各国料理の特徴と主な料理

2019年5月 8日 (水)

フィンランド料理の特徴と主な料理2 -ムーミンビスケット・サルミアッキ・ソルティッド リコリス・チョコレート リンゴンベリー-

 今年(2019年)は,「日本フィンランド外交樹立100周年」にあたります。

 そこで私は,埼玉県飯能(はんのう)市にある「メッツアビレッジ」と「ムーミンバレーパーク」,そして「フィンランドフェア」(2019年3月1日~5月31日)が開催されている東京・池袋の「タイムズ・スパ・レスタ」を訪問し,日本でフィンランドの世界を楽しんできました。

 今回は,フィンランドのお菓子をいくつか御紹介したいと思います。


ムーミンビスケット

 ファッツエル(Fazer)社のムーミンビスケットです。

 埼玉県飯能市の「ムーミンバレーパーク」で購入しました。

(ムーミンビスケット(箱))
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  ファッツエル社はフィンランドのお菓子メーカーで,「サルミアッキ」のメーカーとしても有名です。

(ムーミンビスケット(ムーミンとリトルミー))
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 ビスケットは一口大の大きさで,日本でもおなじみのビスケットの味です。

 写真左がムーミン,写真右がリトルミーのビスケットです。

 このほか,ムーミンパパやムーミンママなどのビスケットも入っていました。


サルミアッキ

 フィンランドを代表するお菓子と言えば,「サルミアッキ」が挙げられると思います。

 サルミアッキはリコリスと塩化アンモニウムを主成分とする飴で,その独特な味から「世界一まずい飴」とも呼ばれています。

(サルミアッキ)
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 写真左が原形,右が半分にした様子です。

 約1cm角の大きさの平べったい飴で,深緑色をしています。

 広島市内のカフェで,お客様からのフィンランド土産を分けていただきました。

 外側の新緑色の部分が飴で,リコリス(甘草)というハーブが入っています。

 中の白いパウダーが塩化アンモニウムだと思います。

 飴の部分は,ほのかな甘味を感じ,ディルかフェンネルのような香りがしました。

 カフェでは,アニスの香りに近いというお話もありました。

 そして中のパウダーは,いろんな味が混ざった複雑な味がしました。

 イメージとしては,岩塩とうま味調味料と砂糖とタンサン(重曹)を一緒にして粉末にしたような,しょっぱくて,独特のうま味があって,甘みがあって,少し苦味も感じるような味でした。

 世界一まずいと感じるかどうかは人によりけりと思いますが,複雑な味が舌の上で長時間残ることは確かです。

 私は以前,黒いゴムのようなサルミアッキも食べたことがあるのですが,それはゴムか昆布飴のような食感・風味だったと記憶しています。

 サルミアッキはフィンランドで人気のお菓子だけに,種類も豊富にあるようです。


ヘルシンキ ソルティッド リコリス・チョコレート リンゴンベリー


 続いて,ダンメンベルグ(Dammenberg)社の「ヘルシンキ ソルティッド リコリス」とビオキア(Biokia)社の「チョコレート リンゴンベリー」を御紹介します。

 埼玉県飯能市の「メッツアビレッジ」内の北欧ショップで購入しました。

(ヘルシンキ ソルティッド リコリス・チョコレート リンゴンベリー(箱))
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 写真左が「ヘルシンキ ソルティッド リコリス」,写真右が「チョコレート リンゴンベリー」のパッケージです。

 ちなみに,この「ヘルシンキ ソルティッド リコリス」の箱の絵は,カフェの店主さんから,フィンランド・ヘルシンキの街と中央の筒状の建物が「テンペリアウキオ教会」だと教えていただきました。

(ヘルシンキ ソルティッド リコリス・チョコレート リンゴンベリー)
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 写真左が「ヘルシンキ ソルティッド リコリス」,写真右が「チョコレート リンゴンベリー」です。

 「チョコレート リンゴンベリー」は,その名称のとおり,乾燥させたリンゴンベリー(こけもも)にチョコレートをコーティングしたお菓子で,甘酸っぱいリンゴンベリーとチョコレートがよく合う,麦チョコみたいな形のお菓子でした。

 そして謎のお菓子「ヘルシンキ ソルティッド リコリス」です。

 「White chocolate with salty liquorice」ですから,「しょっぱいリコリス風味のホワイトチョコレート」なのでしょうが,「SALMIAKKI(サルミアッキ)」という言葉にやはり少し抵抗を感じました。

 そこで私がいただく前に,カフェの皆さんに試食をおすすめしました(笑)。

 すると意外に平気な様子でしたので,それならと私もいただきました(笑)。

 ホワイトチョコがベースなのですが,サルミアッキ風味が添加されているので,ホワイトチョコに岩塩とうま味調味料と砂糖とタンサン(重曹)が混ぜられたような,複雑な味のホワイトチョコでした。

 御興味がある方は,ぜひ味わってみてください。


<関連リンク>
 「日本-フィンランド外交関係樹立100周年」(駐日フィンランド大使館)
 「メッツアビレッジ・ムーミンバレーパーク」(埼玉県飯能市宮沢327-6)

<関連記事>
 「フィンランド料理の特徴と主な料理1 -日本フィンランド外交関係樹立100周年・ムーミンバレーパーク・フィンランドフェア-

2019年5月 3日 (金)

フィンランド料理の特徴と主な料理1 -日本フィンランド外交関係樹立100周年・ムーミンバレーパーク・フィンランドフェア-

日本フィンランド外交関係樹立100周年

 今年(2019年)は「日本フィンランド外交関係樹立100周年」にあたります。

 この記念すべき年を迎え,日本各地ではフィンランドにまつわる様々なイベントが実施されています。

 フィンランドと言えば,私はトーベ・ヤンソンのムーミンを思い出します。

 そこで今回,私は埼玉県飯能(はんのう)市に今年3月19日にオープンしたムーミンのテーマパーク「ムーミンバレーパーク」と,「フィンランドフェア」(2019年3月1日~5月31日)が開催されている東京・池袋の「タイムズ・スパ・レスタ」を訪問し,日本でフィンランドの世界を楽しんできました。


埼玉県飯能市・ムーミンバレーパーク

 広島から新幹線で東京駅へ,東京駅から東京メトロ丸ノ内線で池袋駅へ,池袋駅から西武鉄道池袋・秩父線に乗って飯能駅に到着しました。

(西武鉄道飯能駅とムーミンの駅名標)
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 飯能駅からムーミンバレーパークのある「メッツア」へはシャトルバスを利用しました。

 この日は雨が降っていたのですが,大勢の人で賑わっていました。

 私もムーミンバレーパークを散策し,ムーミンの世界を楽しみました。

(ムーミン屋敷(ムーミタロ))
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 レストランやショップでムーミンやフィンランドにまつわる料理・ドリンクが味わえるため,それも楽しみに訪問したのですが,ゴールデンウィーク期間中ということもあり,どのお店も長蛇の列で,待つにも240分待ちと気の遠くなるような時間だったので,今回はあきらめました。

 次に行く機会があれば,スナフキンの緑の帽子をイメージした「緑の帽子パスタ」や,「リンゴとプルーンの本格ローストポーク」などを味わってみたいです。

 パークには,飲食店やムーミングッズのショップはもちろん,ムーミンとトーベ・ヤンソンの企画展やムーミン世界の体験コーナーなど,数多くの施設・イベントがありました。

 「リトルミイの店」や「はじまりの店」には,リトルミイ・ムーミン・スナフキンの耳かきもありました(笑)


フィンランドフェアのフィンランドプレート

 翌日,東京・池袋のサンシャインシティ前にある「タイムズ・スパ・レスタ」を訪問しました。

 こちらのレストランで駐日フィンランド大使館商務部監修のフィンランド料理を味わいました。

(フィンランドフェア「フィンランドプレート」)
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 この「フィンランドプレート」は,今回のフェアで用意されているフィンランド料理をワンプレートで味わうことができるお得なセットです。

 フィンランドの人気ブランド「ペンティック」のお皿が使用されています。

 それでは個別に料理を御紹介します。


【ライ麦パンのオープンサンドとライ麦パン】

(ライ麦パンのオープンサンドとライ麦パン)
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 写真左がライ麦パンのオープンサンド,写真右がライ麦パンです。

 フィンランドなど北欧ではライ麦パンが主流で,どっしりとしたライ麦パンの上にいろんな具をのせたオープンサンドも好まれます。

 今回のオープンサンドは,レタス・トマト・オリーブの実・チーズなどがのせられていました。


【ジャガイモとソーセージのバター炒め】

(ジャガイモとソーセージのバター炒め)
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 ジャガイモとソーセージのバター炒めです。
 (プレートの中にあり,わかりにくくて申し訳ありません)

 フィンランドはパンと並んでジャガイモも主食となっています。

 ソーセージがジャガイモに負けず大きくて,食べ応えがありました。


【鹿肉のペッパーグリル リンゴンベリーソース添え】

(鹿肉のペッパーグリル リンゴンベリーソース添え)
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 フィンランドでは,鹿やトナカイ,ウサギなども食べられます。

 鹿は少しクセのある肉ですが,写真手前の甘いリンゴンベリー(こけもも)のソースを添えていただくと,美味しくいただけました。

 まさかフィンランドのサンタクロースさんもトナカイを食べて…(笑)


【牛肉の煮込み】

(牛肉の煮込み)
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 牛肉をビーツと一緒にやわらかく煮込んだ料理です。

 フライドポテトも添えられていました。


【サーモンのグリル ホワイトソース仕立て】

(サーモンのグリル ホワイトソース仕立て)
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 サーモンはフィンランドで好んで食べられる魚で,それをオーブンでパリッとグリルして,ホワイトソースをかけた料理です。

 ホワイトソースにはキドニービーン(赤いんげん豆)などの豆が入っており,これもフィンランド料理の特徴の1つなのだそうです。


【ベリーソースのチーズケーキ】

(ベリーソースのチーズケーキ)
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 デザートとして,ベリーソースのかかったチーズケーキをいただきました。

 レアチーズケーキに似た白いフワフワしたケーキ生地で,甘酸っぱいベリーソースとよく合いました。


リンゴンベリーのドリンク

 フィンランドは国土の7割以上が森で覆われていることもあり,ベリーが豊富に採れます。

 ブルーベリーに似た「ビルベリー」や,「こけもも」とも呼ばれる「リンゴンベリー」が代表的なベリーです。

 今回のフェアでは,この2つのベリーのドリンクが用意されており,フィンランドプレートのセットドリンクにもなっていたので,私はリンゴンベリーのドリンクをお願いしました。

(リンゴンベリーのドリンク)
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 イチゴシロップかザクロジュースに近いイメージですが,野イチゴのような独特の風味も感じました。

 ほどよく酸味が効いた,すっきりした甘さのドリンクでした。


フィンランドは面白い

 フィンランドフェアの会場で,駐日フィンランド大使館が作成された冊子のパンフレットをいただいたのですが,その内容がとても面白かったので,少し御紹介したいと思います。

(フィンランド紹介パンフレット表紙)
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駐日フィンランド大使館「FINLAND」から引用

 いきなり「もい!」って何?と思いますが,これは「やあ!こんにちは」という意味で,「もいもい」と続けると逆に「バイバイ!」という意味になるそうです。

 これはパンフレットの「フィンたんのフィンランド語講座」に説明されています。

 私は高校時代,音楽でシベリウスの「フィンランディア」の歌を習い,その歌詞に出てくる「スオミ」の意味もわからず歌っていましたが,この講座で改めて「スオミ」が「フィンランド」という意味だと理解できました。

 そして,さらに面白いのが「絵文字で見るフィンランド」です。

 フィンランド外務省がフィンランドの特徴をイラストで表現した「絵文字スタンプ」として発表しているものです。

 駐日フィンランド大使館セレクションの絵文字スタンプの一部を御紹介します。

(失敗を祝う日)
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駐日フィンランド大使館「FINLAND」から引用

 説明文:「フィンランドでは10月に『失敗を祝う日』があります。失敗なくして成功はありえないという気持ちから生まれた日です」
 
 とてもユニークな日があるのですね。

 次に,

(真冬に鉄をなめる子ども)
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駐日フィンランド大使館「FINLAND」から引用

 説明文:「フィンランドの子どもはたいてい,真冬に鉄をなめる衝動に襲われ,はがれなくなる経験を一度はしています」
 
 何となくわかる気が…(笑)

 そして,

(パーソナルスペース重視の行列)
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駐日フィンランド大使館「FINLAND」から引用

 説明文:「フィンランド人はパーソナルスペースを大事にします。バスに並ぶときもこんな感じです」

 ホントですかぁ?(笑)


 こうした楽しい絵文字スタンプが30種類以上紹介されています。

 フィンランドについて楽しく学べる優れたパンフレットだと思います。


まとめ

 今回御紹介したイベントのほかにも,「日本フィンランド外交関係樹立100周年」を記念して,日本各地で様々なイベントが開催されます。

 皆さんもこの機会に「♪はずかしがらないで~ モジモジしないで~」フィンランドとムーミンの世界を楽しんでみられてはいかがでしょうか。

 ねぇ,ムーミン(笑)


<関連リンク>
 「日本-フィンランド外交関係樹立100周年」(駐日フィンランド大使館)
 「ムーミンバレーパーク」(埼玉県飯能市宮沢327-6 メッツァ内)
 「ムーミン公式サイト
 「タイムズ・スパ・レスタ」(東京都豊島区東池袋4-25-9 タイムズステーション池袋10階~12階)

<参考文献>
 駐日フィンランド大使館「FINLAND」

2019年4月13日 (土)

ポーランド料理の特徴と主な料理 -ピエロギ・ビゴス風スープ・チョコとベリーのケーキ,食の多様化と食堂車-

 バルト海に面した東欧の国ポーランド。

 正式名称は「Polska(ポルスカ)」で,「ポーレ人の国」という意味を持ちます。

 この「ポーレ」という言葉は古スラブ語で「平原」を意味する「Polie(ポリエ)」に由来するもので,その名のとおり,ポーランドは広大な平原が続く国です。

 東欧に位置し,平原が続くポーランドは,農地に適した土地に恵まれる一方で,どこからでも入ることができたことから,かつてはロシア・プロイセン・オーストリアに三分割される(ポーランド分割)など,国が分割・消滅を繰り返す悲劇の時代もありました。

 こうした地理的要因・歴史的背景は,ポーランドの食文化にも影響しています。

 ポーランド料理は,スラブ系をはじめとして,ドイツ,フランス,イタリア,モンゴル,ユダヤ系,アラブ系,そして中国に至るまで,様々な食文化の影響を受けているのです。

 また,ポーランドの料理は「酸味」も大きな特徴の1つです。

 酸味のある千切りキャベツの漬物「ザワークラウト」がスープや料理・前菜として多用されたり,サワー種特有の酸味と風味があるライ麦パンが食事に合わせられたり,リンゴやベリーなど果物をジャムやジュース・コンポートにして多く食べられるなど,酸味はポーランド料理をはじめとするスラブ系料理のベースの1つとなっています。


ポーランドの食堂車ごはん

 広島市内のカフェでポーランド料理が味わえるイベント「ポーランドの食堂車ごはん(Polski Lunch)」があったので,参加しました。

 ポーランドの列車の食堂車に乗ったような気分で,ポーランドの代表的な料理を味わいました。

(ポーランドの食堂車ごはん)
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 写真右上が「サニーサラダ」,そして時計回りに「ピエロギ」,そして赤いスープ皿に入った「ビゴス風スープ」です。

 写真には写っていませんが,ライ麦パンがセットでした。

【サニーサラダ】
 サニーレタス,ゆで卵,キュウリ,ニンジンなどのサラダです。
 バルサミコ酢で味が調えられていました。

【ピエロギ】
 ピエロギは,ポーランド版の餃子です。
 この料理は,中国の食文化の影響を受けていると考えてよいでしょう。
 このピエロギ以外にも,ロシアの「ペリメニ」,ウクライナの「ヴァレーニキ」,ジョージア(グルジア)の「ヒンカリ」,トルコの「マンティ」,イタリアの「ラビオリ」,ネパール・ブータンの「モモ」,モンゴルの「バンシ」,韓国の「マンドゥ」,そして日本の「餃子」など,ユーラシア大陸には中国の餃子をルーツとする具を小麦粉の皮で包んだ料理が数多く存在します。
 今回のピエロギは,ベジタリアンにも対応した,野菜のみの具で提供していただきました。
 もしこれに豚のひき肉も加わったら,いわゆる水餃子です。
 ポーランドでは,ピエロギの具として,レッドキドニー,ソラマメ,レンズ豆,ジャガイモ,ザワークラウト,キノコ,蕎麦のカーシャ,ブルーベリーなど様々な具材が使われているようです。

【ビゴス風スープ】
 ビゴスは,日本で言う味噌汁のような,ポーランド料理に欠かせない定番のスープです。
 ポーランドの各地域・各家庭により,具材や味付けも千差万別です。
 ザワークラウトと肉(豚肉・牛肉など)・ソーセージの組み合わせが基本となります。(古くは魚・ザリガニ・野生動物の肉なども具材となったようです。)
 ザワークラウトが使われるため,酸味が効いたスープとなります。
 今回いただいたビゴス風スープは,ザワークラウトと豚肉を基本にしたトマト風味のスープでした。
 スープに浮かべられたディルは,ポーランドや旧ソ連の国々でスープやシチューに幅広く使われています。
 ビゴスはパンとセットでいただくのが一般的で,今回はライ麦パンと一緒にいただきました。


チョコとベリーのケーキ

 デザートにチョコとベリーのケーキをいただきました。

(チョコとベリーのケーキ)
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 ココアが入ったスポンジケーキ(チョコケーキ)にホイップクリームとベリーが添えられています。

 鮮やかな赤色のベリーは,「フサスグリ(レッドカーラント)」だと教えていただきました。

 甘さ控えめでほろ苦いチョコケーキに,ホイップクリームや甘みと酸味の効いたベリーがよく合いました。


日本とポーランドの鉄道つながり

 日本とポーランドの鉄道つながりのお話を1つ御紹介します。

 日本は明治から昭和のはじめにかけて,世界各国から鉄道のレールを輸入していました。

 その1つがポーランドのレールでした。

 かつて日本では,ポーランドのクロレウスカ社製のレールを輸入し,鉄道建設が進められたのです。

 このほかにも,フランスのミッシュビル社,ベルギーのコックリル社,アメリカのカーネギー社,ルクセンブルクのテレス・ルージュ社,ロシアのブリヤンスク社など世界各地からレールを輸入し,日本の鉄道網は構築されました。


食の多様化と食堂車

 ポーランドなどヨーロッパの鉄道には,長距離列車に限らず食堂車が連結されている列車が多く存在するそうです。

 一方,日本では,鉄道の高速化や中食・テイクアウト食品の普及に伴い,食堂車は減少の一途をたどっています。

 日本では,もはや食堂車に魅力を感じる人々がいなくなっているのでしょうか。

 私はそうではないと思います。

 食の多様化は,中食・テイクアウト食品の普及を促す一方で,食の高級志向・エンターテイメント志向・非日常性志向をも促しているからです。

 大衆的な食堂車が減少する一方で,一部の豪華寝台列車・イベント列車の食堂車が高い人気を得ているのも,こうした食の多様化に応じた1つの現象と言えるでしょう。

 車窓から流れゆく景色を眺めながら食事することができる食堂車は,乗客のお腹を満たすだけでなく,心をも満たしてくれる空間であり,これも鉄道文化の1つなのです。

 最近では,JR東日本の「TOHOKU EMOTION」や,西日本鉄道の「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」,広島電鉄の「TRAIN ROUGE」など,豪華寝台列車レベルではなく,もっと気軽に,ちょっぴり贅沢で非日常的な気分が味わえる食事空間としてのイベント列車も増えてきています。

 今回私はお店で「ポーランドの食堂車ごはん」を味わったのですが,こうした世界の食堂車ごはんを日本の食堂車(イベント列車)で味わえるような企画も面白そうです。


<関連サイト>
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)
 「TOHOKU EMOTION」(JR東日本)
 「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」(西日本鉄道)
 「TRAIN ROUGE」(広島電鉄)

<参考文献>
 21世紀研究会編「地名の世界地図」文春新書
 池田邦彦「山手線ものがたり」日本文芸社
 永松潔・高橋遠州「テツぼん 7」小学館
 沼野恭子編「世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理」東京外国語大学出版会
 マグダレナ・トマシェフスカ=ボラウェク「ポーランド料理道」Hanami Radoslaw Bolalek

2019年3月16日 (土)

イラン料理の特徴と主な料理 -セカンジャビン・シャルバット,トルシ,ククサブジ,バルバリ,パニール,イランのお菓子-

 東京で世界各国の朝ごはんが味わえるお店「World Breakfast Allday(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)」外苑前店を訪問しました。

 2019年2月,3月はイランの朝ごはんが特集されていました。


セカンジャビン・シャルバット

 朝ごはんをいただく前に,お店の方にイランのドリンクについて尋ねたところ,「セカンジャビン・シャルバットはいかがでしょう」とお話いただいたので,このドリンクを注文してみました。

 酢とミントで作られた「セカンジャビン」と呼ばれるシロップが入ったドリンクです。
(イランではドリンクのことを「シャルバット」と呼び,この名称は「シャーベット」の語源ともなっています。)

(セカンジャビン・シャルバット)
Photo

 ミントの葉ものせられています。

 程よい甘さの,さっぱり,スッキリとしたドリンクで,梅酒かベリー系リキュールを炭酸水で割ったような風味でした。

 イランと言えばバラ水(ローズウォーター)も有名で,飲用だけでなく,料理やお菓子の香り付け・メイクなどにも幅広く使われています。


イランの朝ごはん

 続いてイランの朝ごはんプレートが運ばれてきました。

(イランの朝ごはんプレート)
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 プレートの上側が「野菜サラダ」と「トルシ」,それから時計回りに緑色のオムレツ「ククサブジ」,手前が「ナン(バルバリ)」,小皿に入った「生クリームとはちみつ」,中心には白いチーズ「パニール」が盛り付けられています。

【野菜サラダとトルシ】
 ベビーリーフ・トマト・ラディッシュ・クルミなどの野菜サラダと,「トルシ」と呼ばれる漬物(ピクルス)のセットです。
 トルシは,オリーブの実とミニキュウリ(ガーキン)でした。

【ククサブジ】
 野菜とハーブ入りのオムレツ「ククサブジ」です。
 「クク」はオムレツ,「サブジ」は野菜(料理)という意味です。
 上に飾られた赤い実はラズベリーです。
 イラン原産のホウレンソウをはじめとする野菜やハーブがたっぷり入っており,本来は黄色いはずのオムレツが濃い緑色に仕上がっていました。
 ハーブは主に乾燥ハーブを使われたそうです。

【ナン(バルバリ)・生クリームとはちみつ】
 イランの主食「ナン」です。
 今回のナンは「バルバリ」と呼ばれる,大きなわらじのような比較的厚みのあるナンでした。
 パリッと香ばしいナンを小皿に入った生クリームや甘いはちみつと一緒にいただくと,「ナンなんだこのうまさは」と思えるほど美味しかったです。

【パニール】
 中央の白い塊は「パニール」と呼ばれるチーズです。
 クセがなく食べやすいチーズで,サラダやナンと一緒にいただきました。


イランのデザートプレート

 イランのデザートプレートも注文しました。

(イランのデザートプレート)
Photo

 皿の一番上が「サフラン風味のアーモンドタフィー」,以降時計回りに,「ローズウォーター&カルダモン風味のミルクプリン」,「イラン産のデーツ」,「ハルワ」,「サフランアイスクリーム」です。

【サフラン風味のアーモンドタフィー】
 細かく刻んだアーモンド入りのタフィー(トフィー)です。
 緑色のピスタチオ(イランは世界有数のピスタチオ生産国です)も添えられています。
 板状のキャラメルと香ばしいアーモンドのお菓子です。

【ローズウォーター&カルダモン風味のミルクプリン】
 イランでよく使われるローズウォーターとカルダモンを使ったミルクプリンです。
 シナモンパウダーがかけられています。
 私はミルクが苦手なのですが,バラやカルダモンの香りがする上品なミルクプリンに仕上がっており,美味しくいただくことができました。

【イラン産のデーツ】
 ドライフルーツの1つ干しデーツ(ナツメヤシの実)です。
 私は「神戸ムスリムモスク」でもこの干しデーツを見かけたことがあるのですが,それだけイスラム圏ではポピュラーな食べ物です。
 また,デーツはそのコク深い甘さから,お好みソースの原材料に採用している広島のメーカーもあります。

【ハルワ】
 ハルワは,バターで小麦粉をじっくり炒め,しっかりとかためたお菓子です。
 バラとピスタチオが飾られています。
 カボチャかサツマイモの甘いあんこ,もしくはスイートポテトをかたく丸めたような食感・風味のお菓子でした。

【サフランアイスクリーム】
 サフラン入りアイスクリームです。
 ピスタチオと生クリームを冷凍した白いアイスが添えられています。
 サフランは世界一高価なハーブ・スパイスとして有名ですが,イランではアイスクリームや「チェロウ」と呼ばれる黄色いバターライスなど,料理やお菓子に幅広く使われています。
 サフランの色や香りを楽しめるアイスクリームでした。


 イランの朝ごはんプレートだけでなく,イランのドリンクやデザートプレートもいただき,とても豪華な朝食となりました。


<関連リンク>
 「World Breakfast Allday」(東京都渋谷区神宮前3-1-23-1F(外苑前店)ほか)
 「デーツとは~お好みソースとデーツの深い関係~」(オタフクお好みソース)

<関連記事>
 「ギリシャ料理の特徴と主な料理2 -ティロピタ・グリークサラダ・ギリシャヨーグルト・フルーツ・ガラトピタ-

<参考文献>
 沼野恭子編「世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理」東京外国語大学出版会

2019年3月 9日 (土)

ウズベキスタン・キルギス料理の特徴と主な料理 -ノン・ラグマン-

シルクロードベーカリーと中央アジア料理店

 埼玉県春日部市にウズベキスタンのパン屋さんがあります。

 「Silkroad Bakery SHER(シルクロードベーカリー シェル)」というお店です。

 興味を持ってインターネットでお店の情報を調べてみると,この春日部のお店に加えて,今年(2019年)2月22日,東京・高田馬場に新しく中央アジア料理とパンが味わえるお店をオープンされたことを知りました。

 そこで,私は開店して間もない東京のお店に伺い,ウズベキスタン・キルギス料理をいただくこととしました。

(「Vatanim(ヴァタニム)」)
Vatanim

 お店の看板には,シルクロードの風景とともに,ウズベキスタンとキルギスの国旗も描かれています。

 オープン直後ということもあり,夕方早い時間にもかかわらず,店内はほぼ満席でした。

 お客さんは私以外は全て中央アジア出身の方で,店内は店名の「Vatanim(ヴァタニム)」(「ふるさと」という意味)のように,皆さんとても盛り上がってお食事を楽しんでおられました。

 後から来た私のためにカウンター席を空けていただき,皆さんと一緒に食事をさせていただきました。

 私の隣の方は東京・小平市から車で春日部のベーカリーへ通われているようで,高田馬場にもお店ができたことを喜んでおられました。
 
 その方から私は,「どうやってこの店を知ったのか」,「中央アジアに行ったことがあるか」,「なぜノンを知っているのか」などいろんな質問を受け,会話が弾みました(笑)

 今回私は,ミニサイズのパン「ノン」と中央アジアの代表的な麺料理「ラグマン」を注文しました。

 メニューには「トゥヴァロージニィレモンケーキ」と呼ばれるレモンケーキもあったのですが,この日はなかったので,次回のお楽しみとなりました。


ノン

 ウズベキスタン,キルギスなど中央アジアで食べられているパン「ノン」です。

(ノン)
Photo

 パンの表面の黒いゴマのようなのは,ブラッククミン(ブラックシード)です。

 「ノン」の特徴は,生地を一次発酵のみか短時間の発酵で済ませてずっしりと食べ応えのあるパンに仕上げられること,生地を「タンディール」(タンドール)と呼ばれる釜で焼き上げられること,そして,パンの表面に独特な幾何学模様がつけられることにあります。

 パンの模様は「チェキチ」と呼ばれる金属の型でつけられます。

 今回私はミニサイズのノンを注文しましたが,それでも結構な大きさがあり,レギュラーサイズのノンはそれだけでお腹一杯になりそうなほどの大きさでした。

 主食用としてシンプルな味つけなので,そのまま食べても,スープなどと一緒に食べても美味しいです。


ラグマン

 ウズベキスタンやキルギスなど中央アジアで広く食べられている料理の1つに「ラグマン」という麺料理があります。

 中央アジアで麺料理,とりわけ日本のうどんのような麺料理が食べられていることに興味を持ち,このラグマンを注文しました。

(ラグマン)
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 うどんのような太めの小麦麺に,肉(羊・牛)と野菜(パプリカ,玉ねぎ,セロリ,インゲンなど)のスープがたっぷりとかけられ,仕上げに香菜(パクチー)がのせられています。

 スープは,ラタトゥイユやシルクロードのイスラム圏で食べられているスープ「シュルパ」に近いと思いました。

 クミンや唐辛子といったスパイスも使われています。

 お店に箸は用意されてなかったので,麺をフォークでクルクル巻いていただきました。


中央アジアに麺料理がある理由

 麺を食べる文化は,中国とその食文化の影響を受けた東アジア・東南アジア,パスタを中心としたイタリア,それに中東から北アフリカにかけてのイスラム圏が中心です。

 ヨーロッパではイタリアで突出して麺(パスタ)が食べられている状況ですが,これは中国の麺がペルシャ商人やアラブ人によって中央アジア経由でイタリアにもたらされたからとする説が有力となっています。

 中央アジアにラグマンをはじめとする麺料理が存在する理由も,こうした食の伝播の結果だと言えるでしょう。

 そういう観点からも,「ラグマン」という言葉が,中国で手延べ麺を意味する「拉麺(ラアミエン)」を起源とする言葉だとする仮説は説得力があり,興味深いです。


まとめ

 中央アジアはロシア・中国・中近東・インドなどに囲まれた一帯で,シルクロードの主な中継地でもあることから,「文明の十字路」と呼ばれています。

 食においても,ペルシャ圏から伝わった「ノン」・「ナン」,炊き込みご飯「プロフ」,中国から伝わった麺を用いた「ラグマン」,イスラム圏から伝わった串焼肉「シシケバブ」,インドなど南アジアから伝わった各種スパイスなど,様々な食文化が中央アジアに集結しているのです。

 中央アジアの多様な食文化は,ユーラシア大陸全般の食文化の縮図とも言えるでしょう。


<関連サイト>
 「Vatanim(ヴァタニム)」(東京都新宿区高田馬場3-33-3)
 「本場の「ノン」が埼玉にあった!! 中央アジアのパン事情/2」(「丸ごと小泉武夫マガジン」)
 「美しき中央アジアのパン「ノン」が日本で売り切れ続き!? 春日部『シルクロード ベーカリー シェル』」(dressing)
 「レモンのトゥヴァロージニィケーキ」(「明治ブルガリアヨーグルト倶楽部」)

<関連記事>
 「アルメニア・ウズベキスタン・ロシア・モルドバのスープとパン

<参考文献>
 石毛直道「世界の食べもの 食の文化地理」講談社学術文庫
 石毛直道・森枝卓士「考える胃袋」集英社新書
 佐原秋生・大岩昌子「食と文化の世界地図」名古屋外大新書

2019年2月23日 (土)

アルメニア・ウズベキスタン・ロシア・モルドバのスープとパン

 広島市内のカフェで,旧ソ連の国の朝食(スープとパン)を味わう企画がありました。

 世界各国を訪問され,とりわけ旧ソ連の国がお好きな店主さんに御紹介いただきながら,各国の朝食を味わいました。

 今回御紹介するスープ・パンはアルメニア・ウズベキスタン・ロシア・モルドバの料理ですが,まずは各国の位置関係を確認しておきましょう。

(アルメニア・ウズベキスタン・ロシア・モルドバ)
Photo
※画像をクリックすると拡大します。
荻野恭子「ロシアのスープ」東洋書店 表紙裏を引用(一部加工)

 東ヨーロッパから中央アジアにかけて,国の料理がバランスよく選択されていることがわかります。


アルメニアの「レンズ豆のスープ」とコーカサス地方のパン

 アルメニアはアゼルバイジャン・ジョージア(グルジア)とともにコーカサス地方に位置する国です。

 住民のほとんどがアルメニア人でキリスト教徒(アルメニア正教)です。

 アルメニアを代表するスープとして,丸く平べったいレンズ豆がたっぷり入ったスープをいただきました。

(レンズ豆のスープとコーカサス地方のパン)
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 レンズ豆が主体のスープという点で,トルコ料理の「メルジメッキ・チョルパス」やインド料理の「ダル・スープ」ともよく似ています。

 今回のスープの具は,レンズ豆,鶏肉,玉ねぎ・ジャガイモなどの野菜,ディル,パセリなどでした。

 スープのベースには,トマトペーストとパプリカが使われていました。

 パンは同じくコーカサス地方の平たく丸いパンです。


ウズベキスタンの「モシュホルダ」と「ノン」

 ウズベキスタンは中央アジア(カザフスタン,キルギスタン,タジキスタン,ウズベキスタン,トルクメニスタン)に位置する国です。

 中央アジアには「~スタン」という国名が多いですが,これはペルシャ=トルコ系特有の地名接尾辞で,「~の国(広範な地域)」という意味を持ちます。

 ウズベキスタンは,トルコ系遊牧民ウズベク人の国という意味で,イスラム教徒のウズベク人が多くを占める国です。

 そんなウズベキスタンの代表的なスープが「モシュホルダ」です。

(モシュホルダとノン)
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 モシュは緑豆,ホルダは米のスープという意味です。

 具は緑豆と米が基本で,それに肉や野菜が加えられます。

 中央アジアは,旧ソ連の支配下にあった影響で,イスラム教徒でありながら豚肉を食べる,飲酒をするといった食文化もみられます。

 今回のモシュホルダも豚肉が使われていました。

 中央アジアでは米を使った料理も多いのですが,モシュホルダのようにスープに米が入れられる理由は,スープにとろみを出すためなのだそうです。

 クミン(シード)を入れられるのも特徴の1つで,カレーのような香りがするスープでした。

 パンは同じくウズベキスタンの「ノン」と呼ばれるパンで,結局はパンという意味なのだそうですが(笑),平たいパンで,表面にはブラッククミン(ブラックシード)がかけられていました。


ウズベキスタンの「シュルパ」と「ナン」

 続いてウズベキスタンのスープを御紹介します。

 ウズベキスタンの「シュルパ」です。

(シュルパとナン)
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 「シュルパ」は(羊の)スープという意味で,シルクロードのイスラム圏で食べられているスープです。

 羊とクミンの組み合わせが特徴となっています。

 今回のシュルパの具は,羊肉(ハラルフード),玉ねぎ,ジャガイモ,ピーマン,クミン,赤唐辛子,香菜(パクチー)などでした。

 ロシア,中国,インド,中東各国など近隣諸国の影響も受けており,クミンや赤唐辛子などのスパイスも使われています。

 私は,「ウズベキスタンやタジキスタンのバザールで朝鮮半島のキムチが売られているのはなぜか」と疑問に思っていたのですが,当日カフェで同席した方に旧ソ連の歴史にお詳しい方がおられ,その方から「スターリン体制下の強制労働により,朝鮮半島から移住してきた人々によって伝えられたから」だと教えていただきました。

 パンは一次発酵のみで焼き上げた「ナン」です。


ロシアの「ウハー」とライ麦パン

 ロシアは川や湖沼が多く,内陸部でも魚料理がよく食べられます。

 そんなロシアを代表する魚のスープが「ウハー」です。

 魚は,カワカマス,ヒラメ,鯛,スズキ,タラ,鮭などが用いられます。

(ウハーとライ麦パン)
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 今回のウハーの具は,タラ,干しダラ,ジャガイモ,クレソンなどでした。

 干しダラのスープと言えば,韓国・朝鮮料理の「プゴク」が有名ですが,その干しダラからよい出汁が出ていました。

 パンはライ麦パンです。


モルドバの「金時豆とベーコンのスープ」とライ麦パン

 
モルドバは,ウクライナやベラルーシとともに東ヨーロッパに属する国です。

 民族や言語は,隣のルーマニアと同じであり,オスマントルコ,ロシア(ソ連),ルーマニア間で支配・併合が繰り返されてきた歴史があります。

 今回,モルドバを代表するスープとして「金時豆とベーコンのスープ」をいただきました。

(金時豆とベーコンのスープとライ麦パン)
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 このスープは,トマトベースのスープで,具は金時豆(レッドキドニー),ベーコン,玉ねぎなどが使われていました。

 ニンニクと香菜(パクチー)がきいた,元気が出るスープでした。

 パンはライ麦パンです。


まとめ

 今回はロシアや旧ソ連のスープを御紹介しましたが,その範囲は東ヨーロッパから黒海やカスピ海を有するコーカサス地方を経て中央アジアまでと広範囲にわたり,気候・民族・文化・宗教など実に様々です。

 記事の締めくくりに,ロシア・旧ソ連諸国にちなんだ私の好きな曲を御紹介したいと思います。

 ロシアの作曲家アレクサンドル・ボロディンの「ダッタン(韃靼)人の踊り」(ボロヴェッツ人の踊り)です。

 ボロディンのオペラ「イーゴリ公」の曲です。

(ボロディン オペラ「イーゴリ公」より「韃靼人の踊り」 )


 美しく透き通るような旋律から,異国情緒やノスタルジー,もの悲しさまで感じとれます。

 お店では,旧ソ連構成国の国歌メドレーを流していただいたり,有名なロシア民謡「カチューシャ」をロシア語でお歌いになられた方もおられ,盛り上がりました。

 日本ではまだあまり知られていない国も多いですが,様々な民族,文化,宗教が融合した魅力いっぱいの国ばかりです。


<関連サイト>
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)
 「Da bin ich! -わたしはここにいます-」(「Cafe Igel あかいはりねずみ」店主のブログ)


<参考文献>
 荻野恭子「ロシアのスープ」東洋書店
 荻野恭子「大地が育むユーラシアの味 ロシアの郷土料理」東洋書店
 21世紀研究会編「地名の世界地図」文春新書

2019年1月 5日 (土)

ドイツ料理の特徴と主な料理 -シュバルツヴァルトとドイツ音楽-

ドイツの食文化

 ドイツは森の国と呼ばれています。

 ドイツの豊かな森が,「ヘンゼルとグレーテル」などグリム童話をはじめとする文学を育み,オペラなどの音楽を育み,豚などの家畜を育んでドイツ人の食を支えてきたと言えるでしょう。

 ドイツは丘陵地帯が多く,冬の寒さが厳しいため,ジャガイモやライ麦・大麦などの野菜・穀物の栽培が中心となり,畜産は豚の飼育が中心となって食文化が形成されてきました。

 ドイツ料理と言えば,豚肉料理,パン(※),ジャガイモ料理,ビールなどが有名ですが,これらは全てドイツの地理的環境によるところが大きいのです。
 ※ドイツのパン(ブロート)は,寒さに強いライ麦などの雑穀を混ぜて作られることが多く,あまり膨らまないため,褐色を帯び,酸味があり,重厚で詰まった食感のパンが多い。

 また,豚肉を加工したハム(シンケン)・ソーセージ(ヴルスト)や,キャベツを漬物にしたザワークラウトなど,限られた食料を長期に保存するための工夫もなされ,伝統的なドイツ料理として現代に受け継がれています。

 そして,ドイツで忘れてはならない食材がホワイトアスパラガスです。

 ホワイトアスパラガスはドイツに春を告げる最も代表的な食材であり,各地でアスパラガス祭りも行われています。


「黒い森の夜」イベント参加

 ドイツの南西部,フランス・アルザス地方に隣接する地域の森や山地は,「黒い森(シュバルツヴァルト,Schwarzwald)」と呼ばれています。

 この地域にちなんだお酒や食事が楽しめるイベントが広島市内のカフェであったので,興味を持って参加させていただきました。


ヴルツェルペーター(ジンジャーペーター)

 ヴルツェルペーター(Wurzel Peter)は,ハーブ入りのリキュールです。

 私はジンジャーエールで割ったジンジャーペーターをいただきました。

(ヴルツェルペーター(ジンジャーペーター))
Photo

 ビンにはグリム童話に登場しそうな赤い帽子をかぶったおじいさんの絵がありますが,アルコール度数35度の強いお酒です。

 シナモン,アニス,コリアンダーなど多くのハーブ・スパイスが入ったリキュールで,味・風味は,小児用かぜシロップに近いとか,養命酒などの薬用酒の味に近いという話が出ました。

 私は小児用かぜシロップの味は好きなので,ジンジャーエール割(ジンジャーペーター)を美味しくいただきました。

 翌日,職場でヤクルトのタフマン(高麗人参エキス入り)を飲んだのですが,このタフマンをジンジャーエールで割っても近い味になるように思います(笑)


ドイツ料理プレート

 黒い森のイベントで用意されたドイツ料理プレートです。

(ドイツ料理プレート)
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 写真中央が「黒い森のじゃがいもスープ」,左上のパンが「ライ麦パン」,その右隣が「キャベツのサラダ」,右上が「アイスバイン」です。

 それぞれの料理を御紹介します。

【黒い森のじゃがいもスープ(シュヴァルツヴェルダー・カルトッフェル・ズッペ)】 
 「シュヴァルツ」が「黒」,「ヴェルダー(ヴァルト)」が「森」,「カルトッフェル」が「じゃがいも」,「ズッペ」が「スープ」という意味です。
 じゃがいも,玉ねぎ,人参,キャベツ,ハム,ソーセージなどの具が入った澄んだスープです。
 このスープがなぜ「黒い森」という名前なのか,店主さんに伺ってみると,スープの具に「シュヴァルツヴェルダー(シンケン)」と呼ばれるハムが用いられるからなのだそうです。

【ライ麦パン(ロッゲンブロート)】
 ライ麦(ロッゲン)入りのパンで,ドイツの代表的なパンの1つです。
 褐色で,サワー種が使われるため多少酸味もあります。
 ドイツに留学された方のお話では,これがまさにドイツの日常のパンなのだそうです。

【キャベツのサラダ(コールサラダ)】
 キャベツ,人参,玉ねぎなどを合わせたキャベツのサラダです。
 ドイツのキャベツ料理と言えば「ザワークラウト」と呼ばれるキャベツの漬物(千切りキャベツを塩やキャラウェイシードなどの香辛料で漬けた漬物)も有名で,ソーセージ(ヴルスト)やアイスバインの付合せとしても用いられます。

【アイスバイン】
 アイスバインは豚のすね肉を数種類の野菜とともに煮込んだドイツの代表的な料理の1つです。
 皮までゼラチン質になっています。
 すね肉を煮込んでいるので脂身はほとんどなく,弾力があります。
 写真左上の小皿はバターと甘いベリーソースなのですが,この甘いベリーソースと一緒にアイスバインを食べるのがドイツの食べ方のようです。
 オーストリアのウィンナーシュニッツェル(カツレツ)と甘いベリーソースの組み合わせもそうですが,肉と甘い果実ソースの組み合わせは,実際に食べてみると美味しいというのが私の感想です。


黒い森のケーキ(シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ)

 「キルシュ」は「サクランボの蒸留酒」,「トルテ」は「ケーキ」という意味です。

 ドイツではケーキを横に倒し,ケーキにフォークを刺した状態でお客さんに提供されるようで,今回もケーキを倒して出していただきました。

(黒い森のケーキ(シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ))
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 ココアパウダー入りの黒いケーキにキルシュ(ワッサー)入れて煮詰めたチェリーと生クリームをはさんだケーキです。

 チョコ(ココアパウダー)の見た目が黒く,シュバルツヴァルトの森ではチェリーがたくさん採れることから,「黒い森のケーキ」と呼ばれています。


ドイツの音楽

 お酒を飲み,食事しながら,集まったメンバーでドイツの話題で盛り上がりました。

 食文化だけでなく,ドイツ語,車,カメラ,サッカーなどいろんな話で盛り上がりましたが,一番盛り上がった話題は音楽でした。

 店主さんを含め,クラシック音楽好きな人が多かったからです。

 自ら「クラオタ」(クラシックオタク)とか,さらに上の「クラ変」(クラシック変態)だとおっしゃるぐらいでしたので,相当なクラシックファンなのでしょう。

 3B(バッハ,ベートーベン,ブラームス)とか,ブラームス派とワグナー派とか,ロマン派のメンデルスゾーンとか,クラシック音楽のいろんな話が出ました。

 私は…バッハと言えば「主よ,人の望みの喜びよ」,ベートーベンと言えばどん兵衛のCMで知った「第九」,ブラームスはピンとこないし,ワグナーは「ワルキューレの騎行」と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」,メンデルスゾーンに至っては「ほら,結婚式で定番の『結婚行進曲』!」と言われてはじめてわかる程度の知識でした。

 「でもこの歌ならドイツ語で歌える」と,恥ずかしげもなく私はベートーベン作曲の「Ich liebe dich(イッヒ・リーベ・ディッヒ)」を皆さんの前で歌わせていただきました。

 ブラームスの曲って何があるのだろうと思い,後日調べてみると,1つだけ私の知っている好きな曲がありました。

 ブラームスの「大学祝典序曲」です。

 この曲は,初めて生でオーケストラを聴いた時に最も印象に残った曲でした。

 エルガーの「威風堂々」にも似た,誇り高さや勇ましさを感じるのです。

(ブラームス「大学祝典序曲」)


 私は受験時代「大学受験ラジオ講座(ラ講)」を聴いて勉強していたのですが,この「大学祝典序曲」はそのオープニング曲で使われたことでも有名です。(動画4:30から4:46にかけての音楽です。)

 黒い森をさまようような受験時代に聴いた曲,だから印象に残っているのかも知れません(笑)


まとめ

 ドイツの食文化と音楽を中心にまとめさせていただきましたが,改めてドイツの魅力・奥深さを感じたように思います。

 今年(2019年)は,広島・似島で日本初のバウムクーヘンが誕生して100周年を迎える年でもあり,広島もドイツの話題で盛り上がりそうです。


<関連サイト>
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)

<関連記事>
 「「バウムクーヘン博覧会」 -広島からはじまる日本のバウムクーヘンの歴史-
 「聖マルティンの日とドイツのヴェックマン(パイプマン)
 「オーストリア料理の特徴と主な料理1 -カイザーゼンメル,グーラッシュ,キプフェル,ウィンナーシュニッツェル-

<参考文献>
 玉村豊男「パンとワインとおしゃべりと」中公文庫
 岡田 哲「食の文化を知る事典」東京堂出版
 沼野恭子編「世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理」東京外国語大学出版会

2018年12月26日 (水)

フランス料理の特徴と主な料理9 -リードヴォーとチーズの関係,なぜ仔牛・仔羊まで食べられるようになったのか-

リードヴォー(ris de veau)とは

 フランス料理でよく登場する「リードヴォー(ris de veau)」とは,仔牛(veau)の胸腺(ris)という意味です。

 英語では「スウィートブレッド(sweetbread)」と呼ばれることから,日本の焼肉店などでは,その名が転訛して「シビレ」とも呼ばれています。

 仔牛ののどから胸にかけてついている免疫機能を高めるための器官で,成長すると退化するため,仔牛の段階からしか入手できない希少な部位です。

 やわらかく,濃厚でミルキーな味わいが特徴です。

 日本では仔牛の段階で屠畜されることが少ないため,その多くを輸入品に頼ることとなります。

 ちなみに,仔羊(agneau)の胸腺は「リ・ダニョ(ris d'agneau)」と呼ばれます。


なぜ仔牛・仔羊まで食べられるようになったのか

 フランス料理に限らず,世界各地の牧畜文化圏で,仔牛や仔羊の肉が食べられています。

 仔牛肉や仔羊肉(ラム肉)のステーキ,仔牛のすね肉やその骨を煮出しただし汁「フォンドヴォー(fond de veau)」などが有名ですね。

 でも,ふと立ち止まって考えると,食用肉とするなら,仔牛・仔羊の段階よりも,より大きく成長させた大人の段階まで待ってから屠って(殺して)食べた方が,より多くの肉を得ることができて,人間生活に有利なように思えます。

 この考え方だと,自然死した仔牛・仔羊を食用にすることはあっても,通常は成長した牛・羊だけが食用となるので,リードヴォーのような部位に関心が持たれたり,それを使った料理が考案されることまでは発展し得ないこととなります。

 仔牛・仔羊の段階で屠らなければならない理由があるからこそ,仔牛・仔羊料理が考案され,発展したと考えられるのです。

 その理由とは何か。

 その謎を解く鍵は,乳から作られるチーズ(フロマージュ)にあるようです。


仔牛・仔羊から採取する乳の凝固剤「レンネット」

 人間は乳から脂肪(バター)やタンパク質(チーズ)が得られることを学び,食料を保存させる目的もあって,これらを積極的に作るようになりました。

 チーズは,乳を乳酸発酵させタンパク質を凝固させたものがその原型となる訳ですが,この乳酸発酵以外にも,加熱したり(代表例:リコッタチーズ),酸を加える(代表例:パニール)といった人為的な方法でタンパク質を凝固させることもわかってきました。

 北ヨーロッパでも,当初は乳を乳酸発酵させてタンパク質を凝固させていたようですが,気温が低い地域であるため,この方法だけではうまくいかないことも多かったようです。

 そんな中,偶然だと思いますが,仔牛や仔羊の第四胃袋にある「レンネット」(活性酵素「キモシン」)と呼ばれる酵素を乳に加えると短時間でタンパク質が凝固することが発見されたのです。

 この方法は,短時間にタンパク質を凝固させることができ,乳酸の酸味も強くなく,淡泊な味のチーズが得られるという利点もあって,ヨーロッパ全般に広まることとなりました。

 このレンネットを求めて,仔牛や仔羊が屠畜されるようになったのです。

 屠畜の対象としては,成長しても搾乳できない雄の仔牛・仔羊が優先されたようですが,何とも痛々しい話です。

 やがて1960年代に入り,日本の微生物学者(有馬啓など)によってカビの一種「ムコール・プシルス」がレンネット(活性酵素キモシン)と全く同じ作用をすることが発見された後は,この微生物起源の凝乳酵素が従来のレンネットに代わって広く用いられるようになりました。

 冒頭で御紹介したリードヴォーも,当初はレンネットを入手した後の仔牛から得られる副産物としての食材だったのかも知れませんが,乳離れしてない仔牛からしか入手できないという点ではレンネットと一致しています。


リードヴォーのソテー

 広島市内のフランス料理店で,リードヴォーを味わう機会がありました。

(リードヴォーのソテー)
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 リードヴォーのソテーです。

 リードヴォー,シャンピニョン(きのこ),パンチェッタ(豚肉の塩漬け)をソテーし,じゃがいものニョッキの上に盛られています。

 スライスしたチーズも添えられています。

 ソースは,ソテーのエキスをシェリー酒(ポート酒やマディラ酒と同じ酒精強化ワイン)で整えたソースです。

(リードヴォーのソテー(リードヴォー))
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 リードヴォーを拡大した写真です。

 見た目もそうですが,ふわふわした食感の肉(臓器)です。

 思わず,あどけない仔牛を思い浮かべてしまいました。

 他の食材に例えれば,やわらかいフォアグラ,クセのないレバー,ミルキーなコクを感じるという意味ではタラやフグなどの白子にも似ているようにも思います。

 ねっとりとしたコクがありますが,そのものの味はクセが少ないので,シェリー酒のような甘めで深みのある洋酒や,塩気の効いたパンチェッタやチーズと一緒にいただくとうまくまとまるように思いました。


真のグルメ・食通とは

 ここまで書いて,ふと,リードヴォーとチーズの相性がいいとさらりと述べた自分が少し怖くなりました。

 私が肉食文化に慣れていないからでしょう。

 しかし,これが異文化理解の出発点であるとも言えます。

 正しい知識を得て,異なる食文化を理解し,受け入れることができる人間こそ,真のグルメ・食通だと思います。


<参考文献>
 森枝卓士「食の冒険地図」技術評論社
 石毛直道・鄭大聲編「食文化入門」講談社
 小泉武夫「発酵食品礼賛」文春新書
 藤枝祐太監修「焼肉美味手帖」世界文化社
 辻調理師専門学校監修「基礎からわかるフランス料理」柴田書店

2018年12月 2日 (日)

パンの研究4 -アイルランドのソーダブレッドとギネス煮込みシチュー,興亜パン,熊本県菊池市のニッケ饅頭-

ソーダブレッド・クイックブレッド

 日本で一般的なパンは,小麦粉,塩,水を練った生地にパン酵母(イースト,天然酵母など)を加え,発酵させて膨らませた生地を焼き上げることで作られます。

 その一方で,パン酵母による発酵に頼らず,重曹(重炭酸ソーダ,炭酸水素ナトリウム)やベーキングパウダーなどの膨張剤を使って生地を膨らませ,パンを作る方法もあります。

 こうしたパンは「ソーダブレッド」と呼ばれています。

 ふっくらふんわりしたパンを作るには,やはり生地を発酵させることが基本となりますが,重曹やベーキングパウダーを使うと,生地を膨らませるための時間が短くて済むというメリットがあります。

 そのため,重曹やベーキングパウダーが使われたパンは,すぐ出来上がるパンという意味で「クイックブレッド」とも呼ばれています。

 今回はそんな重曹やベーキングパウダーが使われたパンやお菓子を御紹介したいと思います。


ソーダブレッドとギネス煮込みシチュー

 広島市南区のカフェ「Cafe Igel あかいはりねずみ」でいただいたアイルランドのソーダブレッドとギネス煮込みシチューです。

(ソーダブレッドとギネス煮込みシチュー)
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 写真手前がギネス煮込みシチュー,その上にあるパンがソーダブレッドです。

 ギネス煮込みシチューは,ギネスビールでジャガイモ,玉ねぎ,人参,牛肉などの具を煮込んだシチューです。

 ワインではなくビールで煮込むところにアイルランドらしさを感じました。

 スープに浮かべられている赤いものは「デトロイト」と呼ばれるベビーリーフです。

 次にソーダブレッドです。

 このパンは,ちぎったり,かじった際にポロポロとパンくずがこぼれますが,それこそがソーダブレッドの醍醐味でもあります。

 ライ麦入りの黒パンのような風味・食感のパンでした。

 素朴であるがゆえに,スープや他の料理との相性も良いです。

 店主にお話を伺うと,店主がヨーロッパでパンの修業をされていた時,台の上からパッパッと「打ち粉」を振ろうとすると,「アイルランド人のように…」と注意を受けた御経験があるそうです。

 この例えは,「アイルランド人のように節約して使いなさい」という意味なのだそうです。

 アイルランドは,1845年にジャガイモ畑の立ち枯れ病に端を発する大飢饉(いわゆる「ジャガイモ飢饉」)が発生し,イングランド,アメリカ,カナダなどに多くの人が逃れる事態となりました。

 こうした経験があったからこそ,アイルランドの人々は食べ物を大切にするという精神が根付き,周辺国の人々からは「アイルランド人=節約する人々」と思われているのかも知れません。


太平洋戦争時の「興亜パン」

 太平洋戦争時の日本では,食糧がない中で,ふくらし粉(ベーキングパウダー)を使ったパンが考案されました。

 メリケン粉(小麦粉)に大豆・海藻・魚などで作られた粉や野菜などを混ぜた蒸しパンで,「興亜パン」とか「興亜建国パン」などと呼ばれました。

 節米と国民の栄養合理化をかかげ,メリケン粉にいろんな「混ぜ物」をして,かさを増し,栄養価を高めた食べ物を作ることが目的だったようです。

(「興亜パン」の材料)
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斎藤美奈子「戦下のレシピ 太平洋戦争下の食を知る」岩波現代文庫 p41から引用

 ふくらし粉を使えば,生地にいろんなものを混ぜても,比較的容易に膨らませることができるというメリットがあったのでしょう。

 この「興亜パン」,当時の食糧管理者や栄養指導者が普及を目論んだようですが,実際の人気はいまひとつだったようです。


熊本県菊池市のニッケ饅頭

 熊本県菊池市の「きくち観光物産館」や「道の駅 旭志(きょくし)」でニッケ饅頭という郷土菓子を見つけました。

(ニッケ饅頭(包装))
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 地元の手作りおはぎやお弁当,パンなどが売られているコーナーで売られています。

 食品表示を見ると,「小麦粉,小豆,砂糖,炭酸ソーダ,ニッケの葉,卵」となっており,炭酸ソーダ(重曹)によって作られた蒸し饅頭であることがわかります。

 黄色い俵むすびのようです。

 地元では,「シナモン」や「ニッキ」ではなく,「ニッケ」と呼ばれているようですね。

(ニッケ饅頭)
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 ニッケ饅頭の中には粒あんがたっぷり入っています。

 粒あんの多さは「おはぎ」レベルです。

 そして饅頭の底にはニッケの葉が敷かれています。

 ニッケ(シナモン)は通常樹皮が使われるのですが,この饅頭には葉っぱが使われており,興味深いです。

 蒸し器にくっつかず,抗菌効果もあるからでしょう。

 実際にいただいてみると,皮はパリっと,中の生地はサクッとしていて,ニッケの香りが良いアクセントとなっていました。

 例えるなら,「粒あん入り八ッ橋風味の蒸し饅頭」といった感じです。

 ローズマリーにも似た香りがしました。

 では,なぜ熊本でニッケ饅頭が作られているのでしょうか。

 そのことを説明したサイトは見あたりませんが,次のような理由が考えられるでしょう。

1 熊本は日本有数のニッケの産地であること。
2 短時間で作れる,小麦粉の皮で作るという点で熊本郷土菓子「いきなり団子」とよく似ており,その製法が今日まで同じように伝えられてきたこと。
3 鎖国時代,長崎・出島に滞在したオランダ人からパンが,中国人から蒸しパンの「饅頭(まんとう)」が日本に伝えられたが,熊本はその長崎から地理的に近いこと。

 3の理由はちょっと無理があるかも知れませんが,1と2の理由は正解に近いのではないかと思います。

 「そーだ」よね?くまモン(笑)


まとめ

 こうしたパンや菓子をみてみると,重曹やベーキングパウダーには,(1)パン酵母(イースト,天然酵母など)による発酵ほど温度管理に左右されず,(2)色々な食材を混ぜても生地を膨らませることができ,(3)発酵に比べて短時間でパンや饅頭に仕上げられる,といった特長があるように思います。


<関連サイト>
 世界新聞「【世界の朝食】ソーダブレッドがポロポロこぼれる理由
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)

<関連記事>
 「さつまいもグルメのまち・川越」(川越の「いも恋」と熊本の「いきなり団子」の違いについて)

<参考文献>
 21世紀研究会編「食の世界地図」文春新書
 斎藤美奈子「戦下のレシピ 太平洋戦争下の食を知る」岩波現代文庫
 ジル・ノーマン「スパイス完全ガイド」山と渓谷社

2018年11月11日 (日)

パレスチナ料理の特徴と主な料理 -ピタパン・パレスチナ オリーブオイル・フムス・セージティー-

イスラエルとパレスチナの歴史

 パレスチナは地中海東岸にある地域の名称で,アラブ人による自治政府が置かれています。

 隣接するイスラエルとパレスチナの関係は,中東問題としてよくニュースになりますが,なかなか理解が難しい地域でもあります。

 イスラエルとパレスチナの歴史を簡単にまとめると,

 イスラエル王国(ユダヤ教)→イスラム帝国(イスラム教)の侵入→聖地奪還に向けた十字軍(キリスト教)の遠征→アイユーブ朝・オスマン帝国(いずれもイスラム教)による支配→イギリスによる「二重外交」(※)によりアラブ人とユダヤ人が同じ地域で国家建設を巡って対立(パレスチナ問題)→イスラエルとパレスチナ(自治政府)の併存で現在に至る。

という複雑な歴史を経ています。

※第一次世界大戦中,イギリスは敵対国としていたオスマン帝国に対抗するため,パレスチナ地域のアラブ反乱軍に対し,アラブ国家建設の支援を約束(フサイン・マクマホン協定)した一方で,戦費捻出のためユダヤの金融資本を利用することを画策し,ユダヤ人に対し,パレスチナにユダヤ人国家を建設することも約束(バルフォア宣言)した。
 さらにイギリス,フランス,ロシアがオスマン帝国の領土分割を決めたサイクス=ピコ協定を含めてイギリスの「三枚舌外交」とも呼ばれる。


 簡単にまとめると言いながら,結局複雑な話になってしまいました。

 つまり,アラブ人とユダヤ人の対立がある中で,聖地エルサレムがあるキリスト教圏の人々も関係している地域なのです。

 そのため,食文化においても,アラブ料理を基調としつつも,こうした歴史的背景や,ヨーロッパ,アフリカ,アジアに近いという地理的条件から生まれた料理も多くみられます。


ピタパン・パレスチナ オリーブオイル・フムス・セージティー

 以前,当ブログで東京に世界各国の朝ごはんが味わえるお店があると御紹介しましたが(「ギリシャ料理の特徴と主な料理2 -ティロピタ・グリークサラダ・ギリシャヨーグルト・フルーツ・ガラトピタ-」参照),広島にも同様のお店があります。

 広島駅に近い広島市南区的場町にある「Cafe Igel あかいはりねずみ」というカフェです。

 東京まで行かなくても,私の住む広島市南区内で世界の朝ごはんが味わえるとは嬉しい話です。

 今週は珍しいパレスチナ料理が味わえるとのことだったので,ワクワクしながらお店を訪問しました。

 お店のモーニングは,パンとドリンクからなるレギュラーメニューと世界の料理が味わえる週替わりメニューがあったので,私はパレスチナ料理が味わえる週替わりメニューを注文しました。

(モーニングセット(パレスチナ料理))
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 メインプレートとセージティーのセットです。

 メインプレートには,右側にピタパン,その左横・皿中央にキュウリとトマトのサラダ,その左横にはブラックオリーブの実,その上にイタリアンパセリがのせられた白チーズ,そして皿の上側に赤いパプリカの粉末がかけられたフムスが盛り付けられています。

 ピタパンは,丸く平べったいパンで,インドのナンにも似ています。
 中東で広く食べられている代表的なパンで,そのまま食べるだけでなく,パンを2つに開き,好きな具をサンドして食べられます。

 野菜のサラダ(キュウリとトマト)や白チーズ(今回は乳牛でした)には,パレスチナのオリーブオイルがかけられていたのですが,このオリーブオイルがフルーティーで,野菜やチーズの味を美味しく引き立てていました。

 ブラックオリーブの実も地中海ならではの食材です。

 フムスはひよこ豆をマッシュポテトのようにペースト状にした料理で,調味には「タヒーニ」と呼ばれる白い練りゴマ,オリーブオイル,レモンの絞り汁,ガーリックが使われていました。
 フムスもピタパンと同様に中東のソウルフードとなっており,お店の方の話によると「日本の味噌汁,いや朝鮮半島のキムチと同じような,毎度の食事に欠かせない料理」なのだそうです。
 私はフムフムとうなずきながらフムスをいただきました。

 そしてドリンクはセージティーです。
 ハーブの一種セージが入った甘いホット紅茶です。
 私が一口飲んで「あっ,これはトルコのチャイと似ている」とつぶやいたところ,お店の方から「もともとトルコ(オスマン帝国)から伝わった飲み物なのですよ」と教えてただきました。
 これも,かつてオスマン帝国の支配を受けたことによる食文化の伝播だと言えそうです。


食文化から世界を理解する

 食事後,コーヒーをいただきながら,しばらく店主とお話しさせていただいたのですが,「世界各国の食を理解しようと思えば,その国の地理・歴史・文化・宗教をも理解する必要がある」という話で盛り上がりました。

 世界の料理を勉強するために世界各国を旅行されたようで,現地で得た生の情報や知識をフル活用し,ここ広島で世界の朝食をはじめ,パン,ドリンク,軽食などを提供されています。

 店主はドイツなどでパンを学ばれた経験があり,パン(粉もの)の研究にも力を注がれているため,パン(粉もの)を中心に世界の料理を組み立てることが出来るという強みもお持ちです。

 世界の料理を人に提供したり,紹介するためには,それだけ自分自身が理解しておかなければならないこともたくさん出てくるのですが,これを繰り返すことにより,自分自身の知識や世界観も広がることは間違いありません。

 食文化を通じた異文化理解はもっとも身近で理解しやすいアプローチであり,そうした観点からも,とても興味深い取組みをされているお店だと思います。


<関連リンク>
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)
 「Da bin ich! -わたしはここにいます-」(「Cafe Igel あかいはりねずみ」店主のブログ)

<参考文献>
 宮崎正勝「早わかり世界史」日本実業出版社

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