各国料理の特徴と主な料理

2019年1月 5日 (土)

ドイツ料理の特徴と主な料理 -シュバルツヴァルトとドイツ音楽-

ドイツの食文化

 ドイツは森の国と呼ばれています。

 ドイツの豊かな森が,「ヘンゼルとグレーテル」などグリム童話をはじめとする文学を育み,オペラなどの音楽を育み,豚などの家畜を育んでドイツ人の食を支えてきたと言えるでしょう。

 ドイツは丘陵地帯が多く,冬の寒さが厳しいため,ジャガイモやライ麦・大麦などの野菜・穀物の栽培が中心となり,畜産は豚の飼育が中心となって食文化が形成されてきました。

 ドイツ料理と言えば,豚肉料理,パン(※),ジャガイモ料理,ビールなどが有名ですが,これらは全てドイツの地理的環境によるところが大きいのです。
 ※ドイツのパン(ブロート)は,寒さに強いライ麦などの雑穀を混ぜて作られることが多く,あまり膨らまないため,褐色を帯び,酸味があり,重厚で詰まった食感のパンが多い。

 また,豚肉を加工したハム(シンケン)・ソーセージ(ヴルスト)や,キャベツを漬物にしたザワークラウトなど,限られた食料を長期に保存するための工夫もなされ,伝統的なドイツ料理として現代に受け継がれています。

 そして,ドイツで忘れてはならない食材がホワイトアスパラガスです。

 ホワイトアスパラガスはドイツに春を告げる最も代表的な食材であり,各地でアスパラガス祭りも行われています。


「黒い森の夜」イベント参加

 ドイツの南西部,フランス・アルザス地方に隣接する地域の森や山地は,「黒い森(シュバルツヴァルト,Schwarzwald)」と呼ばれています。

 この地域にちなんだお酒や食事が楽しめるイベントが広島市内のカフェであったので,興味を持って参加させていただきました。


ヴルツェルペーター(ジンジャーペーター)

 ヴルツェルペーター(Wurzel Peter)は,ハーブ入りのリキュールです。

 私はジンジャーエールで割ったジンジャーペーターをいただきました。

(ヴルツェルペーター(ジンジャーペーター))
Photo

 ビンにはグリム童話に登場しそうな赤い帽子をかぶったおじいさんの絵がありますが,アルコール度数35度の強いお酒です。

 シナモン,アニス,コリアンダーなど多くのハーブ・スパイスが入ったリキュールで,味・風味は,小児用かぜシロップに近いとか,養命酒などの薬用酒の味に近いという話が出ました。

 私は小児用かぜシロップの味は好きなので,ジンジャーエール割(ジンジャーペーター)を美味しくいただきました。

 翌日,職場でヤクルトのタフマン(高麗人参エキス入り)を飲んだのですが,このタフマンをジンジャーエールで割っても近い味になるように思います(笑)


ドイツ料理プレート

 黒い森のイベントで用意されたドイツ料理プレートです。

(ドイツ料理プレート)
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 写真中央が「黒い森のじゃがいもスープ」,左上のパンが「ライ麦パン」,その右隣が「キャベツのサラダ」,右上が「アイスバイン」です。

 それぞれの料理を御紹介します。

【黒い森のじゃがいもスープ(シュヴァルツヴェルダー・カルトッフェル・ズッペ)】 
 「シュヴァルツ」が「黒」,「ヴェルダー(ヴァルト)」が「森」,「カルトッフェル」が「じゃがいも」,「ズッペ」が「スープ」という意味です。
 じゃがいも,玉ねぎ,人参,キャベツ,ハム,ソーセージなどの具が入った澄んだスープです。
 このスープがなぜ「黒い森」という名前なのか,店主さんに伺ってみると,スープの具に「シュヴァルツヴェルダー(シンケン)」と呼ばれるハムが用いられるからなのだそうです。

【ライ麦パン(ロッゲンブロート)】
 ライ麦(ロッゲン)入りのパンで,ドイツの代表的なパンの1つです。
 褐色で,サワー種が使われるため多少酸味もあります。
 ドイツに留学された方のお話では,これがまさにドイツの日常のパンなのだそうです。

【キャベツのサラダ(コールサラダ)】
 キャベツ,人参,玉ねぎなどを合わせたキャベツのサラダです。
 ドイツのキャベツ料理と言えば「ザワークラウト」と呼ばれるキャベツの漬物(千切りキャベツを塩やキャラウェイシードなどの香辛料で漬けた漬物)も有名で,ソーセージ(ヴルスト)やアイスバインの付合せとしても用いられます。

【アイスバイン】
 アイスバインは豚のすね肉を数種類の野菜とともに煮込んだドイツの代表的な料理の1つです。
 皮までゼラチン質になっています。
 すね肉を煮込んでいるので脂身はほとんどなく,弾力があります。
 写真左上の小皿はバターと甘いベリーソースなのですが,この甘いベリーソースと一緒にアイスバインを食べるのがドイツの食べ方のようです。
 オーストリアのウィンナーシュニッツェル(カツレツ)と甘いベリーソースの組み合わせもそうですが,肉と甘い果実ソースの組み合わせは,実際に食べてみると美味しいというのが私の感想です。


黒い森のケーキ(シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ)

 「キルシュ」は「サクランボの蒸留酒」,「トルテ」は「ケーキ」という意味です。

 ドイツではケーキを横に倒し,ケーキにフォークを刺した状態でお客さんに提供されるようで,今回もケーキを倒して出していただきました。

(黒い森のケーキ(シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ))
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 ココアパウダー入りの黒いケーキにキルシュ(ワッサー)入れて煮詰めたチェリーと生クリームをはさんだケーキです。

 チョコ(ココアパウダー)の見た目が黒く,シュバルツヴァルトの森ではチェリーがたくさん採れることから,「黒い森のケーキ」と呼ばれています。


ドイツの音楽

 お酒を飲み,食事しながら,集まったメンバーでドイツの話題で盛り上がりました。

 食文化だけでなく,ドイツ語,車,カメラ,サッカーなどいろんな話で盛り上がりましたが,一番盛り上がった話題は音楽でした。

 店主さんを含め,クラシック音楽好きな人が多かったからです。

 自ら「クラオタ」(クラシックオタク)とか,さらに上の「クラ変」(クラシック変態)だとおっしゃるぐらいでしたので,相当なクラシックファンなのでしょう。

 3B(バッハ,ベートーベン,ブラームス)とか,ブラームス派とワグナー派とか,ロマン派のメンデルスゾーンとか,クラシック音楽のいろんな話が出ました。

 私は…バッハと言えば「主よ,人の望みの喜びよ」,ベートーベンと言えばどん兵衛のCMで知った「第九」,ブラームスはピンとこないし,ワグナーは「ワルキューレの騎行」と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」,メンデルスゾーンに至っては「ほら,結婚式で定番の『結婚行進曲』!」と言われてはじめてわかる程度の知識でした。

 「でもこの歌ならドイツ語で歌える」と,恥ずかしげもなく私はベートーベン作曲の「Ich liebe dich(イッヒ・リーベ・ディッヒ)」を皆さんの前で歌わせていただきました。

 ブラームスの曲って何があるのだろうと思い,後日調べてみると,1つだけ私の知っている好きな曲がありました。

 ブラームスの「大学祝典序曲」です。

 この曲は,初めて生でオーケストラを聴いた時に最も印象に残った曲でした。

 エルガーの「威風堂々」にも似た,誇り高さや勇ましさを感じるのです。

(ブラームス「大学祝典序曲」)


 私は受験時代「大学受験ラジオ講座(ラ講)」を聴いて勉強していたのですが,この「大学祝典序曲」はそのオープニング曲で使われたことでも有名です。(動画4:30から4:46にかけての音楽です。)

 黒い森をさまようような受験時代に聴いた曲,だから印象に残っているのかも知れません(笑)


まとめ

 ドイツの食文化と音楽を中心にまとめさせていただきましたが,改めてドイツの魅力・奥深さを感じたように思います。

 今年(2019年)は,広島・似島で日本初のバウムクーヘンが誕生して100周年を迎える年でもあり,広島もドイツの話題で盛り上がりそうです。


<関連サイト>
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)

<関連記事>
 「「バウムクーヘン博覧会」 -広島からはじまる日本のバウムクーヘンの歴史-
 「聖マルティンの日とドイツのヴェックマン(パイプマン)
 「オーストリア料理の特徴と主な料理1 -カイザーゼンメル,グーラッシュ,キプフェル,ウィンナーシュニッツェル-

<参考文献>
 玉村豊男「パンとワインとおしゃべりと」中公文庫
 岡田 哲「食の文化を知る事典」東京堂出版
 沼野恭子編「世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理」東京外国語大学出版会

2018年12月26日 (水)

フランス料理の特徴と主な料理9 -リードヴォーとチーズの関係,なぜ仔牛・仔羊まで食べられるようになったのか-

リードヴォー(ris de veau)とは

 フランス料理でよく登場する「リードヴォー(ris de veau)」とは,仔牛(veau)の胸腺(ris)という意味です。

 英語では「スウィートブレッド(sweetbread)」と呼ばれることから,日本の焼肉店などでは,その名が転訛して「シビレ」とも呼ばれています。

 仔牛ののどから胸にかけてついている免疫機能を高めるための器官で,成長すると退化するため,仔牛の段階からしか入手できない希少な部位です。

 やわらかく,濃厚でミルキーな味わいが特徴です。

 日本では仔牛の段階で屠畜されることが少ないため,その多くを輸入品に頼ることとなります。

 ちなみに,仔羊(agneau)の胸腺は「リ・ダニョ(ris d'agneau)」と呼ばれます。


なぜ仔牛・仔羊まで食べられるようになったのか

 フランス料理に限らず,世界各地の牧畜文化圏で,仔牛や仔羊の肉が食べられています。

 仔牛肉や仔羊肉(ラム肉)のステーキ,仔牛のすね肉やその骨を煮出しただし汁「フォンドヴォー(fond de veau)」などが有名ですね。

 でも,ふと立ち止まって考えると,食用肉とするなら,仔牛・仔羊の段階よりも,より大きく成長させた大人の段階まで待ってから屠って(殺して)食べた方が,より多くの肉を得ることができて,人間生活に有利なように思えます。

 この考え方だと,自然死した仔牛・仔羊を食用にすることはあっても,通常は成長した牛・羊だけが食用となるので,リードヴォーのような部位に関心が持たれたり,それを使った料理が考案されることまでは発展し得ないこととなります。

 仔牛・仔羊の段階で屠らなければならない理由があるからこそ,仔牛・仔羊料理が考案され,発展したと考えられるのです。

 その理由とは何か。

 その謎を解く鍵は,乳から作られるチーズ(フロマージュ)にあるようです。


仔牛・仔羊から採取する乳の凝固剤「レンネット」

 人間は乳から脂肪(バター)やタンパク質(チーズ)が得られることを学び,食料を保存させる目的もあって,これらを積極的に作るようになりました。

 チーズは,乳を乳酸発酵させタンパク質を凝固させたものがその原型となる訳ですが,この乳酸発酵以外にも,加熱したり(代表例:リコッタチーズ),酸を加える(代表例:パニール)といった人為的な方法でタンパク質を凝固させることもわかってきました。

 北ヨーロッパでも,当初は乳を乳酸発酵させてタンパク質を凝固させていたようですが,気温が低い地域であるため,この方法だけではうまくいかないことも多かったようです。

 そんな中,偶然だと思いますが,仔牛や仔羊の第四胃袋にある「レンネット」(活性酵素「キモシン」)と呼ばれる酵素を乳に加えると短時間でタンパク質が凝固することが発見されたのです。

 この方法は,短時間にタンパク質を凝固させることができ,乳酸の酸味も強くなく,淡泊な味のチーズが得られるという利点もあって,ヨーロッパ全般に広まることとなりました。

 このレンネットを求めて,仔牛や仔羊が屠畜されるようになったのです。

 屠畜の対象としては,成長しても搾乳できない雄の仔牛・仔羊が優先されたようですが,何とも痛々しい話です。

 やがて1960年代に入り,日本の微生物学者(有馬啓など)によってカビの一種「ムコール・プシルス」がレンネット(活性酵素キモシン)と全く同じ作用をすることが発見された後は,この微生物起源の凝乳酵素が従来のレンネットに代わって広く用いられるようになりました。

 冒頭で御紹介したリードヴォーも,当初はレンネットを入手した後の仔牛から得られる副産物としての食材だったのかも知れませんが,乳離れしてない仔牛からしか入手できないという点ではレンネットと一致しています。


リードヴォーのソテー

 広島市内のフランス料理店で,リードヴォーを味わう機会がありました。

(リードヴォーのソテー)
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 リードヴォーのソテーです。

 リードヴォー,シャンピニョン(きのこ),パンチェッタ(豚肉の塩漬け)をソテーし,じゃがいものニョッキの上に盛られています。

 スライスしたチーズも添えられています。

 ソースは,ソテーのエキスをシェリー酒(ポート酒やマディラ酒と同じ酒精強化ワイン)で整えたソースです。

(リードヴォーのソテー(リードヴォー))
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 リードヴォーを拡大した写真です。

 見た目もそうですが,ふわふわした食感の肉(臓器)です。

 思わず,あどけない仔牛を思い浮かべてしまいました。

 他の食材に例えれば,やわらかいフォアグラ,クセのないレバー,ミルキーなコクを感じるという意味ではタラやフグなどの白子にも似ているようにも思います。

 ねっとりとしたコクがありますが,そのものの味はクセが少ないので,シェリー酒のような甘めで深みのある洋酒や,塩気の効いたパンチェッタやチーズと一緒にいただくとうまくまとまるように思いました。


真のグルメ・食通とは

 ここまで書いて,ふと,リードヴォーとチーズの相性がいいとさらりと述べた自分が少し怖くなりました。

 私が肉食文化に慣れていないからでしょう。

 しかし,これが異文化理解の出発点であるとも言えます。

 正しい知識を得て,異なる食文化を理解し,受け入れることができる人間こそ,真のグルメ・食通だと思います。


<参考文献>
 森枝卓士「食の冒険地図」技術評論社
 石毛直道・鄭大聲編「食文化入門」講談社
 小泉武夫「発酵食品礼賛」文春新書
 藤枝祐太監修「焼肉美味手帖」世界文化社
 辻調理師専門学校監修「基礎からわかるフランス料理」柴田書店

2018年12月 2日 (日)

パンの研究4 -アイルランドのソーダブレッドとギネス煮込みシチュー,興亜パン,熊本県菊池市のニッケ饅頭-

ソーダブレッド・クイックブレッド

 日本で一般的なパンは,小麦粉,塩,水を練った生地にパン酵母(イースト,天然酵母など)を加え,発酵させて膨らませた生地を焼き上げることで作られます。

 その一方で,パン酵母による発酵に頼らず,重曹(重炭酸ソーダ,炭酸水素ナトリウム)やベーキングパウダーなどの膨張剤を使って生地を膨らませ,パンを作る方法もあります。

 こうしたパンは「ソーダブレッド」と呼ばれています。

 ふっくらふんわりしたパンを作るには,やはり生地を発酵させることが基本となりますが,重曹やベーキングパウダーを使うと,生地を膨らませるための時間が短くて済むというメリットがあります。

 そのため,重曹やベーキングパウダーが使われたパンは,すぐ出来上がるパンという意味で「クイックブレッド」とも呼ばれています。

 今回はそんな重曹やベーキングパウダーが使われたパンやお菓子を御紹介したいと思います。


ソーダブレッドとギネス煮込みシチュー

 広島市南区のカフェ「Cafe Igel あかいはりねずみ」でいただいたアイルランドのソーダブレッドとギネス煮込みシチューです。

(ソーダブレッドとギネス煮込みシチュー)
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 写真手前がギネス煮込みシチュー,その上にあるパンがソーダブレッドです。

 ギネス煮込みシチューは,ギネスビールでジャガイモ,玉ねぎ,人参,牛肉などの具を煮込んだシチューです。

 ワインではなくビールで煮込むところにアイルランドらしさを感じました。

 スープに浮かべられている赤いものは「デトロイト」と呼ばれるベビーリーフです。

 次にソーダブレッドです。

 このパンは,ちぎったり,かじった際にポロポロとパンくずがこぼれますが,それこそがソーダブレッドの醍醐味でもあります。

 ライ麦入りの黒パンのような風味・食感のパンでした。

 素朴であるがゆえに,スープや他の料理との相性も良いです。

 店主にお話を伺うと,店主がヨーロッパでパンの修業をされていた時,台の上からパッパッと「打ち粉」を振ろうとすると,「アイルランド人のように…」と注意を受けた御経験があるそうです。

 この例えは,「アイルランド人のように節約して使いなさい」という意味なのだそうです。

 アイルランドは,1845年にジャガイモ畑の立ち枯れ病に端を発する大飢饉(いわゆる「ジャガイモ飢饉」)が発生し,イングランド,アメリカ,カナダなどに多くの人が逃れる事態となりました。

 こうした経験があったからこそ,アイルランドの人々は食べ物を大切にするという精神が根付き,周辺国の人々からは「アイルランド人=節約する人々」と思われているのかも知れません。


太平洋戦争時の「興亜パン」

 太平洋戦争時の日本では,食糧がない中で,ふくらし粉(ベーキングパウダー)を使ったパンが考案されました。

 メリケン粉(小麦粉)に大豆・海藻・魚などで作られた粉や野菜などを混ぜた蒸しパンで,「興亜パン」とか「興亜建国パン」などと呼ばれました。

 節米と国民の栄養合理化をかかげ,メリケン粉にいろんな「混ぜ物」をして,かさを増し,栄養価を高めた食べ物を作ることが目的だったようです。

(「興亜パン」の材料)
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斎藤美奈子「戦下のレシピ 太平洋戦争下の食を知る」岩波現代文庫 p41から引用

 ふくらし粉を使えば,生地にいろんなものを混ぜても,比較的容易に膨らませることができるというメリットがあったのでしょう。

 この「興亜パン」,当時の食糧管理者や栄養指導者が普及を目論んだようですが,実際の人気はいまひとつだったようです。


熊本県菊池市のニッケ饅頭

 熊本県菊池市の「きくち観光物産館」や「道の駅 旭志(きょくし)」でニッケ饅頭という郷土菓子を見つけました。

(ニッケ饅頭(包装))
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 地元の手作りおはぎやお弁当,パンなどが売られているコーナーで売られています。

 食品表示を見ると,「小麦粉,小豆,砂糖,炭酸ソーダ,ニッケの葉,卵」となっており,炭酸ソーダ(重曹)によって作られた蒸し饅頭であることがわかります。

 黄色い俵むすびのようです。

 地元では,「シナモン」や「ニッキ」ではなく,「ニッケ」と呼ばれているようですね。

(ニッケ饅頭)
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 ニッケ饅頭の中には粒あんがたっぷり入っています。

 粒あんの多さは「おはぎ」レベルです。

 そして饅頭の底にはニッケの葉が敷かれています。

 ニッケ(シナモン)は通常樹皮が使われるのですが,この饅頭には葉っぱが使われており,興味深いです。

 蒸し器にくっつかず,抗菌効果もあるからでしょう。

 実際にいただいてみると,皮はパリっと,中の生地はサクッとしていて,ニッケの香りが良いアクセントとなっていました。

 例えるなら,「粒あん入り八ッ橋風味の蒸し饅頭」といった感じです。

 ローズマリーにも似た香りがしました。

 では,なぜ熊本でニッケ饅頭が作られているのでしょうか。

 そのことを説明したサイトは見あたりませんが,次のような理由が考えられるでしょう。

1 熊本は日本有数のニッケの産地であること。
2 短時間で作れる,小麦粉の皮で作るという点で熊本郷土菓子「いきなり団子」とよく似ており,その製法が今日まで同じように伝えられてきたこと。
3 鎖国時代,長崎・出島に滞在したオランダ人からパンが,中国人から蒸しパンの「饅頭(まんとう)」が日本に伝えられたが,熊本はその長崎から地理的に近いこと。

 3の理由はちょっと無理があるかも知れませんが,1と2の理由は正解に近いのではないかと思います。

 「そーだ」よね?くまモン(笑)


まとめ

 こうしたパンや菓子をみてみると,重曹やベーキングパウダーには,(1)パン酵母(イースト,天然酵母など)による発酵ほど温度管理に左右されず,(2)色々な食材を混ぜても生地を膨らませることができ,(3)発酵に比べて短時間でパンや饅頭に仕上げられる,といった特長があるように思います。


<関連サイト>
 世界新聞「【世界の朝食】ソーダブレッドがポロポロこぼれる理由
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)

<関連記事>
 「さつまいもグルメのまち・川越」(川越の「いも恋」と熊本の「いきなり団子」の違いについて)

<参考文献>
 21世紀研究会編「食の世界地図」文春新書
 斎藤美奈子「戦下のレシピ 太平洋戦争下の食を知る」岩波現代文庫
 ジル・ノーマン「スパイス完全ガイド」山と渓谷社

2018年11月11日 (日)

パレスチナ料理の特徴と主な料理 -ピタパン・パレスチナ オリーブオイル・フムス・セージティー-

イスラエルとパレスチナの歴史

 パレスチナは地中海東岸にある地域の名称で,アラブ人による自治政府が置かれています。

 隣接するイスラエルとパレスチナの関係は,中東問題としてよくニュースになりますが,なかなか理解が難しい地域でもあります。

 イスラエルとパレスチナの歴史を簡単にまとめると,

 イスラエル王国(ユダヤ教)→イスラム帝国(イスラム教)の侵入→聖地奪還に向けた十字軍(キリスト教)の遠征→アイユーブ朝・オスマン帝国(いずれもイスラム教)による支配→イギリスによる「二重外交」(※)によりアラブ人とユダヤ人が同じ地域で国家建設を巡って対立(パレスチナ問題)→イスラエルとパレスチナ(自治政府)の併存で現在に至る。

という複雑な歴史を経ています。

※第一次世界大戦中,イギリスは敵対国としていたオスマン帝国に対抗するため,パレスチナ地域のアラブ反乱軍に対し,アラブ国家建設の支援を約束(フサイン・マクマホン協定)した一方で,戦費捻出のためユダヤの金融資本を利用することを画策し,ユダヤ人に対し,パレスチナにユダヤ人国家を建設することも約束(バルフォア宣言)した。
 さらにイギリス,フランス,ロシアがオスマン帝国の領土分割を決めたサイクス=ピコ協定を含めてイギリスの「三枚舌外交」とも呼ばれる。


 簡単にまとめると言いながら,結局複雑な話になってしまいました。

 つまり,アラブ人とユダヤ人の対立がある中で,聖地エルサレムがあるキリスト教圏の人々も関係している地域なのです。

 そのため,食文化においても,アラブ料理を基調としつつも,こうした歴史的背景や,ヨーロッパ,アフリカ,アジアに近いという地理的条件から生まれた料理も多くみられます。


ピタパン・パレスチナ オリーブオイル・フムス・セージティー

 以前,当ブログで東京に世界各国の朝ごはんが味わえるお店があると御紹介しましたが(「ギリシャ料理の特徴と主な料理2 -ティロピタ・グリークサラダ・ギリシャヨーグルト・フルーツ・ガラトピタ-」参照),広島にも同様のお店があります。

 広島駅に近い広島市南区的場町にある「Cafe Igel あかいはりねずみ」というカフェです。

 東京まで行かなくても,私の住む広島市南区内で世界の朝ごはんが味わえるとは嬉しい話です。

 今週は珍しいパレスチナ料理が味わえるとのことだったので,ワクワクしながらお店を訪問しました。

 お店のモーニングは,パンとドリンクからなるレギュラーメニューと世界の料理が味わえる週替わりメニューがあったので,私はパレスチナ料理が味わえる週替わりメニューを注文しました。

(モーニングセット(パレスチナ料理))
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 メインプレートとセージティーのセットです。

 メインプレートには,右側にピタパン,その左横・皿中央にキュウリとトマトのサラダ,その左横にはブラックオリーブの実,その上にイタリアンパセリがのせられた白チーズ,そして皿の上側に赤いパプリカの粉末がかけられたフムスが盛り付けられています。

 ピタパンは,丸く平べったいパンで,インドのナンにも似ています。
 中東で広く食べられている代表的なパンで,そのまま食べるだけでなく,パンを2つに開き,好きな具をサンドして食べられます。

 野菜のサラダ(キュウリとトマト)や白チーズ(今回は乳牛でした)には,パレスチナのオリーブオイルがかけられていたのですが,このオリーブオイルがフルーティーで,野菜やチーズの味を美味しく引き立てていました。

 ブラックオリーブの実も地中海ならではの食材です。

 フムスはひよこ豆をマッシュポテトのようにペースト状にした料理で,調味には「タヒーニ」と呼ばれる白い練りゴマ,オリーブオイル,レモンの絞り汁,ガーリックが使われていました。
 フムスもピタパンと同様に中東のソウルフードとなっており,お店の方の話によると「日本の味噌汁,いや朝鮮半島のキムチと同じような,毎度の食事に欠かせない料理」なのだそうです。
 私はフムフムとうなずきながらフムスをいただきました。

 そしてドリンクはセージティーです。
 ハーブの一種セージが入った甘いホット紅茶です。
 私が一口飲んで「あっ,これはトルコのチャイと似ている」とつぶやいたところ,お店の方から「もともとトルコ(オスマン帝国)から伝わった飲み物なのですよ」と教えてただきました。
 これも,かつてオスマン帝国の支配を受けたことによる食文化の伝播だと言えそうです。


食文化から世界を理解する

 食事後,コーヒーをいただきながら,しばらく店主とお話しさせていただいたのですが,「世界各国の食を理解しようと思えば,その国の地理・歴史・文化・宗教をも理解する必要がある」という話で盛り上がりました。

 世界の料理を勉強するために世界各国を旅行されたようで,現地で得た生の情報や知識をフル活用し,ここ広島で世界の朝食をはじめ,パン,ドリンク,軽食などを提供されています。

 店主はドイツなどでパンを学ばれた経験があり,パン(粉もの)の研究にも力を注がれているため,パン(粉もの)を中心に世界の料理を組み立てることが出来るという強みもお持ちです。

 世界の料理を人に提供したり,紹介するためには,それだけ自分自身が理解しておかなければならないこともたくさん出てくるのですが,これを繰り返すことにより,自分自身の知識や世界観も広がることは間違いありません。

 食文化を通じた異文化理解はもっとも身近で理解しやすいアプローチであり,そうした観点からも,とても興味深い取組みをされているお店だと思います。


<関連リンク>
 「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)
 「Da bin ich! -わたしはここにいます-」(「Cafe Igel あかいはりねずみ」店主のブログ)

<参考文献>
 宮崎正勝「早わかり世界史」日本実業出版社

2018年10月23日 (火)

オーストリア料理の特徴と主な料理2 -UCCコーヒー博物館とカフェ・マリアテレジア-

UCCコーヒー博物館

 神戸の「UCCコーヒー博物館」へ行きました。

 三宮からポートライナーに乗り,南公園駅で降りてすぐの場所にあります。

(UCCコーヒー博物館とUCC本社)
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 写真手前の丸い建物がUCCコーヒー博物館,その奥のブルーの近代的な建物がUCC本社です。

 UCCコーヒー博物館は,1987年10月1日(10月1日は「コーヒーの日」)に創業地の神戸に誕生した日本で唯一のコーヒー専門の博物館です。

 館内は,コーヒーの「起源」,「栽培」,「鑑定」,「焙煎」,「抽出」,「文化」と6つのテーマ別展示室や体験コーナー,ミュージアムショップなどで構成されています。


コーヒーテイスティングとコーヒー豆の挽き方

 館内のテイスティングコーナーでコーヒーの試飲を体験させていただきました。

(コーヒーテイスティング)
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 写真左のブルーの取っ手のカップが「中細挽き」,写真右のピンクの取っ手のカップが「粗挽き」のコーヒーです。

 「中細挽き」はコーヒー豆をグラニュー糖程度の大きさに挽いたもので,一般的なレギュラーコーヒーの挽き目です。
 ペーパードリップやコーヒーメーカーで抽出されます。

 一方,「粗挽き」はコーヒー豆をザラメ程度の大きさに挽いたものです。
 粗い分,長い抽出時間が必要となるため,パーコレーターなどで抽出されます。

 一般的にコーヒー豆の粒が細かくなるほど色や味が短時間でよく抽出されるようになります。

 そのため,短時間で抽出するイタリアの「エスプレッソ」(「エクスプレス(急行)」が語源)のコーヒー豆は「極細挽き」で,「ダッチコーヒー」とも呼ばれる「水出しコーヒー」のコーヒー豆は「細挽き」が適しているとされています。

 試飲したコーヒーは,「中細挽き」が深みのある味わいを,「粗挽き」がクリアな味わいを感じました。


カフェ・マリアテレジア

 館内をひととおり見学した後,喫茶室「UCCコーヒーロード」に寄りました。

 このカフェでは,「ブルーマウンテンNo.1」や「コナ」をはじめ,「ゲイシャ」や「イルガチェフェ」など世界各地の珍しいスペシャルティコーヒーを味わうことが出来ます。

 できればこちらも味わいたかったのですが,今回は前から興味を持っていたアレンジコーヒーの1つをいただきました。

 それが「カフェ・マリアテレジア」です。

 マリア・テレジアは,神聖ローマ皇帝フランツ1世の妻で,ハプスブルク家の女帝として活躍した人物です。

 政務だけでなく,16人もの子供をもうけ(その15番目の子がマリー・アントワネットです。),旺盛な精神力と屈強な体力を持ち合せていた人物です。

(マリア・テレジア夫妻とその家族)
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菊池良生「図解雑学 ハプスブルク家」ナツメ社 p31から引用

 絵の右側の椅子にかけている女性がマリア・テレジアです。

 彼女はその活力の源として「オリオ・スープ」と呼ばれる仔牛,ウサギ,ベーコン,山ウズラ,野ガモ,牛肉,根菜類などを煮込んだ高カロリーなスープを好み,精進日(肉断ちの日)でも自室でこっそり肉を食べていたという逸話も残っています。

 そんな彼女が好んだ飲み物の1つとされるのが,これから御紹介する「カフェ・マリアテレジア」です。

 「カフェ・マリアテレジア」はコーヒーにオレンジリキュールを注ぎ,ホイップクリームをのせたウィーンのコーヒーです。

 コーヒーにホイップクリームをのせた,いわゆる「ウィンナー・コーヒー」を応用したコーヒーです。

(カフェ・マリアテレジア)
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 今回私が味わったカフェ・マリアテレジアはコーヒーにオレンジリキュールを注ぎ,ホイップクリームを浮かべたもので,彩り豊かなオレンジピール,ピスタチオ,スパイスものせられていました。(ホイップクリームに色とりどりの小粒のキャンディーをのせるレシピもあります。)

 たっぷりのホイップクリームが温かいコーヒーで徐々に溶け,カフェオレのような感じになりました。

 カップの底には静かに注がれたオレンジリキュールが入っているので,飲み進めるとカフェオレの後にスッとオレンジリキュールが口の中に入ってきました。

 コーヒーの香ばしい風味とオレンジリキュールの爽やかなオレンジ風味をホイップクリームがうまく包み込み,飲みやすいオレンジ風味のコーヒーに仕上がっていました。

 「マリア・テレジア」という名称の由来については,彼女の好物だったからとか,彼女が大のコーヒー好きでコーヒー文化を浸透させたからなど諸説あります。

 いずれにせよ,当時はコーヒーにホイップクリームを浮かべたり,リキュールを注いだり,オリエンタルなムード漂うナッツやスパイスをのせることが流行し,そうした風潮の中で創作・命名されたコーヒーなのでしょう。

 公私ともに多忙を極めたマリア・テレジアのことですから,景気付けに「酒でも飲まなきゃやってらんないわ」とコーヒーにリキュールを注いで飲んでいたのかも知れませんね(笑)。


<関連サイト>
 「UCCコーヒー博物館」(神戸市中央区港島中町6丁目6番2号)

<参考文献>
 UCCコーヒー博物館著「図説コーヒー」河出書房新社
 福田幸江原作・吉城モカ作画・川島良彰監修「僕はコーヒーが飲めない」ビッグコミックス
 菊池良生「図解雑学ハプスブルク家」ナツメ社
 関田淳子「ハプスブルク家の食卓」新人物文庫

2018年9月29日 (土)

ギリシャ料理の特徴と主な料理2 -ティロピタ・グリークサラダ・ギリシャヨーグルト・フルーツ・ガラトピタ-

東京で世界の朝ごはんを味わう

 東京に世界各国の朝ごはんが味わえるお店があります。

 「World Breakfast Allday」(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)というお店です。

 「朝ごはんを味わうことで世界各地の伝統的な食文化に触れる」ことを目的として,世界各国の様々な料理が用意されています。

 各国大使館,政府観光局,航空会社,各国出身の方などの協力を得て料理を作られており,お店を訪問すれば,そんな世界各国を代表する料理をワンプレートで味わうことができます。

 メニューは「イギリスの朝ごはん」,「台湾の朝ごはん」,「スイスの朝ごはん」などのレギュラーメニューと,2か月ごとに国を変えて提供されるスペシャルメニュー(朝ごはんプレートと単品料理),そして世界各国のドリンクで構成されています。

 私は,東京に泊まった翌朝,「World Breakfast Allday 原宿店」へ行き,訪問時(2018年9月)に用意されていたスペシャルメニュー「ギリシャの朝ごはん」をいただきました。


ティロピタ・グリークサラダ・ギリシャヨーグルト・フルーツ

 注文してしばらくすると,作り立てのギリシャの朝ごはんプレートが運ばれてきました。

(ギリシャの朝ごはんプレート)
Photo

 手前に2つある大きなパイが「ティロピタ」,皿の左上が「グリークサラダ」,その右側が「ギリシャヨーグルト」,そして「フルーツ(マスカットとイチジク)」です。


(ティロピタ)
 パイ生地(ピタ)の中に山羊乳や羊乳を使ったギリシャの代表的なチーズ「フェタチーズ」のクリームがたっぷりと入った料理です。
 パイ生地は「フィロ」と呼ばれる薄い生地で,熱々パリパリなので,ナイフとフォークで切り分けようとすると皿の外に飛んで大変でした(笑)。
 中のフェタチーズは,軽めで,においやクセが少ないので,チーズが苦手な人にも割合食べやすいチーズだと思います。
 フェタチーズの塩味とパイ生地の甘味・バター風味がよく合いました。
 ギリシャには,この「ティロピタ」に似た料理で,「スパナコピタ」と呼ばれるホウレンソウのパイ包み料理も有名です。


(グリークサラダ)
 スライスしたトマト,キュウリ,玉ねぎ,オリーブなどの野菜に,オリーブ油や白ワインビネガーをベースにしたドレッシングをかけ,仕上げにオレガノがふりかけられたギリシャのサラダです。
 このサラダに賽の目に切ったフェタチーズをかけ,たっぷりと皿に盛った料理は「ホリアティキ」(田舎風・自家製サラダ)と呼ばれます。
 夏には角切りのスイカを入れた,日本人から見ると一風変わったサラダも好まれています。


(ギリシャヨーグルト)
 ギリシャヨーグルトの特徴は,ヨーグルトの水切りを行う(水分や乳清を除去する)ことです。
 そのため,他のヨーグルトに比べて,ギリシャヨーグルトは濃厚でクリーミーな味わいとなります。
 今回のギリシャヨーグルトには,ギリシャ産の蜂蜜や粉末のシナモンがかけられており,そのままでは酸味の強いギリシャヨーグルトを食べやすくする工夫がされていました。


(フルーツ)
 ギリシャではブドウ,イチジク,ザクロ,スイカ,メロンといったフルーツがよく食べられています。
 こうしたフルーツの中で,今回はマスカットとイチジクが用意されました。
 ヨーグルトと果物の組み合わせは,朝食にぴったりです。


ガラトピタ

 せっかくの機会なので,朝ごはんプレートとは別にアラカルトで,デザートの「ガラトピタ」を注文しました。

(ガラトピタ)
Photo_2

 「ガラトピタ」はセモリナ粉を使ったカスタードクリームのパイです。

 御用意いただいた「ガラトピタ」は,表面がパリッと香ばしいパイ生地で,中にはバニラビーンズ入りのカスタードクリームがたっぷり詰められており,ホイップクリームとミントも添えられていました。

 少しかためのプリンかカタラーナをパイ生地で包んだような食感・風味でした。


 今回御紹介した「ティロピタ」(「ティロ」はチーズという意味),「スパナコピタ」(「スパナコ」はホウレンソウという意味)そして「ガラトピタ」(「ガラ」は牛乳という意味)など,ギリシャでは「ピタ」(パイ)を使った料理やお菓子が多いのも特徴の1つです。


 世界の朝食を味わいながら世界各地の伝統的な食文化の理解を目指す取組みはとても興味深く,注目に値すると思います。


<関連リンク>
 「World Breakfast Allday」(東京都渋谷区神宮前6-15-14-1F(原宿店)ほか)

<関連記事>
 「ギリシャ料理の特徴と主な料理1 -サガナキ・ホリアティキ・スブラキ・ムサカ・マスティクア-

<参考文献>
 「大使館の食卓 おうちで簡単レシピ集」産経新聞出版

2018年9月16日 (日)

ハンガリー料理の特徴と主な料理2 -冷たい桃のスープ・グヤーシュスープ・マンガリッツァ豚のソテー・ショムロ地方のスポンジケーキ-

冷たい桃のスープ

 ハンガリー料理の特徴の1つとして特筆すべきは,食事として冷たく甘い果物のスープが飲まれることです。

 果物を絞った汁にサワークリーム(または生クリーム),牛乳,香辛料などを加えて煮立たせた後,冷やしたスープです。

 ハンガリー出身の店員さんのお話では,桃のほかにも,サクランボやイチゴ(ベリー)など様々な果物が使われ,特に夏によく飲まれているそうです。

 店員さんが満面の笑顔で「デザート!デザート!」と言いながら出していただいたスープがこちらです。

(冷たい桃のスープ)
Photo

 確かに見た目もデザートのようなスープです。

 でも,メインの前の食事用スープとして出されている訳ですし,ジャガイモの冷製スープ「ヴィシソワーズ」のような感じだろうと思いながらいただいてみました。

 「普通に甘い…。これはデザート…。」

 私の正直な感想です。

 桃の果汁がほとんどで,クリームが入った桃のジュースを飲んでいるかのようでした。

 中には賽の目に切った桃も入っていました。

 次にグヤーシュスープを御紹介しますが,通常のコースではこの「冷たい桃のスープ」か「グヤーシュスープ」いずれか1品を選ぶようになっていて,いずれも同等の「料理」の扱いです。


グヤーシュスープ

 伝統的なグヤーシュスープです。

 「冷たい桃のスープ」とは対照的に,寒い時期向けの温かいスープです。

 グヤーシュがハンガリーの国民的料理となったのは1800年代後半のことです。

 ハプスブルク家に支配された「オーストリア・ハンガリー二重帝国」の時代にあって,グヤーシュはハンガリーのアイデンティティを示す料理として確立したのです。

 屋外で大鍋で作られるグヤーシュを軽めにしたのがグヤーシュスープです。

 牛肉,玉ねぎ,トマト,パプリカ,香辛料などを煮込んで作られます。

 店員さんから,「グヤーシュは『牛飼い』という意味です。」と教えていただきました。

(グヤーシュスープ)
Photo_2

 スープの表面に点々と浮かんでいる緑色はバジル入りのオイルです。

 そしてスープカップの左隣に置かれている緑色の野菜は,スープの辛さを調節するためのパプリカ(青唐辛子)です。

 いただいてみると,ビーフシチューのような深い味わいのスープで,中には角切りの牛肉・人参・ジャガイモがゴロゴロ入っていました。

 主な食材がパプリカかビーツかで異なりますが,ボルシチにも似ているように思いました。

 あまり辛味はないので,途中で試しに青唐辛子をスープに入れ,少しかじってみました。

 すると,この青唐辛子が激辛で,一気に辛いスープへと変化しました。

 ヨーロッパの料理の中でも辛い料理が多いとされるハンガリー料理ですが,グヤーシュはその意味でも代表的な料理と言えるでしょう。


マンガリッツァ豚のソテー ポテトと紫キャベツ添え

 ハンガリーの代表的な料理ということで,ハンガリーの食べる国宝「マンガリッツァ豚」のソテーを御用意いただきました。

(マンガリッツァ豚のソテー ポテトと紫キャベツ添え)
Photo_3

 マンガリッツァ豚をソテーし,デミグラスソースに似た肉と香味野菜のうまみたっぷりのソースをかけた料理で,マッシュポテトや紫キャベツ,スライスしたリンゴ,ミニトマトなどが添えられています。

 マンガリッツァ豚は肉質がとてもやわらかく,脂肪も溶けやすいので,肉の食感と脂肪のうま味の両方をバランスよく味わうことができました。

 また,添え野菜やソースに着目すると,オリジナルソースはもとより,紫キャベツ,スライスリンゴ,ベリーソースなど甘い食べ物が多いことに気付きます。

 フォアグラとトカイワインの組み合わせもそうですが,肉と甘い食べ物を組み合わせた料理が多いのもハンガリー料理の特徴の1つと言えるでしょう。
(オーストリア料理のカツレツ(ウィンナーシュニッツェル)と甘いベリーソースの組み合わせも同じ流れにあると言えます。)

 お店の方から,マンガリッツァ豚のパンフレットを見せていただきました。

(マンガリッツァ豚(ピック))
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 モコモコした毛に覆われた,羊のような豚です。

 ハンガリーで誕生した特殊な豚で,その希少性からハンガリーの国宝にも認定されていますが,飼育と消費がうまく循環させることで頭数も安定するため,食べ続けることも必要なことのようです。

 このパンフレットはハンガリーサラミでも有名なピック社のものですが,このピック社のあるハンガリー南東部の都市セゲドはサラミとパプリカの主要産地となっています。

 そのため,ピック社の工場内に「ピックサラミ・セゲドパプリカ博物館」が設けられており,サラミとパプリカの歴史や製造法を学ぶことができます。


ショムロ地方のスポンジケーキ

 デザートは「ショムロ地方のスポンジケーキ」という珍しいケーキを用意していただきました。

(ショムロ地方のスポンジケーキ)
Photo_9

 ケーキの底から順に,ナッツのスポンジケーキ,洋酒・ベリーのケーキ,その上に白いバニラクリームケーキがのせられ,仕上げにチョコレートソースがたっぷりとかけられています。

 生クリームと甘い果実のソースも添えられています。

 このケーキの特徴はたっぷりかかったチョコレートソースと白いバニラクリームケーキです。

 チョコレートソースはココアパウダーから作られています。

 白いバニラクリームケーキは,食感が牛乳かんか名古屋のういろうのように感じ,一般的なケーキ生地とは少し異なったものでした。

 3層のケーキに3種のソース。様々な味を楽しみながら,コーヒーと共に美味しくいただき,食事を締めくくりました。


モーツァルトクーゲル

 お土産として,店頭のミニショップで販売されていたオーストリアのチョコレート菓子「モーツァルトクーゲル」を買いました。

(モーツァルトクーゲル)
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 ヘーゼルナッツクリームとマジパンクリームをチョコレートでコーティングしたお菓子です。
 ※マジパン…砂糖とアーモンドを練り合わせた製菓材料。

 中のマジパンがしっとりとやわらかく,かたいチョコレートと対照的な組み合わせで,日本ではあまり見かけないチョコレート菓子です。

 ハンガリーとオーストリアと言えば,かつてのオーストリア皇紀で,ハンガリーびいきだった「エリザベート(シシー)」を思い浮かべますが,そのシシーのグッズも販売されていました。


 今回いただいた料理は,基本のコース料理とアラカルトの中から代表的なハンガリー料理をアレンジしていただいたものです。

 こころよく応対してくださったお店の方に感謝の意を申し上げ,お店を後にしました。

 その際,店主さんから,「また東京にお越しの際はお寄りください。今度は気負わずに。」と声をかけていただきました。

 ハンガリー政府から依頼を受けてオープンし,ハンガリー大使館のお墨付きで,ディナーはドレスコードもある東京のレストランとなると,それなりに意識して訪問したことは確かなのですが,お店はとても和やかな雰囲気で,興味深いハンガリーのお話もたくさん伺え,とても居心地の良いひとときを過ごすことができました。

 今度は気負わずに訪問できそうです(笑)。



<参考文献>
 キース・ベローズほか「世界の食を愉しむ BEST500」日経ナショナル ジオグラフィック社
 関田淳子「ハプスブルク家の食卓」新人物文庫

<店舗情報>
 「AZ Finom(アズフィノム)」(東京都渋谷区神宮前2-19-5 AZUMAビル地下1階)

<関連リンク>
 「ピック(ピックサラミハンガリー)」(ハンガリーサラミ・マンガリッツァ豚)

<関連記事>
 「ハンガリー料理の特徴と主な料理1 -トカイワイン・豚肉のパテ・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ・スズキのソテー-
 「オーストリア料理の特徴と主な料理 -カイザーゼンメル,グーラッシュ,キプフェル,ウィンナーシュニッツェル-

2018年9月 8日 (土)

ハンガリー料理の特徴と主な料理1 -トカイワイン・豚肉のパテ・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ・スズキのソテー-

ハンガリーの概要と食文化

 ハンガリーは中央ヨーロッパに位置する国で,首都はブダペストです。

 「ブダペスト」のことを日本では「ブタペスト」と呼ぶ人もいますが,かつてドナウ川をはさんで両岸にあった王宮のある都市「ブダ」と商業で栄えた都市「ペスト」が一緒になった経緯を踏まえると,「ブタ」ではなく「ブダ」の方が正しい呼び方となります。

(ドナウ川から見るブダ王宮の夜景)
Photo
菊池良生「図解雑学 ハプスブルク家」ナツメ社 p177から引用

 地理的にトルコに近いこともあり,ブダ王宮がオスマン・トルコ軍に占領され,支配された時代もありました。

 このトルコ支配からハンガリーを解放したのが隣のオーストリア・ウィーンを拠点にしていたハプスブルク家ですが,今度はハプスブルク家の支配下に置かれることとなりました。

 その後,独立機運が高まった中での「オーストリア・ハンガリー二重帝国」体制や,第一次世界大戦後のハプスブルク帝国崩壊など,幾たびかの政変を経て,現在のハンガリー国家が形成されました。

 ハンガリー人は自らをマジャール人と呼び,言語もマジャール語と呼んでいます。

 この「マジャール」はもともとアジア系遊牧民を指し,人名表記も日本と同じ姓・名の順となっているなどアジアとの関わりも強いことから,ハンガリーは「ヨーロッパの中のアジア」とも呼ばれています。

 こうした歴史的・地理的・民族的背景から,ハンガリーはヨーロッパとアジア,キリスト教圏とイスラム教圏,農耕民と遊牧民など様々な文化を受け入れてきた国だと言えます。

 そのため,食文化においても,トルコ料理,オーストリア料理をはじめとして,多種多様な料理・食材・調理法が存在しています。


 それでは代表的なハンガリー料理を御紹介しながら,ハンガリー料理の特徴についてお話ししたいと思います。


トカイワイン

 東京のハンガリー料理店でハンガリー料理をいただきました。

 予約時に「いろんなハンガリー料理を味わってみたい」と御相談したところ,わがままな要望にもかかわらず快く応じてくださり,私向けのコースを組み立てていただきました。

 ドレスコードがスマートカジュアルとあったので,少しおしゃれして伺いました。

 カウンターでハンガリーのお話を伺いながら,ハンガリー料理を味わいました。

 最初に飲み物を何にするか問われたのですが,ハプスブルク家やハンガリーの食文化について学んだ上で,どうしても飲んでみたいワインがありました。

 トカイワインです。

 ハンガリー東北部トカイ地方から産出されるワインで,建国の祖イシュトバーン1世がキリスト教を国教とするにあたり,ブドウ(フルミント種)の栽培・ワインの製造をはじめた時から続くハンガリーを代表するワインです。

 フランス国王ルイ14世をして「これぞ王様のワイン,これぞワインの王様」言わしめたワインでもあります。(ちなみにルイ14世は日本の醤油も好んだことでも有名です。)

 店主さんから,「世界三大貴腐ワイン」(フランスの「ソーテルヌ」,ドイツの「トロッケンベーレンアウスレーゼ」,ハンガリーの「トカイワイン」)の1つであることを教えていただきました。

 そしてグラスに注いでいただきました。

(トカイワイン)
Photo_2

 トカイワインはよく「黄金色に輝くワイン」と称されますが,本当に黄金色の輝きをもつワインでした。

 オーストリアのマリア・テレジア(マリー・アントワネットの母)が,トカイワインの黄金色の輝きを見て,本当の金が入っているかどうか調べさせたという逸話も残っているほどです。

 口に含んでみると,アプリコット(アンズ)のお酒のような,甘みが強くフルーティーなお酒でした。

 一般的にランクの高いトカイワインほど,甘美な味わいが増すとされています。

 田舎者の私をして「田舎者にしてトカイワイン」と言わしめた,おすすめのワインです。


豚肉のパテ・パン・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ

 ハンガリーの代表的な食材を使ったオリジナルの前菜盛合せを作っていただきました。

(豚肉のパテ・パン・ハンガリーサラミ・パプリカ・フォアグラ)
Photo_3

 写真上から時計回りに,甘いパン(フォアグラ用),豚肉のパテと自家製パン,ハンガリーサラミ,パプリカとフォアグラのパテ・ソース,立ててある切身がフォアグラ,そして紫キャベツのピクルスです。

(豚肉のパテ)
 ハンガリー料理の特徴の1つに豚肉の料理が多いことが挙げられます。
 豚肉のパテもその1つで,自家製パンと共に美味しくいただきました。

(ハンガリーサラミ)
 程よい塩味でやわらかく,脂肪のしつこさもなかったので,お店の方に「このサラミは美味しいですね」とお話しすると,「ハンガリーの食べられる国宝『マンガリッツァ豚』で作られたサラミです」と教えていただき,納得しました。
 ハンガリーサラミはサラミの原点とも言われ,有名なイタリアのサラミもハンガリーをお手本に作られたという説もあります。

(パプリカ)
 輪切りのパプリカにフォアグラのパテやソースをかけた料理を御用意いただきました。
 パプリカは,オスマン帝国のトルコ人によってハンガリーに持ち込まれた唐辛子をもとにハンガリーで生まれた食材とされています。
 パプリカも含め,ハンガリーはヨーロッパの中で最も唐辛子類が食べられる国で,辛い料理が多いのも特徴の1つです。
 ハンガリーには,グヤージュ・ロールキャベツ・鶏の煮込み・鯉やナマズの煮込みなどパプリカを使った料理が多く,「パプリカなくしてハンガリー料理は存在しない」と言われるほどハンガリー料理には必要不可欠な食材となっています。

(フォアグラ)
 フォアグラは,紫キャベツで作られた甘いピクルスや甘いパン,そしてトカイワインと一緒にいただきました。
 フォアグラは甘い食べ物や飲み物と相性が良いことで知られています。(フォアグラとソーテルヌ・トカイワインの相性の良さは有名で,昔から最高の贅沢とされてきました。)
 ハンガリーはフォアグラの生産がフランスに次いで世界第2位で,日本が輸入しているフォアグラの約8割はハンガリー産です。
 ハンガリーはフォアグラの一大生産国と言えますが,これはハンガリーが水鳥(グース(ガチョウ)やダック(アヒル)など)を飼育するのに適した自然環境に恵まれており,良質の羽毛(ダウン)を産出してきたことと関係していると言えるでしょう。


スズキのソテー ポルチーニのソース

 ハンガリーはヨーロッパの内陸にあるため,魚料理は淡水魚が中心となります。

 鯉やナマズなどの淡水魚をパプリカと一緒に煮込んだ辛いスープ「ハラースレー」などが有名です。

 今回のコース料理では,スズキのソテーを御用意いただきました。

(スズキのソテー ポルチーニのソース)
Photo_4

 皿の中心にスズキのソテーにマッシュポテト,きのこ,ディル,白いパプリカが添えられ,全体にポルチーニソースがかけられています。

 外は皮も含めてパリッと,中は柔らかくジューシーにソテーされたスズキを,ポルチーニ茸と生クリームで仕上げられたソースでいただきました。

 マッシュポテトは刻んだホウレンソウとクリームチーズが入っており,コクのあるグラタンのような仕上がりでした。


【メモ】
貴腐ワイン
 ブドウの収穫を遅らせ,乾燥させたり,カビ(貴腐菌)をつけさせたりすることでブドウの水分を減らし,糖度を増した果汁で作られたワイン。
 トカイワインの場合,糖度を増したブドウ果汁と通常のブドウ果汁を混ぜて作られ,前者の果汁の含有率は「プトーニュ」という単位で表現される。

酒精強化ワイン
 貴腐ワインと同様に甘いワイン。
 ワインの製造過程の途中でブランデーなどのアルコール(酒精)を添加し,アルコール濃度を高めてその後の発酵を止めてしまうことでブドウ本来の甘さを残したワイン。
 スペインの「シェリー酒」,ポルトガルの「ポルト酒(ポートワイン)」や「マディラ酒」などが有名。

甘いワインとフォアグラのマリアージュ
 フォアグラは貴腐ワインと相性が良いが,これは酒精強化ワインにも当てはまる。
 例えばフランス料理では,フォアグラのソテーやテリーヌなどにマディラ酒のソース(ソース・マディラ)やポルト酒のソース(ソース・ポルト)が組み合わされることが多い。
 ちなみに「牛フィレ肉とフォアグラのロッシーニ風」に用いられるソース「ソース・ペリグー」はソース・マディラに刻んだトリュフを加えて作られる贅沢なソースである。


<参考文献>
 岡田 哲「世界の味探究事典」東京堂出版
 関田淳子「ハプスブルク家の食卓」新人物文庫
 菊池良生「図解雑学 ハプスブルク家」ナツメ社
 21世紀研究会編「食の世界地図」文春新書
 21世紀研究会編「民族の世界地図」文春新書
 玉村豊男「食卓は学校である」集英社新書

<店舗情報>
 「AZ Finom(アズフィノム)」(東京都渋谷区神宮前2-19-5 AZUMAビル地下1階)

<関連記事>
 「ハンガリー料理の特徴と主な料理2 -冷たい桃のスープ・グヤーシュスープ・マンガリッツァ豚のソテー・ショムロ地方のスポンジケーキ-

2018年8月12日 (日)

スリランカ料理の特徴と主な料理 -デビルチキン,デビル・悪魔風と名のつく料理の意味-

スリランカの食文化

 スリランカはインドの南東に位置する島国です。

 周りが海に囲まれているため,日本と同じく魚介類の料理が多く,魚のカレーが代表的な料理の1つとなっています。

 地理的条件からみると,南インドに近いことから,南インド料理との共通点が多いと言えます。

 また,ヨーロッパや北西アフリカから中東,インド,東南アジア,東アジアを結ぶ海の商業ルート上に位置していることから,これらの国々の食文化の影響も受けています。

 さらに歴史的背景から,ポルトガル,オランダ,イギリスによる植民地時代があったため,これらの国々の食文化の影響も受けています。

 つまりスリランカの食文化は,スリランカ独自の食文化に幅広い様々な国の食文化が組み込まれて成り立っていると言えるのです。


デビルチキン

 スリランカ料理店で面白い名前の料理を見つけました。

 デビルチキンです。

(デビルチキン)
Photo

 鶏とトマトと野菜のチリソース炒めです。

 鶏肉,トマト,玉ねぎ,ピーマンなどを一口大のザク切りにし,甘辛いチリソースで炒めた料理です。

 今回味わった料理は,甘辛いというよりは甘酸っぱい味付けでした。

 見た目も味も中国料理の「酢豚」に近いと感じました。

 ただ,お店の人にお話を伺うと,酢は使っていないとのことでしたので,甘味や酸味は主にトマトによるものなのでしょう。

 デビルチキンと一緒にライスやパパダン,アチャールをいただきました。

(デビルチキンとジャスミンライス・パパダン・アチャール)
Photo_2

 写真右上の皿にライス,そして時計回りにパパダン,アチャール2種です。

 長細いチップスかパスタのような食べ物がパパダンです。

 パパダンは豆の粉末や小麦粉から作られるパリパリしたせんべいのような食べ物で,焼いたり油で揚げたりしてカレーなどと一緒に食べられます。

 インドのパパドとよく似ています。

 一方,アチャールは野菜や果物の漬物のことです。

 カレーの付合せとして食べられるもので,インドやネパールなどにも同名の漬物があります。

 写真のアチャールはターメリックで漬けた大根とオクラのアチャールです。

 これらの食べ物は,日本の食事で例えると,主菜につくご飯と漬物のようなイメージでしょう。


デビル・悪魔風と名のつく料理の意味

 「デビルチキン」とは何ともインパクトの強いネーミングですが,料理名に「デビル」,「悪魔風」,「ディアボラ風(イタリア料理)」などと名のつく料理は,次のいずれかに該当する場合だと思います。

 (1)味付けをチリソースなどで辛くしている料理
 (2)見た目が赤く燃え上がるような色をした料理
 (3)形がマントを広げた悪魔のように見える料理
 (4)仕上げに残酷な悪魔を想像させる焼き目を付けた料理

 今回の「デビルチキン」は主に(1)や(2)の意味で,イタリアの鶏料理の場合は主に(3)や(4)の意味でネーミングされています。


 どんな料理にも言えますが,作ったり味わったりする際,一歩踏み込んで,その料理の名前の意味や歴史的背景なども調べてみると,その料理の基本や本質をつかむ手助けとなり,やがて応用もきくようになると思います。


<関連記事>
 「ネパール料理の特徴と主な料理3 -アルアチャール・マルプア・チャイ-

2018年7月 7日 (土)

デンマーク料理の特徴と主な料理3 -フリカデラ・赤キャベツのピクルス・フレスケスタイ・フーゴ,デンマークとドイツの食文化-

 広島アンデルセンで開催された「デンマークフェア」で販売されていたデンマークゆかりの食を御紹介したいと思います。


フリカデラと赤キャベツのピクルス ラズベリー風味

 フリカデラは豚の挽き肉で作られるハンバーグやミートボールに似た料理で,デンマークの代表的な料理の1つです。

(フリカデラと赤キャベツのピクルス ラズベリー風味)
Photo

 フリカデラにラズベリー風味の赤キャベツのピクルスを添えてみました。

 今回のフリカデラは,アグー豚の挽き肉のほかに,細かく刻まれたじゃがいもも入っており,豚肉のうまみとともに,じゃがいものホクホク感も楽しめました。

 そして写真手前の紅生姜のような食べ物が,赤キャベツのピクルスです。

 レッドキャベツを砂糖,りんご酢,ラズベリーピューレ,食塩で漬け込んだもので,フルーティーでとても甘いピクルスでした。

 赤キャベツをイチゴ味の氷みつに漬けたような味です。

 単品で食べると,まるでお菓子のような食べ物なのですが,このピクルスをフリカデラと一緒にいただくと,不思議なことにとてもよく合います。

 肉団子を甘酢あんでいただくような感じがしました。

 デンマークのフリカデラとラズベリー風味のピクルス,オーストリアのウィンナーシュニッツエルとベリーソース,アメリカのローストターキーとクランベリーソースなど,肉料理と甘いベリーソースは実はとても相性がよい組合せなのだと実感しました。


フレスケスタイ(クリスピーデニッシュポーク)

 「フレスケスタイ」はローストポークのことです。
 
 今回のフェアでは「クリスピーデニッシュポーク」という名称で販売されていました。

 フレスケスタイの特徴は豚の皮も一緒に食べることです。

 豚の皮の部分に「ハモの骨切り」のように包丁で細かく切り込みを入れ,その切れ目に塩・ローリエ・クローブなどの調味料やスパイスをすり込んで下味をつけ,オーブンで焼いた料理です。

(フレスケスタイ)
Photo_2

 写真のこんがりと焼けた表面の皮の部分を御覧いただくと,切れ目が入っているのがおわかりいただけるかと思います。

 この皮の部分がカリカリで,塩味とスパイスの味がしっかりと効いています。

 一方,肉の部分はやわらかくジューシーで,豚肉本来のうま味があります。

 このカリカリの皮と肉を一緒に食べることで,味のバランスがとれたローストポークを楽しむことができるのです。

 ただ,豚の皮をローストした料理なので,若干ですが,焼いた豚足や豚耳に似た独特なにおいも感じられます。

 このにおいについては好みが分かれそうですが,フレケスタイには欠かせない要素であることは間違いありません。


フーゴ

 フーゴは,甘くさわやかなエルダーフラワーシロップの入った微炭酸のソフトドリンクです。

 お店の方から,デンマークで初夏に飲まれるドリンクだと伺いました。

(フーゴ)
Photo_3

 実際いただいてみると,すっきりとした甘さで,ミントの爽快感も感じられました。

 エルダーフラワーは花の一種ですが,ライチやマスカットに似たフルーティーな風味を感じました。

 暑い日は,フーゴで「スコール(乾杯)!」


デンマークとドイツの食文化における共通点

 デンマークとドイツは,ユトランド半島の北側がデンマーク,付け根にあたる南側がドイツと隣国同士の関係になります。

(ユトランド半島とデンマーク・ドイツ周辺の地図)
Photo
(国土地理院の電子地形図(タイル)に国名・地名等を追記して掲載)
※地図をクリックすると拡大します。

 そのため,食文化においても次のような共通点が見い出せます。

(1)両国ともニシン料理が有名だが,これはユトランド半島の付け根に位置するドイツの都市リューベックとハンブルクが中心となって発展した商業同盟「ハンザ」の存在と,「ハンザ」のニシン漁を主にデンマークの漁師が担っていたことに由来している。

(2)両国とも豚肉やじゃがいもを多く食べる。

(3)デンマークには「フリカデラ」,ドイツ・ハンブルクには「フリカデレ」(のちにアメリカに渡り,ハンブルクを英語読みした「ハンバーグ」という名称となる)と,共通した豚の挽き肉料理がある。

(4)パンが重視され,伝統的なライ麦パン(黒パン)を中心にパンの種類が豊富にある。

(5)「デンマークビール」,「ドイツビール」と呼ばれるように,両国ともビール大国である。

 これらの共通点は代表的な事例で,実際にはもっとたくさんの共通点があることでしょう。


 日本ではまだあまり馴染みのないデンマーク料理ですが,ドイツ料理まで視野を広げてみると,より深く理解できるのではないかと思います。


<関連サイト>
 「広島アンデルセン」(広島市中区紙屋町2-2-2)

<関連記事>
 「デンマーク料理の特徴と主な料理1 -なぜオープンサンドイッチが伝統料理なのか-
 「デンマーク料理の特徴と主な料理2 -デンマークバター・ソフトカーネラグブロート・ダンスクウールブロート・スモーブロー-

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