元祖鴨南ばんの味を求めて -神奈川県藤沢市湘南台「元祖鴨南ばん本家」の「治兵衛の鴨南ばん」-
「南蛮」と呼ばれる料理・食材の謎
日本には「南蛮(なんばん)」と呼ばれる料理や食材が数多くありますが、時折、「そもそも「南蛮」って何だろう」と思うことがあります。
「南蛮」は、もともと中国から見て南方の異民族を意味する言葉のようですが、日本では、その南蛮(東南アジア)経由で来航したポルトガル・スペイン人を「南蛮人」と呼び、この南蛮人が持ち込んだ野菜(唐辛子、カボチャ)や病気予防に食べられた辛味野菜(ネギ)、そしてお菓子(カステラ、金平糖、鶏卵素麵など)などにも「南蛮」という名前が用いられました。
また「チキン南蛮」や「鯵の南蛮漬け」のように、唐辛子入りの甘酢(マリネ液)に食材を漬け込んだ料理も「南蛮」と呼ばれます。
さらには、トウモロコシ(玉蜀黍)のことを「なんばんきび(南蛮黍)」と呼んだり、炒め物や揚げ物のことを「なんばん(南蛮)」と呼んだりする地方もあります。
その一方で、「柚子胡椒(ゆずこしょう)」のように、九州を中心に唐辛子を「南蛮」とは呼ばず「こしょう」と呼ぶ地域もあるので、ややこしいのですが…。
とりあえず舶来品の食材・料理は「南蛮」と呼ぼう、みたいな雰囲気があったのでしょうね。
かつて中国の一大輸出港だった天津(港)のイメージが先行し、天津発祥ではないのに「天津飯」とか「天津甘栗」と呼ばれることとよく似ています。
汁そばのトッピングとしてカボチャ(南蛮)とトウモロコシ(南蛮)のかき揚げ(南蛮)をのせ、刻みネギ(南蛮)を盛って、一味唐辛子(南蛮)を振りかけたら、「南蛮南蛮南蛮南蛮南蛮そば」となってしまいます(笑)
元祖鴨南ばん本家の「治兵衛の鴨南ばん」
神奈川県藤沢市湘南台に鴨南蛮発祥のお店があります。
「元祖鴨南ばん本家」です。
江戸時代に、お店の初代・笹屋治兵衛が長崎の「南蛮煮(唐辛子やネギを使ったり、食材を油で揚げたり炒めたりした後で煮込んだ料理)」をもとに「鴨南ばん」を考案したところ、江戸中の評判となり、親しまれるようになったようです。
その後、このお店は東京・日本橋馬喰町から神奈川県藤沢市湘南台へ拠点を移し、現在に引き継がれています。
(元祖鴨南ばん本家・店舗)
こちらが藤沢市湘南台にあるお店「元祖鴨南ばん本家」です。
(元祖鴨南ばん本家・看板)
お店の玄関に「日本橋馬喰町・元祖鴨南ばん本家」と書かれた木の看板が置かれています。
お店に入り、お品書きを見ると「鴨南ばんの由来」が紹介されていました。
(鴨南ばんの由来)
由来には、「金比羅宮にお参りする道中、長崎から伝わった「南蛮煮」を食べ、それをもとに「鴨南ばん」を考案した」と紹介されています。
金刀比羅宮のある讃岐(香川県)は「そば」ではなく「うどん」文化の地です。
汁そばに鴨肉とネギをのせる「鴨南蛮」は、「そば」文化の根付いた江戸の人ならではの考案だったと言えるでしょう。
やがて出来上がった料理が運ばれてきました。
(治兵衛の鴨南ばん(朱塗りのふた))
初代治兵衛の鴨南ばんは、このように丼に朱塗りのふたをして提供されます。
(治兵衛の鴨南ばん)
青森県産の本鴨と江戸千住葱が使われています。
また、香り付けに柚子の皮ものせられています。
(治兵衛の鴨南ばん(そば))
白色でつるっとした食感のそばです。
主張せず、おつゆの旨味をしっかりと受け止めてくれるそばでした。
(治兵衛の鴨南ばん(骨付き本鴨肉))
鴨肉は、本鴨の切り身と骨付き肉がのせられています。
切り身はやわらかい肉と甘い脂の両方が楽しめ、骨の周りの肉は弾力があって凝縮した旨味が楽しめました。
鴨とネギを組み合わせると、実に旨いだしがとれ、そばとの相性も抜群です。
「鴨がネギを背負ってくる」ような旨い話はあるのです(笑)
まとめ
今と違って、外国との交易が少なかった時代の日本では、外国から渡ってきた食べ物や、それまでの日本にはない調理法・食べ方をする料理をひとくくりに「南蛮」と呼び、日本のものと区別していました。
面白いのはその「南蛮」と付く料理やお菓子のほとんどが、日本で独自に進化し、すっかり日本の料理・食材・お菓子となっていることです。
例えば「カレー南蛮そば」は、インド料理ともスペイン・ポルトガル料理とも言えず、日本独自の料理に分類することとなるでしょう。
いつか「南蛮」と付く料理に出会われたら、何の食材を対象にしているのか、どういう意味で使われているのかを、歴史的背景も踏まえながら考えてみると面白いと思います。
<関連サイト>
「元祖鴨南ばん本家」(神奈川県藤沢市湘南台2-22-17)
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鴨南蛮の元祖がどこかなんて考えたこともなかったですが(笑)
湘南台にお店があるんですね~。
Wikiに、日本橋馬喰町にあった「笹屋」とありましたが、元はそれなのでしょうか。
…かんがえたら、鴨南蛮って食べたことがないかも(^^;)
薬味が柚子というのが美味しそうです。
投稿: chibiaya | 2023年10月15日 (日) 17時26分
新興住宅地のイメージのある湘南台に、こんな老舗があるとは知りませんでした!
今度小田急江ノ島線に乗って、食べに行こうと思います(^.^)v
元祖と本家の争いという笑い話がありますが「元祖鴨南ばん本家」では争いようがありませんね!
ヨーロッパやアメリカ大陸由来のものを「南蛮渡来」と言うのは唐(とう)の事を加羅にちなんでKARAと呼ぶのと似てますね^ ^
投稿: なーまん | 2023年10月15日 (日) 17時44分
chibiaya 様
chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
鴨南蛮の元祖のお店があることは、湘南台のバーで教えてもらいました。
Wikiの情報が湘南台のお店で間違いないと思います。多分…。
私もあまり鴨南蛮を食べることはないのですが、よくお邪魔する湘南台に鴨南蛮の元祖本家があるということで、ずっと気になっていました。
柚子のスライスが薬味となっていた事で、骨付きの鴨肉をより美味しく、風味豊かにいただけました。
合鴨でなく、本鴨でしたが、本鴨は珍しく、これもこのお店だけの味かもしれません。
投稿: コウジ菌 | 2023年10月15日 (日) 19時07分
なーまん 様
なーまんさん、こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
日本橋馬喰町からなぜ湘南台へ移転されたのか、謎ですよね(笑)
機会があれば、お召し上がりください。そば屋は湘南台駅のそばです(^^ゞ
元祖本家と店名にあったら、最強ですよね。ほかのお店を心配する必要がないです(笑)
「唐(とう)の事を加羅にちなんでKARAと呼ぶ」とは初めて知りました。
なーまんさんは歴史にお詳しいので、いつも勉強させていただいております。
確かに中国から日本へ伝わった「唐菓子」は「からくだもの」と呼びますので。
「唐辛子」も「からからし」と呼んでしまいそうです(笑)
投稿: コウジ菌 | 2023年10月15日 (日) 23時21分