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2017年12月17日 (日)

日本料理の特徴と主な料理2 -料理人 平野寿将さんから熟成魚の魅力を学ぶ-

「引き算の料理」

 日本料理は「引き算の文化」です。

 「引き算の文化」とは,必要以上に手を加えないこと,本当に必要なものだけを用いること,そして素材そのものの味を引き出すことを良しとする文化のことです。

 引き算しても美味しい料理に仕上げるためには,産地や仕入先を厳選し,食材を新鮮な状態で入手し,その食材の最高の部位を用い,食材の味を引き立てる水・だし・調味料などにこだわり,瞬時に料理することが求められます。

 今回は,こうしたことを実践され,自らの料理を「引き算の料理」とおっしゃる和の料理人 平野寿将(ひらのひさま)さんの世界を御紹介したいと思います。


「馳走啐啄一十」での平野寿将さんとの出会い

 今回,知人の紹介で広島の日本料理店へ行く機会がありました。

 「馳走啐啄一十」(ちそうそったくいと)という,料理人 平野寿将さんが手がけておられるお店です。

 日本に住んでいながら,日本料理は高級で敷居が高いというイメージがあり,なかなか味わえる機会がなかっただけに,今回はあらゆることを勉強させていただこうと思いつつ,お店を訪問しました。

(「馳走啐啄一十」玄関)
Photo

 「馳走啐啄一十」は一流の日本料理店なので,私が訪問すると知った瞬間,周囲の人達からは,「品良く」,「気の利いた話を」,「恥ずかしくない服装で」…など,親切に「御指導」いただきました(笑)。

 あまりに言われると,普段の私はその逆なのかと思ったりもしましたが,食事の際のマナーは自分のためではなく,店内のほかのお客さん達,お店の人々,そして同伴の人に対する敬意と気遣いだと心得ていますので,それなりの服装で訪問しました。

 お店の入口に,ワインセラーのような昆布の貯蔵庫「昆布セラー」が設置されていました。

(「昆布セラー」)
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 福井県敦賀市「奥井海生堂」の蔵囲(くらがこい)昆布です。

 1年以上蔵で寝かされた昆布で,ワインと同様,「ビンテージもの」として取り扱われています。

 昆布の旨味成分であるグルタミン酸の白い粉が浮いているのがわかります。

 これは期待できます。

 開店時刻少し前の店内に入ると平野さんが厨房で調理の準備をされていました。

 「あ,あの有名な平野さんだ」と思ったのもそこそこに,開口一番,私が平野さんにお話ししたのは,「あのーすみません,トイレに行かせてください。」でした。

 「品良く」,「気の利いた話を」…あの周りからのアドバイスは一体何だったのでしょう(笑)。

 最初に手を洗い,落ち着いてじっくり味わうのが私の流儀なのです。

 でも,これで場は一気に打ち解け,私は平野さんの調理台の真正面のカウンター席に案内していただきました。

 あの有名な平野さんと1対1でお話しが出来るとは何と言う幸運!
 緊張よりも嬉しさで一杯になりました。

 誘ってもらった隣席の知人に心から感謝しました。

 平野さんはとても気さくな方で,平野さんからいろいろ話しかけてくださったこともあり,会話が弾みました。

 冒頭,私は平野さんに「今回フランスの美食ガイドブック『ゴ・エ・ミヨ(Gault & Millau)』の日本版第2号にお店が紹介されることとなり,心からお祝い申し上げます。」とお話ししました。

 この話を皮切りに,広島の軟水とだしの話,広島の牡蠣養殖の話,生の刺身と熟成魚の違い,仕入れ先への並々ならぬこだわりの話など,いろんな興味深いお話を伺うことができ,とても勉強になりました。

 お菓子にも使われるほど甘味のある加賀蓮根の料理が出された際,私は金沢の料亭「大友楼」で味わった郷土料理の治部煮が頭に浮かびました。

 そこで,治部煮などに用いられる加賀野菜「金時草(きんじそう)」のお話をしました。

 すると平野さんの料理される手が一瞬止まり,常連の知人に向かって「(連れてきた彼は)詳しいねえ。」と言っていただけました。

 一流の和の料理人からそう言っていただけたことがとても嬉しかったです。

 その後,隣の知人からは「彼は食の知識はあるけど,それを発揮できる場がないから(笑)」と余計な事まで言われましたが…(笑)。

 終始和やかな雰囲気で接してくださった平野さんも料理を作る姿は真剣勝負そのものでした。

 料理が一品一品出されるたびに,一瞬ピーンと張りつめた緊張感を感じるのです。

 いただく私も全身全霊を料理に傾け,平野さんの料理に込めた思いを少しでも感じ取れるよう努力しました。


平野寿将さんの料理の世界

 今回味わった料理を御紹介します。

(加賀蓮根のすり身)
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 先程御紹介した加賀蓮根のすり身です。

 加賀蓮根はお菓子に使われているぐらい甘味の強い蓮根で,蓮根そのものの味を自慢のだしと一緒に堪能しました。

(香箱ガニの甲羅盛り)
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 香箱ガニは,北陸地方でとれる雌のズワイガニのことで,小ぶりながらカニの身,卵,カニ味噌がぎっしり詰まっていることが特徴です。

 写真左上が厚岸の雲丹,その下側には「内子(うちこ)」と呼ばれるカニ味噌,中心に白いカニの身,右上が「外子(そとこ)」と呼ばれるカニの卵で,カニ酢に合うよう彩り豊かなキュウリや食用菊も添えられています。

 カニの身や卵はそのままで飲めるほどすっきりした極上ポン酢をかけていただきました。

 雲丹は昆布や海藻を餌とするため,良質な昆布が採れる海には良質な雲丹がいることになります。

 広島に居ながら,その極上の昆布(だし)も雲丹もいただけるのですから,贅沢の極みですね。

(蕪のすり流し椀)
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 お店での正式名称は「広島の竹原市の湧水蔵囲い26年度収穫の船泊浜産天然利尻昆布がベースの蕪のすり流し椀」と長い名前となっています。

 お吸い物にすりおろした京都の蕪(かぶ)が入ったいわゆる「おろし汁」で,とてもシンプルな料理なだけに,水やだしの真価が問われることとなります。

 極められた昆布だしの旨味を直球勝負で味わえる一品でした。

(焼き白子と瀬戸内蛸の煮物)
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 備長炭で焼いた佐渡の鱈の白子と瀬戸内海で採れた蛸の煮物です。

 蛸がとてもやわらかかったのですが,これは香川県寄りの瀬戸大橋近くの海に生息する蛸だからこその食感だと教えていただきました。

 これとは別に,白子ポン酢で生の白子もいただきました。

 そしていよいよ,お店自慢の熟成魚の刺身です。

 熟成魚とは,釣った魚を「脳殺」→「放血」→「神経締め」→「氷結」といった手順で手当てした後,低温で寝かせ,釣ったばかりの魚の刺身よりも,一層香りと旨味を引き立たせた魚のことです。

(カワハギと鯛)
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 最初に72時間熟成のカワハギと58時間熟成の鯛の刺身が出されました。

 小皿には,刺身の調味料として27年継ぎ足している極上ポン酢,醤油,粗削りの塩の3種類が用意されていました。

 余分な水分は抜け,透き通ってプリプリした身になっていました。

(シマアジ)
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 こちらは五島列島で採れた30日間熟成のシマアジです。
 これ一切れで1,000円するそうです。

(クエ)
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 平野さんから,「これはねぇ,ヤバいよぉ。」と威勢よく出していただいた,長崎で採れた幻の高級魚クエの刺身です。
 そう言われると落ち着いてクエません(笑)。

(イシガキダイ 生ハムのせ)
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 22日間熟成のイシガキダイです。イベリコ豚の生ハムがのせられています。

 不思議な組み合わせに見えましたが,いただいてみるとその理由がすぐに理解できました。

 熟成したイシガキダイの刺身がまるでチーズのようにねっとりとしていて,チーズに生ハムを合わせる感覚でいただくことができるのです。

 平野さんが,カウンター越しの私の真正面で,見事な包丁さばきで切られた刺身をその都度「はい,これ食べてみて!」と自信たっぷりに出していただけたので,料理人と客との一体感が感じられました。

 御紹介した刺身のほかにも,金目鯛,ヒラマサ,カンパチなどいろんな熟成魚の刺身を味わうことができました。

 お店の奥にある魚の熟成用冷蔵庫を見せていただきました。

(熟成用冷蔵庫)
Photo_11

 庫内温度は3.8℃となっていました。
 魚にきちんとした処理を施し,温度管理を行うことで,生の魚でも驚くほど日持ちさせることができるのだなと感心しました。

(源助大根・里芋・水菜の煮物)
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 こちらは,加賀野菜の源助大根と里芋・水菜の煮物です。おぼろ昆布がのせられています。

 この煮物の決め手は,やはり「だし」です。
 少々お行儀が悪いですが,平野さんにお許しを得た上で,だし汁も飲み干しました。
 でもこれは私から平野さんへの最高の敬意でもありました。

(ローストビーフと椎茸旨煮)
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 意表を突いて刺身のようなローストビーフと椎茸旨煮が出されました。

 わさびと和からしでいただきます。

 椎茸は岡山県美作市「ムサシ農園」の天然水かけ流しで作られた肉厚の椎茸で,アワビのような食感でした。そして調味料なし,水で煮ただけなのが信じられないほど旨味を強じました。

 添え野菜は「ハマボウフウ(浜防風)」と呼ばれる海岸に面した砂地に自生している珍しい植物です。

 そしていよいよシメのご飯となりました。これがサプライズでした。

(トリュフといくらの炊き込み御飯)
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 何とご飯にたっぷりのいくらと刻まれたトリュフがのせられているのです。

 これはいくら何でも文句のつけようがありません。

 あらかじめ米の中にトリュフを入れておき,米にトリュフの香りを浸み込ませておいたり,包丁で微妙に角度を変えながら刻むなど,トリュフの風味を最大限引き出すための工夫が施されています。

 また黒の秋トリュフと冬トリュフが使われており,トリュフの味の違いも楽しめました。

 さらに,山梨・甲府産の溶いた生卵をかけ,刻んだトリュフの香りを卵で閉じ込めた卵かけご飯もいただきました。

(トリュフといくらの炊き込み御飯(卵かけ))
Photo_15

 お客様に今日の食事が忘れられない思い出となり,感動を味わっていただきたいという平野さんの気持ちが込められた料理でもあるのです。

 その後,小豆アイスの上に抹茶ムースがのせられたデザートも堪能しました。

 平野さんとの楽しい会話とともに,素材と技を極めた数々の美味しい料理を堪能させていただき,思い出に残る食事となりました。

 広島にお越しになられた際には,「広島の水は世界一」・「日本料理は水の料理」とおっしゃる平野寿将さんの料理を味わい,広島の味を堪能していただくのもよろしいかと思います。


熟成魚の魅力

 日本料理は,鮮度が重視され,生食が好まれる傾向にあります。

 日本人に刺身が好まれることは,その最たる例でしょう。

 ならば,「わざわざ魚を熟成させることなく,新鮮なうちに刺身で食べるとよいのでは」という考えもあるでしょう。

 その考えは正しいですし,実際私たちが刺身として食べているのは,そのほとんどが新鮮なうちに食べる刺身です。

 では手間暇かけて熟成魚にすることのメリットは何なのでしょうか。

 その一番のメリットは熟成させることでうま味成分(イノシン酸)を増加させることにあります。

 日本料理は,発酵や熟成によって「うま味」を強め,肉に代わるうまさを追及してきた料理でもあるのです。

 取ってきた魚を活け締めにすることで,なるべく新鮮な状態を継続しつつ,熟成させる(寝かせる)ことによってうま味を増加させるのが熟成魚の目指すところです。

 したがって,熟成魚には,魚を活け締めにし,保存・熟成させ,鮮度と熟成度のバランスがとれた時期を見極められる高度な技術,知識,経験や勘が求められることになります。

 熟成肉に比べ,熟成魚を売りにする料理店が少ないのも,こうした半端ないレベルの高さが1つの理由なのでしょう。

 魚が持つ本来のうま味を極限まで引き出したものが熟成魚であり,その熟成魚の刺身こそ,日本料理の特徴である「引き算の文化」を象徴する料理の1つなのです。


<関連リンク>
 「馳走啐啄一十」(広島市中区富士見町5-1 随木ビル1階)
 「hisama.net」(平野寿将さんの公式ウェブサイト)
 「Gault & Millau」(「ゴ・エ・ミヨ」)

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