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2018年6月17日 (日)

デンマーク料理の特徴と主な料理1 -なぜオープンサンドイッチが伝統料理なのか-

バイキングとデンマーク料理

 デンマーク(Denmark)という地名は,北ゲルマン民族の「デーン人(Dane)」が7,8世紀ごろスカンジナビア半島南部からこの地(フランク王国との境界・国境を意味するマーク(Mark))に移動し,ジュート人を追い出して定住したことに由来しています。

 そして北ゲルマン人たちは,のちにバイキング(Viking,入り江の人々という意味)と呼ばれるようになります。

 バイキング独特のオードブル料理のことを「スモ―ガスボード(スミョールボイド)」と呼びますが,時代は下って1957年,日本の帝国ホテルの犬丸徹三さんが北欧視察の際にスモ―ガスボードの食べ放題に興味を抱き,食べ放題を「バイキング」と命名した逸話は興味深いところです。

 酪農業や水産業が盛んで,肉や魚は塩漬け・マリネ・薫製に加工して貯蔵され,年間を通じて豊かな食生活が送れるよう工夫されています。

 冬が長く厳しい環境にあるので,寒さに強いじゃがいも・ライ麦を使った料理やパン(黒パン)が中心となります。


スモ―ガスボード

 「スモ―ガスボード」の「スモ―ガス」はバター付きのパン,「ボード」はテーブルの意味で,合わせると「パンとバターの食卓」という意味となります。

 この意味が転じて,様々な料理を各自の好みで(オープンサンドイッチで)食べるビュッフェ形式の食事を指す言葉となりました。

 デンマーク料理のレストランで,スモ―ガスボードの前菜「スモ―ガスプレート」を味わう機会がありましたので,御紹介します。

(「スモ―ガスプレート」)
Photo

 写真上から時計回りに,デンマークキャビア,フレッシュノルウェーサーモン,ポークパテ,ニシンの酢漬けです。

 デンマークキャビアは,じゃがいものパンケーキと刻んだ玉ねぎの上にたっぷりとのせられており,贅沢な気分になりました。

 フレッシュノルウェーサーモンにはイクラやケイパー,ディルが添えられており,脂がのって身も厚く,食べ応えがありました。

 ポークパテにはピクルスやレタスが添えられており,このプレート唯一の肉の冷菜でした。

 そして特筆すべきはニシンの酢漬けです。

 ニシンは独特のクセがあり食べにくいイメージを持っていたのですが,このニシンには全くクセがなく,身が厚く,脂ものっていて,とても美味でした。

 冒頭でバイキングとはもともと「入り江の人々」という意味だと御紹介しましたが,その入り江で暮らす人々の主要な食料源は魚類であり,とりわけニシンやタラが重要な役割を果たしました。

 バイキングの移動は,北海・バルト海のニシンの回遊コースと一致していたという説もあるほどです。

 こうした歴史的背景もあり,ニシンはスモ―ガスボードに必要不可欠な食材となっています。


 スモ―ガスボードには,今回御紹介した料理のほか,肉類(牛肉・鶏肉・野鳥肉など),ローストビーフ,ハム,ソーセージ,牛タン,レバーペースト,小エビ,アンチョビ,ウニ,ウナギの燻製,鯖の燻製,タラの卵,チーズ,ピクルス,果物など多彩な料理があります。

 スモ―ガスボードの特徴は,(1)魚介料理が多い,(2)塩漬け(ハム,ソーセージなど),酢漬け,薫製,マリネなど長期保存可能な常備菜が多い,(3)酒と一緒に楽しむ「おつまみ(オードブル)」の要素も強い,とまとめることができるでしょう。


デンマークの食材から食文化を考える

 デンマークの食文化を「小麦」の視点からアプローチしてみたいと思います。

 北欧に位置するデンマークは,その気候条件から小麦の収穫がままならず,代わりにライ麦,大麦,じゃがいもなどの穀物に頼ることとなりました。

 パンにおいては,小麦粉を多用することができないため,ライ麦パン(黒パン)にしたり,小麦粉よりも酪農で得られるバターの割合を多くした「デニッシュ」(※)にするなどの工夫がなされています。
 ※ウイーン由来とされるため,デンマークではデニッシュではなく「ヴィエナーブロート(ウィーンのパン)」と呼ばれている。

 ライ麦パンはずっしりと重厚感があるため,たくさんの具をのせてもしっかりと受け止められるというメリットもあります。

 一方,酒においては,じゃがいもで作られた蒸留酒アクアビットや大麦で作られたビールなどが中心となります。

 それにスモ―ガスボードのような保存食中心の料理が加わるとどうでしょう。

 自然と,酒とスモ―ガスボードを組み合わせたビュッフェ,そしてライ麦パンにバターを塗りスモ―ガスボードの料理をのせたオープンサンドイッチ(スモーブロー)にたどり着くのです。

 スモ―ガスボードがオープンサンドイッチ(スモーブロー)も意味する言葉となっている理由は,こうした経緯もあるからでしょう。

 デンマークのオープンサンドイッチ店に行くと,巻物のようなメニュー表から多種多様な具材を選ぶことができるようですが,これも多種多様なスモ―ガスボードの流れを汲んでいるからだと説明できます。

 つまり,オープンサンドイッチはスモ―ガスボードを源流とするデンマークの食文化そのものを表現した料理であり,だからこそデンマークの名物料理になっていると説明することができるのです。

 日本で言えば,主食のご飯の上に多種多様な具をのせて楽しむ「丼」とよく似ていますね。


<関連サイト>
 「レストラン スカンディヤ」(横浜市中区海岸通り1-1)

<関連記事>
 「デンマーク料理の特徴と主な料理2 -デンマークバター・ソフトカーネラグブロート・ダンスクウールブロート・スモーブロー-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理3 -フリカデラ・赤キャベツのピクルス・フレスケスタイ・フーゴ,デンマークとドイツの食文化-

<参考文献>
 21世紀研究会編「地名の世界地図」文春新書
 岡田哲「食文化入門」東京堂出版
 岡田哲「世界の味探究事典」東京堂出版
 玉村豊男「パンとワインとおしゃべりと」中公文庫
 越智敏之「魚で始まる世界史 ニシンとタラとヨーロッパ」平凡社新書

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コメント

ほえ~今回のお話は知らないことばかり

流石勉強なさっていますね^^ニシンはパイ派です

確かに、ライ麦は小麦より寒冷で荒地でも栽培できる穀物だし収穫量も多い
パンにしても、小麦よりも長く保存ができる
それに、少々酸味があるおかげか、確かにしょっぱい系の多い
オードブルの食材にも合いますね!

小麦の製粉化に成功したら、今度はライ麦の栽培加工に挑戦したくなりました(*゚▽゚)ノ

tomo 様

コメントいただき,ありがとうございます。

料理にお詳しいtomoさんに褒めていただき,とても嬉しいです。

ニシンのパイって,例のニシンの形をしたパイですか。
ニシンは,北海やバルト海で一度に大量に採れることから,北欧ではパイにしたり,保存食にしたりと,料理の種類も豊富なのでしょうね。
キリスト教の宗教行事(肉断ちの日)にもニシンやタラが利用されてきたようです。

小麦とライ麦。
tomoさんから小麦粉の種類(強力粉・中力粉・薄力粉など)や「パン小麦」について詳しく教えていただきましたね。
勉強させていただき,ありがとうございます。

小麦が十分手に入らない地域でパンを作る方法の1つとしてライ麦パンがあり,固くてしっかりしているので,オードブルやオープンサンドイッチに応用されたのでしょうね。

ここで面白いなと思ったのが,もう一方のデニッシュの存在です。
こちらはちょっとの小麦粉に大量のバターを加えることで,小麦の少なさを克服したパンが作られています。

パンを得るためにいろんな食材・製法で工夫されてきたのですね。

小麦の製粉化,自ら小麦を栽培し,製粉されるなんて,誰でもできることではなく,尊敬します。
tomoさんレベルなら,確かにライ麦の栽培加工にも挑戦されたくなるお気持ちもわかります(笑)。
自家製粉でのパンはお菓子は格別で,とても美味しいでしょうね!
苦労した人の特権です。
応援してます!

こんにちは。ドイツ料理は何度か食べたことがありますが、
デンマーク料理はまだ食べたことがありません(^-^;

横浜の大さん橋の袂にスカンジナビア料理のお店がある
ので、懐具合の良い時に、ランチを食べに行こうかなと
思います。ドイツの魚料理はニシンくらいのようですが
流石に半島国、海の幸も豊富なようですね( ̄ー+ ̄)

なーまん 様

こんばんは。
コメントいただき,ありがとうございます。

お話の横浜の大さん橋の袂のスカンジナビア料理店の料理を御紹介しました(笑)。
代表的な料理がデンマーク料理のようでしたので。
やはり御存知でしたね!

ランチ,私は2階でコースをいただきましたが,1階はとても混雑していました。
地元の人に人気のお店なんですね。
ニシン料理がとても美味しかったので,おすすめします。

ドイツとニシン料理の関係は,ユトランド半島の付け根に位置するドイツの都市リューベックとハンブルクが中心となって発展した商業同盟「ハンザ」の影響が大きいと思います。
ハンザの主な取引対象がニシンだったからです。
そして,そのニシン漁はユトランド半島に住むデンマークの漁師が担っていたようです。
だからドイツやデンマークで魚と言えばニシンなんでしょうね。

バイキングといいハンザ(同盟)といい,ニシンの行方に振り回されていたんでしょうね(笑)。

日本料理の「引き算の文化」の代表例として日本酒を教えていただきましたが,今回も貴重なヒントを与えてくださり,ありがとうございました!

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