« 博多人形(博多美人)の耳かき -福岡県福岡市- | トップページ | 梨の木の耳かき -鳥取県倉吉市- »

2015年5月24日 (日)

しょうゆの研究7 -しょうゆは日本独自の調味料なのか(後編)-

 「しょうゆの研究6 -しょうゆは日本独自の調味料なのか(前編)-」に続き,なぜ醤油が日本独自の調味料とされているのか,その真相を探ってみることとします。


味噌の発展と日本の醤油の誕生

 鎌倉時代に禅僧の覚心がもたらした径山寺味噌(金山寺味噌)は,米,大豆,大麦(または裸麦)に種麹を加えて作られる「金山寺麹」に,食塩,砂糖,水あめ,刻み野菜などを加えて作られます。

(金山寺味噌)
1

 この径山寺味噌(金山寺味噌)の製造過程で桶の底に溜まった液が「溜醤油」の原型となりました。

 また,室町時代には,「垂れ味噌」,「薄垂れ」と呼ばれる味噌を水で薄めた調味料も料理で用いられるようになっています。

 こうした溜醤油や味噌(なめ味噌)の美味しさに目覚めた日本人は,その後改良を重ねて日本の食事に合う調味料である醤油を作ってきました。

 つまり,醤油は味噌の派生調味料ととらえることができます。

 現在の味噌の分類でも,金山寺味噌(醸造なめ味噌)は,「醤油もろみに類似していることが特徴」だと説明されています。

 日本独自の醤油の誕生は,日本での味噌製造の発展がもたらしたとも説明できるのです。


アジア各国・地域の醤油の比較

(「しょうゆ麹」で作られる日本の醤油)
 日本の醤油には,「しょうゆ麹」と呼ばれる,加熱した大豆と炒って砕いた小麦に種麹を加え,混ぜ合わされたものを用います。
 その種麹には,日本の気候風土に適合した醤油用の麹菌(Aspergillus sojae,Aspergillus oryzae)が用いられています。
 これらの麹菌は,植物タンパク質を非常によく分解するタンパク質分解酵素を多く含み,うま味の主成分であるアミノ酸を大量に生成する性質を備えていることから,醤油や味噌作りにとても適しています。
 また,これらの麹菌は,日本醸造協会により国菌に指定されています。

(麹菌の胞子(種麹))
Photo
(ニュートン別冊『食品の科学知識』から引用)

(中国の醤油)
 中国の醤油は大豆と小麦粉に麹,塩水を混ぜ,発酵させて作られたものです。
 小麦ではなく,小麦粉が使われ,しょうゆ麹ではなく米麹など日本の麹とは異なった麹が用いられています。

(朝鮮半島の醤油)
 朝鮮半島には,在来の「朝鮮醤油(チェソン・カンジャン)」があります。これはメジュと呼ばれる大豆と麹を合わせて作られた味噌玉に塩水を加え,発酵させて作られる醤油です。一方,一般的によく使われている「醸造醤油(ヤンジョ・カンジャン)」は,「倭醤油(ウェ・カンジャン,倭は日本の意味)」とも呼ばれていますが,名前のとおり,その製法は日本から伝わったとされています。

(台湾の醤油)
 台湾では,調合醤油と呼ばれる本醸造醤油とアミノ酸醤油(※)を混合した醤油が生産量の75%を占め,次いで本醸造醤油が20%,アミノ酸醤油5%となっています。
 大手メーカーの「金蘭醤油」などにみられる本醸造醤油は,日本の醸造技術が台湾に持ち込まれて製品化された醤油となっています。

※アミノ酸醤油…脱脂加工大豆や小麦グルテンなど植物性タンパク質を加水分解してアミノ酸液(うま味)を取り出した醤油。代用醤油とも呼ばれる。

(タイの醤油)
 タイには「シーユーカオ」という醤油がありますが,醤油を示す「シーユー」はバンコクの中華街に多く住む潮州人の言葉が語源とされていて,作り方も中国式に大豆,小麦粉,塩水に麹を加えて発酵させて作られます。

(フィリピンの醤油)
 フィリピンでは醤油は「トヨ」と呼ばれ,アミノ酸醤油が主体となっています。
 国産の醤油を保護する理由もあって,日本の醤油は相当高額で販売されているようです。


 アジア各国・地域の醤油の主な特徴を一覧表にまとめてみました。

(アジア各国・地域の主な醤油の特徴)
Photo

 東南アジアでは,アミノ酸醤油が主流になりますが,これは中国や日本からもたらされた醤油の技術に魚醤の食文化が融合した結果と言えるでしょう。


そのままでも美味しい日本の醤油

 日本では,醤油を煮物や焼物に利用するだけでなく,刺身や寿司などにそのままつけたり,冷奴などにかけたりして食べます。これは,日本の醤油が,醤油そのものの味や香りを重視し,素材本来の味を引き立たせるとともに,そのまま味わっても美味しいように作られているからです。

 これに対して,他の国・地域の醤油は,炒め物や煮物などの加熱料理に用いるのが一般的であり,食材に味付け(塩味・うま味)や色付け(黒褐色)することを主な目的として作られているため,そのまま味わうのでは塩辛すぎたり,色が薄すぎたり濃すぎると感じます。


まとめ

 以上,様々な理由を考察してきました。まとめると,

○「醤油」の語源・呼び方の違い
○肉食禁止令と穀醤の発達
○肉・油脂に代わるうま味の追及
○味噌の発展と日本の醤油の誕生
○「しょうゆ麹」の利用
○原材料,製法,麹の種類等の違い
○そのままでも使えるか,加熱料理が前提か

 などを手掛かりにして,日本の醤油は日本独自の調味料だと説明できると思います。

 液体調味料としての醤は東アジア・東南アジアでみられるものの,唯一,肉食欠如の生活を送ってきた日本は,素材を美味しく食べるために,突出して醤油が発達することとなりました。
 この日本独特の醤油の発達により,様々な日本料理が生まれ,現代の日本料理の80%以上は何らかのかたちで醤油が利用されていると言われています。

« 博多人形(博多美人)の耳かき -福岡県福岡市- | トップページ | 梨の木の耳かき -鳥取県倉吉市- »

食文化事例研究」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: しょうゆの研究7 -しょうゆは日本独自の調味料なのか(後編)-:

« 博多人形(博多美人)の耳かき -福岡県福岡市- | トップページ | 梨の木の耳かき -鳥取県倉吉市- »

最近のトラックバック

2021年6月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
無料ブログはココログ