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2015年5月 4日 (月)

しょうゆの研究6 -しょうゆは日本独自の調味料なのか(前編)-

しょうゆは日本独自の調味料なのか

 
しょうゆの研究1 -醤(ひしお)から醤油への変遷-」で,現在の醤油は,中国や朝鮮からの醤の技術に,日本在来の肉醤や魚醤を作る技術が加わり,日本でも様々な種類の醤が作られるようになったこと,そして鎌倉時代に禅僧の覚心がもたらした径山寺味噌の液汁から本格的に醤油が作られるようになり,世界に誇る万能調味料「醤油」が完成した旨を概観しました。

 この醤油は,中国の「鼓汁」から派生したものではなく,日本の風土と日本人の知恵が生み出した日本独自の調味料とされています。

 中国や朝鮮半島,東南アジアでも醤油に似た調味料があるにもかかわらず,なぜ醤油が日本独自の調味料とされているのか,その真相を探ってみたいと思います。


醤油の語源

 醤油の語源については,味噌の派生調味料としての「醤の油(液汁)」を表し,醤,豆油などの言葉をもとに日本でつくられた造語だとする説が有力となっています。
 「醤油」と書いて「しょうゆ」と読ませる成語は,1597(慶長2)年に刊行された『易林本節用集』(えきりんぼんせつようしゅう,易林さんが書いた国語辞典)に初めて登場します。


中国での醤油の呼び方

 
醤の技術を伝えた中国での醤油の呼び方はどうなのかと思い,ヒントはないかと,中国清朝の時代の食通「袁枚(えんばい)」の書いた『随園食単』(袁枚著,青木正児訳註)を読んでみました。

 『随園食単』の「〔一〕予備知識(2)調味料を知ること」に,「醤は,清(薄手)と濃(濃い手)の区分がある」と書かれてあります。
 また,日本の醤油にあたる調味料は「秋油」又は「抽油」(いずれも読み方は「チウユウ」)という表現となっていました。

 青木正児氏の注には,
  醤(チアン)=醤油のモロミと赤味噌の間のようなもの。訳文には「醤」は「みそ」と傍訓した。
  秋油(チウユウ)=醤油である。
 と説明されています。

 『随園食単』には,一度だけ「醤油」という字も出てきます。しかし,その「醤油」が日本の醤油にあたるのか,また,袁枚が書いた原著に醤油と書かれてあったのか,日本で訳された際に醤油と書かれたのかなどについては,はっきりしません。

 ただ,中国では通常,「醤油」という表現をしないことはわかりました。

 現在の中国醤油は,主に「生抽」とか「老抽」という名で売られています。


肉食禁止令と「穀醤」

 
日本は,仏教の殺生禁断思想や稲作中心の律令国家を完成させる目的から,天武天皇の肉食禁止令(675年)が発せられ,以降,明治に至るまで,肉に代わって大豆が貴重なタンパク質の補給源となり,様々な食品に活用されることとなりました。

 醤の世界においても,大豆を基本とした「穀醤」(醤油)が発達することとなりました。

 残りの醤をみてみると,まず「肉醤」は肉なので除外され,寺では魚を食べることさえも禁止されていたので「魚醤」という選択肢もなく,「草醤」は食事の主体であるご飯のおかずとして別に発展したと言えるでしょう。

(東アジア・東南アジアの調味料文化圏)
Photo
(石毛直道『石毛直道 食の文化を語る』から引用。一部加工)

 
図を御覧いただくと,東アジア一帯は穀醤圏に位置していることがわかりますが,特に日本は肉食が欠如していたことから,突出して穀醤が発達し,日本独自の醤油が生まれたと言えるでしょう。


肉や油脂に代わる「うま味」を求めて

 肉を使用しない料理法においては,食物の味や香りを引き立てる役割以上に香辛料が自己主張すべきではなく,臭みを消す強烈なスパイス類は必要ないとされてきました。

 また,日本では,出汁に鰹節,昆布,椎茸を中心に使われますが,これらはいずれも油脂が出てきません。これは,牛・鶏・豚の肉や骨などを煮込んでエキスと油脂成分を取り出す西洋料理や中国料理とは異なる特徴です。

 上品できめ細やかな味わいを求める日本料理には,他の国の料理に比べ,より一層うま味を求める結果となったのではないでしょうか。そしてそのうま味の相乗効果をもたらすための,一番の調味料が醤油であり,日本独自の醤油が発達する理由となったのだと思います。


(メモ)
 肉食禁止令の影響で,大豆を使った調味料である醤油や味噌が発展したが,1200年後の明治時代になって,逆に肉食が奨励されるようになると,肉を食べる手段として,それまで食べ慣れた醤油や味噌で味付けしたすき焼きや牛鍋が食べられるようになったのは興味深い。

しょうゆの研究7 -しょうゆは日本独自の調味料なのか(後編)-」に続きます。

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