広島市植物公園「バレンタインフェスティバル2024」 -広島市植物公園のカカオとチョコレート講演会-
広島市植物公園のバレンタインフェスティバル
今年も広島市植物公園でバレンタインイベントが開催されました。
(「バレンタインフェスティバル2024」チラシ)
私は2024年2月11日に広島市植物公園を訪問しました。
(広島市植物公園)
広島市植物公園です。奥の建物が大温室です。
この大温室では,全国でも珍しいカカオが栽培されています。
大温室に向かって階段を上がっていくと、絵画の展示コーナーがありました。
(「植物公園 de アート」)
セザンヌ、ミュシャなどの絵画と花が展示されていました。
カカオ豆とチョコレートの香りがするランの花
大温室に着き,園内でカカオを探しました。
「くだものと暮らしのコーナー」のエリアに、カカオの木があり、よく見るとカカオの実もなっていました。
(カカオの木・カカオの実)
緑色のカカオの実です。
カカオは大きく分けて3つの品種があります。
(カカオの種類)
フォラステロ種,トリニタリオ種,クリオロ種です。
フォラステロ種は世界で最も多く栽培されている品種,逆にクリオロ種は世界の生産量の1%程度しか栽培されていない希少品種,トリニタリオ種はフォラステロ種とクリオロ種のハイブリッド(いいとこ取り)です。
次に「チョコレートの香りがするラン」を探しました。
(オンシジウム・シャリーベイビーのエリア)
チョコレートの香りがするランは、「オンシジウム・シャリーベイビー」という名で知られています。
色はワインレッド・薄ピンク・白で構成され、見た目にもチョコレートの香りがしそうな花です。
昨年の記事で「チョコレートの香りがするランが気になる」とのコメントをいただいたので、今回は見つけることができて良かったです。
花に近づいて香りをかいでみました。
(オンシジウム・シャリーベイビー)
「おおっ、これはまさにチョコレートの香り!」
カカオ豆を発酵させて初めて発するチョコレートの香りが、このランからなぜ発せられるのか不思議でなりませんでした。
チョコレートの香りがする「シャリーベイビー」という名のカクテルを作ったら話題になるのではないかしラン。
ベゴニア温室と「カカオとチョコの秘密」展示
続いて、ベゴニア温室へ行ってみました。
(ベゴニア温室入口・バレンタイン装飾)
ハート形のカラフルなアーチが設置されていました。
室内には、色とりどりのベゴニアが並び、「カカオとチョコの秘密」についての説明書きもありました。
(ベゴニアと「カカオとチョコの秘密」展示)
また、同じ室内で「99本のバラと記念撮影」イベントも開催されており、家族連れなどで賑わっていました。
森のカフェのバレンタインデー限定ティラミスセット
次に、ベゴニア温室の向かいにある「森のカフェ(ログハウス)」へ行きました。
私の目当てはこちらです。
(バレンタインデー限定ティラミスセットの案内)
バレンタインデー期間限定・数量限定の「ティラミスセット」です。
注文してしばらく待っていると、ティラミスセットが用意されました。
(バレンタインデー限定ティラミスセット)
ココアパウダーがたっぷりかけられたティラミスとコーヒー(ドリンク)のセットです。
公園の庭を眺めながら、美味しくいただきました。
絵本「ひと粒のチョコレートに」の朗読とチョコレート作り体験イベント
森のカフェでくつろいだ後,展示資料館へ行きました。
(めーでるちゃんと展示資料館)
この展示資料館の2階講堂で、チョコレートの専門家・佐藤清隆先生(広島大学名誉教授)によるバレンタインフェスティバル関連イベント「絵本の朗読とチョコレート作りの体験」が開催されました。
講堂入口で佐藤先生とお会いし、「おっ、久しぶり~」と声をかけていただきました。
講演会開始までの間、佐藤先生から近況を伺いました。
先月(2024年1月)、チョコレートについて詳しく紹介した「チョコレートを極める12章」(幸書房)という本を出版されたそうで、その本のパンフレットをいただきました。
(佐藤清隆「チョコレートを極める12章」(幸書房)パンフレット)
あと、佐藤先生がミルクチョコレートについて調べた結果、「ミルクチョコレートはスイスのダニエル・ペーターがアンリ・ネスレの協力なしに単独で開発した」という資料が見つかり、その資料をもとに実際にミルクチョコレートが作れることも確認できたというお話も伺いました。
このお話が事実だと、自分が書いたブログ記事が間違っていることとなるため、私は困った表情で「えーっ」と佐藤先生に返答しました。
ちなみに、ウィキペディアの「ダニエル・ペーター」の記事も加筆・修正されています。
あと、カカオニブを砂糖と一緒に食べると甘いチョコレートの味になり、さらに粉末タイプのコーヒーミルクを加えるとミルクチョコレートの味になるというお話も伺いました。
興味深い雑談を伺っているうちに、講演会開始時刻を迎えました。
講演会は、佐藤先生が書かれた絵本「ひと粒のチョコレートに」(福音館書店)の朗読が中心で、その合間にチョコレートに関するクイズが出されたり、チョコレート製造工程の一部を体験できたりと、盛りだくさんの内容でした。
事前に受付で紙皿にのせたローストカカオ豆と砂糖をいただきました。
(ローストカカオ豆と砂糖)
このカカオ豆は、ベネズエラの農園からフェアトレードで入手した高級な豆だそうです。
絵本の朗読の途中、佐藤先生から会場の皆さんへ「カカオ豆の殻を割って中の実(胚乳・カカオニブ)を取り出してみてください」というお話がありました。
私も爪を使い、カカオ豆の硬い殻を取り除いてみました。
(カカオ豆とカカオ豆の皮)
写真左上が殻を割る前の(ロースト)カカオ豆、左下が殻(皮)を取り除いた「カカオニブ(カカオの胚乳)」です。
写真右側は取り除いたカカオの殻と皮で,外皮の「カカオシェル」と薄皮の「カカオハスク」があります。
次に佐藤先生から「カカオニブの中に小さく細長い棒(胚芽)があるので取り出してください」とお話があったので、「今回こそは自力で(胚芽を)見つけるぞ」と意気込んで取り組みました。
カカオニブをよく観察してみると、先端部に丸い穴が開いている箇所がありました。
(カカオニブ先端部の丸い穴)
「この穴に胚芽があるのではないか」と思い、この箇所からカカオニブを縦半分に割ってみました。
(カカオニブ(縦割り)とカカオニブの胚芽)
正解でした。赤丸を付けたのがカカオニブの胚芽(ジャーム、チュニブ)です。
5mm前後の大きさで,小さい茶柱のような形をしています。
この胚芽はとても固くて苦いだけなので、チョコレートを作る際には取り除く必要があります。
胚芽を取り除いたカカオニブを、まずはそのままいただきました。
ローストしたアーモンドのような食感で、味はカカオ100%の苦いチョコレートでした。
次に手のひらの上にカカオニブをのせ、その上から砂糖(グラニュー糖)をたっぷりかけたものをいただきました。
(砂糖を加えたカカオニブ)
「あっ、甘くて食べやすいチョコレートに変わった!」
砂糖をかけるだけで、とても食べやすくなりました。
私は普段、コーヒーや紅茶に砂糖を使うことはないのですが、このカカオニブには砂糖をたっぷりかける方が断然美味しいことがわかりました。
普段スティックシュガーを全く使わない私が、挙句の果てには、スティックシュガーを直接口に流し込む始末でした(笑)
絵本の朗読が進む中、チョコレート作り体験も行われました。
ボウルには、すでにテンパリング(温度調整・結晶化)済みのチョコレートが用意されていました。
(チョコレートと温度計)
作業時に一定の温度(27℃~32℃)を保つことがとても重要らしく、溶かしたチョコレートを金属トレーへ移し替える時でさえ、佐藤先生はそのトレーをドライヤーの熱風で温めておられました。
液体のチョコレートを金属トレーに移し替えると、すぐにトレーを机にバンバン打ち付け、チョコレートの中の空気を抜く作業(タッピング)に取り組みました。
(タッピング作業の様子)
最初に佐藤先生が実演したのですが、「バシャン、バシャン」と会場に大きく鳴り響くレベルでトレーを机に叩きつけられました。
続いて会場の子供たちもタッピング作業を体験しました。
タッピングを終えたチョコレートは、すぐに冷蔵庫に入れて冷やし固められました。
絵本の朗読が終わる頃、植物公園の職員の方が完成した板チョコレートを持って来られました。
最後にこの板チョコレートを一口サイズに割る作業の体験がありました。
これも子供たちが担当しました。
(冷やし固めたチョコレートを割った様子)
滑らかで光沢のあるチョコレートに仕上がりました。
(チョコレートの試食)
ガーナ産カカオ豆70%のチョコレートです。
カカオニブをかじっているような、純粋な美味しさを味わえるビターチョコレートでした。
チョコレートを味わった後、参加者から佐藤先生へ「砂糖抜きのチョコレートの作り方」についての質問が出たのですが、私は「さとう」抜きにはチョコレートは語れないと思います(笑)
今回の講演会で新たに学んだこと
今回の講演会で私が新たに学んだことをまとめます。
・カカオ豆の発酵と乾燥は農園で、ロースト以降の行程はチョコレート工場で行われる。
・テンパリングの失敗などで、チョコレートの表面が白くなる現象は「ブルーム(花が咲く)」と呼ばれる。
・テンパリングを失敗しても、やり直しが可能。
・タッピングはとても大きな音がするので、チョコレート工場では耳栓をして作業されている。
・カカオの産地ではカカオ豆が通貨となり、1粒で鶏卵1個、10粒でニワトリ1羽、100粒で奴隷1人と交換できた。
・メキシコのカカオ農園では食事としてカカオのドリンクが飲まれている。
・カカオのドリンクは1杯約500~600キロカロリーあり、ビタミンCを補うため唐辛子を加え、塩分を補うため塩が加えられる。
・チョコレートはカフェインは少なく、テオブロミンが多い。
・ヨーロッパのホテルでは安眠を誘う目的で、部屋に少量のチョコレートが置かれていることがある。
まとめ
講演会終了後,佐藤先生に御挨拶し、会場を後にしました。
後日、佐藤先生が執筆された本「チョコレートを極める12章」を購入しました。
ミルクチョコレートの真相を知るため、真っ先にその記事を読んだのですが、その中で佐藤先生はダニエル・ペーターの実験ノートの話題に触れ、①ペーターとネスレは(ミルクチョコレート開発の)共同作業をしていない、②ネスレは粉ミルクを作っていない、と紹介されています。
アンリ・ネスレは「粉ミルク」ではなく「母乳代替食品(ミルクに砂糖を加えて水分を飛ばし、焼成した小麦粉ラスクの粉末やミネラルを加えた食品)」を開発し、それに影響を受けたダニエル・ペーターはそれとは別にミルクチョコレートの研究に力を注ぎ、ミルクチョコレートを開発した、というのが真相のようです。
あと、ネスレの元々の名前「ネストレ」(「ネスレ」は後でフランス風にアレンジした名前)は、ドイツ語で「小さな巣」を意味するという話にも興味を持ちました。
この文章を読んだ瞬間、ネスレのシンボルマークが思い浮かびました。
(ネスレのシンボルマーク)
(ネスレ日本のウェブサイトから引用)
親鳥が巣で待ち構える雛(ひな)に食べ物を与えるイメージで、ネスレは母乳代替食品の開発に力を注いだのかも知れません。
佐藤先生は現在、NHKの取材を受けておられ、「あしたが変わるトリセツショー」という番組でチョコレートの研究成果が紹介されるとのお話でしたので、御興味ある方は御覧ください。(2024年5月9日(木)放送予定)
<関連サイト>
「広島市植物公園」(広島市佐伯区倉重三丁目495番地)
「ネスレ日本」
<関連記事>
「カカオ豆とチョコレート」
「チョコレートの新しい潮流2 -ハイカカオと機能性チョコレート,発酵の重要性-」
「チョコレートの魅力 -ショコラミルの実演とオランジェット作り体験-」
「広島市植物公園「バレンタインフェスティバル2023」 -広島市植物公園のカカオとチョコレート講演会-」
このほか「食文化関連記事一覧表・索引」の「食文化事例研究」にある「チョコレートの研究」を御参照ください。
<参考文献>
佐藤清隆「チョコレートを極める12章」幸書房
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ミルクチョコレートを開発したのがダニエル・ペーターという事は分かりましたが、カカオニブとあんこに砂糖を加える事を思い付いたのは誰でしょう?
佐藤先生との別れ際に「やはりチョコレートは、さとう抜きには語れませんね!」と、おっしゃらなかったのですね?
子供の頃、家にネスカフェのインスタントコーヒーが常備されていて、よくコーヒー牛乳にして飲んでいました(^.^)
ココアとコーヒー牛乳にも佐藤は欠かせませんね( ̄∇ ̄)
投稿: なーまん | 2024年2月18日 (日) 17時45分
今年も行かれたんですね。
最初にこの実を食べようと思った人もすごいし、
この実のどこを食べればいいか追及した人もすごいし、
これからチョコレートを作り出した人もすごい。
自然界でこういうふうな新たな食べ物の発見ってこの先あるのかなー?なんて考えてしまった夜でした(笑)
投稿: chibiaya | 2024年2月18日 (日) 21時00分
なーまん 様
なーまんさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
ダークチョコレートは苦すぎるので、もっと甘くて食べやすいチョコレートにしてほしいという需要が大きく、砂糖そしてミルクが加えられるようになったようです。
チョコレートより先にあったココアに、砂糖やミルクを加えられたことも大きく影響していると思います。
一方、あんこは…わかりませんが、小豆に砂糖を加える発想は日本人によるものでしょう。豆、特に小豆に砂糖を加える発想は日本以外ではあまり例がなさそうですので。
佐藤先生との別れ際、色んな人とお話されていたので、御迷惑をかけまいと、あえて「塩」対応しました(笑)
そうそう、ネスレと言えばネスカフェのインスタントコーヒーですよね。
液体を粉末にするのが得意な人物・会社なのでしょうか。
ココアにもコーヒー牛乳にも、さっとう溶ける砂糖は欠かせません(笑)
投稿: コウジ菌 | 2024年2月18日 (日) 22時47分
chibiaya 様
chibiayaさん、こんばんは。
いつもコメントいただき、ありがとうございます。
今年も植物公園へ行き、チョコレートの香りがするランも見つけることができました。
カカオの実は、種の周りにある「カカオパルプ」の方が甘くて魅力的なのに、その中心にある苦い種を食べてみようと思った人はスゴイですよね。
苦いと「毒」だと判断され、二度と食べられなくなるのが普通ですが…。
初期のチョコレートの開発には、化学者や薬剤師が取り組まれた例が多いようですが、それだけ専門的な知識も必要とされたのだと思います。
御紹介した佐藤先生も食品物理学の研究者ですし。
新たな食材の開拓は、飢餓・好奇心・特権階級の権力誇示などがパワーの源になっているように思います。
投稿: コウジ菌 | 2024年2月18日 (日) 23時04分
カカオ豆は、過去に通貨として交換材料としての重い歴史もあって、そうして
今においしく加工されて頂けているんですね。普段食べてるお菓子にチョコ類へ感謝です。
切ったレモンを部屋に置いておくと眠れるっていうのは聞いたことありましたが、
チョコレートのあまい香りに安眠効果は気持ちをやわらかくしてくれそうでなっとく。
投稿: サウスジャンプ | 2024年5月27日 (月) 00時23分
サウスジャンプ 様
サウスさん、こんばんは。
御丁寧に記事をお読みいただき、ありがとうございます。
カカオ豆が通貨として使用されていた事実は、暗い歴史として印象に残ったので、御紹介しました。
奴隷制、化学者の研究…様々な歴史を経て、カカオ豆や砂糖から美味しいチョコレートが出来上がっていますよね。
ほんと感謝です。
チョコレートの甘い香りが、気持ちを「やわらかく」してくれる…サウスさんらしい、素敵な表現ですね!
確かにレモンも、ハーブと同じようなリラックス効果がありそうですね。
もし私がホテルで、安眠用のチョコレートを見つけたら…サービスだと思ってパクっと食べてしまいそうです(笑)
投稿: コウジ菌 | 2024年5月27日 (月) 22時43分