各国料理の特徴と主な料理

2017年9月17日 (日)

イギリス料理の特徴と主な料理4 -ヴィクトリアケーキ-

 イギリスのヴィクトリア女王(即位1837~1901年)は,イギリスが工業化の最先進国となり,政治・経済・社会の面で繁栄期となった時代(「パクス・ブリタニカ(イギリスの平和)」)を象徴する女王です。

 1837年,18歳にして大英帝国の女王に即位しました。

(若き日のヴィクトリア女王)
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(谷川稔・北原敦・鈴木健夫・村岡健次『世界の歴史22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』中公文庫から引用)

 初々しいヴィクトリア女王です。

 イギリスで有名なバッキンガム宮殿は,このヴィクトリア女王が即位して以降,イギリス王室の公式な宮殿となりました。

 即位後,64年の長きにわたってイギリスの王座に君臨し,政治に深く関わりました。

 そして孫にドイツ皇帝ヴィルヘルム2世(長女の子)やロシア皇后アレクサンドラ(ニコライ2世妃・次女の子)をもつなど,婚姻を通じてヨーロッパ王室のゴットマザーとなりました。

(ヴィクトリア女王)
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(玉村豊男『ロンドン 旅の雑学ノート』新潮文庫から引用)

 「こわそうな顔をしている」…って玉村さん(笑)。
 でも…確かにこの風格と凄みのある女王に抵抗しようという人や国はなかったことでしょう(笑)。

 ヴィクトリア女王と夫のアルバート公(現在のドイツ出身)は,ともに勤勉,真面目で,家族団らんを重視したことから,上流階級ではなく,むしろ中流階級の家庭像の模範を世に示したと言われています。

 そんなヴィクトリア女王の名を冠したイギリスのケーキがあります。

 その名も「ヴィクトリアケーキ」です。

(ヴィクトリアケーキ)
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 小麦粉,バター,卵,砂糖,ベーキングパウダーなどの材料で焼き上げたシンプルなケーキ生地に,ラズベリージャムをはさんで作られるケーキで,サンドイッチのようにジャムをはさむことから「ヴィクトリアサンドイッチケーキ」とも呼ばれています。

 ベーキングパウダーが使われているので,ふわふわ,サクサクした食感となっています。

 シンプルな味のケーキ生地なので,中の甘酸っぱいラズベリージャムとの相性が抜群です。

 確かに厚切りのジャムサンドという表現がぴったりです。

 このヴィクトリアケーキ,一説によると,最愛の夫アルバート公を亡くし,悲しみのまっただ中にあったヴィクトリア女王をなぐさめ,元気付けるためにティーパーティーで出されたのが始まりで,ヴィクトリア女王がとても気に入られたことから女王の名前が付けられたとか。

 ちなみに,イギリスはアフタヌーン・ティーが有名ですが,この習慣はヴィクトリア女王の時代に始まったものです。

 こうしたお話を踏まえて,もう一度ヴィクトリア女王の肖像画を御覧ください。

 一見こわそうにも見えますが(笑),その奥に,最愛の夫を亡くし,その後の生涯を喪服で過ごしたヴィクトリア女王の優しさ,さみしさ,ひたむきさ,包容力までもが表現されているように感じられないでしょうか。

 このような言い伝えのあるヴィクトリアケーキは,その後またたく間に人々に広まり,今もなおイギリスのティータイムに欠かせない定番のお菓子となっています。


<参考文献>
 谷川稔・北原敦・鈴木健夫・村岡健次『世界の歴史22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』中公文庫
 『詳説 世界史図録』山川出版社
 玉村豊男『ロンドン 旅の雑学ノート』新潮文庫
 沼野恭子編『世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理』東京外国語大学出版会

<関連サイト>
 「パディントン」(広島県福山市沖野上町5-6-12)
 「サンドイッチケーキのレシピ」(NHK教育テレビ「グレーテルのかまど」ウェブサイト)

2017年8月27日 (日)

ギリシャ料理の特徴と主な料理 -サガナキ・ホリアティキ・スブラキ・ムサカ・マスティクア-

ギリシャ料理の主な特徴

 エーゲ海のおよそ3,000もの島によって構成されるギリシャは,地中海文明の中心地として,ヨーロッパ,アフリカ,アジアの文化や歴史に大きな影響を与えてきました。

 ギリシャの食文化の中心をなす食材はトマトとオリーブで,1人あたりの消費量がともに世界トップクラスとなっています。

 ギリシャ料理の主な特徴としては,

(1)トマトやオリーブ油がよく使われる。
(2)トマトで煮込んだり,味付けの濃い料理が多いが,香辛料はあまり好まれない。
(3)仔牛肉,仔羊肉,鶏肉,タコ,イカ,ジャガイモ,ナス,キュウリ,ピーマン,きのこをよく用いる。
(4)海洋国であり,魚介類が豊富でよく食べられる。

 ことなどが挙げられます。

 今回は,ギリシャの代表的な料理をいくつか御紹介したいと思います。


サガナキ

 サガナキは,ハルミチーズの鉄板焼きです。

 「ハルミチーズ」は,山羊乳と羊乳から作られるセミハードタイプのチーズで,キプロスが原産とされています。

 とても弾力があるので,少々焼いたぐらいでは溶けることはありません。

 また塩味が効いていることもあり,焼いて食べるのが最も適した珍しいチーズです。

(サガナキ)
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 今回のサガナキは,鉄板で焼いたハルミチーズにオレガノがかけられたもので,添えられたレモンを絞っていただきました。

 シコシコ,モギュモギュとした鶏のささみのような独特の食感で,比較的あっさりした塩味のチーズなので,チーズが苦手な方でも食べやすいと思います。


ホリアティキ

 「ホリアティキ」はギリシャ風サラダのことで,直訳すると「田舎風・自家製サラダ」という意味です。

 「フェタチーズ」と呼ばれる山羊乳や羊乳を使ったギリシャの代表的なチーズや,オリーブの実が使われることに特徴があります。

(ホリアティキ)
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 賽の目に切ったフェタチーズ,カラマタ産のオリーブ,レタス,キュウリ,赤玉ねぎ,トマト,パプリカで構成されるサラダに,オリーブ油と酢がベースのシンプルなドレッシングがたっぷりかけられ,仕上げにオレガノがかけられています。

 フェタチーズは,先程御紹介したハルミチーズとは対照的に,粉チーズを押し固めたかのような,フォークでつつけばポロポロ崩れていく繊細なチーズです。

 このチーズは塩味がよく効いているので,塊を崩しながらサラダに絡めて食べるとちょうど良い味付けとなりました。

 これは基本的なホリアティキですが,今回訪問したお店では,夏限定で角切りのスイカ入りホリアティキも用意されていて,ギリシャではスイカ入りも好まれているとのお話でした。


スブラキ

 スブラキは肉の串焼きのことです。

 あらかじめスパイスに寝かせ,マリネした肉を鉄串(スブラ)に刺し,オーブンでじっくり焼いて,仕上げにレモンオイル,胡椒,パプリカの粉末,オレガノなどの調味料を振りかけて作られます。

(スブラキ)
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 写真のスブラキは羊肉の串焼きです。

 添えられたレモンをかけたり,写真中央上部の「ジャジキ」と呼ばれるタルタルソースのような白いディップをつけていただきます。

 「ジャジキ」は,ヨーグルトにすりおろしたにんにくや細かく刻んだキュウリを混ぜ,塩,オリーブ油,酢などで味を調えたディップで,ギリシャ料理には欠かせない付合せです。

 このほか,フライドポテトや生野菜も添えられていました。

 いただいてみると,スパイスで十分マリネされているので,串焼きだけでも十分美味しかったですが,レモンをかけたり,シャキシャキのキュウリが入ったジャジキにつけていただくことで,一層味わい深いスブラキを楽しむことができました。

 お店のメニューを見ると,羊肉のほかにも豚肉や牛肉のスブラキも用意されていました。

 実はこのスブラキ,通常は2本で1セットなのですが,1人でいろんな料理を注文しまくる私の様子を御覧になったお店の方の配慮で,半分の1本にしていただきました(笑)。


ムサカ

 ムサカはナス,ポテト,ミートソース,ベシャメルソースの重ね焼きで,ギリシャの代表的な料理です。

(ムサカ)
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 メニューを見ると,丸いココット皿で作られたムサカの写真があったので,大して量はないだろうと思い注文したのですが,ココット皿が想像より一回り大きくて深く,立派なメイン料理でした。

 ラザニアとよく似ており,ラザニアに入っているパスタ(ラザニア)の層を野菜に替えた料理を想像していただけると近いかと思います。

(ムサカ(中身))
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 今回のムサカの中身を御紹介しますと,まず皿の底に輪切りのジャガイモを敷き,その上にミートソースをかけます。

 さらにその上に輪切りの米ナスを敷き,ミートソースをかけ,その上に輪切りのナスを敷き…という具合に具とミートソースを交互に層状に積み上げていくのです。

 そして最後に全体に行き渡るようにベシャメルソースをかけ,チーズをのせてオーブンで焼かれた料理となっていました。

 ミートソースのグラタンなのでボリュームがあるのですが,輪切りのナスも多いので「これなら何とか食べられそう」と食べ進めていました。
 が,最後に厚みのあるジャガイモの輪切りが登場し,そのボリュームに圧倒されました。

 食べ終えるのに少し時間はかかりましたが,きれいに完食しました。


マスティクア


 お店のメニューに「マスティクア(MASTIQUA)」というスパークリングウォーターが用意されていました。

 メニューの説明には,「ギリシャのヒオス島だけにある「マスティハの樹液」の持つ健康美肌効果は現代科学で次々に証明され,世界中の機関が認めるところとなりました。そのマスティハを使った炭酸水がこのマスティクアです。」とありました。

 ギリシャのヒオス島だけにある…ダメです。私はこういう言葉に弱いのです(笑)。

 マスティハの樹液が入った(炭酸)「水」(アクア)なので「マスティクア」と呼ばれているのでしょう。

 食事中のドリンクとしてこのマスティクアを注文しました。

(マスティクア)
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 コップにボトルのマスティクアを注ぎ,ミントを浮かべていただきました。

 甘味も酸味もないスパークリングウォーターなのですが,かすかに薬草のような風味を感じました。

 どこかで飲んだようなことがあるとしばらく考え,思い出したのがお酒のジンです。

 ジンは「ねずの実(ジュニパーベリー)」などの香草が添加された独特の香りがする蒸留酒ですが,その香りに似ているように思いました。

 「ノンアルコールのジン風味の炭酸水」と例えられるかと思いますが,さっぱりとしていてギリシャ料理との相性が良かったです。

 ヒオス島のマスティハのありがたみをジーンと味わいながら,数々のギリシャ料理を堪能しました。


 サントリーニ島を思わせる白と青のインテリアが特徴的なギリシャ料理店「スピローズ」。
 人呼んで「蒲田のサントリーニ島」と呼ばれる楽しいお店で,しばしギリシャ気分を味わうことが出来ました。

 また機会があれば訪問したいお店です。


ギリシャ料理とトルコ料理はよく似ている

 今回ギリシャ料理を味わってみて,気付いたことがあります。

 「ギリシャ料理はトルコ料理とよく似ている」ということです。

 いくつか例を挙げてみますと…

(1)「サガナキ」で登場した独特な食感が特徴の「ハルミチーズ」は,トルコの「ヘリムチーズ」と同じ味・食感。

(2)ギリシャの「スブラキ」は,トルコでは串焼き料理「シシュケバブ」となる。

(3)中東を中心によく食べられている「ピタ(パン)」はギリシャ料理店・トルコ料理店いずれの店にも用意されている。

(4)ギリシャ料理の「ケフテデス」(肉団子)とトルコ料理の「キョフテ」(トルコ風ハンバーグ)は語源も含めてよく似ている。

(5)ギリシャもトルコも米を炒めたピラフ(ギリシャでは「ピラフィ」,トルコでは「ピラウ」と呼ばれる)がよく食べられる。

(6)「バクラバ」と呼ばれる,パイ生地に甘いシロップを浸して作られるとても甘いお菓子は,ギリシャ・トルコに共通するお菓子。

(7)粉状にしたコーヒー豆を煮立たせ,上澄みを飲むコーヒーは地域によって「ギリシャコーヒー」,「トルココーヒー」などと呼ばれるが,要はどちらも同じ飲み物。

 などの共通点が見い出せるのです。

 この理由は,地理にお詳しい方はピンときた方もおられるでしょうが,地図で確かめるとすぐに理解出来ます。

(ギリシャ周辺の地図)
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(国土地理院の電子地形図(タイル)に国名・地名等を追記して掲載)
※地図をクリックすると拡大します。

 ギリシャとトルコは隣同士で,ハルミチーズやヘリムチーズの原産地とされるキプロスも両国の近くにあります。

 また,歴史的背景から考えても,かつてトルコが東ローマ帝国の支配下にあった時代や,逆にギリシャがオスマン帝国の支配下にあった時代を経験していることなどから,両国間で食文化の深い交流があり,お互い似たような料理が作られるようになったのでしょう


まとめ

 英語の文章で「It's Greek to me」という慣用句があります。

 直訳すると「私にとってはギリシャ語のようだ」となり,それが転じて「(難解なギリシャ語のように)ちんぷんかんぷんだ」という意味で使われます。

 ギリシャは,ギリシャ語をはじめ,理解することが難しいこともあるとは思いますが,だからこそ誰もが舌で明瞭に理解することのできる食の分野からギリシャを理解するというアプローチも実用的なのではないかと思います。

 ギリシャではカジュアルなレストランやパブのことを「タベルナ」と言いますが,食を通じてその国の文化や歴史を理解したいと思う私なら,真っ先に「タベルナ」へ行き,ギリシャ料理を思う存分食べるなぁ(笑)。


<参考文献>
 岡田 哲「世界の味探究事典」東京堂出版
 「大使館の食卓 おうちで簡単レシピ集」産経新聞出版

<店舗情報>
 「SPYRO’S(スピローズ)」(東京都大田区蒲田5-7-6)

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2017年7月29日 (土)

ドイツ・ウィーン菓子の特徴と主な菓子2 -フェアレンゲルター・カイザーシュマーレン・トプフェンクヌーデル-

 ヨーロッパで歴史的にカフェが有名な都市と言えば,パリ,ロンドン,ウィーンです。

 パリのカフェは政治論議の場やフランス革命の発信源として,ロンドンのカフェは海上保険や株式売買など情報交換の場として,そしてウィーンのカフェは文学の拠点として,それぞれ賑わいを見せました。

 現代のウィーンのカフェは,飲み物だけでなく,ケーキや菓子類もたくさん用意されており,ウィーン菓子の伝統と誇りを感じることができます。

 今回は,ウィーンに本店のある東京・青山の「カフェラントマン」でいただいたコーヒーやお菓子を御紹介します。


フェアレンゲルター

 「フェアレンゲルター」は「薄めのコーヒー」といった意味で,アメリカンコーヒーの意味でも使われています。

(フェアレンゲルター)
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 アメリカンコーヒーを「フェアレンゲルター」と表現されていると,全く別の飲み物のように聞こえますね(笑)。


トプフェンクヌーデル

 オーストリアでは,料理でもお菓子でも「クヌーデル(団子)」がよく登場します。

 小麦粉が加えられるので,「メール・シュパイゼ(粉もの料理・菓子)」とも呼ばれます。

 クヌーデルはそのまま料理の付合せにされたり,スープに入れて食べられたり(クヌーデル・ズッペ),デザートとしても食べられており,オーストリアではポピュラーな食べ物です。

 今回御紹介するお菓子「トプフェンクヌーデル」の「トプフェン」はチーズという意味で,要するにチーズ団子のお菓子です。

 クリームチーズに砂糖・バター・玉子・小麦粉などを加えて団子にして茹で,その団子に焼いたパン粉をまぶしたお菓子です。

 時のオーストリア皇帝フェルディナント1世(1835~48)が好んだ菓子でもあります。

(トプフェンクヌーデル)
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 チーズを丸め,焼いたパン粉をつけて,粉砂糖をまぶしたクヌーデルです。

 皿にはベリーソースが添えられています。

(トプフェンクヌーデル(中身))
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 トプフェンクヌーデルの中の様子です。

 やわらかいカッテージチーズ(牛乳に酢やレモン汁を加えて凝固させて作られるチーズ)がフィリングとなっています。

 チーズ特有のクセが少なく,ベリーソースを添えながら美味しくいただきました。

 チーズや小麦粉で作られた団子ということもあって,とても食べ応えのあるデザートでした。


カイザーシュマーレン

 カイザーシュマーレンは,レーズン入りのパンケーキのお菓子です。

 「カイザーシュマーレン」の「シュマーレン」は「無価値なもの,くだらないもの」という意味です。

 この意味からすると,イギリスの「トライフルケーキ」(「トライフル」は「つまらないもの」という意味)と同じニュアンスのケーキだと言えるでしょう。

 意訳すれば「ありあわせの食材で作られたケーキ」という意味となります。

 シュマーレンは,もともとはアルプス地方の料理だったようです。

 このケーキは,時のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ(1848~1916)が好んだ菓子としても有名です。

 ここでピンときた方もおられるでしょうが,「カイザーシュマーレン」の「カイザー(皇帝)」とは,この場合,皇帝フランツ・ヨーゼフを意味します。

 このカイザーシュマーレンには逸話があります。

 カイザーシュマーレンは当初,フランツ・ヨーゼフの皇紀エリザベートに出されたお菓子なのですが,彼女はこれに手をつけようとすらしなかったのです。

 この様子を見兼ねた夫のフランツ・ヨーゼフは,このお菓子を口にし,残すことなく全部召し上がったそうです。

 こうしたいきさつから,宮廷菓子料理人が当初は「カイゼリン(皇紀)シュマーレン」と命名しようとしたお菓子が「カイザーシュマーレン」と命名されることとなり,後にオーストリアを代表するお菓子となりました。

 こちらが,そのカイザーシュマーレンです。

(カイザーシュマーレン)
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 レーズン入りのパンケーキが一口大にちぎられ,表面に粉砂糖がまぶされています。

 写真上側のソースは,スモモとリンゴのフルーツソースです。

 これらのソースをつけていただきました。

 食感や味から例えると,厚めに焼かれたレーズン入りのホットケーキを一口大にちぎったものが近いように思いました。

 シンプルな味のパンケーキなので,フルーツソースにつけていただくと変化が楽しめ,より一層美味しくいただけました。


 今回,私は欲張って,通常はデザート1皿のところを,単品でもう1皿デザートをお願いし,一度に2皿もデザートをいただきました。

 「夢のようだ」と喜んだのもつかの間,いずれもメール・シュパイゼなので,食べ続けるうちに,動くのも面倒になるほどお腹が一杯になりました。

 「食べ応えがあるかどうか」もお菓子の大切な要素の1つとされ,今に伝えられているのでしょう。


<参考文献>
 関田淳子『ハプスブルク家の食卓』新人物往来社

<店舗情報>
 「カフェ ラントマン」(東京都港区北青山3-11-7 AOビル4F)

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2017年7月22日 (土)

オーストリア料理の特徴と主な料理 -カイザーゼンメル,グーラッシュ,キプフェル,ウィンナーシュニッツェル-

オーストリア料理の主な特徴

 オーストリアは,ウィーンを中心にハプスブルク家をはじめとする宮廷文化が栄えた国です。

 そのため,食の世界においても宮廷料理・菓子を中心とした食文化が形成され,「オーストリア料理」として確立しました。

 また,様々な言語・文化を持つ人々で構成される多民族国家であったため,全ての道は帝都ウイーンに通じるという意味から「ウィーン料理」とも称されます。

 オーストリア料理の主な特徴としては,

(1)イタリア,ドイツ,フランス,ハンガリーなどの影響を受けながら,洗練された貴族料理を形成している。
(2)海がなく山に囲まれ,冬の寒さが厳しい気候風土のなかで,食材の持ち味がよく生かされている。
(3)牛肉をはじめとする煮込み料理が多く,野鳥や野菜も多用される。
(4)ウィンナーコーヒー,ウィンナーソーセージ,ウィンナーロール,ウィンナーシュニッツェルなど「ウィンナー(ウィーン風)」と名付けられ,日本でも親しみのある料理が多い。
(5)ザッハ・トルテやアプフェル・シュトゥルーデルなど,「ウィーン菓子」とも称される伝統的な菓子が多い。

 ことが挙げられます。


オーストリア料理の代表的な名称

 オーストリア料理には,次のような名称がよく用いられていますので,覚えておくと便利です。

(料理)
 シュパイゼ…料理,食事
 クラプフェン…揚げパン
 クヌーデル…団子
 グーラッシュ…牛肉,パプリカ,玉ねぎなどの煮込み料理
 シュニッツェル…薄切り肉のカツレツ
 カイザー…皇帝の
 ズッペ…スープ

(菓子)
 クーヘン…ケーキ菓子
 トルテ…円形のケーキ
 シュトゥルーデル…渦巻き
 マンデル…アーモンド
 コッホ…ビスケットやゼンメルパンなどを砕いて加えたお菓子


カイザーゼンメル

 それでは,実際にいくつかオーストリア料理を御紹介したいと思います。

 まずはパンを御紹介します。
 
 カイザーゼンメルは小型の丸いロールパンで,パンの表面に王冠のような独特の模様が描かれているのが特徴です。

(カイザーゼンメルと前菜)
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 写真左上のパンがカイザーゼンメルです。

 カイザーは「皇帝の」,ゼンメルは「(小型の)パン」という意味になります。

 シンプルなロールパンなので,どんな食事にも合うように思いました。

 なお,手前の前菜(フォアシュパイゼ)は,上から時計回りに,ウィーン風ポテトサラダ(じゃがいも,玉ねぎなどの材料で,マヨネーズを使わず酢などで調味されるポテトサラダ),グリーンサラダ,サーモンのマリネ・サワークリーム添え,パテのベリーソース添えです。


グーラッシュ

 ハンガリー発祥の牛肉・玉ねぎ・パプリカなどを煮込んだ料理で,「ハンガリー風牛肉煮込み料理」とも呼ばれるウイーンの代表的な料理です。

 ハンガリーでは「グヤーシュ」と呼ばれています。

(グーラッシュスープ)
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 かつてハプスブルク帝国は,ハンガリーの独立運動を抑制しつつハプスブルク家による支配を存続させるため,両国に政府と議会を置きながらも,オーストリア皇帝がハンガリー王を兼ねるという「オーストリア=ハンガリー二重帝国」を成立させました。

 こうした歴史の中で,オーストリアとハンガリーの食文化の交流も図られ,グーラッシュも広まっていったと考えられます。

 この料理で重要なのは何と言ってもパプリカ,そして牛肉です。

 パプリカは,オスマン帝国のトルコ人によってハンガリーに持ち込まれた食材とされ,「パプリカなくしてハンガリー料理は存在しない」と言われるほど,ハンガリー料理には必要不可欠な食材となっています。

 また,「グヤーシュ」はもともと「牛飼い」・「牛の群れ」という意味で,ハンガリー人の祖先が騎馬民族だった頃の煮込み料理だったことから,牛肉も重要な食材となっています。

 今回御紹介しているグーラッシュスープは,パプリカで牛肉をコトコト煮込むことにより,ビーフシチューのような深い味わいのスープとなっており,パンと一緒に美味しくいただけました。


キプフェル

 キプフェルは三日月形のパンです。

(キプフェル)
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 三日月形のパンは,ハンガリーに攻め込んできたオスマン帝国の旗印(三日月はイスラム教の象徴)をかたどったもので,ハンガリーを発祥とする説が有力です。

 それがウィーンに伝わり,後にオーストリア(ウィーン)が本場のパンとなりました。

 その後さらにフランスに渡り,クロワッサンとして広く親しまれるようになりました。

 そのため,フランスでは,クロワッサンはブリオッシュとともに「ヴィエノワズリ(ウィーン趣味)」のパンと呼ばれています。

 今回のキプフェルは,「塩パン」のようなシンプルでやわらかいパンで,香り付けのキャラウェイシードにより,さわやかな感じの仕上がりとなっていました。


ウィンナーシュニッツェル

 オーストリア(ウィーン)を代表する料理と言えばウィンナーシュニッツェルでしょう。

 ウィンナーシュニッツェルは,ウィーン風薄切り肉のカツレツという意味となります。

 仔牛などの肉を叩いて薄くのばし,パン粉をつけてバターなどの油で揚げ焼きしたカツレツです。

(ウィンナーシュニッツェル)
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 このウィンナーシュニッツェルは,仔牛のカツレツの上に揚げたパセリがのせられ,キャラウェイシードを振ったじゃがいもが添えられています。

 皿に添えられたレモンをかけ,甘いベリーソースをつけながらいただきました。

 カツレツにレモン汁はまだしも,甘いベリーソースをつけるのはいかがなものかと思いながらいただきましたが,ベリーソースをつけることでカツレツの持つ揚げ物のしつこさが消え,甘酸っぱい味がアクセントとなって不思議とよく合い,食が進みました。

 お店の方からも,「オーストリア人は様々な料理にこの甘いベリーソースをつけて食べるのが好き」だと伺いましたが,実際いただいてみて理解できるようになりました。

 なお,このウィーン風カツレツは,イタリア・ミラノの料理「ミラノ風カツレツ」(仔牛肉を薄くのばし,チーズ入りのパン粉をつけて揚げ焼きしたカツレツ)がルーツとされています。

 ヨハン・シュトラウス1世作曲の有名な「ラデツキー行進曲」は,北イタリアの独立運動制圧のためにミラノへ遠征したオーストリア軍のラデツキー将軍の功績をたたえて作られた曲ですが,このラデツキー将軍がミラノから「ミラノ風カツレツ」をウィーンに持ち帰り,カツレツが広まったと言われています。

 さらに,こうしたウィーン風カツレツやミラノ風カツレツをもとに,日本では明治以降「カツレツ」が作られるようになり,昭和のはじめになると「とんかつ」が誕生することとなります。

 「ラデツキー行進曲」とカツレツの関係。ちょっとした話のネタにすれば,「ラデツキー行進曲」の演奏会のように,周りから自然と拍手が沸き起こるかも知れません(笑)。


オーストリアの歴史を物語る数々の料理

 いくつか料理を御紹介してきましたが,こうした料理はオーストリアの歴史そのものを物語っているとも言えます。

 オーストリアは中央ヨーロッパに位置しており,かつては,神聖ローマ帝国の誕生やハプスブルク家の活躍もあって,「陽の沈まない帝国」の中心地としてヨーロッパに強い影響力を持っていた国です。

 その結果として,独自の宮廷文化が栄えることとなりましたが,一方で言語や文化の異なる多民族国家をまとめる必要が生じ,近隣諸国との衝突も数多く経験することとなりました。

 こうした歴史的背景のもとに,現在に継承されるオーストリアの食文化が形成されることとなったわけです。

 今回御紹介した料理も,「カイザー」(皇帝の)と名の付く宮廷ゆかりの「カイザーゼンメル」,オスマン帝国(トルコ)やハンガリーの影響を受けた「キプフェル(三日月パン)」や「グーラッシュ」,ミラノなど北イタリアをオーストリアに奪還した際にラデツキー将軍が持ち帰ったとされる「ウィンナーシュニッツェル」という具合に,それぞれの料理がオーストリアの歴史を物語っているのです。

 このようなお話を踏まえた上で,オーストリア料理の特徴をまとめるなら,「ハプスブルク家を中心とした宮廷文化に育まれ,近隣諸国の異なる食文化をうまく融合させながら発展してきた料理」だと定義できるでしょう。


<参考文献>
 岡田 哲「世界の味探究事典」東京堂出版
 関田淳子「ハプスブルク家の食卓」新人物文庫
 菊池良生「図解雑学 ハプスブルク家」ナツメ社
 21世紀研究会編「食の世界地図」文春新書

<参考サイト>
 「オーストリア政府観光局公式サイト

<店舗情報>
 「カフェ ラントマン」(東京都港区北青山3-11-7 AOビル4F)

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2017年3月28日 (火)

フランス料理の特徴と主な料理8 -パンデピス-

 パンデピスは中国からアラブ世界を経由して,ヨーロッパに伝わったとされるパンの一種です。

 フランスでは,ブルゴーニュ地域,シャンパーニュ地域,そしてフランドル地域のものが有名です。

 フランス語でパンデピスは「Pain d'épices」と表記され,これを直訳すると「香辛料入りのパン」となります。また,ジンジャーブレッドと訳されることもあります。

 中世のフランスをはじめとするヨーロッパでは,香辛料や砂糖,果物などは,東洋の異国情緒漂う憧れの食材でした。

 ヨーロッパの人々にこうした食材が知られるようになったのは,十字軍(聖地エルサレムをイスラーム教徒から奪還するために結成されたキリスト教の騎士による遠征軍)によるアラブ世界との交流によるところが大きかったと言えます。

 十字軍によってもたらされた貴重な香辛料(シナモン,ナツメグ,クローブ,アニスなど)と,砂糖など甘味料が希少だった時代に蜂蜜をたっぷり使って作られたのがパンデピスで,当時としてはとても贅沢なパンでした。

 このパンデピスを味わってみることができないものかと,地元広島のパン屋さんを探してみると,何軒かで販売されていることがわかりました。

 今回,そのうちの1軒でパンデピスを購入してみました。

(パンデピス)
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 広島のハード系のパンで有名な「ドリアン」のパンデピスです。

 小麦とライ麦で作られたパンです。
 卵,牛乳,バター,ベーキングパウダーは使用しておらず,甘味は蜂蜜と黒糖のみ,ブルターニュ地域(ロワール地方)・ナントのパンデピスを再現しているとのことです。

 パウンドケーキ型に焼かれたコンパクトなパンですが,ホールで2,200円,ハーフで1,100円と結構いい値段がします。

 しかしながら,この価格設定はこの店に限った話ではなく,ほかの店でもだいたい同じ価格帯となっています。

 大きさの割に高価になる理由は,香辛料と,たっぷり贅沢に使われている蜂蜜にあるのでしょう。

 実際にいただいてみました。

 材料にライ麦が使われていることもあり,ロシアの黒パン(ライ麦パン)と同様,しっとりと固く詰まったパン生地に仕上げられています。

 そして,蜂蜜と黒糖による甘味を強く感じました。

 私は,普通にパンを食べる感覚で,約1cmの厚みに切っていただいたのですが,甘味が強いので,これでは少し厚みがあり過ぎるようにも感じました。

 香辛料は明記されていませんでしたが,シナモンなどのスパイスが,強く主張し過ぎない程度に入れられているように思いました。

 食事と一緒に食べるパンではなく,菓子パンかケーキに近いパンと言えるでしょう。


<参考文献>
池上俊一『お菓子でたどるフランス史』岩波ジュニア新書
日仏料理協会『仏和・和仏料理フランス語辞典』白水社

2017年2月 4日 (土)

イタリア料理の特徴と主な料理4 -ポレンタ・ザレッティ・ボネ,スローフードと食科学-

ポレンタ

 ポレンタ(Polenta)は,北イタリアの小麦の栽培に適していない地域で主食とされてきた,とうもろこしの粉で煮たお粥のことです。

(ポレンタ)
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 写真のポレンタは,季節野菜と貝柱のポレンタです。
 どろっとしたボディのある食感を楽しむことができました。


ザレッティ

 ザレッティ(Zaleti)は,ヴィネト州ヴェネチアに伝わる伝統的なビスケットで,小麦粉ではなく,前述のポレンタが使われているのが特徴です。

 つまり,とうもろこし粉の生地を使って作られたビスケットなのです。

(ザレッティ)
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 干しブドウ入りのビスコッティとも表現されます。

 とうもろこし粉が使われているので,黄色味を帯びています。

 実際にいただいてみると,一般的なビスコッティのようにカリカリではなく,むしろホロッと崩れる感じです。

 粗挽きのとうもろこし粉の特徴がよく出ており,ボソボソとした,でも噛みしめるほどに深い味わいのあるビスケットに仕上がっていました。


ボネ

 ボネ(bonet)は,ピエモンテ州に伝わる郷土菓子で,チョコレート風味のプリンです。

(ボネ)
Photo_3

 チョコレートプディングの材料に,アマレッティ(※)と呼ばれる焼菓子を砕いて入れ,オーブンで湯せんにしながら焼いたお菓子です。

 ※アマレッティ…メレンゲにアーモンドパウダーと砂糖を加えたビスケット

 
今回のボネは砕いたナッツも混ぜ込まれており,リキュールもきいていました。

 ねっとりとやわらかいチョコレート風味のプディングに砕いたナッツがアクセントとなり,その食感も楽しむことができました。

 クラッシュナッツ入りのチョコレートババロアのような感じがしました。


スローフード運動から食を科学する時代へ

 ピエモンテ州は,世界の食文化の研究者が注目している地域です。

 特にピエモンテ州にあるブラ市は,スローフード運動発祥の地として有名な都市です。

 また,同市には「食科学(Gastronomic Sciences)」を専門とする世界で初めての大学「食科学大学(University of Gastronomic Sciences)」があります。

 日本においても,立命館大学が,フードマネジメント,フードカルチャー,フードテクノロジーという領域から総合的に食科学を学ぶことが出来る「食科学部」を2018年に設置することが構想されています。

 スローフード運動を1つのきっかけに,食を科学的にとらえ,総合的にマネジメントできる人材が求められる時代になっていると言えるのではないでしょうか。


<関連リンク>
食科学大学(英語)
 http://www.unisg.it/en/

立命館大学食科学部(2018年設置構想中)
 http://www.ritsumei.ac.jp/gas/pre/

2016年12月24日 (土)

ドイツ・ウィーン菓子の特徴と主な菓子1 -シュトロイゼルクーヘン・レープクーヘン・バウムクーヘン-

神聖ローマ帝国とハプスブルク家

 かつてドイツやオーストリアを中心とするヨーロッパの広範囲を,約千年もの間統一していた神聖ローマ帝国。

 その神聖ローマ帝国の皇帝位をほぼ独占していたのがハプスブルク家です。

 今回御紹介するマクシミリアン1世はハプスブルク家出身の神聖ローマ帝国皇帝(1508年~1519年)として活躍した人物です。


マクシミリアン1世とインスブルック

(マクシミリアン1世)
Photo
(菊池良生『図解雑学 ハプスブルク家』)から引用)

 ヨーロッパ支配を目論んだマクシミリアン1世は,治世のほとんどを戦場で過ごしたため,「中世最後の騎士」と呼ばれています。

 そんな彼がミラノを手中に収めようとし,そのための拠点としたのが,現在のオーストリア共和国チロル州の州都インスブルックという街です。

 マクシミリアン1世は,近代郵便制度を確立したことでも知られますが,それはこのヨーロッパの要衝インスブルックでの情報インフラを構築することが目的でした。

 まさに,マクシミリアン1世によって発展したインスブルックですが,その象徴とも言える建物が「黄金の小屋根」です。

(「黄金の小屋根」)
Photo_2
(菊池良生『図解雑学 ハプスブルク家』)から引用。一部加工)

 写真右側が「黄金の小屋根」です。

 様々なイベントを見学するための王室用桟敷席として建設されたもので,出窓の上に2,657枚の金メッキの銅板で屋根が作られています。

 この「黄金の小屋根」は現在,インスブルック第一の観光スポットとなっています。


シュトロイゼルクーヘン

 広島市内のパン・洋菓子店で,「インスブルック」という名のチョコパウンドケーキが売られていました。

(「インスブルック」)
Photo_3

 その名前に興味を持ち,お店の方にお話を伺ってみると,

 「オーストリア(ウィーン)菓子では,小麦粉,バター,砂糖などをそぼろ状に混ぜ合わせた生地「シュトロイゼル」が使われることが多いのが特徴なのですが,そのシュトロイゼルを使っていることから,この名前にしました。」

 とのお話でした。

 このそぼろ状のシュトロイゼルがのせられたケーキは「シュトロイゼルクーヘン」と呼ばれるのですが,今回購入した「インスブルック」も,チョコレート生地のシュトロイゼルクーヘンと言うことができるでしょう。


シュトロイゼルとクランブル,メロンパンとの関係


 ちなみに,イギリスやアメリカには,リンゴやベリーと組み合わせた「クランブル」というお菓子がありますが,このサクサクした食感が特徴のクランブルもシュトロイゼルと同じ意味で,そぼろ状のお菓子です。

(クランブル入りアップルパイ)
Photo

 また,日本で人気のメロンパンは,パン生地にビスケット生地を薄く覆って焼き上げたものですが,この発想は,シュトロイゼルクーヘンに由来しているという説もあります。

 第一次世界大戦で日本に捕虜として連れてこられたドイツ人が,戦後,日本各地にドイツパンやドイツ菓子を広めたのですが,その1つがシュトロイゼルクーヘンで,それが後のメロンパンにつながっていったとする説です。


カール・ユーハイムとバウムクーヘン

 余談ですが,バウムクーヘンで有名な「ユーハイム」の創業者,カール・ユーハイムも,日本軍の捕虜として現在の広島市南区似島の捕虜収容所に連行されたドイツ人で,彼の焼き上げたバウムクーヘンを広島県物産陳列館(現在の原爆ドーム)でお披露目したことにより,日本にバウムクーヘンが知られるようになりました。

(広島港から似島を望む)
Photo_2

 写真の左側中心部に写っている島が似島です。船は松山や江田島から広島港に入港しているフェリーです。

 この島こそ,日本で初めてバウムクーヘンが焼かれた島なのです。

 こうした歴史を知ると,広島市に住む私としては,メロンパンのシュトロイゼルクーヘン起源説に一票投じたい気持ちになります。


黄色いシュトロイゼルと「インスブルック」


 では,なぜ今回のチョコケーキに「インスブルック」と名付けられたのでしょうか。

 その理由は,シュトロイゼルが使われていることはもちろんですが,そのシュトロイゼルがインスブルックにある「黄金の小屋根」に見えるからではないかと思います。

(「インスブルック」の中の様子)
Photo_4

 チョコケーキの上にシュトロイゼルをのせたお菓子ですが,チョコレートの茶色い生地にシュトロイゼルの黄(金)色が映えています。

 「インスブルック」という名のチョコケーキ。

 改めてまとめてみると,奥深い意味がありました。


マクシミリアン1世が好んだ菓子「レープクーヘン」

 冒頭で登場したマクシミリアン1世が好んだ菓子は,「レープクーヘン」と呼ばれる香辛料(シナモン,クローブ,ナツメグ,コショウなど)や蜂蜜入りのシンプルなクッキーだったようです。

(レープクーヘン)
Photo_3
(関田淳子『ハプスブルク家の食卓』)から引用)

 現代でも,マクシミリアン1世と縁のあるドイツ・ニュルンベルクの名菓として,またクリスマス菓子として,ドイツ・オーストリアを中心に人気のある菓子です。

(レープクーヘン(天使))
Photo_6

 こちらは神戸のパン屋「ドンク」でクリスマスシーズンに売られているレープクーヘンです。

 天使の形をしており,アーモンド,カシューナッツ,ピスタチオ,乾燥クランベリーがのせられています。
 やわらかくて厚みのあるクッキーのような食感で,シナモンやジンジャーなどの香りもきかせてあります。

 ヨーロッパでクリスマスの時期を中心に食べられる「ジンジャーマン(ジンジャーブレッド)」ともよく似ています。

 ドンクでは,この天使のほか,クリスマスツリーや星の形をしたレープクーヘンも売られており,お店の方のお話では,毎年恒例のお菓子となっているようです。


「チロル」と聞いて思い出すお菓子は・・・

 以上,マクシミリアン1世にまつわるお話を中心に,様々な地名や菓子名が登場しましたが,私が最も親しみを感じるのは「チロル」という地名です。

 そうです。「チロルチョコ」を思い浮かべるのです。

(チロルチョコ)
Photo_5

 ただ,このチロルチョコも,チロルチョコ株式会社のウェブページによると,実はオーストリアのチロル地方のような,素朴な人々や大自然のさわやかなお菓子でありたいとの願いを込めたネーミングのようです。

 チロルチョコ株式会社「チロルのひみつ Vol.5 チロル地方とチロルチョコのお話


 こうした身近なお菓子からも,オーストリアやドイツの歴史や文化,自然を感じることができれば楽しいですね。

<参考文献>
 菊池良生『図解雑学 ハプスブルク家』ナツメ社
 関田淳子『ハプスブルク家の食卓』新人物往来社
 東嶋和子『メロンパンの真実』講談社
 広島市『南区七大伝説 菓子伝説(バウムクーヘン上陸秘話)』南区魅力発見委員会

2016年7月 5日 (火)

タイ料理の特徴と主な料理3 -カオソーイ-

カオソーイについて

 カオソーイは,タイ北部チェンマイの代表的な麺料理です。

 わかりやすく表現すれば,ココナッツカレーラーメンです。

 「カオ」は米,「ソーイ」は細かく切る,伸ばすという意味があるので,カオソーイは米で作られた麺料理を表現していることになります。

 ただ,今回御紹介する麺もそうですが,現在のカオソーイには卵麺を使われることが多いようです。

 カオソーイは,もとは中国・雲南省の回族(イスラム教徒)がタイに移住した際に伝えられた麺料理ですが,タイで受け入れられる過程で,米麺から卵麺に変化していったものと考えられています。

 また,スープはココナッツカレースープが使われますが,このココナッツミルクやカレーについても,中国の南方に位置するタイの食文化,よりグローバルな視点でみれば東南アジアやインドの食文化が融合して生まれた料理だと言えるでしょう。

(カオソーイ)
Photo


2種類の麺を同時に楽しむ

 ココナッツカレースープに,揚げ麺と「バミー」と呼ばれる卵麺の2種類の麺が入っています。

 パクチー(香菜,コリアンダー),ホムデン(赤わけぎ),揚げ玉ねぎなどと一緒に,揚げ麺がのせられているのがわかります。

 一方,茹でた卵麺はラーメンのようにスープの中にあります。

 その卵麺を上に出してみました。

(卵麺が入れられている様子)
Photo_2

 写真左上が卵麺,中央が揚げ麺です。

 次に,それぞれの麺を取り皿に盛ってみました。

(卵麺と揚げ麺)
Photo_3

 このように,カオソーイは食感の異なる2種類の麺を同時に楽しめることが特徴となっています。


ココナッツカレースープとタイで定番の調味料

 一方,ココナッツカレースープは,赤唐辛子のレッドカレー,ココナッツミルク,鶏がらスープ,ナムプラー,レモングラスなどで作られたスープとなっています。

 辛くてスパイシーなレッドカレーとココナッツミルクが合わさることによって,マイルドなカレースープに仕上げられています。

 ナムプラー,レモングラス,パクチーというタイ料理に欠かせない調味料やハーブの香りがします。

 マナオ(ライム)が添えられており,絞ってスープに加えることにより,酸味が増して,よりさっぱりとした味わいになります。

 このスープの味で十分なのですが,このスープにタイで定番の4種類の調味料,ナムプラー,酢,粗挽き唐辛子,砂糖(グラニュー糖)を加えて,自分好みの味にすることもできます。

(タイの4種類の調味料)
Photo_4

 一番奥が砂糖,そこから時計回りに,酢,ナムプラー,粗挽き唐辛子が揃えられています。

 右側の受け皿の上にあるのが,マナオ(ライム)です。

 調味料に砂糖まで必要かと思われるかも知れませんが,半信半疑で砂糖を加えてみると,この砂糖こそが,スープをマイルドにし,コクを出し,料理全体のまとめ役として大きな役割を果たすことがわかります。


「複雑」こそタイ料理の特徴

 いろんな味の調味料が揃えられていますが,これらの調味料を自分でアレンジし,5つの味覚(辛味,酸味,甘味,塩味,旨味)が複雑に絡み合った味こそ,まさにタイ料理の特徴と言えるのです。(「タイ料理の特徴と主な料理1」参照。)

 今回のカオソーイは,5つの味覚が絡み合ったスープに,さらにライムや4種の調味料を足して好みのスープに仕上げ,2種類の麺を一度に食べる料理です。

 統一せず,ごちゃごちゃした味になってしまうようにも思いますが,タイ料理の場合は,それはそれで,うまくまとまる味になるので不思議です。

 それは,「それぞれの食材や調味料の個性が強いため,日本料理のように微妙な匙加減一つで料理全体の味が大きく変化するようなことがない」という理由もあるのではないかと思います。

 中国の麺,インドのカレー,東南アジアのココナッツミルクやハーブなどが融合し,一度に様々な味覚や食感を楽しむことができる欲張りな麺料理,それがカオソーイです。

2016年6月 9日 (木)

ブラジル料理の特徴と主な料理4 -群馬県大泉町・ブラジルのパン-

 町の人口の10%,約4,000人の日系ブラジル人が暮らす「日本のブラジル」群馬県大泉町を訪問しました。

 東武鉄道小泉線の終点「西小泉駅」です。

(東武鉄道「西小泉駅」)
Photo


 そして,西小泉駅構内の一角にある観光案内所です。

(大泉町観光案内所)
Photo_2

 「ようこそ!日本のブラジル「おおいずみ」へ!!」というコピーに,期待が高まります。

 駅周辺にも,日系ブラジル人の方が多くいらっしゃいました。


ブラジルショッピング街

 西小泉駅から徒歩15分程度の所に,ブラジルの食料品店やパン屋さんなどが集まったショッピング街があります。

(「スーパー メルカド タカラ」)
Photo_3


(「キオスケ シ ブラジル 大泉店」)
Photo_4


 「スーパー メルカド タカラ」,「キオスケ シ ブラジル」は,向かい合わせにある,いずれも輸入食料品,精肉,パンを中心とした大型スーパーマーケットです。

 輸入食料品は,日系ブラジル人向けの食材が多いですが,他国の輸入食品も多く販売されています。

 軽食コーナーや携帯電話店,賃貸マンション・アパートを紹介する不動産店などもあります。

 パンや精肉が中心で,対面販売となっており,需要の高さを物語っています。


 「TOMI(トミ)」では,様々なブラジルのパンが対面販売で売られています。
 また,お菓子などブラジルの輸入食料品も販売されています。

(「TOMI」)
Photo_5


 このショッピング街で購入したブラジルのパンをいくつか御紹介します。


エスフィーハ

 パンの中に炒めた挽き肉や玉ねぎの具がたっぷりと入れられた,ブラジルの代表的な軽食です。

 中東からの移民によってもたらされた食べ物です。

(エスフィーハ)
Photo_6

 数々のパンの中でも比較的高価なパンですが,その分,中にたっぷりとスパイスを効かせた挽き肉,玉ねぎ,キャベツなどが入っており,1個で食べ応え十分です。

 包んでいるパンは薄手で弾力のあるプレッツエルのような香ばしいパンとなっています。


ポン・デ・ケージョ

 「ブラジル料理の特徴と主な料理1 -ポンデケージョ・フェイジョアーダ・シュラスコ・アサイードリンク・ガラナ・シェレッタ-」でも御紹介したポン・デ・ケージョです。

(ポン・デ・ケージョ)
Photo_7

 このパンが店の看板メニューと伺ったので購入しましたが,確かに中のチーズの割合が多く,生地も,まるでガムを噛んでいるかのごとく,もっちりと弾力があります。

 このショッピング街に来れば,焼き立てのブラジルパンを食べられることも大きなメリットだと思います。


フォリアード・デ・ケージョ

(フォリアード・デ・ケージョ)
Photo_8

 チーズ入りクロワッサンです。

 ただ,クロワッサンと言っても,馴染み深い三日月型ではなく,二股の,土偶の足のような形のクロワッサンです。

(フォリアード・デ・ケージョの中の様子)
Photo_9

 中にはチーズのかたまりが入っています。

 チーズの塩味が,バターの風味豊かなクロワッサンとうまくマッチします。

 焼き立てか,そうでなければ少し温めてから食べるとより一層美味しいでしょう。


挽き肉入りキャッサバパン

 キャッサバ生地のパンの中に具を入れ,油で揚げたパンです。

 中の具は,挽き肉,玉ねぎ,トマト,ピクルスなどです。

(挽き肉入りキャッサバパン)
Photo_10

 キャッサバの澱粉により,しっとり,さっくりしたパンに仕上がっています。

 また,パンが余分な油を吸い込んおらず,意外と軽い仕上がりになっているので,軽食やおやつに向いていると言えるでしょう。


チョコレートパン

 チョコレートのスポンジ生地の間にキャラメルクリームをはさみ,さらに全体をチョコレートでコーティングしたパンです。

(チョコレートパン)
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 チョコレートのコーティングが厚く,はさんでいるキャラメルクリームもたっぷりなので,パンと言うよりケーキかチョコパイと言った方が合うように思います。


ブラジルの食生活の基本となるパンと肉

 以上,ブラジルショッピング街で売られているパンの一部を御紹介しましたが,どのブラジルの食料品店でも,売り場面積が広く,対面販売されていたのが,パンと精肉でした。

 また,対面販売コーナーで客と店員が交わされる会話は,そのほとんどがポルトガル語だったことも印象的でした。

 ブラジル人にとって,パンと肉は必需品であり,食生活の基本となる食べ物だということがよく理解できました。

2016年6月 5日 (日)

フランス料理の特徴と主な料理7 -ガトーバスク-

 広島市内の焼菓子店でガトーバスクが売られていました。

 そのネーミングに興味を持ち,店内の喫茶室でいただきました。


スペインとフランスにまたがるバスク地方

 「ガトー(gâteau)」はフランス語で「お菓子」の意味なので,「バスク地方の菓子」と訳すことができます。

 バスク地方と言えば,ピカソの絵画「ゲルニカ」や「バスク料理(※)」で有名なスペインの地方というイメージが強いので,私はお店の方に「スペインの焼き菓子ですか」と尋ねたところ,「フランス・バスク地方の焼き菓子となります」と教えていただき,少し意外に感じました。

※バスク地方の海と山の幸をふんだんに利用して作られる郷土料理。スペインとフランスの食文化が融合されていることが特徴で,世界の美食家を魅了し続けている。ピンチョスなどが有名。

(フランス・バスク地方の位置)
Photo
(大森由紀子『フランス菓子図鑑 お菓子の名前と由来』から引用・一部加工)

 
バスク地方はピレネー山脈の北側に位置し,フランスとスペインにまたがっていますが,今回のガトーバスクはフランス領バスク地方でのみ作られているお菓子のようです。


ガトーバスク

 当初のガトーバスクは,小麦粉の代わりにとうもろこし粉,砂糖の代わりに蜂蜜,バターの代わりにラードが用いられ,これにいちじくやプラムなどのドライフルーツを混ぜて作られていたようです。

 また,「バスク十字(ラウブル)」と呼ばれるバスク地方の独特な十字が描かれることも多いようです。

(バスク十字の描かれたガトーバスクの例)
Photo_2
(大森由紀子『フランス菓子図鑑 お菓子の名前と由来』から引用・一部加工)

 今回いただいたガトーバスクは,液状の生地(アパレイユ)に,卵と「フランジパーヌ」と呼ばれるアーモンドクリームとカスタードクリームを合わせたクリームが使われており,このアパレイユに小麦粉,砂糖,バターなどを加えて,オーブンで焼き上げることで作られています。

(ガトーバスク)
Photo_3

 表面はやはりバスク十字のデザインです。(カットされているので分かりづらいですが。)

 ドライフルーツやジャムなどは入っておらず,シンプルな焼き菓子に仕上がっています。

 実際にいただいてみると,上下の層がアーモンドクリーム中心の生地でさっくりと,はさまれた中間の層がカスタードクリーム中心の生地でしっとりと仕上がっており,アーモンドの香ばしさとカスタードの甘い風味を同時に楽しむことができました。

 味や食感は,「ガレット・デ・ロワ」(「コンビニのガレット・デ・ロワ -公現祭のお菓子-」参照)や,菓子パンのアーモンドケーキに似ているように思いました。

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