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2021年8月14日 (土)

尾道の夏のお菓子「ふなやき」 -「ふなやき」の由来と「麩の焼き」について-

 今回は広島県尾道市で「ふなやき」と呼ばれている夏のお菓子を御紹介するとともに,「ふなやき」の由来についても考えてみたいと思います。


尾道の「ふなやき」


 尾道の「ふなやき」は,小麦粉と砂糖を水でこねて,その生地を熱した鉄板の上にのばしてクレープ状に焼き,あんこを包んだ素朴なお菓子です。

 数百年の歴史を持つ伝統的なお菓子で,かの菅原道真公が京都から九州へ行かれる途中に尾道へ寄られた際,「ふなやき」が献上されたというお話もあるほどです。

 尾道では,「ふなやき」を旧暦の6月1日に食べると夏病みしないとの言い伝えがあり,毎年夏になるとこの「ふなやき」が地元のお菓子屋さんの店頭に並びます。

(「ふなやき」(中屋本舗))
Photo_20210814180201

 地元・尾道(出身)以外の人で,「ふなやき」が尾道の夏の代表的なお菓子だと知っている方は少ないと思います。

 広島県呉市の「いが餅」と同様,地元の人々に愛され続けているお菓子と言えます。


「ふなやき」の由来と「麩の焼き」について

 「ふなやき」は尾道のほかにも,九州・沖縄地方や関西地方など,全国で食べられているお菓子です。

 「ふなやき」という名称の由来としては,「生地を折った形が船に似ていたから」とか,「生地を焼いた鍋の底が船の形に似ていたから」とか,「漁師が空腹を満たすため船で焼いたから」といった「船」にまつわる話が多い一方で,「茶の湯」のお菓子「麩の焼き(ふのやき)」に由来するという話もあります。

 「船」が多く登場するあたりは,港町・尾道ならではという感じです。

(尾道駅前の様子)
Photo_20210411101601 

 一方で,私が尾道の「ふなやき」を初めて見た時,とっさに思い浮かんだのは「麩の焼き」でした。

 「麩の焼き」は,鎌倉時代末期以降,禅僧によって中国から日本にもたらされた「点心」(間食・おやつ)の1つです。

 小麦粉を水で溶いて生地を作り,焼いた鍋の上に薄くのばして生地を焼き,味噌を塗ってクルクル巻いたお菓子で,かの千利休もお気に入りだったようです。

 また「麩の焼き」のうち,生地に餡を入れて巻いたものは「助惣焼き(すけそうやき)」とも呼ばれていました。

 明治時代の長崎を舞台にした漫画「ニュクスの角灯(ランタン)」(第2巻)でも,主人公達が「助惣焼き」を食べるシーンがあります。

 そのシーンで「助惣焼き」は,「寛永年間(江戸時代)に流行った白味噌と胡桃(くるみ)の餡で作った」と紹介されているのですが,このセリフのとおり「助惣焼き」は特に江戸時代に流行ったようです。

 尾道の「ふなやき」については,前出の「麩の焼き」が港町・尾道に関わりの深い「船」のイメージとも重なって次第に「ふなやき」と呼ばれるようになり,現在に引き継がれているのではないかと考えます。

 ちなみに「麩の焼き」は,その後,食の「組み換え」により「お好み焼き」や「もんじゃ焼き(「文字焼き」から変化した名称)」に発展したとする説もあります。

 もしその説が正しくて,尾道で「お好み焼き」と「ふなやき」を食べたとしたら,尾道ならではの,しかもルーツが同じ食べ物を食べたことになります。


尾道の「ふなやき」を味わう

 「ふなやき」について理解を深めたところで,実際の尾道の「ふなやき」を御紹介します。

 今回は,「御菓子司 中屋」の「ふなやき」をいただきました。

(「ふなやき」)
Photo_20210814185901


 丸くて薄い小麦粉の生地(皮)であんこを巻いたお菓子です。

 京都の「あん入り生八つ橋」のようにも見えます。

 半分に切ってみました。

(「ふなやき(中身)」)
Photo_20210814190101

 中のあんこは,生地にぎっしり詰められているのではなく,丸い団子の形で中心部に包まれています。

 いただきました。

 皮(小麦粉の生地)は適当な厚みがあって弾力があり,ほんわずかに塩味もついていました。

 一方,あんこは小豆で作られた上品な甘さの「こしあん」でした。

 一緒にいただくと,皮のほんのりとした塩味があんこの甘さを見事に引き立て,素朴で純粋な味わい・食感を楽しむことができました。

 毎年夏には尾道へ行って味わいたいと思うほど,魅力的なお菓子でした。


まとめ

 「ふなやき」は比較的簡単に作れて,しかも美味しいことから,全国に広がり,現代に受け継がれているのでしょう。

 こうした全国で人気のある食べ物ほど,地域によって名称が異なったり,様々なバリエーションが生まれてくるものです。

 「ふなやき」の写真を御覧になって,特に関東にお住まいの方は「桜餅に似ている」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 私も「ふなやき」をいただいて,その見た目や使われている食材,食感などから,関東風の桜餅(長命寺桜餅)にとてもよく似ていると思いました。
 (最近では西日本でも関東風の桜餅を見かけるようになりました。)

 関東風の桜餅は,本当に「麩の焼き」や「助惣焼き」のアイデアをもとに作られたお菓子なのかも知れません。

 私はさらに,東京・月島で「もんじゃ焼き」をいただいた後にデザートとしていただいた「あんこ巻き」にも似ていると思いました。

 そしてさらに,広島で「お好み焼き」を作る際,水に溶いた小麦粉を鉄板に薄くのばして作られるお好み焼きの生地にもそっくりだと思いました。

 となると,「麩の焼き」に始まる「助惣焼き」も「ふなやき」も「桜餅」も「もんじゃ焼き」も「お好み焼き」も,すべて同じ発想・ルーツで,様々な応用・変化が加えられて生まれたものではないかと思えるのです。

 同じ発想・ルーツと思われるものが,時代を経て各地方・地域でどう変化しているか,こうした視点から各地で食のフィールドワークをしてみるのも楽しいと思います。


<関連サイト>
 「御菓子司 中屋」(広島県尾道市高須町東新涯4835-3)
 菓子資料室 虎屋文庫「千利休とふの焼」(「歴史上の人物と和菓子」株式会社「虎屋」)
 「亀屋清永」(京都市東山区祇園石段下南)(「麩のやき」せんべいが販売されています)
 「小麦粉から作る広島お好み焼き」(オタフクソース株式会社)

<関連記事>
 「関東の和菓子と関西の和菓子 -和菓子の比較検証-

<参考文献>
 宮崎正勝「知っておきたい「食」の日本史」角川ソフィア文庫
 シャオヘイ「熱狂のお好み焼 ~お好み焼ラバーのための新教科書~」ザメディアジョン
 高浜寛「ニュクスの角灯 2」リイド社

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コメント

おはようございます。
パッと写真だけ見て「羽二重餅みたい」と思ったら餅じゃなかった。
本文を読んで長命寺桜餅風だなーと思いましたが、やっぱり!
あんこ巻きまでは浮かびませんでした(^^;)
クレープとかトルティーヤとか中国の餅(ピン)も同類だとすると、
肌の色や文化は違っても、考えることは同じなんだなーと思います。

chibiaya 様

chibiayaさん,おはようございます。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

真っ白で,確かに羽二重餅みたいです。
あんこ入りの羽二重餅ってあるのかとネットで検索したら,あるんですね!
羽二重餅と言えば,最近「金花堂はや川」の「羽二重くるみ」をいただきましたが,焼き餅とやわらかい餅が層になっていて,おすすめです。
http://habutaekurumi.com/

やはり長命寺桜餅風だと思われましたか(笑)
「ふなやき」は西日本に多いようなのですが,東日本はそれが関東風桜餅として広まったのかも知れません。

そして私も,フランスのクレープ(ガレット)が思い浮かびました(^-^)
実はガレットなど,海外の食べ物にも同じ発想があることにも触れようかと思ったんです。
でも…まとめられなくなるので国内だけにしました(笑)
おっしゃるとおり,みんな考えることは同じなのでしょうね。
しかも日本より小麦粉を使う機会が多い国の方が,もっとバリエーションが多いように思います。

関東の人間はたいがい桜餅(長命寺)を思い浮かべると思います^ ^
子供の頃、桜餅といえば長命寺の事でしたが、最近スーパーでは長命寺と道明寺がセットで販売されています^^
西日本もそうなのでしょうか?
甘党のなーまんとしては嬉しい事ですが(^^)

なーまん 様

なーまんさん,こんにちは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

関東の方はやはり長命寺桜餅なのですね。
広島では,逆にもち米で作られた道明寺桜餅ばかりで,長命寺桜餅が売られるようになったのはごく最近なので,「ふなやき」から桜餅を連想される方はあまりいらっしゃらないと思います。

最近になって,ようやく和菓子店やスーパーなどで長命寺桜餅もセットで販売されるようになりましたが,やはり道明寺桜餅が主流で,長命寺桜餅だけ販売されているのは見かけません。
関東とは逆ですが,セット販売されるようになった点では共通してます(^-^)

関東で夏に「ふなやき」を販売すると,春の(長命寺)桜餅と似ているので,あまり新鮮味がないのかも知れませんね。
俵むすびのような(道明寺)桜餅が主流の西日本だからこそ,「ふなやき」が重宝されるような気もします。

改めて東日本と西日本の食文化の違いを感じ,勉強になりました<m(__)m>

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