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2022年11月27日 (日)

矢口の神事と矢口餅 -矢口餅はなぜ黒・赤・白の3色なのか-

矢口の神事と矢口餅

 「矢口の神事」とは,武家の男子が狩猟で初めて獲物を獲ったことを祝う行事です。

 後継者のお披露目という意味のほかに,人間に動物を恵んでくれた山の神様への感謝の意味もあると言われています。

 源頼朝が富士の裾野で行った巻狩(※)で,子の頼家が鹿を射止めた際に「矢口の神事」が催された話(吾妻鏡)が有名です。
 ※大勢の人が一斉に獲物を追い込み,武将たちが獲物を射る狩り

 この儀式のために用意された食べ物が「矢口餅」です。

 黒・赤・白の3色の餅が用意され,参加者に振る舞われたようです


鎌倉・豊島屋の矢口餅

 歴史や地元・湘南のことにお詳しく,写真もプロ級も腕前の「なーまん」さんのブログに「大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にちなんで,鎌倉の豊島屋で矢口餅が販売されている」との紹介記事がありました。

 この記事を読んだ私は,この歴史的意義のある矢口餅をぜひ買って味わってみたいと思い,ちょうど藤沢へ行く用事があった際に,鎌倉の豊島屋本店も訪問することとしました。

 一度その気になると,止められなくなるのが私のいけないところです。

 「いざ鎌倉!」

 羽田空港から京浜急行電鉄とJR横須賀線を利用して鎌倉駅に到着しました。

(鎌倉駅)
Photo_20221126221801

 2022年10月,鎌倉駅や小町通りなどは多くの観光客で賑わっていました。

 「鳩サブレー」で有名な豊島屋は,本拠地・鎌倉にはたくさんの店舗がありますが,矢口餅を販売しているお店は本店のみとなっています。

 本店の住所が小町なので,小町通り沿いかと思い込み,小町通りを何度か往来しました。

 お店が見つからないので改めてネットで検索すると,若宮大路沿いだとわかり,若宮大路を歩くとすぐに見つかりました(笑)

(豊島屋本店)
Photo_20221126222401

 店内には,鳩サブレー以外にも和菓子を中心に饅頭やお餅などたくさんお菓子が販売されていました。

 鳩サブレーの関連グッズも販売されていました。

 そして,目当ての矢口餅がありました。

(矢口餅)
Photo_20221126222501

 こちらが豊島屋の矢口餅です。

 矢口の神事で用いられた矢口餅はもっともっと大きかったようですが,豊島屋の矢口餅は手のひらにのるコンパクトサイズです。

 旅先,しかも列車の中でいただきました。

 薄い求肥やその求肥で包まれた「あん」の色で3色の餅が表現されています。

 一番上の黒いお餅は,小豆(こしあん)を白く薄い求肥で包んだものです。

 真ん中の赤いお餅は,いんげん豆の白あんを赤く色付けした薄い求肥で包んだものです。

 一番下の白いお餅は,白小豆(つぶあん)を白く薄い求肥で包んだものです。

 どの種類のお餅も,あんこを薄い求肥で包んで作られたものですが,このあんこがさらりとした上品な甘さで,あっという間に3つとも食べてしまいました。

 高価な白小豆を使ったあんこも使われており,お店の誇りと矢口餅への特別な思い入れを感じました。


矢口餅はなぜ黒・赤・白の3色なのか

 矢口餅はなぜ「黒・赤・白」の3色の餅で構成されているのでしょうか。

 インターネットなどで関連記事を探した限りでは,明確な理由はわかりませんでした。

 ここからは私の考察です。

 ○「矢口の神事」は武家の儀式(通過儀礼)という意味合いが強い。

 ○儀式の食べ物として特別な意味を持たせるため,餅本来の色(白)1色や紅白の2色ではなく,3色を用いる。

 ○宮中の新年祝賀会で振る舞われた紅白餅「菱葩(ひしはなびら)」や,桃の節句(ひな祭り)に使われる「菱餅(ひしもち)」がお手本とされた可能性もある。

 ○「菱餅」は3色だが,(宮中・皇族とは)異なる(武家の)行事なので同じ色(赤・白・緑)は使わない。

 ○赤い餅は魔除けを意味し,白い餅とペアで男性(白)と女性(赤)を意味する。

 ○したがって紅白の餅を基本にもう1色,緑以外の色の餅を選ぶ必要がある。

 ○武家らしく,狩りの象徴にもなるような色が望ましい。

 ○黒は勇ましさがあり,狩りで捕獲した肉を表現する色でもある。

 ○黒い餅は黒もち米,古代米,黒砂糖,黒ゴマ,竹炭などの材料で作ることが可能。

 ○黒餅(こくもち)は「石持ち(こくもち)」にも通じ,武家に縁起がよい。

 以上のような理由がいくつか重なって,矢口餅は「黒・赤・白」の3色にまとまったのではないかと思います。


まとめ

 史料に記載されただけの食べ物が,何かのきっかけで復元・創作・紹介され,現代人に再認識されることは,その当時の理解を深める上でも,また新たな経済効果を生み出す上でも,とても効果的な取り組みだと思います。

 この矢口餅を買うだけのために鎌倉を訪問した私がよい例です(笑)

 写真映えするかどうか,美味しいかどうかだけでなく,「過去から現代へのメッセージ・贈り物」として歴史上の料理やお菓子に興味を持つ方が増えれば,食文化の世界はさらに広がりを持つと思います。


<関連サイト>
 「鎌倉百八景60 鎌倉殿の菓子と歌碑」(「なーまんのEye-Level」)
 「鎌倉 豊島屋」(本店:神奈川県鎌倉市小町2-11-19ほか)
 「再現!巻狩り&矢口祝い 後編③矢口祝い」(NHK「大河ドラマ 鎌倉殿の13人」)

<参考文献>
 とらや「源頼朝と矢口餅」(「菓子資料室 虎屋文庫」)

<関連記事>
 「新年の和菓子・花びら餅 -菱葩(ひしはなびら)・包み雑煮と花びら餅-

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宗教・食文化史」カテゴリの記事

コメント

記事をご紹介頂いた上、過分なお褒めのお言葉、ありがとうございます😭
お茶もお出しせず、失礼をいたしましたm(_ _)m
本当の矢口餅には餡は入っていないと思いますが、一口サイズで甘く食べやすいお菓子にアレンジしたのでしょうね^o^
戦国時代のドサクサで儀式は途絶えてしまったようで、NHKは阿蘇神社大宮司家の家伝書を参考にした様です。
阿蘇氏は古事記を編纂した太安万侶と同族で、先祖は神武天皇!
大宮司達は、獣達は我々に狩られる事で神官に生まれ変わり、成仏できる!
と言いながら、肉をたらふく食べていた様です^o^
山幸彦は狩人ですものね(^_^)

なーまん様

なーまんさん、こんにちは。
早速コメントいただき、ありがとうございます。
また、この度は貴重な情報を御提供いただき、ありがとうごさいました。

矢口餅のお話に興味を持ち、勢いで鎌倉へ伺いました。
御指摘のとおり、本来の矢口餅にはあんは入ってないと思います。あんが入ってると傷みが早いですし、大きさから言っても無理があります(笑)
黒い餅も、甘い食材は使われてないと思います。
ただ、その後戦国時代のドサクサで儀式が途絶えてしまったのなら、なおさらのこと、今回の矢口餅の復元は意義深いものですね。
なーまんさんほど知識がないので、お恥ずかしい限りです(^^ゞ
動物を犠牲にする、その肉をいただく、というのは古今東西、何かしらもっともらしい理由が必要とされるものですが、矢口の神事も何らかの関係があるように思います。

矢口餅、初めて知りました。
武家とか儀式とか狩りで獲物を仕留めるとか、現代にないものばかりなので(あるところにはあるのかもしれませんが)、こうして復活させて後世につなぐのはいいアイディアですねー。
虎屋文庫のやつは普通の色のついた餅って感じで、食指は動きませんが、豊島屋のはとても美味しそうです。

chibiaya様

chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。

矢口餅、大河ドラマがなかったら、知る人ぞ知るお菓子で埋もれていたでしょうね。
これまで知られてなかった料理やお菓子に巡り会えるとワクワクします。

虎屋文庫の矢口餅は、復元に力を注ぎ、食べることは二の次のような感じもしますが(笑)、レアなお菓子を復元されただけでも十分な歴史的意義があり、賞賛に価すると思います。

豊島屋の矢口餅は、透きとおるような薄いお餅(求肥)に上品な甘さのあんがたっぷりでおっしゃるとおり美味しかったです。
私が当時の武士なら、断然こっちがいいなぁ(^_^)

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