所のイオンで,今年もイオンワールドフェスタ「タイフェア」が開催されていました。
店内にはタイの音楽が流れ,モニター映像では,ガイヤーン(タイ風鶏の照焼き)やグリーンカレーなどが紹介され,「これはもう ぜっタイ 食べタイはずです」と思わず笑ってしまうコメントまでありました。
どんな食材や惣菜があるのか見て回ると,果物のコーナーでタマリンドが売られていました。
これこそ,私が「食べてみタイ」食材です。
(スイートタマリンド(箱))
輸入食品店やタイ料理店で,タマリンドペーストが売られているのを見かけることはありますが,タマリンドがそのまま売られているのは初めてでしたので,嬉しくてタマリンません。
タマリンドは長さが10cm前後で,巨大化したピーナッツのようです。外側の皮(殻)は乾燥して固いのですが,薄いので,わずかな力で割ることができ,簡単に中身を取り出すことができます。
(タマリンド外観)
ポップ広告に食べ方が説明されており,
「円筒形のさやの中にある果肉をお召し上がりください。太い繊維は取り除いて下さい。果肉は柔らかく酸味があり,濃い甘さとかすかな酸味のあるねっとりとした食感です。アジア料理に入れると,酸味や甘み,コクを与えてくれる調味料でもあります。干し柿に似たコクと甘味があります。」
とのことでした。そこで,まずは殻を水で洗い,殻を取り外して,中の様子を観察することにしました。
(タマリンドの中身)
画像の上が殻を半分切った様子,左が中身を取り出した果肉の様子,下側中央が中の果肉の上半分を切り取った果肉の中と種の様子,右が果肉を取り囲む太い繊維の様子です。
中の果肉は,確かに干し柿のようにねっとりしているので,分解するのに苦労しました。
こうしてみるとわかるのですが,タマリンドの果肉は種の周りを覆ったわずかな部分で,大半はつるつるの小石のように固い種とその種を覆う薄い皮,そして繊維で構成されています。
果肉のねっとりとした食感や凝縮された甘味は,確かに干し柿やドライフルーツのレーズンやプルーンに近いと感じました。
フィリピン料理のシニガン(「フィリピン料理の特徴と主な料理3 -フィリピン料理に豚肉が多い理由-」参照)をいただいた際,かなり酸っぱかったため,タマリンドは酸味が強いものだという印象がありました。
しかし,今回いただいたタマリンドは,「スイートタマリンド」と呼ばれる甘い品種だからだと思いますが,酸味はそれほど強くなく,おやつ感覚でいただける果物となっています。
タマリンドは,その酸味と甘味,褐色の色の特徴を生かして,パッタイ(タイ風焼きそば)やマッサマンカレーなどの各種カレー,チャツネ(カレーや揚げ物用の薬味),シニガン,タマリンドジュースなどに用いられています。
小石のようなタマリンドの種(シード)は当初何の気なしに捨てていましたが,この種の胚乳部分から得られる多糖類は,「タマリンド(シード)ガム」と呼ばれる食品添加物(増粘安定剤)となることを知り,この種を割ってみることにしました。
※増粘安定剤:液体にねばりやとろみをもたせる,食品の分離を防ぐ,水分を保たせるなどの効果がある。
(タマリンドの種)
タマリンドの種は,本当に小石のように固く,包丁,カッターナイフ,料理ばさみでは割れそうになく,コンクリートの上に置いてハンマーで何度か叩いてやっと割れました。
種を覆う茶色の皮がとても固く,中の乳白色の胚乳は生の大豆のような青臭さがあります。
試しにしばらく水に浸けてみました。すると,約30分で,あんなに固かった茶色の皮がやわらかくなり,種の周りの水がゼリーのように固まって(ゲル化して)きました。透明な粘膜に覆われたジュンサイのイメージです。
(水に浸したタマリンドの種)
少し食べてみたところ,とても渋く,決して美味しいものではありませんでした。タマリンドガムの働きによるものだと思います。
タマリンドガムを取り出すためには,タマリンドの殻を割って,種の周りのねばねばした果肉や薄皮を取り除き,石のように固い種の皮を取り除いて,やっと胚乳にたどりつくわけですが,そこまで苦労してでも,食品産業にとって十分価値のある成分だと言うことができます。
タマリンドを今回のようにそのまま売れば,種は当然捨てられてしまいます。
そこで,果肉と種に分け,果肉はタマリンドペーストに,種はタマリンドガムにそれぞれ加工する方が,消費者は食べやすくなり,食品業者はタマリンドガムが得られ,さらには資源の有効活用にもつながるというメリットが生じます。
ただ,私のように「素材そのものの味を味わってみたい」という消費者のニーズも少なからずあるようにも思います。
購入したタマリンドを使って,いろいろ勉強になりました。
現在はデパートやスーパーマーケット,輸入食品店等で世界の様々な食品や調味料を入手することができますが,流通上の制約や,保存の関係から,加工品や調味料,飲料が中心となっています。
それは仕方のないことですが,今回のワールドフェスタのように,イベントとして普段では入手できない世界の食品を紹介し,消費者に提供する機会が増えれば,消費者にとって世界の食文化に対する関心が高まるのは当然のこととして,販売者にとっても,対象食品のみならず,関連した食品(タイ料理で言えば,鶏肉や海老など)や一般商品も含めた消費者の需要喚起が見込め,メリットが高いように思います。
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