各国料理の特徴と主な料理

2018年9月29日 (土)

ギリシャ料理の特徴と主な料理2 -ティロピタ・グリークサラダ・ギリシャヨーグルト・フルーツ・ガラトピタ-

東京で世界の朝ごはんを味わう

 東京に世界各国の朝ごはんが味わえるお店があります。

 「World Breakfast Allday」(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)というお店です。

 「朝ごはんを味わうことで世界各地の伝統的な食文化に触れる」ことを目的として,世界各国の様々な料理が用意されています。

 各国大使館,政府観光局,航空会社,各国出身の方などの協力を得て料理を作られており,お店を訪問すれば,そんな世界各国を代表する料理をワンプレートで味わうことができます。

 メニューは「イギリスの朝ごはん」,「台湾の朝ごはん」,「スイスの朝ごはん」などのレギュラーメニューと,2か月ごとに国を変えて提供されるスペシャルメニュー(朝ごはんプレートと単品料理),そして世界各国のドリンクで構成されています。

 私は,東京に泊まった翌朝,「World Breakfast Allday 原宿店」へ行き,訪問時(2018年9月)に用意されていたスペシャルメニュー「ギリシャの朝ごはん」をいただきました。


ティロピタ・グリークサラダ・ギリシャヨーグルト・フルーツ

 注文してしばらくすると,作り立てのギリシャの朝ごはんプレートが運ばれてきました。

(ギリシャの朝ごはんプレート)
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 手前に2つある大きなパイが「ティロピタ」,皿の左上が「グリークサラダ」,その右側が「ギリシャヨーグルト」,そして「フルーツ(マスカットとイチジク)」です。


(ティロピタ)
 パイ生地(ピタ)の中に山羊乳や羊乳を使ったギリシャの代表的なチーズ「フェタチーズ」のクリームがたっぷりと入った料理です。
 パイ生地は「フィロ」と呼ばれる薄い生地で,熱々パリパリなので,ナイフとフォークで切り分けようとすると皿の外に飛んで大変でした(笑)。
 中のフェタチーズは,軽めで,においやクセが少ないので,チーズが苦手な人にも割合食べやすいチーズだと思います。
 フェタチーズの塩味とパイ生地の甘味・バター風味がよく合いました。
 ギリシャには,この「ティロピタ」に似た料理で,「スパナコピタ」と呼ばれるホウレンソウのパイ包み料理も有名です。


(グリークサラダ)
 スライスしたトマト,キュウリ,玉ねぎ,オリーブなどの野菜に,オリーブ油や白ワインビネガーをベースにしたドレッシングをかけ,仕上げにオレガノがふりかけられたギリシャのサラダです。
 このサラダに賽の目に切ったフェタチーズをかけ,たっぷりと皿に盛った料理は「ホリアティキ」(田舎風・自家製サラダ)と呼ばれます。
 夏には角切りのスイカを入れた,日本人から見ると一風変わったサラダも好まれています。


(ギリシャヨーグルト)
 ギリシャヨーグルトの特徴は,ヨーグルトの水切りを行う(水分や乳清を除去する)ことです。
 そのため,他のヨーグルトに比べて,ギリシャヨーグルトは濃厚でクリーミーな味わいとなります。
 今回のギリシャヨーグルトには,ギリシャ産の蜂蜜や粉末のシナモンがかけられており,そのままでは酸味の強いギリシャヨーグルトを食べやすくする工夫がされていました。


(フルーツ)
 ギリシャではブドウ,イチジク,ザクロ,スイカ,メロンといったフルーツがよく食べられています。
 こうしたフルーツの中で,今回はマスカットとイチジクが用意されました。
 ヨーグルトと果物の組み合わせは,朝食にぴったりです。


ガラトピタ

 せっかくの機会なので,朝ごはんプレートとは別にアラカルトで,デザートの「ガラトピタ」を注文しました。

(ガラトピタ)
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 「ガラトピタ」はセモリナ粉を使ったカスタードクリームのパイです。

 御用意いただいた「ガラトピタ」は,表面がパリッと香ばしいパイ生地で,中にはバニラビーンズ入りのカスタードクリームがたっぷり詰められており,ホイップクリームとミントも添えられていました。

 少しかためのプリンかカタラーナをパイ生地で包んだような食感・風味でした。


 今回御紹介した「ティロピタ」(「ティロ」はチーズという意味),「スパナコピタ」(「スパナコ」はホウレンソウという意味)そして「ガラトピタ」(「ガラ」は牛乳という意味)など,ギリシャでは「ピタ」(パイ)を使った料理やお菓子が多いのも特徴の1つです。


 世界の朝食を味わいながら世界各地の伝統的な食文化の理解を目指す取組みはとても興味深く,注目に値すると思います。


<関連リンク>
 「World Breakfast Allday」(東京都渋谷区神宮前6-15-14-1F(原宿店)ほか)

<関連記事>
 「ギリシャ料理の特徴と主な料理1 -サガナキ・ホリアティキ・スブラキ・ムサカ・マスティクア-

<参考文献>
 「大使館の食卓 おうちで簡単レシピ集」産経新聞出版

2018年9月16日 (日)

ハンガリー料理の特徴と主な料理2 -冷たい桃のスープ・グヤーシュスープ・マンガリッツァ豚のソテー・ショムロ地方のスポンジケーキ-

冷たい桃のスープ

 ハンガリー料理の特徴の1つとして特筆すべきは,食事として冷たく甘い果物のスープが飲まれることです。

 果物を絞った汁にサワークリーム(または生クリーム),牛乳,香辛料などを加えて煮立たせた後,冷やしたスープです。

 ハンガリー出身の店員さんのお話では,桃のほかにも,サクランボやイチゴ(ベリー)など様々な果物が使われ,特に夏によく飲まれているそうです。

 店員さんが満面の笑顔で「デザート!デザート!」と言いながら出していただいたスープがこちらです。

(冷たい桃のスープ)
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 確かに見た目もデザートのようなスープです。

 でも,メインの前の食事用スープとして出されている訳ですし,ジャガイモの冷製スープ「ヴィシソワーズ」のような感じだろうと思いながらいただいてみました。

 「普通に甘い…。これはデザート…。」

 私の正直な感想です。

 桃の果汁がほとんどで,クリームが入った桃のジュースを飲んでいるかのようでした。

 中には賽の目に切った桃も入っていました。

 次にグヤーシュスープを御紹介しますが,通常のコースではこの「冷たい桃のスープ」か「グヤーシュスープ」いずれか1品を選ぶようになっていて,いずれも同等の「料理」の扱いです。


グヤーシュスープ

 伝統的なグヤーシュスープです。

 「冷たい桃のスープ」とは対照的に,寒い時期向けの温かいスープです。

 グヤーシュがハンガリーの国民的料理となったのは1800年代後半のことです。

 ハプスブルク家に支配された「オーストリア・ハンガリー二重帝国」の時代にあって,グヤーシュはハンガリーのアイデンティティを示す料理として確立したのです。

 屋外で大鍋で作られるグヤーシュを軽めにしたのがグヤーシュスープです。

 牛肉,玉ねぎ,トマト,パプリカ,香辛料などを煮込んで作られます。

 店員さんから,「グヤーシュは『牛飼い』という意味です。」と教えていただきました。

(グヤーシュスープ)
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 スープの表面に点々と浮かんでいる緑色はバジル入りのオイルです。

 そしてスープカップの左隣に置かれている緑色の野菜は,スープの辛さを調節するためのパプリカ(青唐辛子)です。

 いただいてみると,ビーフシチューのような深い味わいのスープで,中には角切りの牛肉・人参・ジャガイモがゴロゴロ入っていました。

 主な食材がパプリカかビーツかで異なりますが,ボルシチにも似ているように思いました。

 あまり辛味はないので,途中で試しに青唐辛子をスープに入れ,少しかじってみました。

 すると,この青唐辛子が激辛で,一気に辛いスープへと変化しました。

 ヨーロッパの料理の中でも辛い料理が多いとされるハンガリー料理ですが,グヤーシュはその意味でも代表的な料理と言えるでしょう。


マンガリッツァ豚のソテー ポテトと紫キャベツ添え

 ハンガリーの代表的な料理ということで,ハンガリーの食べる国宝「マンガリッツァ豚」のソテーを御用意いただきました。

(マンガリッツァ豚のソテー ポテトと紫キャベツ添え)
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 マンガリッツァ豚をソテーし,デミグラスソースに似た肉と香味野菜のうまみたっぷりのソースをかけた料理で,マッシュポテトや紫キャベツ,スライスしたリンゴ,ミニトマトなどが添えられています。

 マンガリッツァ豚は肉質がとてもやわらかく,脂肪も溶けやすいので,肉の食感と脂肪のうま味の両方をバランスよく味わうことができました。

 また,添え野菜やソースに着目すると,オリジナルソースはもとより,紫キャベツ,スライスリンゴ,ベリーソースなど甘い食べ物が多いことに気付きます。

 フォアグラとトカイワインの組み合わせもそうですが,肉と甘い食べ物を組み合わせた料理が多いのもハンガリー料理の特徴の1つと言えるでしょう。
(オーストリア料理のカツレツ(ウィンナーシュニッツェル)と甘いベリーソースの組み合わせも同じ流れにあると言えます。)

 お店の方から,マンガリッツァ豚のパンフレットを見せていただきました。

(マンガリッツァ豚(ピック))
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 モコモコした毛に覆われた,羊のような豚です。

 ハンガリーで誕生した特殊な豚で,その希少性からハンガリーの国宝にも認定されていますが,飼育と消費がうまく循環させることで頭数も安定するため,食べ続けることも必要なことのようです。

 このパンフレットはハンガリーサラミでも有名なピック社のものですが,このピック社のあるハンガリー南東部の都市セゲドはサラミとパプリカの主要産地となっています。

 そのため,ピック社の工場内に「ピックサラミ・セゲドパプリカ博物館」が設けられており,サラミとパプリカの歴史や製造法を学ぶことができます。


ショムロ地方のスポンジケーキ

 デザートは「ショムロ地方のスポンジケーキ」という珍しいケーキを用意していただきました。

(ショムロ地方のスポンジケーキ)
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 ケーキの底から順に,ナッツのスポンジケーキ,洋酒・ベリーのケーキ,その上に白いバニラクリームケーキがのせられ,仕上げにチョコレートソースがたっぷりとかけられています。

 生クリームと甘い果実のソースも添えられています。

 このケーキの特徴はたっぷりかかったチョコレートソースと白いバニラクリームケーキです。

 チョコレートソースはココアパウダーから作られています。

 白いバニラクリームケーキは,食感が牛乳かんか名古屋のういろうのように感じ,一般的なケーキ生地とは少し異なったものでした。

 3層のケーキに3種のソース。様々な味を楽しみながら,コーヒーと共に美味しくいただき,食事を締めくくりました。


モーツァルトクーゲル

 お土産として,店頭のミニショップで販売されていたオーストリアのチョコレート菓子「モーツァルトクーゲル」を買いました。

(モーツァルトクーゲル)
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 ヘーゼルナッツクリームとマジパンクリームをチョコレートでコーティングしたお菓子です。
 ※マジパン…砂糖とアーモンドを練り合わせた製菓材料。

 中のマジパンがしっとりとやわらかく,かたいチョコレートと対照的な組み合わせで,日本ではあまり見かけないチョコレート菓子です。

 ハンガリーとオーストリアと言えば,かつてのオーストリア皇紀で,ハンガリーびいきだった「エリザベート(シシー)」を思い浮かべますが,そのシシーのグッズも販売されていました。


 今回いただいた料理は,基本のコース料理とアラカルトの中から代表的なハンガリー料理をアレンジしていただいたものです。

 こころよく応対してくださったお店の方に感謝の意を申し上げ,お店を後にしました。

 その際,店主さんから,「また東京にお越しの際はお寄りください。今度は気負わずに。」と声をかけていただきました。

 ハンガリー政府から依頼を受けてオープンし,ハンガリー大使館のお墨付きで,ディナーはドレスコードもある東京のレストランとなると,それなりに意識して訪問したことは確かなのですが,お店はとても和やかな雰囲気で,興味深いハンガリーのお話もたくさん伺え,とても居心地の良いひとときを過ごすことができました。

 今度は気負わずに訪問できそうです(笑)。



<参考文献>
 キース・ベローズほか「世界の食を愉しむ BEST500」日経ナショナル ジオグラフィック社
 関田淳子「ハプスブルク家の食卓」新人物文庫

<店舗情報>
 「AZ Finom(アズフィノム)」(東京都渋谷区神宮前2-19-5 AZUMAビル地下1階)

<関連リンク>
 「ピック(ピックサラミハンガリー)」(ハンガリーサラミ・マンガリッツァ豚)

<関連記事>
 「ハンガリー料理の特徴と主な料理1 -トカイワイン・豚肉のパテ・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ・スズキのソテー-
 「オーストリア料理の特徴と主な料理 -カイザーゼンメル,グーラッシュ,キプフェル,ウィンナーシュニッツェル-

2018年9月 8日 (土)

ハンガリー料理の特徴と主な料理1 -トカイワイン・豚肉のパテ・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ・スズキのソテー-

ハンガリーの概要と食文化

 ハンガリーは中央ヨーロッパに位置する国で,首都はブダペストです。

 「ブダペスト」のことを日本では「ブタペスト」と呼ぶ人もいますが,かつてドナウ川をはさんで両岸にあった王宮のある都市「ブダ」と商業で栄えた都市「ペスト」が一緒になった経緯を踏まえると,「ブタ」ではなく「ブダ」の方が正しい呼び方となります。

(ドナウ川から見るブダ王宮の夜景)
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菊池良生「図解雑学 ハプスブルク家」ナツメ社 p177から引用

 地理的にトルコに近いこともあり,ブダ王宮がオスマン・トルコ軍に占領され,支配された時代もありました。

 このトルコ支配からハンガリーを解放したのが隣のオーストリア・ウィーンを拠点にしていたハプスブルク家ですが,今度はハプスブルク家の支配下に置かれることとなりました。

 その後,独立機運が高まった中での「オーストリア・ハンガリー二重帝国」体制や,第一次世界大戦後のハプスブルク帝国崩壊など,幾たびかの政変を経て,現在のハンガリー国家が形成されました。

 ハンガリー人は自らをマジャール人と呼び,言語もマジャール語と呼んでいます。

 この「マジャール」はもともとアジア系遊牧民を指し,人名表記も日本と同じ姓・名の順となっているなどアジアとの関わりも強いことから,ハンガリーは「ヨーロッパの中のアジア」とも呼ばれています。

 こうした歴史的・地理的・民族的背景から,ハンガリーはヨーロッパとアジア,キリスト教圏とイスラム教圏,農耕民と遊牧民など様々な文化を受け入れてきた国だと言えます。

 そのため,食文化においても,トルコ料理,オーストリア料理をはじめとして,多種多様な料理・食材・調理法が存在しています。


 それでは代表的なハンガリー料理を御紹介しながら,ハンガリー料理の特徴についてお話ししたいと思います。


トカイワイン

 東京のハンガリー料理店でハンガリー料理をいただきました。

 予約時に「いろんなハンガリー料理を味わってみたい」と御相談したところ,わがままな要望にもかかわらず快く応じてくださり,私向けのコースを組み立てていただきました。

 ドレスコードがスマートカジュアルとあったので,少しおしゃれして伺いました。

 カウンターでハンガリーのお話を伺いながら,ハンガリー料理を味わいました。

 最初に飲み物を何にするか問われたのですが,ハプスブルク家やハンガリーの食文化について学んだ上で,どうしても飲んでみたいワインがありました。

 トカイワインです。

 ハンガリー東北部トカイ地方から産出されるワインで,建国の祖イシュトバーン1世がキリスト教を国教とするにあたり,ブドウ(フルミント種)の栽培・ワインの製造をはじめた時から続くハンガリーを代表するワインです。

 フランス国王ルイ14世をして「これぞ王様のワイン,これぞワインの王様」言わしめたワインでもあります。(ちなみにルイ14世は日本の醤油も好んだことでも有名です。)

 店主さんから,「世界三大貴腐ワイン」(フランスの「ソーテルヌ」,ドイツの「トロッケンベーレンアウスレーゼ」,ハンガリーの「トカイワイン」)の1つであることを教えていただきました。

 そしてグラスに注いでいただきました。

(トカイワイン)
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 トカイワインはよく「黄金色に輝くワイン」と称されますが,本当に黄金色の輝きをもつワインでした。

 オーストリアのマリア・テレジア(マリー・アントワネットの母)が,トカイワインの黄金色の輝きを見て,本当の金が入っているかどうか調べさせたという逸話も残っているほどです。

 口に含んでみると,アプリコット(アンズ)のお酒のような,甘みが強くフルーティーなお酒でした。

 一般的にランクの高いトカイワインほど,甘美な味わいが増すとされています。

 田舎者の私をして「田舎者にしてトカイワイン」と言わしめた,おすすめのワインです。


豚肉のパテ・パン・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ

 ハンガリーの代表的な食材を使ったオリジナルの前菜盛合せを作っていただきました。

(豚肉のパテ・パン・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ)
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 写真上から時計回りに,甘いパン(フォアグラ用),豚肉のパテと自家製パン,ハンガリーサラミ,パプリカとフォアグラのパテ・ソース,立ててある切身がフォアグラ,そして紫キャベツのピクルスです。

(豚肉のパテ)
 ハンガリー料理の特徴の1つに豚肉の料理が多いことが挙げられます。
 豚肉のパテもその1つで,自家製パンと共に美味しくいただきました。

(ハンガリーサラミ)
 程よい塩味でやわらかく,脂肪のしつこさもなかったので,お店の方に「このサラミは美味しいですね」とお話しすると,「ハンガリーの食べられる国宝『マンガリッツァ豚』で作られたサラミです」と教えていただき,納得しました。
 ハンガリーサラミはサラミの原点とも言われ,有名なイタリアのサラミもハンガリーをお手本に作られたという説もあります。

(パプリカ)
 輪切りのパプリカにフォアグラのパテやソースをかけた料理を御用意いただきました。
 パプリカは,オスマン帝国のトルコ人によってハンガリーに持ち込まれた唐辛子をもとにハンガリーで生まれた食材とされています。
 パプリカも含め,ハンガリーはヨーロッパの中で最も唐辛子類が食べられる国で,辛い料理が多いのも特徴の1つです。
 ハンガリーには,グヤージュ・ロールキャベツ・鶏の煮込み・鯉やナマズの煮込みなどパプリカを使った料理が多く,「パプリカなくしてハンガリー料理は存在しない」と言われるほどハンガリー料理には必要不可欠な食材となっています。

(フォアグラ)
 フォアグラは,紫キャベツで作られた甘いピクルスや甘いパン,そしてトカイワインと一緒にいただきました。
 フォアグラは甘い食べ物や飲み物と相性が良いことで知られています。(フォアグラとソーテルヌ・トカイワインの相性の良さは有名で,昔から最高の贅沢とされてきました。)
 ハンガリーはフォアグラの生産がフランスに次いで世界第2位で,日本が輸入しているフォアグラの約8割はハンガリー産です。
 ハンガリーはフォアグラの一大生産国と言えますが,これはハンガリーが水鳥(グース(ガチョウ)やダック(アヒル)など)を飼育するのに適した自然環境に恵まれており,良質の羽毛(ダウン)を産出してきたことと関係していると言えるでしょう。


スズキのソテー ポルチーニのソース

 ハンガリーはヨーロッパの内陸にあるため,魚料理は淡水魚が中心となります。

 鯉やナマズなどの淡水魚をパプリカと一緒に煮込んだ辛いスープ「ハラースレー」などが有名です。

 今回のコース料理では,スズキのソテーを御用意いただきました。

(スズキのソテー ポルチーニのソース)
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 皿の中心にスズキのソテーにマッシュポテト,きのこ,ディル,白いパプリカが添えられ,全体にポルチーニソースがかけられています。

 外は皮も含めてパリッと,中は柔らかくジューシーにソテーされたスズキを,ポルチーニ茸と生クリームで仕上げられたソースでいただきました。

 マッシュポテトは刻んだホウレンソウとクリームチーズが入っており,コクのあるグラタンのような仕上がりでした。


【メモ】
貴腐ワイン
 ブドウの収穫を遅らせ,乾燥させたり,カビ(貴腐菌)をつけさせたりすることでブドウの水分を減らし,糖度を増した果汁で作られたワイン。
 トカイワインの場合,糖度を増したブドウ果汁と通常のブドウ果汁を混ぜて作られ,前者の果汁の含有率は「プトーニュ」という単位で表現される。

酒精強化ワイン
 貴腐ワインと同様に甘いワイン。
 ワインの製造過程の途中でブランデーなどのアルコール(酒精)を添加し,アルコール濃度を高めてその後の発酵を止めてしまうことでブドウ本来の甘さを残したワイン。
 スペインの「シェリー酒」,ポルトガルの「ポルト酒(ポートワイン)」や「マディラ酒」などが有名。

甘いワインとフォアグラのマリアージュ
 フォアグラは貴腐ワインと相性が良いが,これは酒精強化ワインにも当てはまる。
 例えばフランス料理では,フォアグラのソテーやテリーヌなどにマディラ酒のソース(ソース・マディラ)やポルト酒のソース(ソース・ポルト)が組み合わされることが多い。
 ちなみに「牛フィレ肉とフォアグラのロッシーニ風」に用いられるソース「ソース・ペリグー」はソース・マディラに刻んだトリュフを加えて作られる贅沢なソースである。


<参考文献>
 岡田 哲「世界の味探究事典」東京堂出版
 関田淳子「ハプスブルク家の食卓」新人物文庫
 菊池良生「図解雑学 ハプスブルク家」ナツメ社
 21世紀研究会編「食の世界地図」文春新書
 21世紀研究会編「民族の世界地図」文春新書
 玉村豊男「食卓は学校である」集英社新書

<店舗情報>
 「AZ Finom(アズフィノム)」(東京都渋谷区神宮前2-19-5 AZUMAビル地下1階)

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 「ハンガリー料理の特徴と主な料理2 -冷たい桃のスープ・グヤーシュスープ・マンガリッツァ豚のソテー・ショムロ地方のスポンジケーキ-

2018年8月12日 (日)

スリランカ料理の特徴と主な料理 -デビルチキン,デビル・悪魔風と名のつく料理の意味-

スリランカの食文化

 スリランカはインドの南東に位置する島国です。

 周りが海に囲まれているため,日本と同じく魚介類の料理が多く,魚のカレーが代表的な料理の1つとなっています。

 地理的条件からみると,南インドに近いことから,南インド料理との共通点が多いと言えます。

 また,ヨーロッパや北西アフリカから中東,インド,東南アジア,東アジアを結ぶ海の商業ルート上に位置していることから,これらの国々の食文化の影響も受けています。

 さらに歴史的背景から,ポルトガル,オランダ,イギリスによる植民地時代があったため,これらの国々の食文化の影響も受けています。

 つまりスリランカの食文化は,スリランカ独自の食文化に幅広い様々な国の食文化が組み込まれて成り立っていると言えるのです。


デビルチキン

 スリランカ料理店で面白い名前の料理を見つけました。

 デビルチキンです。

(デビルチキン)
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 鶏とトマトと野菜のチリソース炒めです。

 鶏肉,トマト,玉ねぎ,ピーマンなどを一口大のザク切りにし,甘辛いチリソースで炒めた料理です。

 今回味わった料理は,甘辛いというよりは甘酸っぱい味付けでした。

 見た目も味も中国料理の「酢豚」に近いと感じました。

 ただ,お店の人にお話を伺うと,酢は使っていないとのことでしたので,甘味や酸味は主にトマトによるものなのでしょう。

 デビルチキンと一緒にライスやパパダン,アチャールをいただきました。

(デビルチキンとジャスミンライス・パパダン・アチャール)
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 写真右上の皿にライス,そして時計回りにパパダン,アチャール2種です。

 長細いチップスかパスタのような食べ物がパパダンです。

 パパダンは豆の粉末や小麦粉から作られるパリパリしたせんべいのような食べ物で,焼いたり油で揚げたりしてカレーなどと一緒に食べられます。

 インドのパパドとよく似ています。

 一方,アチャールは野菜や果物の漬物のことです。

 カレーの付合せとして食べられるもので,インドやネパールなどにも同名の漬物があります。

 写真のアチャールはターメリックで漬けた大根とオクラのアチャールです。

 これらの食べ物は,日本の食事で例えると,主菜につくご飯と漬物のようなイメージでしょう。


デビル・悪魔風と名のつく料理の意味

 「デビルチキン」とは何ともインパクトの強いネーミングですが,料理名に「デビル」,「悪魔風」,「ディアボラ風(イタリア料理)」などと名のつく料理は,次のいずれかに該当する場合だと思います。

 (1)味付けをチリソースなどで辛くしている料理
 (2)見た目が赤く燃え上がるような色をした料理
 (3)形がマントを広げた悪魔のように見える料理
 (4)仕上げに残酷な悪魔を想像させる焼き目を付けた料理

 今回の「デビルチキン」は主に(1)や(2)の意味で,イタリアの鶏料理の場合は主に(3)や(4)の意味でネーミングされています。


 どんな料理にも言えますが,作ったり味わったりする際,一歩踏み込んで,その料理の名前の意味や歴史的背景なども調べてみると,その料理の基本や本質をつかむ手助けとなり,やがて応用もきくようになると思います。


<関連記事>
 「ネパール料理の特徴と主な料理3 -アルアチャール・マルプア・チャイ-

2018年7月 7日 (土)

デンマーク料理の特徴と主な料理3 -フリカデラ・赤キャベツのピクルス・フレスケスタイ・フーゴ,デンマークとドイツの食文化-

 広島アンデルセンで開催された「デンマークフェア」で販売されていたデンマークゆかりの食を御紹介したいと思います。


フリカデラと赤キャベツのピクルス ラズベリー風味

 フリカデラは豚の挽き肉で作られるハンバーグやミートボールに似た料理で,デンマークの代表的な料理の1つです。

(フリカデラと赤キャベツのピクルス ラズベリー風味)
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 フリカデラにラズベリー風味の赤キャベツのピクルスを添えてみました。

 今回のフリカデラは,アグー豚の挽き肉のほかに,細かく刻まれたじゃがいもも入っており,豚肉のうまみとともに,じゃがいものホクホク感も楽しめました。

 そして写真手前の紅生姜のような食べ物が,赤キャベツのピクルスです。

 レッドキャベツを砂糖,りんご酢,ラズベリーピューレ,食塩で漬け込んだもので,フルーティーでとても甘いピクルスでした。

 赤キャベツをイチゴ味の氷みつに漬けたような味です。

 単品で食べると,まるでお菓子のような食べ物なのですが,このピクルスをフリカデラと一緒にいただくと,不思議なことにとてもよく合います。

 肉団子を甘酢あんでいただくような感じがしました。

 デンマークのフリカデラとラズベリー風味のピクルス,オーストリアのウィンナーシュニッツエルとベリーソース,アメリカのローストターキーとクランベリーソースなど,肉料理と甘いベリーソースは実はとても相性がよい組合せなのだと実感しました。


フレスケスタイ(クリスピーデニッシュポーク)

 「フレスケスタイ」はローストポークのことです。
 
 今回のフェアでは「クリスピーデニッシュポーク」という名称で販売されていました。

 フレスケスタイの特徴は豚の皮も一緒に食べることです。

 豚の皮の部分に「ハモの骨切り」のように包丁で細かく切り込みを入れ,その切れ目に塩・ローリエ・クローブなどの調味料やスパイスをすり込んで下味をつけ,オーブンで焼いた料理です。

(フレスケスタイ)
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 写真のこんがりと焼けた表面の皮の部分を御覧いただくと,切れ目が入っているのがおわかりいただけるかと思います。

 この皮の部分がカリカリで,塩味とスパイスの味がしっかりと効いています。

 一方,肉の部分はやわらかくジューシーで,豚肉本来のうま味があります。

 このカリカリの皮と肉を一緒に食べることで,味のバランスがとれたローストポークを楽しむことができるのです。

 ただ,豚の皮をローストした料理なので,若干ですが,焼いた豚足や豚耳に似た独特なにおいも感じられます。

 このにおいについては好みが分かれそうですが,フレケスタイには欠かせない要素であることは間違いありません。


フーゴ

 フーゴは,甘くさわやかなエルダーフラワーシロップの入った微炭酸のソフトドリンクです。

 お店の方から,デンマークで初夏に飲まれるドリンクだと伺いました。

(フーゴ)
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 実際いただいてみると,すっきりとした甘さで,ミントの爽快感も感じられました。

 エルダーフラワーは花の一種ですが,ライチやマスカットに似たフルーティーな風味を感じました。

 暑い日は,フーゴで「スコール(乾杯)!」


デンマークとドイツの食文化における共通点

 デンマークとドイツは,ユトランド半島の北側がデンマーク,付け根にあたる南側がドイツと隣国同士の関係になります。

(ユトランド半島とデンマーク・ドイツ周辺の地図)
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(国土地理院の電子地形図(タイル)に国名・地名等を追記して掲載)
※地図をクリックすると拡大します。

 そのため,食文化においても次のような共通点が見い出せます。

(1)両国ともニシン料理が有名だが,これはユトランド半島の付け根に位置するドイツの都市リューベックとハンブルクが中心となって発展した商業同盟「ハンザ」の存在と,「ハンザ」のニシン漁を主にデンマークの漁師が担っていたことに由来している。

(2)両国とも豚肉やじゃがいもを多く食べる。

(3)デンマークには「フリカデラ」,ドイツ・ハンブルクには「フリカデレ」(のちにアメリカに渡り,ハンブルクを英語読みした「ハンバーグ」という名称となる)と,共通した豚の挽き肉料理がある。

(4)パンが重視され,伝統的なライ麦パン(黒パン)を中心にパンの種類が豊富にある。

(5)「デンマークビール」,「ドイツビール」と呼ばれるように,両国ともビール大国である。

 これらの共通点は代表的な事例で,実際にはもっとたくさんの共通点があることでしょう。


 日本ではまだあまり馴染みのないデンマーク料理ですが,ドイツ料理まで視野を広げてみると,より深く理解できるのではないかと思います。


<関連サイト>
 「広島アンデルセン」(広島市中区紙屋町2-2-2)

<関連記事>
 「デンマーク料理の特徴と主な料理1 -なぜオープンサンドイッチが伝統料理なのか-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理2 -デンマークバター・ソフトカーネラグブロート・ダンスクウールブロート・スモーブロー-

2018年6月28日 (木)

デンマーク料理の特徴と主な料理2 -デンマークバター・ソフトカーネラグブロート・ダンスクウールブロート・スモーブロー-

 今年も広島アンデルセンで「デンマークフェア」が開催されました。

 フェア開催中だけに販売される食品もいくつかあり,デンマークゆかりの食を味わえる貴重なイベントです。

 このデンマークフェアで販売されていたデンマークゆかりの食品をいくつか御紹介したいと思います。


デンマークバター

 デンマークから取り寄せられた「LURPAK(ルアパック)」のバターです。

(デンマークバター「ルアパック」(包装))
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 デンマークで生乳から作られた発酵バターです。

(デンマークバター「ルアパック」)
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 このフェアでは,有塩バター・無塩バターとも販売されており,パンとともに両方試食させていただいたのですが,発酵バターでとてもクリーミーなので,有塩バターだけでなく,無塩バターとパンの組み合わせでも美味しくいただけました。

 やわらかく伸びがよいので,パンに塗りやすいのが特徴です。

 生クリームのように口どけがよく,風味豊かなバターです。

 パンはもちろん,料理やお菓子にも幅広く使えます。


ソフトカーネラグブロート

 ソフトカーネラグブロートは,パン生地にライ麦,丸麦,ひまわりの種がぎっしりと詰められ,表面にたっぷりとゴマがまぶされた黒パンです。

(ソフトカーネラグブロート)
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 デンマークでは,気候的な条件もあって,ライ麦などの雑穀が使われた,いわゆる「黒パン」がよく食べられていますが,ここまで豊富に雑穀が入っていると,現代においてはこうしたパンの方がよっぽど贅沢な気がします。

 ライ麦パン独特のサワー種の酸味,少しボソボソとした歯応えが楽しめます。

 あわせて,ひまわりの種やゴマの香ばしさやコクも味わうことができます。

 そのままでも十分おいしいのですが,このパンにたっぷりとバターを塗ったり,好きな具をのせれば,よりおいしくいただけます。

(ソフトカーネラグブロートとルアパックバター)
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 デンマークバターの伸びがよく,表面に凹凸があるソフトカーネラグブロートにもきれいに塗ることができました。


ダンスクウールブロート

 ダンスクウールブロートは,黒ビールを使った生地で焼かれたパンです。

 デンマークの「アンデルセン」で人気のパンをお手本に作られているそうです。

(ダンスクウールブロート)
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 クラム(パンの中身)は,水分を含んでモチモチしており,黒ビールのほのかな香りを楽しめます。

 一方,クラスト(パンの皮)は,米粉が使われていることもあって薄くてパリパリとしており,その香ばしさを楽しむことができます。

 このクラムとクラストの食感の違いが大きいのですが,そこがこのパンの魅力でもあります。

 このパンを厚めに切って,オープンサンドイッチで味わうのもおすすめです。


スモーブロー(デンマーク風ポテトサラダ・スモークサーモン)

 「スモーブロー」の「スモー」はバター,「ブロー」はパンを意味し,転じてオープンサンドイッチを意味します。

 デンマークが世界に誇る伝統料理です。

 美味しいパンとバターが揃ったので,私もスモーブローを作ってみました。

(スモーブロー)
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 パン(ダンスクウールブロート)にデンマークバターを塗り,その上にデンマーク風ポテトサラダ(写真手前)とスモークサーモン(写真奥)をのせてみました。

 デンマーク風ポテトサラダはデンマークフェアで惣菜として販売されていたもので,じゃがいも,人参,ブロッコリー,セロリ,赤玉ねぎをサワークリームなどの調味料で和えたものです。

 じゃがいもはデンマーク料理の中心的役割を果たす食材の1つです。

 オープンサンドイッチはたくさんの具をパンの上にのせることができますが,その分,土台となるパンにしっかりと支える力が要求されるので,ライ麦パン(黒パン)や厚みのあるパンが適しています。

 自分の好きな具をのせて,おなかいっぱい食べられることがスモーブローの魅力と言えるでしょう。


<関連サイト>
 「広島アンデルセン

<関連記事> 
 「デンマーク料理の特徴と主な料理1 -なぜオープンサンドイッチが伝統料理なのか-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理3 -フリカデラ・赤キャベツのピクルス・フレスケスタイ・フーゴ,デンマークとドイツの食文化-

2018年6月17日 (日)

デンマーク料理の特徴と主な料理1 -なぜオープンサンドイッチが伝統料理なのか-

バイキングとデンマーク料理

 デンマーク(Denmark)という地名は,北ゲルマン民族の「デーン人(Dane)」が7,8世紀ごろスカンジナビア半島南部からこの地(フランク王国との境界・国境を意味するマーク(Mark))に移動し,ジュート人を追い出して定住したことに由来しています。

 そして北ゲルマン人たちは,のちにバイキング(Viking,入り江の人々という意味)と呼ばれるようになります。

 バイキング独特のオードブル料理のことを「スモ―ガスボード(スミョールボイド)」と呼びますが,時代は下って1957年,日本の帝国ホテルの犬丸徹三さんが北欧視察の際にスモ―ガスボードの食べ放題に興味を抱き,食べ放題を「バイキング」と命名した逸話は興味深いところです。

 酪農業や水産業が盛んで,肉や魚は塩漬け・マリネ・薫製に加工して貯蔵され,年間を通じて豊かな食生活が送れるよう工夫されています。

 冬が長く厳しい環境にあるので,寒さに強いじゃがいも・ライ麦を使った料理やパン(黒パン)が中心となります。


スモ―ガスボード

 「スモ―ガスボード」の「スモ―ガス」はバター付きのパン,「ボード」はテーブルの意味で,合わせると「パンとバターの食卓」という意味となります。

 この意味が転じて,様々な料理を各自の好みで(オープンサンドイッチで)食べるビュッフェ形式の食事を指す言葉となりました。

 デンマーク料理のレストランで,スモ―ガスボードの前菜「スモ―ガスプレート」を味わう機会がありましたので,御紹介します。

(「スモ―ガスプレート」)
Photo

 写真上から時計回りに,デンマークキャビア,フレッシュノルウェーサーモン,ポークパテ,ニシンの酢漬けです。

 デンマークキャビアは,じゃがいものパンケーキと刻んだ玉ねぎの上にたっぷりとのせられており,贅沢な気分になりました。

 フレッシュノルウェーサーモンにはイクラやケイパー,ディルが添えられており,脂がのって身も厚く,食べ応えがありました。

 ポークパテにはピクルスやレタスが添えられており,このプレート唯一の肉の冷菜でした。

 そして特筆すべきはニシンの酢漬けです。

 ニシンは独特のクセがあり食べにくいイメージを持っていたのですが,このニシンには全くクセがなく,身が厚く,脂ものっていて,とても美味でした。

 冒頭でバイキングとはもともと「入り江の人々」という意味だと御紹介しましたが,その入り江で暮らす人々の主要な食料源は魚類であり,とりわけニシンやタラが重要な役割を果たしました。

 バイキングの移動は,北海・バルト海のニシンの回遊コースと一致していたという説もあるほどです。

 こうした歴史的背景もあり,ニシンはスモ―ガスボードに必要不可欠な食材となっています。


 スモ―ガスボードには,今回御紹介した料理のほか,肉類(牛肉・鶏肉・野鳥肉など),ローストビーフ,ハム,ソーセージ,牛タン,レバーペースト,小エビ,アンチョビ,ウニ,ウナギの燻製,鯖の燻製,タラの卵,チーズ,ピクルス,果物など多彩な料理があります。

 スモ―ガスボードの特徴は,(1)魚介料理が多い,(2)塩漬け(ハム,ソーセージなど),酢漬け,薫製,マリネなど長期保存可能な常備菜が多い,(3)酒と一緒に楽しむ「おつまみ(オードブル)」の要素も強い,とまとめることができるでしょう。


デンマークの食材から食文化を考える

 デンマークの食文化を「小麦」の視点からアプローチしてみたいと思います。

 北欧に位置するデンマークは,その気候条件から小麦の収穫がままならず,代わりにライ麦,大麦,じゃがいもなどの穀物に頼ることとなりました。

 パンにおいては,小麦粉を多用することができないため,ライ麦パン(黒パン)にしたり,小麦粉よりも酪農で得られるバターの割合を多くした「デニッシュ」(※)にするなどの工夫がなされています。
 ※ウイーン由来とされるため,デンマークではデニッシュではなく「ヴィエナーブロート(ウィーンのパン)」と呼ばれている。

 ライ麦パンはずっしりと重厚感があるため,たくさんの具をのせてもしっかりと受け止められるというメリットもあります。

 一方,酒においては,じゃがいもで作られた蒸留酒アクアビットや大麦で作られたビールなどが中心となります。

 それにスモ―ガスボードのような保存食中心の料理が加わるとどうでしょう。

 自然と,酒とスモ―ガスボードを組み合わせたビュッフェ,そしてライ麦パンにバターを塗りスモ―ガスボードの料理をのせたオープンサンドイッチ(スモーブロー)にたどり着くのです。

 スモ―ガスボードがオープンサンドイッチ(スモーブロー)も意味する言葉となっている理由は,こうした経緯もあるからでしょう。

 デンマークのオープンサンドイッチ店に行くと,巻物のようなメニュー表から多種多様な具材を選ぶことができるようですが,これも多種多様なスモ―ガスボードの流れを汲んでいるからだと説明できます。

 つまり,オープンサンドイッチはスモ―ガスボードを源流とするデンマークの食文化そのものを表現した料理であり,だからこそデンマークの名物料理になっていると説明することができるのです。

 日本で言えば,主食のご飯の上に多種多様な具をのせて楽しむ「丼」とよく似ていますね。


<関連サイト>
 「レストラン スカンディヤ」(横浜市中区海岸通り1-1)

<関連記事>
 「デンマーク料理の特徴と主な料理2 -デンマークバター・ソフトカーネラグブロート・ダンスクウールブロート・スモーブロー-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理3 -フリカデラ・赤キャベツのピクルス・フレスケスタイ・フーゴ,デンマークとドイツの食文化-

<参考文献>
 21世紀研究会編「地名の世界地図」文春新書
 岡田哲「食文化入門」東京堂出版
 岡田哲「世界の味探究事典」東京堂出版
 玉村豊男「パンとワインとおしゃべりと」中公文庫
 越智敏之「魚で始まる世界史 ニシンとタラとヨーロッパ」平凡社新書

2018年2月24日 (土)

台湾料理の特徴と主な料理 -燜齋鴨(素食北京ダック)と菜食主義(ベジタリアン)-

 台湾料理は,中国全土の料理が揃っていると言われています。

 海の幸や山の幸にも恵まれており,日本の料理の影響も受けているため,日本人にもなじみやすい料理が多いのも特徴です。

 中国料理がベースなので,当然ながら,肉(特に豚肉)料理や海鮮料理がメインとなります。

 しかし一方で,医食同源の思想や宗教上の理由から,菜食主義者(ベジタリアン)も多く,「素食(料理)」(菜食主義者向け(料理)という意味)と表記された食品・料理(店)も多く存在しています。

 今回は,そんな素食の1つ,「燜齋鴨」(素食北京ダック)の缶詰を御紹介します。

(「燜齋鴨」(漢字表記))
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 「燜齋鴨」の「燜」がシチュー(煮込み),「齋」が菜食,「鴨」がアヒルという意味です。

 上側の「良友牌」という表記は,「コンパニオンフーズ」という会社名に由来する「コンパニオンブランド」という意味でしょう。

(「燜齋鴨」(英語表記))
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 缶詰の下部に「Peking Vegetarian Roast Duck(Braised Gluten)」(ベジタリアン向け北京ローストダック(蒸し煮のグルテン))と表記されています。
 「燜齋鴨」はおそらく「ムンチャイア」と読むのでしょうが,自信がないので間違えていたらお許しください。

(「純素食」のマーク)
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 缶詰の一部に「純素食」と書かれたマークがありました。

 英語で「100% Vegetarian」とあることからも,「完全なベジタリアン向け食品」と言った意味でしょう。

 その下に控え目な字で「imitation」(イミテーション,もどき)とも表記されていますね。

(「燜齋鴨」(食品表示))
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 食品表示を見てみると,「素鴨(アヒルもどき,グルテン,遺伝子組み換えでない)」,「水」,「黄豆油(大豆油)」,「醤油」(天然発酵),「糖」,「盬(塩)」とあります。

 つまり,小麦粉のグルテンが持つ粘着性と弾性をうまく利用して,アヒルの肉のような食感を作り出し,その肉もどきを醤油や砂糖,塩などで味付けした食べ物なのです。

 缶詰の写真にある北京ダックほどではないでしょうが,どこまで北京ダックに似た食べ物が出てくるのか,興味深く缶詰の蓋を開けました。

(「燜齋鴨」)
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 なるほど。見た目が鳥の肉や皮とそっくりです。

 ただ色合いについては,北京ダックというよりは鶏肉の醤油煮のような印象を持ちました。

 電子レンジで少し温めて,実際にいただいてみました。

 味付けは醤油と砂糖が中心で,甘辛い味に仕上げられています。

 そして,確かに淡泊な鶏肉のような弾力,歯応えがあります。

 この食感を可能にしているのは,薄く伸ばしたグルテンの板を何層にも重ねて肉の形に成形されているからなのでしょう。

(「燜齋鴨」(断面))
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 この幾重にも重なるグルテンの層が肉のような食感を生み出しているのです。

 味は,北京ダックまでには至りませんが,鶏肉の醤油煮だと言われて出されると,まぁそうとも言えるかなというレベルです。

 ただ,この肉もどきをゴボウや里芋などの根野菜と一緒に煮て,筑前煮だと言われて出されたら,鶏肉だと信じてしまうような気がします。

 それにしても,グルテンを使って,ここまでの代用肉を作り上げる台湾の方々の執念には脱帽です。


東アジアとインドの菜食主義(ベジタリアン)の違い

 今回,北京ダックもどきの食品を御紹介しましたが,こうした「肉もどき」の食品・料理は主に中国やその影響を受けた台湾・日本など東アジアの国や地域で多くみられるものです。

 日本でも,豆腐や野菜で作られる精進料理の「がんもどき」が「肉もどき」食品として有名ですね。

 しかしながら,菜食主義(ベジタリアン)の本場と言われるインドでは「肉もどき」を作るという発想がありません。

 なぜなら,インドの菜食主義者の間では,肉が食べ物であるという考え自体がないからです。

 そもそも肉に執着心がない以上,肉に憧れることもなく,したがって「肉もどき」を作ってまで菜食主義を貫こうなどと思うこともないのです。

 普段の暮らしの中で肉や魚を食べる習慣があるかないかによって,菜食主義(ベジタリアン)でも発想の違いがあるのです。

 このことを踏まえると,日本を含め,肉や魚を食べる習慣がある国や地域で菜食主義(ベジタリアン)を貫き通すことがいかに難しく大変なことかを御理解いただけるかと思います。


<参考文献>
 森枝卓士(ジャーナリスト・食文化論)『食べてはいけない!』白水社

<関連リンク>
 「コンパニオンフーズ(良友牌)」(英語表記)
 菜食レストラン&カフェ「菜食健美」(広島市西区己斐上4丁目32-2,「燜齋鴨」販売店)

2018年1月19日 (金)

イタリア料理の特徴と主な料理5 -マロッキーノ-

 広島の百貨店「福屋八丁堀本店」で開催された「イタリア展」へ行ってきました。

 その会場に東京都目黒区にあるイタリアンバール「LoSPAZIO(ロ・スパッツイオ)」のバールコーナーがあったので,お邪魔しました。

 その店のメニューにあった「マロッキーノ(marocchino)」というドリンクを飲んでみたいと思ったからです。

 マロッキーノは,チョコレート,泡立てたミルク(フォームドミルク),エスプレッソコーヒー,ココアパウダーで作られるドリンクです。

 カウンターに座り,私が「マロッキーノを」と注文すると,バリスタから「飲み慣れてらっしゃるようですね」と言っていただき,すっかりいい気持ちになりながら,バリスタの技を拝見しました。

 耐熱グラスの底に,まず液体のチョコレートソースを全体の約1割程度注ぎ,その上から静かに温かいフォームドミルクを全体の約6割注ぎます。

 その上から,ゆっくりとエスプレッソコーヒーを全体の約3割注ぐと,白いフォームドミルクと混ざった部分がカプチーノのように変化します。

 仕上げに表面にココアパウダーをかければマロッキーノの完成です。

(マロッキーノ)
Photo

 コップの底の黒い液体がチョコレートソース,その上の薄い褐色がフォームドミルクとエスプレッソが混ざったところ,グラス上部の白い層がフォームドミルク,表面の茶褐色がココアパウダーです。

 きれいに層を成しているのがお分かりになるかと思います。

 さてこれをどうやって飲むのか。
 飲み慣れてない私は戸惑いました(笑)。

 バリスタに伺ったところ,スプーンでかき混ぜて飲むとよいとのお話でしたので,少しもったいない気もしましたが,かき混ぜていただきました。

 実は私はミルクが苦手なので,正直なところ飲めるかどうか不安もあったのですが,実際にいただいてみると,チョコレート風味のカプチーノで,とても飲みやすく仕上がっていました。

 チョコレートソースとココアパウダーによるダブルのチョコレート風味と,フォームドミルクによりマイルドになったエスプレッソの相性が抜群です。

 カウンターでマロッキーノをゆっくり味わいながら,バリスタとの会話を楽しみました。

 マロッキーノはピエモンテ州(トリノなど)やロンバルディア州(ミラノなど)で人気のドリンクで,「モロッコ風の,モロッコ人の」という意味があるそうです。

 その呼び名の理由は,トッピングのチョコレートの褐色がモロッコ(人)を想像させるからではないかとおっしゃっていました。

 日本ではまだまだ知名度が低く,メニューにあるカフェ(バール)も少ないようですが,コーヒーチェーンで言えばドトールコーヒー系の「エクセシオールカフェ バリスタ」や「illy(イリー)」などで味わえるようです。

 興味を持たれた方は,ぜひお近くのバール,イタリア料理店,コーヒーチェーンなどで味わってみてください。


<関連リンク>
 「LoSPAZIO(ロ・スパッツイオ)」(東京都目黒区鷹番3-3-5ハーデンビル1F)
 「エクセシオールカフェ バリスタ」(店舗メニュー)
 「illy(イリー)」(店舗メニュー)

<参考文献>
 辻調理師専門学校監修/近藤乃里子・合田達子・正戸あゆみ著「イタリア料理基本用語」柴田書店

2017年12月17日 (日)

日本料理の特徴と主な料理2 -料理人 平野寿将さんから熟成魚の魅力を学ぶ-

「引き算の料理」

 日本料理は「引き算の文化」です。

 「引き算の文化」とは,必要以上に手を加えないこと,本当に必要なものだけを用いること,そして素材そのものの味を引き出すことを良しとする文化のことです。

 引き算しても美味しい料理に仕上げるためには,産地や仕入先を厳選し,食材を新鮮な状態で入手し,その食材の最高の部位を用い,食材の味を引き立てる水・だし・調味料などにこだわり,瞬時に料理することが求められます。

 今回は,こうしたことを実践され,自らの料理を「引き算の料理」とおっしゃる和の料理人 平野寿将(ひらのひさま)さんの世界を御紹介したいと思います。


「馳走啐啄一十」での平野寿将さんとの出会い

 今回,知人の紹介で広島の日本料理店へ行く機会がありました。

 「馳走啐啄一十」(ちそうそったくいと)という,料理人 平野寿将さんが手がけておられるお店です。

 日本に住んでいながら,日本料理は高級で敷居が高いというイメージがあり,なかなか味わえる機会がなかっただけに,今回はあらゆることを勉強させていただこうと思いつつ,お店を訪問しました。

(「馳走啐啄一十」玄関)
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 「馳走啐啄一十」は一流の日本料理店なので,私が訪問すると知った瞬間,周囲の人達からは,「品良く」,「気の利いた話を」,「恥ずかしくない服装で」…など,親切に「御指導」いただきました(笑)。

 あまりに言われると,普段の私はその逆なのかと思ったりもしましたが,食事の際のマナーは自分のためではなく,店内のほかのお客さん達,お店の人々,そして同伴の人に対する敬意と気遣いだと心得ていますので,それなりの服装で訪問しました。

 お店の入口に,ワインセラーのような昆布の貯蔵庫「昆布セラー」が設置されていました。

(「昆布セラー」)
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 福井県敦賀市「奥井海生堂」の蔵囲(くらがこい)昆布です。

 1年以上蔵で寝かされた昆布で,ワインと同様,「ビンテージもの」として取り扱われています。

 昆布の旨味成分であるグルタミン酸の白い粉が浮いているのがわかります。

 これは期待できます。

 開店時刻少し前の店内に入ると平野さんが厨房で調理の準備をされていました。

 「あ,あの有名な平野さんだ」と思ったのもそこそこに,開口一番,私が平野さんにお話ししたのは,「あのーすみません,トイレに行かせてください。」でした。

 「品良く」,「気の利いた話を」…あの周りからのアドバイスは一体何だったのでしょう(笑)。

 最初に手を洗い,落ち着いてじっくり味わうのが私の流儀なのです。

 でも,これで場は一気に打ち解け,私は平野さんの調理台の真正面のカウンター席に案内していただきました。

 あの有名な平野さんと1対1でお話しが出来るとは何と言う幸運!
 緊張よりも嬉しさで一杯になりました。

 誘ってもらった隣席の知人に心から感謝しました。

 平野さんはとても気さくな方で,平野さんからいろいろ話しかけてくださったこともあり,会話が弾みました。

 冒頭,私は平野さんに「今回フランスの美食ガイドブック『ゴ・エ・ミヨ(Gault & Millau)』の日本版第2号にお店が紹介されることとなり,心からお祝い申し上げます。」とお話ししました。

 この話を皮切りに,広島の軟水とだしの話,広島の牡蠣養殖の話,生の刺身と熟成魚の違い,仕入れ先への並々ならぬこだわりの話など,いろんな興味深いお話を伺うことができ,とても勉強になりました。

 お菓子にも使われるほど甘味のある加賀蓮根の料理が出された際,私は金沢の料亭「大友楼」で味わった郷土料理の治部煮が頭に浮かびました。

 そこで,治部煮などに用いられる加賀野菜「金時草(きんじそう)」のお話をしました。

 すると平野さんの料理される手が一瞬止まり,常連の知人に向かって「(連れてきた彼は)詳しいねえ。」と言っていただけました。

 一流の和の料理人からそう言っていただけたことがとても嬉しかったです。

 その後,隣の知人からは「彼は食の知識はあるけど,それを発揮できる場がないから(笑)」と余計な事まで言われましたが…(笑)。

 終始和やかな雰囲気で接してくださった平野さんも料理を作る姿は真剣勝負そのものでした。

 料理が一品一品出されるたびに,一瞬ピーンと張りつめた緊張感を感じるのです。

 いただく私も全身全霊を料理に傾け,平野さんの料理に込めた思いを少しでも感じ取れるよう努力しました。


平野寿将さんの料理の世界

 今回味わった料理を御紹介します。

(加賀蓮根のすり身)
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 先程御紹介した加賀蓮根のすり身です。

 加賀蓮根はお菓子に使われているぐらい甘味の強い蓮根で,蓮根そのものの味を自慢のだしと一緒に堪能しました。

(香箱ガニの甲羅盛り)
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 香箱ガニは,北陸地方でとれる雌のズワイガニのことで,小ぶりながらカニの身,卵,カニ味噌がぎっしり詰まっていることが特徴です。

 写真左上が厚岸の雲丹,その下側には「内子(うちこ)」と呼ばれるカニ味噌,中心に白いカニの身,右上が「外子(そとこ)」と呼ばれるカニの卵で,カニ酢に合うよう彩り豊かなキュウリや食用菊も添えられています。

 カニの身や卵はそのままで飲めるほどすっきりした極上ポン酢をかけていただきました。

 雲丹は昆布や海藻を餌とするため,良質な昆布が採れる海には良質な雲丹がいることになります。

 広島に居ながら,その極上の昆布(だし)も雲丹もいただけるのですから,贅沢の極みですね。

(蕪のすり流し椀)
Photo_5

 お店での正式名称は「広島の竹原市の湧水蔵囲い26年度収穫の船泊浜産天然利尻昆布がベースの蕪のすり流し椀」と長い名前となっています。

 お吸い物にすりおろした京都の蕪(かぶ)が入ったいわゆる「おろし汁」で,とてもシンプルな料理なだけに,水やだしの真価が問われることとなります。

 極められた昆布だしの旨味を直球勝負で味わえる一品でした。

(焼き白子と瀬戸内蛸の煮物)
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 備長炭で焼いた佐渡の鱈の白子と瀬戸内海で採れた蛸の煮物です。

 蛸がとてもやわらかかったのですが,これは香川県寄りの瀬戸大橋近くの海に生息する蛸だからこその食感だと教えていただきました。

 これとは別に,白子ポン酢で生の白子もいただきました。

 そしていよいよ,お店自慢の熟成魚の刺身です。

 熟成魚とは,釣った魚を「脳殺」→「放血」→「神経締め」→「氷結」といった手順で手当てした後,低温で寝かせ,釣ったばかりの魚の刺身よりも,一層香りと旨味を引き立たせた魚のことです。

(カワハギと鯛)
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 最初に72時間熟成のカワハギと58時間熟成の鯛の刺身が出されました。

 小皿には,刺身の調味料として27年継ぎ足している極上ポン酢,醤油,粗削りの塩の3種類が用意されていました。

 余分な水分は抜け,透き通ってプリプリした身になっていました。

(シマアジ)
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 こちらは五島列島で採れた30日間熟成のシマアジです。
 これ一切れで1,000円するそうです。

(クエ)
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 平野さんから,「これはねぇ,ヤバいよぉ。」と威勢よく出していただいた,長崎で採れた幻の高級魚クエの刺身です。
 そう言われると落ち着いてクエません(笑)。

(イシガキダイ 生ハムのせ)
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 22日間熟成のイシガキダイです。イベリコ豚の生ハムがのせられています。

 不思議な組み合わせに見えましたが,いただいてみるとその理由がすぐに理解できました。

 熟成したイシガキダイの刺身がまるでチーズのようにねっとりとしていて,チーズに生ハムを合わせる感覚でいただくことができるのです。

 平野さんが,カウンター越しの私の真正面で,見事な包丁さばきで切られた刺身をその都度「はい,これ食べてみて!」と自信たっぷりに出していただけたので,料理人と客との一体感が感じられました。

 御紹介した刺身のほかにも,金目鯛,ヒラマサ,カンパチなどいろんな熟成魚の刺身を味わうことができました。

 お店の奥にある魚の熟成用冷蔵庫を見せていただきました。

(熟成用冷蔵庫)
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 庫内温度は3.8℃となっていました。
 魚にきちんとした処理を施し,温度管理を行うことで,生の魚でも驚くほど日持ちさせることができるのだなと感心しました。

(源助大根・里芋・水菜の煮物)
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 こちらは,加賀野菜の源助大根と里芋・水菜の煮物です。おぼろ昆布がのせられています。

 この煮物の決め手は,やはり「だし」です。
 少々お行儀が悪いですが,平野さんにお許しを得た上で,だし汁も飲み干しました。
 でもこれは私から平野さんへの最高の敬意でもありました。

(ローストビーフと椎茸旨煮)
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 意表を突いて刺身のようなローストビーフと椎茸旨煮が出されました。

 わさびと和からしでいただきます。

 椎茸は岡山県美作市「ムサシ農園」の天然水かけ流しで作られた肉厚の椎茸で,アワビのような食感でした。そして調味料なし,水で煮ただけなのが信じられないほど旨味を強じました。

 添え野菜は「ハマボウフウ(浜防風)」と呼ばれる海岸に面した砂地に自生している珍しい植物です。

 そしていよいよシメのご飯となりました。これがサプライズでした。

(トリュフといくらの炊き込み御飯)
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 何とご飯にたっぷりのいくらと刻まれたトリュフがのせられているのです。

 これはいくら何でも文句のつけようがありません。

 あらかじめ米の中にトリュフを入れておき,米にトリュフの香りを浸み込ませておいたり,包丁で微妙に角度を変えながら刻むなど,トリュフの風味を最大限引き出すための工夫が施されています。

 また黒の秋トリュフと冬トリュフが使われており,トリュフの味の違いも楽しめました。

 さらに,山梨・甲府産の溶いた生卵をかけ,刻んだトリュフの香りを卵で閉じ込めた卵かけご飯もいただきました。

(トリュフといくらの炊き込み御飯(卵かけ))
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 お客様に今日の食事が忘れられない思い出となり,感動を味わっていただきたいという平野さんの気持ちが込められた料理でもあるのです。

 その後,小豆アイスの上に抹茶ムースがのせられたデザートも堪能しました。

 平野さんとの楽しい会話とともに,素材と技を極めた数々の美味しい料理を堪能させていただき,思い出に残る食事となりました。

 広島にお越しになられた際には,「広島の水は世界一」・「日本料理は水の料理」とおっしゃる平野寿将さんの料理を味わい,広島の味を堪能していただくのもよろしいかと思います。


熟成魚の魅力

 日本料理は,鮮度が重視され,生食が好まれる傾向にあります。

 日本人に刺身が好まれることは,その最たる例でしょう。

 ならば,「わざわざ魚を熟成させることなく,新鮮なうちに刺身で食べるとよいのでは」という考えもあるでしょう。

 その考えは正しいですし,実際私たちが刺身として食べているのは,そのほとんどが新鮮なうちに食べる刺身です。

 では手間暇かけて熟成魚にすることのメリットは何なのでしょうか。

 その一番のメリットは熟成させることでうま味成分(イノシン酸)を増加させることにあります。

 日本料理は,発酵や熟成によって「うま味」を強め,肉に代わるうまさを追及してきた料理でもあるのです。

 取ってきた魚を活け締めにすることで,なるべく新鮮な状態を継続しつつ,熟成させる(寝かせる)ことによってうま味を増加させるのが熟成魚の目指すところです。

 したがって,熟成魚には,魚を活け締めにし,保存・熟成させ,鮮度と熟成度のバランスがとれた時期を見極められる高度な技術,知識,経験や勘が求められることになります。

 熟成肉に比べ,熟成魚を売りにする料理店が少ないのも,こうした半端ないレベルの高さが1つの理由なのでしょう。

 魚が持つ本来のうま味を極限まで引き出したものが熟成魚であり,その熟成魚の刺身こそ,日本料理の特徴である「引き算の文化」を象徴する料理の1つなのです。


<関連リンク>
 「馳走啐啄一十」(広島市中区富士見町5-1 随木ビル1階)
 「hisama.net」(平野寿将さんの公式ウェブサイト)
 「Gault & Millau」(「ゴ・エ・ミヨ」)

<関連記事>
 「日本料理の特徴と主な料理1 -日本料理は引き算の文化-

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