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2017年2月

2017年2月26日 (日)

パンの研究 -コッペパンの基礎知識と給食のコッペパン-

戦後の救世主 コッペパン

 コッペパンと言えば,学校給食を思い出される方も多いかと思いますが,日本でパンと牛乳が一般家庭に普及したのは,戦後,学校給食で子供達がコッペパンと脱脂粉乳に親しむようになってからのことです。

 戦後の厳しい食糧難のなかで,1954(昭和29)年に「学校給食法」が制定され,アメリカから大量のメリケン粉(小麦粉)が運ばれたこともあって,コッペパンは戦後の学童の成長・健康を支える食べ物として重要な役割を果たしてきたのです。

 まさに戦後の救世主とも言えるべきコッペパンですが,現代に至るまで,シンプルなコッペパンだけでなく,ジャムやクリームがはさまれた「菓子パン」や,焼きそばやコロッケなどがはさまれた「調理パン」など,様々な商品が販売されています。

 岩手県盛岡市の「福田パン」や福岡県福岡市の「コココッペ」のように,多くの種類の具材から自分の好みの具材を選んで食べられることで人気を得ているコッペパン専門店もあります。

 今回はこのコッペパンについてお話ししたいと思います。


コッペパンはクッペから


 コッペパンは日本発祥とされていますが,その原形・お手本はフランスパンの一種「クッペ」とされています。

 パンに切れ目を入れることをクープと言いますが,「クッペ」は,そのクープが1本入ったフランスパンの名称です。

(クッペ)
Photo

 写真は「ドンク」のクッペです。

 「クラム(パンの中身,やわらかい部分)が多い小型フランスパン」と説明書きがありました。

 確かに,そのずんぐりとした形や大きさなどが,コッペパンそっくりですし,「クッペパン」が「コッペパン」に呼ばれるようになったというのも自然な流れのようにも思えます。


日本各地の給食コッペパン

 今この記事をお読み皆さんはコッペパンというと,どんなコッペパンを想像されるでしょうか。

 ここでは,このブログの読者の皆様から事前にお寄せいただいた情報を中心に,学校給食で出されたコッペパンを御紹介したいと思います。

 主に1980年代~2000年代に給食を召し上がった皆様からいただいた情報です。


(日本各地の給食コッペパン)

青森…リンゴ入り
岩手…クルミ入り
宮城…プレーン
秋田…甘く煮た細かい人参入り
山形…プレーン
茨城…プレーン(マーガリン,ジャム,マーマレード),揚げパン,干しぶどう入り,黒糖入り,ミルクパン
福島…プレーン(イチゴジャム,マーマレード),黒糖入り
群馬…チーズ入り
埼玉…プレーン(ジャム,マーガリン),揚げパン(きなこ)
神奈川…干しぶどう入り,プレーン(はちみつ)
石川…プレーン,揚げパン
静岡…リンゴ入り
愛知…干しぶどう入り
岡山…サツマイモ入り,干しぶどう入り(細長バージョン)
広島…プレーン(マーガリン,マーマレード),黒糖入り,パイナップル入り
福岡…黒糖入り,干しぶどう入り,ケチャップ味のソーセージ(真ん中割れバージョン)

 などがあったようです。


 このほか,給食のコッペパンではありませんが,「名古屋めし」として全国的な知名度を持つようになった「小倉マーガリン」や,滋賀県長浜市の「サラダパン」(「つるやパン」)と呼ばれる,たくわん漬け入りのコッペパンなど,地域の個性的なコッペパンもあり,その地域の人々の好みに合わせて様々なコッペパンが作られてきた様子が伺えます。

 情報をお寄せいただいた読者のみなさんに,この場をお借りして深くお礼申し上げます。


昔のコッペパンと現代のコッペパンの違い

 昔のコッペパンと現代のコッペパンの違いについて考えてみました。

 昔のコッペパンの方が大きいという違いがあるかも知れません。今と違って,コッペパンの食事量に占める割合が高かっただろうと想定されるからです。

 ただ私はそれ以上に,コッペパンの生地に違いが生じているのではないかと思っています。

 これはコッペパンに限った話ではありませんが,昔のパン生地はバターやクリームといった油脂の含有量が少ないため,パサパサで,食べたらパンくずがたくさん落ちていたように思います。

 それもあって,私が小学生の時は,給食のトレーに個人で持参したナプキンを敷いていました。

 現代のパンはどうでしょう。

 日本人の好む食感(テクスチャ)が「もちもち」,「しっとり」ということもあり,パンくずがこぼれて困るという現象は,一部のこだわりを持って作られたハード系パンを除いて,あまりみられなくなったのではないでしょうか。

 豊かな食生活が送れるようになるにつれ,パン生地も,砂糖や油脂を多く含み,それだけで食べても十分おいしいリッチ系のパンが多くを占めるようになりました。

 このことは,コッペパンにおいても例外ではないでしょう。

 ただ,最近では,素材の穀物そのものの味や,健康面を重視したハード系(リーン系)のパンも注目を浴びるようになっており,パンの世界も多様な展開をしています。


私の給食の思い出とコッペパン

 私の地元・広島では,給食に出されるコッペパンについては,コッペパンと呼ばれるより,「パン」,「給食パン」または「味付けパン」と呼ばれることの方が多かったように記憶しています。

 また,低学年の時は,先生と児童でコッペパンの大きさが異なり,先生用のコッペパンには包装用ビニール袋の上にマジックで黒丸がされていたのが印象的でした。

 プレーンのほかに,黒糖入りや角切りのドライパイナップルが入ったコッペパンもあったように思います。

 ただ,私は今も昔も牛乳が飲めないことが原因で,給食には全くいい思い出がありません。

 牛乳が必ず付く給食が嫌いで仕方ありませんでした。

 牛乳が体に良いからと,私に無理矢理飲ませようとする先生,それに従い,飲めない私に何とか飲ませようと励ますクラスメイト。

 牛乳が飲めないからと楽しいはずの学校行事にも参加させてもらえず,午後からの授業が開始されても,私だけ机の上には食べられない給食がずっとある状態でした。

 放課後,皆が帰った後も,私だけ帰らせてもらえず,じっと給食と向き合ったまま。

 やっと帰れても,残したパンやおかずを今度は家に持って帰って食べろとビニール袋に詰め込まれる始末でした。

 そもそも食べられずに困ってたのですから,帰り道にポーンと捨てて帰ってましたが…。

 ビン入り牛乳に底から高さ1cmだけ牛乳を残した状態で,「今日はこれだけ飲みなさい」と先生から言われるのですが,口をつけても吐くだけで,どうしても飲めませんでした。

 そこで,早く解放されたいが一心に,コッペパンに牛乳を浸み込ませ,飲んだと先生に報告したこともあります。

 そうすると,先生は気を良くし,翌日に「今日は高さ1.5cmまで牛乳を飲みましょう」とさらにハードルが高くなるという悪循環(笑)。

 牛乳が飲めない理由を調べに医者へ行けと言われ,親と一緒に泣きながら病院に行ったこともあります。

 今だったら問題になるかも知れませんね。

 今の私の知識を持ってすれば,当時の先生の主張程度なら論破することは容易だと思います。

 そもそも私は小学生の時点で,牛乳を飲まなくても,身長がかなり高かったのですから(笑)。

 牛乳以外の乳製品は美味しく食べられるのですが…。

 もうとっくの昔の話ですので,この記事をもとに問題点を騒ぎ立てるようなことはしないでくださいね。


コッペパンの新たな魅力を求めて

 食の世界に興味を持ち,食べる物を強制されることのない身になった現在。

 改めてコッペパンの世界を探訪し,これまで見逃していたコッペパンの魅力を再発見できればと思っております。

(「黒コッペ」)
Photo_2

 フジパンの「黒コッペ」です。

 黒糖入りコッペパンにクリームがはさみこまれています。

 昭和30年代のヒット商品が再現されたものです。

 黒糖の香ばしい香りやコクと,中身のクリームがうまく調和し,どこか懐かしさを感じさせる仕上がりとなっています。

 結構大きいのですが,シンプルな美味しさで,軽く1本食べられます。


 私はこのほかにも,クリーム入りのチョコがけや,バナナクリーム入りのコッペパンも好きです。


 皆さんはコッペパンにどんな思い出があり,どんなコッペパンがお好きでしょうか。


<参考文献>
岡田 哲『明治洋食事始め』講談社学術文庫
北岡正三郎『物語 食の文化』中公新書

2017年2月19日 (日)

広島市南区の黄金山と「黄金山まんじゅう」

広島市南区について

 現在私が住んでいる広島市南区は,陸の玄関口「広島駅」と海の玄関口「広島港」,広島カープの本拠地「マツダスタジアム(広島市民球場)」を有する街です。

 また瀬戸内海に浮かぶ似島(にのしま)は,バウムクーヘンで有名な「ユーハイム」の創業者,カール・ユーハイムにより,日本で初めてバウムクーヘンが焼かれた島として有名です。(「ドイツ・ウィーン菓子の特徴と主な菓子 -シュトロイゼルクーヘン・レープクーヘン・バウムクーヘン-」参照)

 その広島市南区でシンボルの山と言えば,黄金山(おうごんざん)と比治山(ひじやま)です。桜の咲く季節になると,大勢の花見客でにぎわいます。

 今回は黄金山と黄金山にまつわるお菓子「黄金山まんじゅう」を御紹介したいと思います。


黄金山

 黄金山は広島市の南東に位置する標高221.7mの小高い山です。

(黄金山全景と自動車運搬船)
Photo

 写真は,広島港に近い元宇品(南西方向)から眺めた黄金山(写真左)とマツダ宇品工場で自動車を積む自動車運搬船(写真右)です。

 アーチ状の橋がかかった広島高速3号線も見えます。


黄金山まんじゅう

 「黄金山まんじゅう」は,広島市南区宇品海岸のカフェ・洋菓子店「ルードゥメール」で販売されている洋風まんじゅうです。

 店名の「ルードゥメール(RUE DE MER)」(フランス語)を日本語に訳すと「海岸通り」となり,店の所在地の地名がそのまま店名になっていることがわかります。

(黄金山まんじゅう(包装))
Photo_2

 黄金山まんじゅうは,現在「小豆あん」と「スイートポテト」の2種類が用意されており,小豆あんは饅頭の上に黒胡麻が,スイートポテトは饅頭の上にアーモンドスライスが乗せられています。

 ずんぐりとした形が黄金山をイメージさせます。

(黄金山まんじゅう(小豆あん))
Photo_3

 黄金山まんじゅうの小豆あんです。

 中は程よい甘さの粒あんです。

 皮は洋菓子のような,しっとりしたバター風味の生地となっています。

 バターの風味と小豆あんの程よい甘さがうまく調和した,まさに「洋風まんじゅう」という名にふさわしいお菓子に仕上げられています。

(黄金山まんじゅう(スイートポテト))
Photo_4

 黄金山まんじゅうのスイートポテトです。

 こちらは中にスイートポテトあんが入っています。

 以前は小豆あんと白あんの組み合わせだったと記憶していますので,スイートポテトはさらに洋風に仕上げられています。

 甘いサツマイモのあんが,バター風味の生地とよく合います。

 地元の手土産として,私もよく利用させていただいています。


広島市随一の夜景スポット黄金山

 私は,職場で使うこともあって,最近一眼レフカメラを買ったのですが,普段あまり使わない(高価なので気軽に使えない)状況になっています。

 そんななか,カメラ片手に散歩しながら写真撮影されているブログ記事を拝読し,「自分もこんな風に近所を散歩し,記事が書けたらいいな」と思いました。

 そこで,カメラと三脚を用意し,近所の黄金山に登って(歩きではなく自動車で行ったのが情けないですが…),写真撮影に挑戦してみました。

 黄金山は,広島市随一の夜景スポットとしても有名なのです。

 寒空の中,「ハイ,ごめんよ」とカップルをさえぎりながら(笑)撮った写真がこちらです。

(黄金山夜景(海田大橋・広島大橋))
Photo_8
※写真をクリックすると拡大します。
ニコンD7100・AF-S DX NIKKOR 18-105mm f3.5-5.6・マニュアルモード・f9.5・4秒・ISOオート/1250・AWB

 黄金山の山頂から南東方向を眺めた様子です。

 写真右上が広島市と坂町・呉市を結ぶ広島大橋,左上が広島市と私の故郷・海田町を結ぶ海田大橋,これらの橋に広島高速2号,3号が海上で連結している様子です。

 手前の白いライトの橋は,マツダの会社専用の東洋大橋です。

(黄金山夜景(広島市街))
Photo_9
※写真をクリックすると拡大します。
ニコンD7100・AF-S DX NIKKOR 18-105mm f3.5-5.6・マニュアルモード・f13・2秒・ISOオート/1600・AWB

 続いて,今度は黄金山の山頂から北北西方向を眺めた様子です。

 広島駅周辺,広島市中心部の様子です。
 写真左の横長に黒っぽく写っているのが比治山です。

 広島にお越しになったら,黄金山に登り,広島市内や瀬戸内海の様子を御覧いただくのもおすすめです。

2017年2月13日 (月)

チョコレートの新しい潮流2 -ハイカカオと機能性チョコレート,発酵の重要性-

ハイカカオ(高カカオチョコレート)とは

 「ハイカカオ」とは,チョコレートの原料であるカカオマスが60~70%以上含まれているチョコレートのことを言います。

 前回御紹介した「ビーントゥバー(Bean to bar)」(「チョコレートの新しい潮流1 -ビーントゥバー(Bean to bar)-」参照)に続き,今回はこのハイカカオについて御紹介したいと思います。

ハイカカオのメリットとデメリット,今後の可能性

 ハイカカオのメリットは,純粋なカカオの風味が楽しめることと,カカオマスに含まれる機能性成分をより多く摂取できることにあると言えるでしょう。

 カカオマスの主な機能性成分としては,ポリフェノール,リグニン,テオブロミンの3つが挙げられます。

 ポリフェノールには「抗酸化作用」(体内を酸化(サビ)させる活性酸素を抑える働き)が,リグニンには不溶性食物繊維による「整腸作用」が,テオブロミンには「集中力向上効果」や「疲労回復効果」が期待できるのです。

 一方で,カカオマスの含有量が多いということは,それに含まれる脂肪分も多く摂取することとなりますので,砂糖やミルクの割合が低くなることだけに注目することのないよう留意する必要がありそうです。

 毎日新聞(2017年2月9日)に,ハイカカオに関する注目すべき記事が掲載されていました。

 内閣府の脳に関する研究チームと株式会社明治の共同研究の中間報告で,「高カカオチョコレート(ハイカカオ)を4週間以上続けて食べると大脳皮質の量が増え,脳の若返りの可能性がある」と発表されたのです。

 成人男女30人を対象にした限定的な調査のため,今後精度を高めていく必要がありますが,高齢化の進む中,注目に値する報告だと思います。


広島市植物公園のチョコレート講演会

 2017年2月11日に「バレンタインフェスティバル」が開催されている広島市植物公園へ行きました。

(広島市植物公園「バレンタインフェスティバル」フラワーデコレーション)
Photo

 広島市植物公園は,中国地方で唯一カカオの木がある植物園です。

 現在,大温室が大規模改修中で,従来あったカカオの木は寿命のために処分されましたが,代わりにカカオ豆から育てられたカカオの木がすくすくと人間の背丈ほどの高さにまで成長しています。

(カカオの木(広島市植物公園))
Photo_2


 植物公園の講堂で,広島大学の佐藤清隆先生によるチョコレートの講演会「チョコレートのサイエンスロマン」を聴講しました。

 数年前から毎年バレンタインデーの時期に開催されているイベントです。

 その講演会の中で,話題となっている「ビーントゥバー(Bean to bar)」や「ハイカカオ」についてもお話がありました。


ハイカカオに期待される効果

 ハイカカオについて興味深かったお話を御紹介したいと思います。

 チョコレートメーカー「ハーシー社」の調査では,カカオの香りの成分は約1500種類から成り立っており,人工的に合成して作ることはかなり困難なのだそうです。

 その魅力的なカカオの香りには,「アロマテラピー(芳香療法)」としてのリラクゼーション・ストレス軽減効果があるとのお話でした。

 ハイカカオは芳香性が強いことから,より高い効果が期待できそうです。

 「失恋にチョコレート」と言われるのも,こうした理由があってのことなのです。

 また,国際スポーツ栄養学会誌の論文には,ダークチョコレート(ハイカカオ)を食べたサイクラー(自転車乗り)は,食べなかったサイクラーに比べ酸素消費量が低減し,走行距離もアップしたという報告もあるようです。


機能性チョコレートとハイカカオ

 カカオ豆に不足している栄養素はビタミンCで,そのビタミンCを補うためには,イチゴとチョコレートの組み合わせがおすすめなのだそうです。

 また,こうした食べ物の組み合わせで栄養を補う方法のほかに,最近は「機能性チョコレート」と呼ばれる,健康に配慮したチョコレートも数多く売られるようになったと紹介されました。

 講演会の後,私はスーパーマーケットのチョコレート売場に行ってみました。
 売場には,機能性チョコレートのコーナーが設けられ,様々な商品が売られていました。

(ロッテ「スイーツデイズ 乳酸菌ショコラ」)
Photo_3

 ロッテの「スイーツデイズ 乳酸菌ショコラ」は,乳酸菌をチョコレートで包むことにより,乳酸菌が生きたまま腸に届けることができるチョコレートです。

 株式会社ロッテと日東薬品工業株式会社の共同開発商品です。

 チョコレートなので,常温で持ち運べ,手軽に摂取できることが利点です。


(森永製菓「ビフィズス菌チョコレート」)
Photo_5

 こちらは,森永製菓の「ビフィズス菌チョコレート」です。

 森永製菓株式会社と森永乳業株式会社の共同開発商品です。

 ロッテの乳酸菌ショコラと同じく,ビフィズス菌をチョコレートで包むことにより,ビフィズス菌を生きたまま腸に届けることができるチョコレートです。

 1箱あたり「ビフィズス菌BB536」が100億個も配合されており,常温でいつでも手軽に摂取できることが利点となっています。


 以上御紹介した機能性チョコレートは,いずれもハイカカオ(ビターチョコレート)であることにも注目すべきだと思います。

 ハイカカオに乳酸菌やビフィズス菌を配合することで,より健康面でのメリットを高めたチョコレートとなっているのです。


チョコレートの製造工程に欠かせない発酵

 話を講演会に戻します。

 講演会の終わりに,質問コーナーが設けられました。
 せっかくの機会なので,私も質問させていただきました。

私:「チョコレートの製造には,カカオ豆の発酵→乾燥→ローストといった工程がありますが,発酵なしでチョコレートを作ったらどんな味になるのでしょうか。人間がカカオ豆を発見した当初から,カカオ豆は発酵させる必要があると認識していたとは思えないのですが。」

佐藤先生:「インドネシアのカカオ豆を入手し,発酵なしのチョコレートを作って食べてみたことがありますが,全く味がないチョコレートになりました。発酵した方がよいという発想は,カカオ豆を外に放っておいたか何かから生まれた偶然の産物なのでしょうが,発酵を経てこそチョコレートになるのです。バナナの葉に包むなどの方法でカカオ豆を発酵するのですが,それはバナナの葉に存在する菌の力を借りているのです。」

私:「ならば,日本で大豆を藁に包んで納豆を作るのと同じ発想・方法ですね。」

佐藤先生:「そのとおりです。熱帯地方のバナナの葉にいる菌と日本の藁などにいる菌は異なるため,日本にいる菌でカカオ豆を発酵させようとしてもなかなかうまくいかないのです(笑)。ちなみに,カカオ豆を包み込んでいるカカオパルプの糖分が発酵を促しています。」

私:「勉強になりました。ありがとうございました。」


 カカオパルプは,カカオポッド(カカオの実)を割った時に出てくる,中のカカオ豆を包み込んでいる白いワタのような果肉のことです。

(カカオポッド(実))
Photo_6

 写真は会場に展示されていたカカオポッドの模型ですが,左の割ったカカオの中心部にある白い雲のようなものがカカオパルプです。

 このカカオパルプの中にカカオ豆が入っています。

 ちなみにこのカカオパルプ,味はアケビに似ているとのことです。


 佐藤先生は株式会社明治が誇るビーントゥバー(bean to bar)チョコレート「明治 ザ・チョコレート」の開発にも協力しておられます。

 最近では,世界初のチョコレート作り専用石臼(ショコラミル)を「石の三徳」(広島県東広島市)や「井上石材」(岡山県矢掛町)と共同開発され,話題となっています。

 株式会社明治・大阪工場からは,佐藤先生を通じて,毎年手作りチョコレート用のカカオニブを提供していただいており,参加者はチョコレートやカカオ酒などを作って味わうことができます。

(明治・大阪工場直送のカカオニブ)
Photo_7

 このカカオニブは,ガーナ産です。

 近年,カカオニブは製菓・輸入食品店などでも販売されるようになりました。

 御興味を持たれた方は,カカオニブから世界に1つだけのチョコレートを作ってみられてはいかがでしょうか。


まとめ

 このように,チョコレートの世界には,「ビーントゥバー(bean to bar)」や「ハイカカオ(高カカオチョコレート)」といった新しい潮流が生まれています。

 チョコレートを味わって食べる時代,単なるお菓子から健康食品として食べる時代へと,チョコレートは進化し続けていることがお分かりいただけたかと思います。


<関連記事>
カカオ豆とチョコレート」(2014年2月16日)
自家製チョコレート」(2014年2月23日)

<関連サイト>
広島市植物公園
http://www.hiroshima-bot.jp/
「ショコラミル」(「石の三徳」運営サイト)
http://www.chocolat-mill.jp/

<参考文献>
『Hanako特別編集 ハイカカオBOOK』マガジンハウス
『ニュートン別冊 食品の科学知識』ニュートンプレス
『毎日新聞 ヘルシーリポート(2017年2月9日)』毎日新聞社
佐藤清隆『チョコレートのサイエンスロマン(広島市植物公園講演会)』資料

2017年2月12日 (日)

チョコレートの新しい潮流1 -ビーントゥバー(Bean to bar)-

ビーントゥバー(Bean to bar)とは

 ビーントゥバー(Bean to bar)とは,チョコレートの原料であるカカオ豆(bean)の選別・焙煎から,板チョコレート(bar)までの全ての工程を一括して行うという意味です。

 私は,広島市植物公園で実施された広島大学の佐藤清隆先生による講演会「チョコレートのサイエンスロマン」を聴講した際に初めてこの言葉を知りました。

(Bean to barの特徴)
Bean_to_bar
(広島大学佐藤清隆名誉教授作成・配付資料・一部加工)

 以前,「自家製チョコレート」の記事で,カカオニブから自家製チョコレートを作り,その味に感動したことを御紹介しましたが,これがまさにビーントゥバーだった訳です。

 そのビーントゥバーのチョコレートを味わえるお店が尾道にあることを知り,実際に伺ってみました。

 広島県尾道市向島に,カカオ豆の仕入れからチョコレートの製造・販売までを行っておられるチョコレート工場「ウシオチョコラトル(USHIO CHOCOLATL)」があります。

(ウシオチョコラトル外観)
Usio_chocolatil

 立花自然活用村という施設の2階にあります。

(入口の看板)
Usio_chocolatil_2

 ストレートな案内ですね(笑)。

 店内はカカオの香ばしい香りが漂っており,チョコレートに魅せられた男性陣が奥の厨房でチョコレートを作られていました。

 カカオ豆の仕入れからチョコレートの製造・販売までを3人の男性が行っておられるだけでもすごいことですが,ここでは更に一歩進んで,カカオ豆と砂糖だけでチョコレートを作られていることに驚きました。


カカオ豆と砂糖だけでチョコレートを作ることの難しさ

 カカオ豆と砂糖だけでチョコレートを作れば,それだけ純粋に各カカオ豆の特徴を味わい,比較することができます。

 カカオ豆と砂糖だけで作るというのは,一見シンプルで簡単そうですが,カカオ豆(カカオニブ)に含まれる脂肪分(約55%)だけでは,十分ななめらかさが出ず,扱いが難しいため,通常はココアバターや植物油脂が加えられています。

 実際,私がカカオニブからチョコレートを作った時も,サラダ油を加えました。

 ウシオチョコラトルのチョコレートは,こうした追加の脂肪分なしで作られているわけですが,この場合,精練(コンチェ)したり,成形することがとても難しくなるらしく,大量生産用の機械では無理だと伺いました。

 このほかにも,カカオ豆の皮を取り除く際に,農機具である唐箕を使われていること,パプアニューギニアのカカオ豆など産地から直接取引されている原材料もあることなど,興味深いお話をたくさんしていただき,盛り上がりました。


チョコレートで世界を巡る

 チョコレートはどれも似たような味なのではないかと思いつつも,ガーナ,トリニダードトバコ,パプアニューギニアという3種類のタブレットを購入し,実際に食べ比べてみました。

 今回購入した3種類のタブレットです。

(ウシオチョコラトルのチョコレート)
Usio_chocolatil_4


 現代のカカオ産地と今回のチョコレートの産地を御確認ください。

(現代のカカオ産地と今回のチョコレートの産地)
Photo
(武田尚子『チョコレートの世界史』から引用。一部加工)


ガーナ

(ガーナ)
Usio_chocolatil

(ガーナ説明文)
Usio_chocolatil_3

 慣れ親しんでいる日本のチョコレートの香り・味がします。

 ハイカカオチョコレートのイメージです。

 深いコクとほろ苦さがありますが,酸味は少ないように感じました。


トリニダード・トバコ

(トリニダード・トバコ)
Usio_chocolatil_5

(トリニダード・トバコ説明文)
Usio_chocolatil_6

 ガーナに比べ苦味は弱く酸味が少し強いです。

 ガーナ特有の焦げ臭はなく,洋酒,ハーブのような気品のある香りがしました。


パプアニューギニア

(パプアニューギニア)
Usio_chocolatil_7

(パプアニューギニア説明文)
Usio_chocolatil_8

 フルーツ,ナッツの香りがします。

 苦味や酸味が少なく,口あたりが軽いのが特徴です。

 アーモンドペースト入りのチョコレートような甘い香りでコクのあるチョコレートです。


ビーントゥバーのメリットとデメリット

 ビーントゥバーの最大のメリットは,産地のカカオ豆のフレーバーや味を純粋に楽しめることにあると思います。

 実際,今回の3種類のチョコレートは,食べ比べてみると味や香りに明確な違いがあることがよくわかりました。

 チョコレートをカカオニブから作ったり,今回御紹介したような純粋なチョコレートを味わってみたりすると,ひと味違ったチョコレートの魅力を感じることができると思います。

 一方で,ビーントゥバーのデメリットと言えば,カカオ豆の入手経路が限られていること,入手できてもそれをチョコレートにするまでに技術や手間暇がかかること,こうした事情から値段が高価であること,などが挙げられるでしょう。


 世界各地のカカオ豆を使ったチョコレートを食べ,世界旅行の気分を味わってみるのも楽しいと思います。


 「チョコレートの新しい潮流2 -ハイカカオと機能性チョコレート,発酵の重要性-」も御覧いただければ幸いです。


<関連記事>
カカオ豆とチョコレート」」(2014年2月16日)
自家製チョコレート」(2014年2月23日)

<関連サイト>
ウシオチョコラトル
http://ushio-choco.com/

<参考文献>
佐藤清隆『チョコレートのサイエンスロマン(広島市植物公園講演会)』資料
武田尚子『チョコレートの世界史』中公新書

2017年2月 4日 (土)

イタリア料理の特徴と主な料理4 -ポレンタ・ザレッティ・ボネ,スローフードと食科学-

ポレンタ

 ポレンタ(Polenta)は,北イタリアの小麦の栽培に適していない地域で主食とされてきた,とうもろこしの粉で煮たお粥のことです。

(ポレンタ)
Photo

 写真のポレンタは,季節野菜と貝柱のポレンタです。
 どろっとしたボディのある食感を楽しむことができました。


ザレッティ

 ザレッティ(Zaleti)は,ヴィネト州ヴェネチアに伝わる伝統的なビスケットで,小麦粉ではなく,前述のポレンタが使われているのが特徴です。

 つまり,とうもろこし粉の生地を使って作られたビスケットなのです。

(ザレッティ)
Photo_2

 干しブドウ入りのビスコッティとも表現されます。

 とうもろこし粉が使われているので,黄色味を帯びています。

 実際にいただいてみると,一般的なビスコッティのようにカリカリではなく,むしろホロッと崩れる感じです。

 粗挽きのとうもろこし粉の特徴がよく出ており,ボソボソとした,でも噛みしめるほどに深い味わいのあるビスケットに仕上がっていました。


ボネ

 ボネ(bonet)は,ピエモンテ州に伝わる郷土菓子で,チョコレート風味のプリンです。

(ボネ)
Photo_3

 チョコレートプディングの材料に,アマレッティ(※)と呼ばれる焼菓子を砕いて入れ,オーブンで湯せんにしながら焼いたお菓子です。

 ※アマレッティ…メレンゲにアーモンドパウダーと砂糖を加えたビスケット

 
今回のボネは砕いたナッツも混ぜ込まれており,リキュールもきいていました。

 ねっとりとやわらかいチョコレート風味のプディングに砕いたナッツがアクセントとなり,その食感も楽しむことができました。

 クラッシュナッツ入りのチョコレートババロアのような感じがしました。


スローフード運動から食を科学する時代へ

 ピエモンテ州は,世界の食文化の研究者が注目している地域です。

 特にピエモンテ州にあるブラ市は,スローフード運動発祥の地として有名な都市です。

 また,同市には「食科学(Gastronomic Sciences)」を専門とする世界で初めての大学「食科学大学(University of Gastronomic Sciences)」があります。

 日本においても,立命館大学が,フードマネジメント,フードカルチャー,フードテクノロジーという領域から総合的に食科学を学ぶことが出来る「食科学部」を2018年に設置することが構想されています。

 スローフード運動を1つのきっかけに,食を科学的にとらえ,総合的にマネジメントできる人材が求められる時代になっていると言えるのではないでしょうか。


<関連リンク>
食科学大学(英語)
 http://www.unisg.it/en/

立命館大学食科学部(2018年設置構想中)
 http://www.ritsumei.ac.jp/gas/pre/

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