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2022年8月21日 (日)

山本五十六が好んだ「水まんじゅう」 -山本五十六はなぜ「酒まんじゅう」に砂糖をかけて食べたのか-

 新潟県長岡市は,海軍で活躍した山本五十六(やまもといそろく)の生誕地・ゆかりの地です。

(山本五十六の胸像)
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 山本記念公園(長岡市坂之上町)内にある山本五十六の胸像です。

(山本五十六の生家)
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 同じ公園内の山本五十六の生家(復元)です。

 今回は,山本五十六が好んだ「水まんじゅう」を御紹介し,山本五十六がなぜこの「水まんじゅう」を作って食べていたのか,その謎にも迫ってみたいと思います。


山本五十六が好んだ「水まんじゅう」とは

 山本五十六は甘党として知られ,羊羹やお汁粉,饅頭などを好んだようです。

 中でも好物だったのが「水まんじゅう」です。

 「水まんじゅう」は,葛粉やわらび粉で作られた透明な生地であんこ(小豆のこしあんなど)を包み,冷やした饅頭です。

(水まんじゅう)
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 一般的にイメージするのは写真のようなお菓子ではないでしょうか。

 しかしながら,山本五十六が好んで食べた「水まんじゅう」は,こうした葛粉やわらび粉で作られたものとは異なっていたようです。

 山本五十六の「水まんじゅう」は,水を入れたどんぶりに塩小豆の酒まんじゅうを入れ,それに雪(氷)や砂糖を加えて,甘み・冷たさ・やわらかさを加えた山本五十六オリジナルのおやつなのです。

 つまり山本五十六は,ほかの人とは違う珍しい食べ方をされていたわけです。


酒まんじゅう(塩小豆・甘)

 この山本五十六の好んだ独自の「水まんじゅう」は新潟県長岡市の和菓子店「川西屋本店」の「酒まんじゅう(塩小豆)」を使って再現することができます。

 興味を持ち,通信販売を利用して購入しました。

(酒まんじゅうと切りパン(宅配便))
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 「うむ,長旅御苦労(敬礼)」

 新潟・長岡のお菓子やパンが,山本五十六が海軍の要衝・呉(広島県)へ来られたのとほぼ同じ距離を経て,私の元に届きました。

 今回私が注文したのは,「酒まんじゅう(塩小豆)」,「酒まんじゅう(甘・あま)」そして「切りパン」の3種類です。

(酒まんじゅう(包装))
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 写真左側(白色のデザイン)が「酒まんじゅう(塩小豆)」,写真右側(茶色のデザイン)が「酒まんじゅう(甘)」です。

 それぞれの饅頭の中身を確認してみましょう。

 まずは一般的な「酒まんじゅう(甘)」から。

(酒まんじゅう(甘))
Photo_20220821145701

 米麹を使って発酵させた生地(小麦粉と餅米粉)に小豆あん(こしあん)を入れて蒸し上げた饅頭です。

 饅頭は,肉まんやあんまんに近いフカフカの生地で,ほのかに麹の香りがしました。

 中のこしあんもほど良い甘さで,イメージどおりの酒まんじゅうでした。

 続いてお店のオリジナル,山本五十六が好んだ「酒まんじゅう(塩小豆)」を見てみましょう。

(酒まんじゅう(塩小豆))
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 「酒まんじゅう(塩小豆)」は,饅頭の生地は「甘」と同じですが,中に塩で味付けされた小豆が入っているのが特徴です。

 砂糖ではなく塩で煮られているからか,中のあんが多少パサパサしています。

 実際にいただいてみると,一般的な酒まんじゅうとは全く異なる味でした。

 想像していたよりもはっきりと塩味がついた小豆で,これはお菓子ではなく,おやきだと思いました。

 材料は小豆ですが,期待する小豆あんの味がしない全く別物の饅頭で,慣れない私は再びこしあんの酒まんじゅうを食べてホッとしました。


切りパン

 続いて,酒まんじゅうと一緒に注文した「切りパン」を御紹介します。

(切りパン(包装))
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 長さ約30cm,幅約10cm,高さ約4.5cmの大きなパンで,酒まんじゅうと同じ生地で作られています。

(切りパン)
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 切りパンを切った様子です。

 シンプルな味のパンを想像していたのですが,いただいてみると生地に馴染み深い旨味を感じました。

 しばらく考えて,この旨味は醤油によるものだとわかりました。

 表面に薄く醤油で味付けされた蒸しパンなのです。

 このパンを味も形もギュッと凝縮させたら,醤油せんべいか柿の種になりそうです。

 塩小豆の酒まんじゅうと同様,今まで食べたことのない不思議な味でした。


山本五十六が好んだ「水まんじゅう」を作る

 塩小豆の酒まんじゅうが入手できたので,山本五十六オリジナルの「酒まんじゅう」を作ってみました。

 雪のかたまりは調達できないので,かき氷で代用することとしました。

 自宅にかき氷機はないので,職場で親睦会所有のかき氷機を一晩だけ借りました。

(電動氷かき器)
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 器に冷たい水を張り,その中に「酒まんじゅう(塩小豆)」を浸し,さらにかき氷を加えて冷たくしました。

(酒まんじゅうを水に浸してかき氷で冷やした様子)
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 見た目にも涼しげな状態になりました。

 数分待ち,酒まんじゅうに冷たい水が十分に浸み込んだところで,砂糖をまぶしました。

(冷たい酒まんじゅうに砂糖をまぶした様子)
Photo_20220821150701

 普段あまり砂糖を使わない私には,この量でも多めですが,山本五十六がまぶした量は,もっともっと多かったはずです。

(山本五十六の「水まんじゅう」を切り分けた様子)
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 こうして出来上がった「水まんじゅう」は,饅頭の生地が水を吸ってズブズブにやわらかくなっており,簡単に切り分けることが出来ました。

 饅頭の直径が当初の約8cmから約9cmと少し大きくなりました。

(山本五十六の「水まんじゅう」(一口サイズ))
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 塩小豆は粘りがないので,一口サイズに切ってスプーンですくうと,ポロポロと汁の中に落ちてしまいます。

 いよいよ実食の時がきました。

 「塩小豆の塩気が砂糖の甘みを引き立てるのだろう」と思って口にしたのですが,実際は小豆の塩気と砂糖の甘みを別々に感じました。

 元々砂糖が入ってない饅頭なので,「多すぎるのでは?」と思うぐらい大量の砂糖をかけてちょうどよいぐらいなのでしょう。

(山本五十六の「水まんじゅう」の汁)
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 砂糖をかけて甘くなった汁もいただいてみました。

 汁の方は,塩小豆の塩気と砂糖の甘みがうまく混ざり合って,さっぱりしたぜんざいのような仕上がりになっていました。

 冷たくて甘い汁で,これは美味しいと感じました。

 映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実」のワンシーンでも,山本五十六が饅頭に砂糖をたっぷりかける様子が描かれていましたが,山本五十六は現代で言う「ギルトフリー」など意識しない,かなりの甘党であったことがよくわかりました(笑)


なぜ山本五十六は「酒まんじゅう」に砂糖をかけて食べたのか

 現代の感覚から言えば,わざわざ甘くない饅頭に砂糖をかけて食べなくても,最初から甘い饅頭を食べれば済むし,そちらの方が美味しいと思ってしまいます。

 山本五十六が甘くない「酒まんじゅう」にわざわざ砂糖をかけて食べた謎を解くカギは,彼が生きた時代にあるようです。

 山本五十六が生きた時代(1884(明治17)年~1943(昭和18)年)は軍部が台頭し,日本が様々な国と戦争をしていた時代と重なります。

 そして次第に戦局は悪化し,国民は食糧難に苦しむこととなったのです。

 そんな時代において,砂糖はとても貴重なもので,庶民が簡単に口にできるものではありませんでした。

 和菓子屋で砂糖ではなく塩を使った塩小豆の饅頭が販売されたのも,海外から砂糖の輸入が困難となり,砂糖が非常に高価な材料となったことも影響しているのではないかと思います。

 そんな中,軍人には「嗜好品である菓子は兵士の士気を高める」(給糧艦「間宮」艦長ほか)という考えで優先的にお菓子が提供されていたようです。

 こうした時代背景を踏まえた上で,山本五十六の「酒まんじゅう」が誕生した理由としては,次のようなことが考えられます。

(1)戦時中,長岡では砂糖が入っていない塩小豆の酒まんじゅうが市販されていた。
(2)戦時中であっても,軍人で高い地位にあった山本五十六は砂糖を入手することができた。
(3)甘党の山本五十六にとって,甘くない酒まんじゅうは満足できるお菓子ではなかった。

 さらに,山本五十六の出身地・長岡は,小豆を使わず醤油で色付けした全国的にも珍しい「長岡赤飯」という料理があることから,砂糖だけでなく小豆もとても貴重な食材の1つだったはずです。

 つまり,山本五十六の「水まんじゅう」は,山本五十六が特権階級であったからこそ実現できたお菓子であり,一般的な国民には到底真似することができなかったお菓子なのです。

 そう考えると,長岡の庶民に好まれた,全く甘みのない「酒まんじゅう(塩小豆)」そのものにも深い意味があり,歴史が刻まれていることがわかります。

 「切りパン」が醤油で味付けされているのも,同じく醬油で味付けされる「長岡赤飯」と同様の発想(商人の街で,おかずがなくても食べられたこと)や地域特性(昔から醤油づくりが盛んな街だったこと)が関係しているように思います。

 今回御紹介した「酒まんじゅう(塩小豆)」,「水まんじゅう」,「切りパン」は,まさに長岡と山本五十六の歴史を物語る食べ物だと言ってよいでしょう。

 山本五十六の好んだ「水まんじゅう」,「やってみせ 言って聞かせて させてみて」やっと理解できました。

 これで山本五十六さんからほめていただけるかな(笑)


<関連サイト>
 「山本五十六記念館」(新潟県長岡市呉服町1-4-1)
 「山本五十六と酒まんじゅう」(「川西屋本店」新潟県長岡市殿町1-7-2)
 「戦時中にスイーツを食べられたのは軍人だけだったってホント?」(国立公文書館・アジア歴史資料センター)

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コメント

あーっ、先を越された!(笑)
気になっていた切りパンをご紹介いただきありがとうございます。
まんじゅうの皮を醤油で味付けしたパン(と呼んでいいのか?)なんですね。
酒まんじゅう(甘)は普通に美味しそうですが、塩小豆の方は小豆が
いまいち美味しそうに見えない(^^;)
ああいう時代だったからこその山本五十六の「水まんじゅう」ですね。
現代の水まんじゅうが永遠に食べられる時代が続きますように。

饅頭に甘辛があるのは面白いですね^ ^
考えてみれば、中華まんは肉や野菜を餡にした華北の料理ですものね^^
長岡は偉人が沢山出ていますね。
私が一番好きなのは「米百俵」のお話です^^
その日食べる米にも困る中、米百俵を売って学校を建てるお話^_^
山本五十六が特権階級になれたのは、本人の努力もあったと思いますが長岡の「米百俵」の精神のおかげかもしれませんネ^o^

chibiaya 様

chibiayaさん,こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

前回の「水まんじゅう」の記事でコメントをいただいてから,私も酒まんじゅうと切りパンが気になり,思い切って通販で購入してみました。
切りパンの表面,私はその見た目から,まんじゅうの皮をオーブンか何かで焼いた焼き色だと思っていました。
食べると表面もやわらかく,醤油味がしたので,焼き色ではなく醤油の色だとわかりました。
切りパンといい,長岡赤飯といい,長岡の人は醤油味がお好きなようです(^-^)

塩小豆の酒まんじゅう,塩茹ででパサパサしていて,そのままで美味しいと思うには慣れが必要だと思います(笑)
昔よりは塩味を控えめにされているようですが,それでもよく塩味が効いています。
山本五十六だけ甘く冷たくして食べていたなんて,面白い話ですよね(^-^)

おっしゃるとおり,誰もが美味しいお菓子を食べられる,そんな時代が一番ですね!

なーまん 様

なーまんさん,こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。

確かに饅頭は中国由来の食べ物で,肉食を避ける代わりに小豆などの甘いあんを入れた饅頭は日本ならではの食べ物ですよね。
なーまんさんからのお話でハッと気づきました。

なーまんさんのおっしゃるとおり,長岡駅前には長岡出身の偉人がずらりと紹介されていて,たくさんの偉人が輩出された街だなと思いました。
その中には,当然ながら「米百俵」のお話も紹介されていました。
長岡の街を歩いていると,「米百俵」の精神を受け継ぐ施設「ミライエ長岡」が建設中で,「米百俵」は長岡の人々の誇りなのだなと思いました。
https://miraie-nagaoka.jp/
長岡には「米百俵」の精神が根付いているからこそ,山本五十六を含め,多くの偉人を輩出しているのかも知れませんね。
さすが博学のなーまんさん,長岡と言えば「米百俵」の話にも触れておくべきでした…。
次の通販は,長岡の米百俵ですかね(笑)

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