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2018年12月26日 (水)

フランス料理の特徴と主な料理9 -リードヴォーとチーズの関係,なぜ仔牛・仔羊まで食べられるようになったのか-

リードヴォー(ris de veau)とは

 フランス料理でよく登場する「リードヴォー(ris de veau)」とは,仔牛(veau)の胸腺(ris)という意味です。

 英語では「スウィートブレッド(sweetbread)」と呼ばれることから,日本の焼肉店などでは,その名が転訛して「シビレ」とも呼ばれています。

 仔牛ののどから胸にかけてついている免疫機能を高めるための器官で,成長すると退化するため,仔牛の段階からしか入手できない希少な部位です。

 やわらかく,濃厚でミルキーな味わいが特徴です。

 日本では仔牛の段階で屠畜されることが少ないため,その多くを輸入品に頼ることとなります。

 ちなみに,仔羊(agneau)の胸腺は「リ・ダニョ(ris d'agneau)」と呼ばれます。


なぜ仔牛・仔羊まで食べられるようになったのか

 フランス料理に限らず,世界各地の牧畜文化圏で,仔牛や仔羊の肉が食べられています。

 仔牛肉や仔羊肉(ラム肉)のステーキ,仔牛のすね肉やその骨を煮出しただし汁「フォンドヴォー(fond de veau)」などが有名ですね。

 でも,ふと立ち止まって考えると,食用肉とするなら,仔牛・仔羊の段階よりも,より大きく成長させた大人の段階まで待ってから屠って(殺して)食べた方が,より多くの肉を得ることができて,人間生活に有利なように思えます。

 この考え方だと,自然死した仔牛・仔羊を食用にすることはあっても,通常は成長した牛・羊だけが食用となるので,リードヴォーのような部位に関心が持たれたり,それを使った料理が考案されることまでは発展し得ないこととなります。

 仔牛・仔羊の段階で屠らなければならない理由があるからこそ,仔牛・仔羊料理が考案され,発展したと考えられるのです。

 その理由とは何か。

 その謎を解く鍵は,乳から作られるチーズ(フロマージュ)にあるようです。


仔牛・仔羊から採取する乳の凝固剤「レンネット」

 人間は乳から脂肪(バター)やタンパク質(チーズ)が得られることを学び,食料を保存させる目的もあって,これらを積極的に作るようになりました。

 チーズは,乳を乳酸発酵させタンパク質を凝固させたものがその原型となる訳ですが,この乳酸発酵以外にも,加熱したり(代表例:リコッタチーズ),酸を加える(代表例:パニール)といった人為的な方法でタンパク質を凝固させることもわかってきました。

 北ヨーロッパでも,当初は乳を乳酸発酵させてタンパク質を凝固させていたようですが,気温が低い地域であるため,この方法だけではうまくいかないことも多かったようです。

 そんな中,偶然だと思いますが,仔牛や仔羊の第四胃袋にある「レンネット」(活性酵素「キモシン」)と呼ばれる酵素を乳に加えると短時間でタンパク質が凝固することが発見されたのです。

 この方法は,短時間にタンパク質を凝固させることができ,乳酸の酸味も強くなく,淡泊な味のチーズが得られるという利点もあって,ヨーロッパ全般に広まることとなりました。

 このレンネットを求めて,仔牛や仔羊が屠畜されるようになったのです。

 屠畜の対象としては,成長しても搾乳できない雄の仔牛・仔羊が優先されたようですが,何とも痛々しい話です。

 やがて1960年代に入り,日本の微生物学者(有馬啓など)によってカビの一種「ムコール・プシルス」がレンネット(活性酵素キモシン)と全く同じ作用をすることが発見された後は,この微生物起源の凝乳酵素が従来のレンネットに代わって広く用いられるようになりました。

 冒頭で御紹介したリードヴォーも,当初はレンネットを入手した後の仔牛から得られる副産物としての食材だったのかも知れませんが,乳離れしてない仔牛からしか入手できないという点ではレンネットと一致しています。


リードヴォーのソテー

 広島市内のフランス料理店で,リードヴォーを味わう機会がありました。

(リードヴォーのソテー)
Photo

 リードヴォーのソテーです。

 リードヴォー,シャンピニョン(きのこ),パンチェッタ(豚肉の塩漬け)をソテーし,じゃがいものニョッキの上に盛られています。

 スライスしたチーズも添えられています。

 ソースは,ソテーのエキスをシェリー酒(ポート酒やマディラ酒と同じ酒精強化ワイン)で整えたソースです。

(リードヴォーのソテー(リードヴォー))
Photo_2

 リードヴォーを拡大した写真です。

 見た目もそうですが,ふわふわした食感の肉(臓器)です。

 思わず,あどけない仔牛を思い浮かべてしまいました。

 他の食材に例えれば,やわらかいフォアグラ,クセのないレバー,ミルキーなコクを感じるという意味ではタラやフグなどの白子にも似ているようにも思います。

 ねっとりとしたコクがありますが,そのものの味はクセが少ないので,シェリー酒のような甘めで深みのある洋酒や,塩気の効いたパンチェッタやチーズと一緒にいただくとうまくまとまるように思いました。


真のグルメ・食通とは

 ここまで書いて,ふと,リードヴォーとチーズの相性がいいとさらりと述べた自分が少し怖くなりました。

 私が肉食文化に慣れていないからでしょう。

 しかし,これが異文化理解の出発点であるとも言えます。

 正しい知識を得て,異なる食文化を理解し,受け入れることができる人間こそ,真のグルメ・食通だと思います。


<参考文献>
 森枝卓士「食の冒険地図」技術評論社
 石毛直道・鄭大聲編「食文化入門」講談社
 小泉武夫「発酵食品礼賛」文春新書
 藤枝祐太監修「焼肉美味手帖」世界文化社
 辻調理師専門学校監修「基礎からわかるフランス料理」柴田書店

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コメント

人類のご先祖様は、肉食獣の残飯(肉)をしゃぶって脳を
肥大化させたらしいです( ̄▽ ̄)
人類が食に貪欲で、労を惜しまないのは脳が喜ぶからか
もしれませんね(* ̄ー ̄*)

なーまん 様

なーまんさん,こんばんは。
コメントいただき,ありがとうございます。

一般的に美味しいと感じたり,脳が喜ぶ食べ物とは,それだけ必要な栄養価やカロリーが高い食べ物と言い換えることができるように思います。

その代表的な食べ物が,肉であり,脂肪であり,砂糖でしょう。

そして人類は脳の喜びが大きければ大きいほど,貪欲に,労を惜しまず,何らかの正当性を主張してでも手に入れようとしてきたのではないでしょうか。

仔牛・仔羊からチーズの酵素を得て,そのリードヴォーや肉まで味わう。

そういう文化・風習があるかないかで,とらえ方が全然異なってくるのは仕方のないことですよね(^^ゞ

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