宗教・食文化史

2023年4月16日 (日)

東京都江戸川区の江戸東京野菜「小松菜」3-小松菜グルメスタンプラリー・小松菜サラダ・小松菜鍋・小松菜と牛肉の五香粉炒め・小松菜の肉巻き-

東京都江戸川区の「小松菜グルメスタンプラリー」

 東京都江戸川区で「第9回小松菜グルメスタンプラリー」(2022年11月1日~2023年1月31日)が実施されました。

 私は2022年12月末に江戸川区を訪問した際に,このスタンプラリーが実施されていることを知りました。

 興味を持った私は,レンタサイクルで江戸川区内の小松菜商品販売店舗を巡り,スタンプシールを3枚集めることができました。

 後日,スタンプシールを貼り,必要事項とアンケートを記入した応募はがきをポストに投函しました。

 欲しかったのは,スタンプシール3枚達成でもれなくもらえる「こまつなくん缶バッジマグネット」です。

 応募したことも忘れかけていた2023年3月4日,自宅に大きな段ボール箱のゆうパックが届きました。

 ずっしりと重い段ボール箱を受け取り,「何だろう?」と宛名ラベルを見てみると,「小松菜グルメスタンプラリー景品(小松菜)」と記載されていました。

 段ボール箱の側面には「えどちゃんシール」が貼ってありました。

(えどちゃんシール)
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 「えどちゃん」は,江戸川(edogawa)の「e」と,江戸川区の名産「花」と「小松菜」をイメージした「江戸川区農業応援キャラクター」です。

(えどちゃんの紹介)
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 「江戸川区農産物直売マップ -江戸川は花と野菜のゆめ産地-」(江戸川区産業経済課都市農業係)から一部引用

 「えどちゃん」は「江戸川区農業のPRのため,元気に走り回っている」とのことですが,まさか遠く離れた広島市南区まで走ってくるとは元気全開です(笑)

 ワクワク,ドキドキしながら段ボール箱を開けてみました。

(段ボールの中身)
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 中には,小松菜グルメスタンプラリー当選通知,こまつなくん缶バッジマグネット,日本農業新聞のフリーマガジン「フレマルシェ」,そして江戸川区産の小松菜が入っていました。

(小松菜グルメスタンプラリー当選通知)
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 こちらが当選通知です。

 参加賞の缶バッジマグネットに加え,「Wチャンス」として江戸川区産小松菜1000円分が当選しました。

 これは嬉しいプレゼントです。

 江戸川区を訪問した際,本当は江戸川区の小松菜を買って帰りたかったのですが,旅の途中だったことや,実際に東京から広島まで持って帰るのは大変なことから,断念した苦い思い出があったからです。

(こまつなくん缶バッジマグネット)
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 こちらは参加賞のこまつなくん缶バッジマグネットです。

 江戸川区内をレンタサイクルで巡った思い出を呼び起こす記念品となりました。

(小松菜の束(江戸川区産))
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 こちらがWチャンスで当選した江戸川区産小松菜です。

 当選者10名のうちの1人に選ばれたようです。

 袋詰めで販売される小松菜が多いなか,江戸川区では茎をテープで留めて結束する方法を採用しておられます。

 茎も根もシャキッと美しく束ねられた小松菜は,鮮度と品質の良さの証です。

 確かに,まだ水滴が残るほどみずみずしい小松菜がそのまま段ボールに詰められていました。

(小松菜(江戸川区産))
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 小松菜を1本取り出してみました。

 確かに白く太い根までついている小松菜は珍しいです。

 その根まできれいに洗ってくださっており,その手間を想像すると,根も含めて無駄にはできないと思いました。

 都内に鮮度の高い小松菜を出荷できるのも江戸川区産小松菜のメリットの1つです。


江戸川区産小松菜を使った料理

 いただいた江戸川区産小松菜を使って,いくつか料理を作ってみました。


【小松菜サラダ】

 江戸川区の小松菜は生でも美味しく食べられることから,純粋に小松菜の味を味わえるサラダにしました。

(小松菜サラダ)
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 醤油ベースのドレッシングをかけていただくと,シャキシャキした食感で,旨味とほのかな甘味を感じました。

 江戸川区の小松菜は,東京湾の潮風にあたって育つことで,旨味と甘味が凝縮されるようです。

 サラダであれば,いつでも手軽に小松菜をいただくことができます。


【小松菜と牛肉の五香粉炒め】

 小松菜と牛肉で炒め物を作りました。

(小松菜と牛肉炒め)
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 小松菜と牛肉を炒め,塩こしょうで味付けした「小松菜と牛肉炒め」です。

 シャキッとした食感を残した小松菜を美味しくいただくことができ,いくら牛肉と言えども,主役は小松菜だと思わせる一品でした。

 別の日に,中国などで使われる「五香粉(ウーシャンフェン)」と呼ばれるスパイスを使った炒め物も作ってみました。

 五香粉は,スターアニス(八角),シナモン,花椒,クローブ,陳皮といった約5種類のスパイスが調合されたミックススパイスです。

 このスパイスを使うと,中国料理の「豚の角煮」や台湾料理の「魯肉飯(滷肉飯,ルーローハン)」と同じような風味を得ることが出来ます。

 今回の炒め物に使う調味液は,酒,みりん,醤油を同じ割合で加え,それに五香粉をパッパッと足したものです。

(五香粉の調味液)
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 フライパンにゴマ油をひいて牛肉を炒め,小松菜も加えて強火でサッと炒めます。

 仕上げに五香粉入りの調味液を入れ,汁気を少し飛ばせば完成です。

(小松菜と牛肉の五香粉炒め)
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 どろっとした甘辛い醤油と八角・シナモンの甘くさわやかな香りが,小松菜と牛肉の味をより一層引き立てます。

 手軽に本格的な中国・台湾料理を作ることができるので,オススメです。


【小松菜鍋】

 寄せ鍋の材料(白ねぎ,大根,しめじ,豚肉,海老,タラなど)に小松菜を加え,小松菜鍋を作りました。

(小松菜鍋)
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 栄養価の高い小松菜をたっぷりと食べることができることが魅力です。


【小松菜とパンチェッタのパスタ】

 小松菜とパンチェッタ(塩漬け豚肉)でパスタを作りました。

 フライパンにたっぷりのオリーブ油を入れて熱し,薄切りのニンニクで香り付けした後,小松菜と厚切りのパンチェッタを加えて炒めます。

 ほどよく炒めたところで,別に茹でておいたパスタを加え,茹で汁も少し加えてサッと炒めます。

 塩こしょうで味を調えれば完成です。

(小松菜とパンチェッタのパスタ)
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 小松菜の甘味とシャキシャキ感,パンチェッタの脂と塩気がパスタと見事にマッチしました。


【小松菜の肉巻き】

 江戸東京野菜「のらぼう菜」を肉巻きでいただいたことを思い出し,小松菜の肉巻きにチャレンジしました。

(小松菜の肉巻き(加熱前))
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 5cm程度に切り揃えた小松菜を厚切りの豚バラ肉で巻き,つまようじで留めます。

 小松菜は葉と茎をバランスよく詰め,きれいに洗った根も入れました。

 フライパンを火にかけ,油をひいて小松菜の肉巻きをのせました。

 途中,まんべんなく火がとおるよう,フタをしてしばらく蒸し焼きにしました。

 フタをとり,塩こしょうで調味して,表面にこんがりと焼き色がつけば完成です。

 こしょうは小松菜や厚切りの豚肉をしっかり受け止める「粗挽き」がオススメです。

(小松菜の肉巻き)
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 肉巻きをガブリとかじると,旨味と甘味が凝縮された小松菜のエキスがジュワッとほとばしりました。

 同じ材料で炒め物にするよりも,肉巻きにする方が小松菜をよりジューシーにいただくことができます。

 興味を持たれた料理があれば,ぜひお試しください。


まとめ

 東京都江戸川区の小松菜について,今回を含めて3つの記事で御紹介しました。

 小松菜グルメスタンプラリーの当選通知に「今後とも江戸川区特産小松菜をはじめ,小松菜商品を応援くださいますようお願い申し上げます。」と記載されていたこともあり,何らかの形で江戸川区の小松菜を応援し,江戸川区の皆さんにお礼ができないかという気持ちを込めて執筆しました。

 また機会があれば江戸川区を再訪し,レンタサイクルで小松菜めぐりをしたいです。

 江戸川区の小松菜。

 新鮮で,クセがなく,甘味もあって,とても美味しい野菜です。

 皆様も機会があれば江戸川区の小松菜や小松菜料理・商品を御賞味ください。


<関連サイト>
 「小松菜プラスワン(KOMATSUNA+1)」(ウェルフィールド)
 「江戸川の小松菜はエライ!」(江戸川区役所産業経済課)

<関連記事>
 「東京都江戸川区の江戸東京野菜「小松菜」1-小松菜発祥の地・小松菜の名前の由来・新小岩香取神社・小松菜屋敷・江戸川区の小松菜商品-
 「東京都江戸川区の江戸東京野菜「小松菜」2-小松菜ドリア・小松菜サラダ・小松菜ジュース-
 「関西の地場野菜「しろ菜」と関東の地場野菜「のらぼう菜」・広島県の「やさいバス」-しろ菜のおひたしと豚肉炒め・のらぼう菜の肉巻き-

<参考文献>
 「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」(江戸川区産業経済課都市農業係)
 「江戸川区農産物直売マップ -江戸川は花と野菜のゆめ産地-」(江戸川区産業経済課都市農業係)

2023年4月 9日 (日)

東京都江戸川区の江戸東京野菜「小松菜」2-小松菜ドリア・小松菜サラダ・小松菜ジュース-

 当ブログ記事で,小松菜は東京都江戸川区(小松川)が発祥の「江戸東京野菜」であることを御紹介しました。

 今回は,その東京都江戸川区でいただいた小松菜料理と小松菜ドリンクを御紹介したいと思います。


しのざき文化プラザの伝統工芸カフェ「アルティザン」

 都営新宿線・篠崎駅に直結する施設「しのざき文化プラザ」を訪問しました。

(しのざき文化プラザ)
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 「しのざき文化プラザ」は,江戸川区の歴史・文化・産業などを様々な形で紹介するギャラリー,図書館,飲食施設などが揃った複合文化施設です。

 江戸川区の小松菜についても,図書館やギャラリーで情報を得たり,特産品ショップで関連商品(お土産)を購入したり,飲食ショップで料理・ドリンクを味わったりと,様々なニーズに活用できます。

 その「しのざき文化プラザ」内にある飲食ショップ・伝統工芸カフェ「アルティザン」で小松菜料理・小松菜ドリンクをいただきました。

(伝統工芸カフェ「アルティザン」)
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 写真中央が受付・レジ・調理スペース,写真左(手前)が飲食スペース,写真右(奥)が特産品ショップです。

 レジで料理・ドリンクを注文し,テーブル席に座りました。


小松菜料理・小松菜ドリンク

 今回私が注文した小松菜料理・ドリンクは,「小松菜ドリア」とセットの「小松菜サラダ」,そして「小松菜ドリンク」です。

 しばらくして,料理・ドリンクが出来上がりました。

(小松菜料理・小松菜ドリンク)
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 小松菜メニューのオンパレードです!

 このほかにも小松菜を使ったメニューとして,ピザ,オムライス,パスタ,カレー,ハンバーガー,スムージー,豆乳ジュースなどが用意されていました。

 それでは,今回私が味わった料理・ドリンクを個別に御紹介します。


小松菜ドリア

 「小松菜ドリア(えび)」です。

(小松菜ドリア(えび))
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 ドリアはえびとミートの2種類があり,私はえびをチョイスしました。

 こんがり焼けた熱々・トロトロのチーズとホワイトソースがたっぷりとかかっています。

 小松菜は…チーズの中に隠れているのでしょうか。

 中を確かめてみましょう。

(小松菜ドリア(中身))
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 主役の小松菜を見つけました!

 ホワイトソースの中には,小松菜,きのこ,ライス(もち麦ご飯)が入っていました。

 小松菜は江戸川区の石井農園から直送されたものです。

 いただいてみると,中の小松菜が温かくてシャキシャキの状態で,食感と持ち味(新鮮さや甘みなど)がよく生かされていました。

 トロトロのチーズやコクのあるホワイトソースとの相性も抜群でした。

 小松菜を表面に盛り付けず,チーズ・ホワイトソースとライスの間に入れてオーブンで焼くことで,小松菜の食感や持ち味が生かされています。

 小松菜は炒め物やおひたしに使うイメージが強かったのですが,ドリアやグラタンなどホワイトソースを用いる洋食にも応用できることがわかりました。


小松菜サラダ

 小松菜ドリアのセットとして,「ミニ小松菜サラダ」を注文しました。

(小松菜サラダ)
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 新鮮な小松菜にクスクスとレンズ豆が添えられたサラダです。

 そして人参を使ったキャロットドレッシングがかけられています。

 生の小松菜をサラダとしていただくというのは初めてでしたが,青菜のえぐみがなく,むしろ,ほんのりとした甘みを感じました。

 シャキシャキとした食感で,ドレッシングをかけるといくらでも食べられそうな一品でした。

 江戸川区の小松菜ガイドブック「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」にも小松菜が生で食べられることが紹介されています。

(江戸川区のサラダ小松菜の紹介)
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 「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」(江戸川区産業経済課都市農業係)から一部引用

 江戸川区の小松菜は,茎も葉もやわらかく,生でも美味しく食べられます。
 ※区内農家・弘前大学・江戸川区で構成する「えどがわ農業産学公プロジェクト」のまとめ

 サラダ向けの「サラダ小松菜」も,伝統工芸カフェ「アルティザン」などで販売されています。

 サラダであれば,毎日お手軽に小松菜をいただくことができますね。


小松菜ジュース

 最後に「小松菜ジュース」を御紹介します。

(小松菜ジュース)
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 この青汁にも似た小松菜ジュースが一番気がかりでした(笑)

 江戸川区石井農園直送の新鮮な小松菜をミキサーにかけ,100%アップルジュースと合わせて飲みやすくしたジュースです。

 小松菜の甘みや爽快さ,そして若干青臭さも感じましたが,それらを含めて小松菜の特徴をストレートに味わえるドリンクだと思いました。

 小松菜ジュースは常温に近い状態でしたが,これも新鮮な小松菜が使われているからこそで,リアリティがあって好感が持てました。

 小松菜の味・フレーバーをストレートに楽しめる,小松菜発祥の地・江戸川区ならではのドリンクです。


まとめ

 小松菜は,今や全国各地で見かけるメジャーな野菜となりましたが,その発祥の地で小松菜の特徴や歴史をじかに学び,小松菜(商品)を扱うお店(直売所)を巡り,飲食店で地元の小松菜を使った料理やドリンクを味わえば,より一層小松菜への親しみがわき,江戸川区の皆さんがいかに小松菜に愛着を持っておられるかを知ることができるでしょう。

 徳川吉宗になった気分で,江戸川区の小松菜の魅力を探る「小松菜ツアー」はいかがでしょうか。


<関連サイト>
 「伝統工芸カフェ アルティザン」(東京都江戸川区篠崎町7-20-19)
 「小松菜プラスワン(KOMATSUNA+1)」(ウェルフィールド)
 「江戸川の小松菜はエライ!」(江戸川区役所産業経済課)

<関連記事>
 「東京都江戸川区の江戸東京野菜「小松菜」1-小松菜発祥の地・小松菜の名前の由来・新小岩香取神社・小松菜屋敷・江戸川区の小松菜商品-

<参考文献>
 「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」(江戸川区産業経済課都市農業係)
 「江戸川区農産物直売マップ -江戸川は花と野菜のゆめ産地-」(江戸川区産業経済課都市農業係)

2023年4月 2日 (日)

東京都江戸川区の江戸東京野菜「小松菜」1-小松菜発祥の地・小松菜の名前の由来・新小岩香取神社・小松菜屋敷・江戸川区の小松菜商品-

江戸東京野菜・小松菜

 「江戸東京野菜」と呼ばれる野菜を御存知でしょうか。

 「江戸東京野菜」とは,江戸時代以降,東京都内の農地で数世代以上にわたって栽培されてきた在来種や,在来の栽培法によって育てられた野菜を言います。

 江戸時代に東京都に含まれていなかった地域の野菜や,明治以降(東京になってから)生み出された野菜(品種)も含めた総称として「江戸東京野菜」と呼ばれています。

 「江戸東京野菜」には,練馬ダイコン,小松菜,東京べか菜,のらぼう菜,馬込半白キュウリ,早稲田ミョウガなどがあります。


小松菜発祥の地・東京都江戸川区

 「江戸東京野菜」の1つに小松菜があります。

 小松菜は東京都江戸川区が発祥の地とされ,江戸時代から栽培されています。

 また,小松菜という名称は,地名の「小松川」に由来しています。

 現在は全国各地で栽培され,お店で見かけることも多い小松菜が,実は東京都江戸川区にルーツがあることに興味を持ち,同区を訪問しました。


江戸川区の小松菜の概要

 都営新宿線に乗り,篠崎駅で下車しました。

 そして篠崎駅に直結する施設「しのざき文化プラザ」を訪問しました。

(しのざき文化プラザ)
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 この施設内にある図書館で,小松菜の情報を入手しました。

(「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」表紙)
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 とても参考になったのが,この「小松菜力」(こまつなりょく)というガイドブックです。

 冊子には,江戸川区の小松菜に関する様々な情報が掲載されています。

 その中のいくつかを御紹介します。

 まずは小松菜の名前の由来についてです。

(小松菜の名前の由来)
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 「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」(江戸川区産業経済課都市農業係)から一部引用

 小松菜の名付け親は徳川八代将軍・徳川吉宗と言われています。

 小松川村に鷹狩りに来た徳川吉宗は,地元民から地元で採れた無名の葉っぱを入れたすまし汁を献上されました。

 この汁をとてもおいしいと感じた徳川吉宗は,この無名の葉っぱを,地名(小松川)にちなんで「小松菜」と命名したのです。
 ※三代将軍・徳川家光や五代将軍・徳川綱吉とする説もあります。

 小松菜の栄養についても,興味深いお話が紹介されています。

(天然サプリメント・小松菜パワー)
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 「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」(江戸川区産業経済課都市農業係)から一部引用

 小松菜は栄養バツグンの野菜で,カルシウムや鉄分(ミネラル)が豊富に含まれています。

 また,アクやえぐみのもととなるシュウ酸の含有量が少なく,クセが少ないという特長もあります。

 私はなぜか腎臓に結石を作りやすい体質(尿路結石を起こしやすい体質)なので,シュウ酸を多く含む食品はたくさん食べられないのですが,小松菜はシュウ酸が少なく,カルシウムが多いようなので,安心して食べられます。

 続けてガイドブックを読むと,江戸川区内の小松菜商品取扱店舗・直売所が紹介されていました。

(小松菜商品 取扱い店舗・直売所MAP)
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 江戸川区の小松菜の直売所や,江戸川区の小松菜を使った料理・お菓子などを販売しているお店が数多く紹介されています。

 江戸川区の皆さんが一丸となって,地元の名産品・小松菜を盛り上げておられる様子が伺えました。


小松菜発祥の地 江戸川区の歴史・史跡巡り

 篠崎駅でレンタサイクルをお借りし,小松菜とゆかりのある歴史・史跡巡りをしました。

 江戸川区は東西に京成本線・JR総武線・都営新宿線・東京メトロ東西線・JR京葉線が走っていますが,南北には鉄道がないため,区内を巡る際はバスやレンタサイクルが活躍します。

 自転車で移動する途中,野菜畑を見かけました。

(東京都江戸川区・畑の風景)
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 東京を自転車で移動したり,野菜畑を見たりするのは初めてで,新鮮な体験でした。

 その後,江戸川区中央にある新小岩香取神社を訪問しました。

(新小岩香取神社)
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 この神社の境内に,小松菜産土神の石碑があります。

(小松菜産土神の石碑と小松菜の紹介看板)
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(「江戸・東京の農業 小松菜」の紹介看板)
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 徳川吉宗が鷹狩りをされた際,この神社が食事場所として選ばれたようです。

 つまり,「小松菜の名前の由来」で御紹介した「小松菜」命名のお話は,この神社にまつわるお話なのです。

 続いて,神社の隣にある「小松菜屋敷」を訪問しました。

(小松菜屋敷)
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 黒塗りの立派な門です。

(小松菜屋敷の由来)
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 小松菜屋敷の由来には,「徳川吉宗が鷹狩りに来られた際,小松菜入りのすまし汁を献上した人物が香取社の神主・亀井和泉守(通称「いづみ様」)で,その方の屋敷であったことから「小松菜屋敷」と呼ばれるようになった」と記載されています。

 さらに,「邸内には亀井家の屋敷神「小松菜さま」が祀られており,困ったことがあれば「こまつたな」といって小松菜を供えれば願い事が叶えられ,さらに「菜(名)を上げ菜(名)を残す」といって,昔から信仰されています」とも記載されています。

 門をくぐり,中に入ってみると「吉宗腰掛石」がありました。

(吉宗腰掛石)
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 かの徳川吉宗が鷹狩りの合間に腰かけ,休憩された石なのでしょう。

 徳川吉宗は,砂糖の栽培を奨励して砂糖の国産化を進めたり,隅田川に桜を植えるよう命じ,その桜から桜餅が作られるようになったりと,小松菜の命名だけでなく,日本の様々な食文化に影響を与えた人物でもあります。

 ほかにも小松菜ゆかりのものがないかと庭を歩いていると,この家にお住まいの方から「今,掃除中ですので…」と注意を受けました。

 庭の奥は個人宅のようなので,見学をする際には注意が必要です。

 このようなこともありましたが,江戸川区で小松菜ゆかりの場所を訪問することができ,江戸川区と小松菜のつながりを実感することが出来ました。


江戸川区の小松菜商品

 再び自転車で篠崎に戻り,「しのざき文化プラザ」内の伝統工芸カフェ「アルティザン」で江戸川区の小松菜商品をいくつか購入しました。

(伝統工芸カフェ「アルティザン」)
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 伝統工芸カフェ「アルティザン」には,食事コーナーと江戸川区の特産品や工芸品を扱っておられる物販コーナーがあります。

 こちらの物販コーナーで江戸川区の小松菜商品をいくつか購入しました。

(江戸川区の小松菜商品)
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 写真左上が「小松菜玄米せんべい」,中央手前が「小松菜ふりかけ」,右上が「小松菜サンド」です。


【小松菜玄米せんべい】

(小松菜玄米せんべい)
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 「小松菜玄米せんべい」は,小松菜の粉末と焙煎した玄米が練り込まれた甘い一口せんべいです。

 カルシウム豊富な小魚の粉末も使われており,栄養豊富で子供からお年寄りまで楽しめるせんべいです。

 小松菜(青菜)の香りや,焙煎した玄米の香ばしさを楽しむことが出来ます。


【小松菜ふりかけ】

 「小松菜ふりかけ」は,小松菜,魚粉,ごま,塩,根昆布で作られたふりかけです。

 無添加で自然な味を重視された一品です。

 このふりかけを炊きたてのご飯に混ぜ,小松菜おにぎりを作ってみました。

(小松菜おにぎり)
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 ご飯にたっぷり混ぜ込んだので,抹茶を使った時のように緑色が際立つおにぎりに仕上がると思ったのですが,意外と控えめな色に仕上がりました。

 そのため,おにぎりの頂上にも小松菜ふりかけをかけてみました。

 一般的なふりかけと比べて塩分が控えめで,その分,小松菜の粉末がたくさん入っているので,ご飯にたくさんふりかけて(混ぜ込んで)も大丈夫です。

 ほんのりと小松菜の風味を感じるおにぎりでした。


【小松菜サンド】

(小松菜サンド)
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 小松菜サンドは,小松菜パウダー入りクリームを甘い薄焼きせんべいでサンドしたお菓子です。

 ゴーフルに似た焼菓子です。

 ほのかに小松菜の香りが感じられるクリームが魅力のお菓子です。


【小松菜饅頭「こまつなっぴー」】

 新小岩香取神社と小松菜屋敷を訪問した際,その近くのお店「玄舟庵 新小岩店」にも寄って江戸川区産小松菜が使われたお菓子を購入しました。

 小松菜饅頭「こまつなっぴー」です。

(小松菜饅頭「こまつなっぴー」)
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 小松菜のかわいいキャラクターが描いています。

(小松菜饅頭「こまつなっぴー」(中身))
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 饅頭の皮には小松菜がデザインされています。

 中の薄緑色のあんは,白いんげん豆や練乳をベースにした白あんに,小松菜パウダーを練り込んだものです。

 しっとりとした皮に,ほんのりと小松菜の香りを感じるあんが入った饅頭です。

 ちなみに,私はこの「こまつなっぴー」をまとめて購入し,東京のお土産として職場で配りました。

 東京のお土産,何にしようか「こまつたなー」という時は,江戸東京野菜である江戸川区の小松菜を使ったお菓子や工芸品のお土産をチョイスされてはいかがでしょうか。

 江戸川区発祥の小松菜のお土産を贈れば,きっと「菜(名)を上げ,菜(名)を残される」ことでしょう(笑)


 東京都江戸川区は,小松菜の歴史・由来を学べ,様々な小松菜料理・菓子を味わうことができる日本唯一の小松菜魅力発信地域です。


<関連サイト>
 「江戸東京野菜について」(東京都農業協同組合中央会)
 「江戸東京野菜(地域資源紹介)」(東京都産業労働局)
 「しのざき文化プラザ」(東京都江戸川区篠崎町7-20-19)
 「小松菜プラスワン(KOMATSUNA+1)」(ウェルフィールド)
 「江戸川の小松菜はエライ!」(江戸川区役所産業経済課)
 「小松菜の産土神」(新小岩香取神社:東京都江戸川区中央4-5-23)

<関連記事>
 「関東の和菓子と関西の和菓子 -和菓子の比較検証-
 「あずきの研究5 -和菓子と砂糖の歴史-
 「関西の地場野菜「しろ菜」と関東の地場野菜「のらぼう菜」・広島県の「やさいバス」-しろ菜のおひたしと豚肉炒め・のらぼう菜の肉巻き-

<参考文献>
 「小松菜力。-東京江戸川区のおいしい魅力ガイドブック-」(江戸川区産業経済課都市農業係)
 「江戸川区の食をひもとく」(江戸川区郷土資料室)
 「新・蒼太の包丁」(漫画:本庄敬・原作:末田雄一郎)

2023年1月15日 (日)

福島県郡山市・柏屋の和菓子と萬寿神社(まんじゅうじんじゃ) -薄皮職人手づくり薄皮饅頭・柏屋薄皮饅頭・柏屋くしだんご-

 福島県郡山市を訪問しました。

 喜多方駅・会津若松駅から磐越西線を利用し,郡山駅に到着しました。

(磐越西線・郡山駅ホーム)
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 喜多方駅や会津若松駅と比べると,郡山駅は東北新幹線の駅でもある分,大規模で都会的な駅となっています。

(郡山駅)
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 郡山市には「薄皮饅頭」で有名な「柏屋」や,「ままどおる」で有名な「三万石」など,魅力的な菓子店がたくさんあります。

 今回は,郡山市内にある全国的にも珍しい饅頭にちなんだ神社「萬寿神社(まんじゅうじんじゃ)」と「柏屋」の薄皮饅頭を御紹介したいと思います。


菓祖神 萬寿神社

 郡山駅前のメイン道路をひたすら歩き,柏屋の店舗の1つ「開成柏屋」を目指しました。

 まだかまだかと歩き,やっとの思いで開成柏屋・萬寿神社に到着しました。

(萬寿神社案内看板)
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 案内看板を見つけた瞬間,「あっ,本当に饅頭の神社があるんだ!」と興奮しました。

 郡山駅からだと結構距離がある(約2.3km)ので,メイン道路を頻繁に運行している路線バス(福島交通)など公共交通機関を利用されるのが良いと思います。
 (私も往路は徒歩でしたが,復路(郡山駅方面)はバスを利用しました。)

(開成柏屋店舗)
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 萬寿神社は開成柏屋店舗に隣接しています。

 ただ初訪問だったので,どこにあるのかわからず,しばらく店舗を探し回りました。

(萬寿神社案内看板(照明灯))
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 照明灯の看板で店舗の奥に参道があることがわかり,心を落ち着けて神社へ向かいました。

(萬寿神社東参道入口)
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 写真左側が手水を行う「手水舎」,写真右側が「願掛け萬寿石(がんかけまんじゅういし)」です。

(願掛け萬寿石)
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 丸くてかわいらしい,まるでお饅頭のような「願掛け萬寿石」です。

 願い事を聞き届けてくれる願掛けの石です。

 さらに境内を進んでいくと,萬寿神社がありました。

(萬寿神社)
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 日本に饅頭を伝えた饅頭の祖「林浄因(りんじょういん)命」,日本に橘(たちばな・みかんの原種)を持ち帰った菓祖神「田道間守(たじまもり)命」,そして薄皮饅頭を作った柏屋初代の「本名善兵衛(ほんなぜんべい)命」の三柱の神様が祀られています。

(萬寿神社賽銭箱)
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 賽銭箱にも「萬寿(まんじゅう)」の字が記載されています。

 「美味しい饅頭がたくさん食べられますように」

 ちなみに,中国から日本へ饅頭を伝えたのは林浄因のほか,聖一国師(しょういちこくし,円爾(えんに))という説もあります。

 林浄因は奈良で中に小豆餡を入れた饅頭を作り,それが「塩瀬総本家」(拠点は奈良から京都,そして東京へ変遷)の「志ほせ饅頭」に受け継がれ,さらに福島・柏屋の「薄皮饅頭」へとつながっています。

 一方,聖一国師は博多(福岡)で酒饅頭の製法を伝え,それが「とらや」(拠点は京都から東京へ変遷)の「虎屋饅頭」に受け継がれています。

 「畿内説」か「九州説」か,邪馬台国論争のようなお話になりますが,いずれにせよ,小豆餡入りの饅頭が和菓子を代表するお菓子となり,現在に続いていることは確かです。


薄皮職人手づくり薄皮饅頭

 萬寿神社を訪問した後,隣接する開成柏屋でお菓子を買いました。

 店内で商品を見て回っていると,薄皮職人さん手づくりの薄皮饅頭が販売されていました。

 地元のお店でしか買えない貴重な薄皮饅頭です。

 この薄皮饅頭と「くしだんご」を購入しました。

(薄皮職人手づくり薄皮饅頭(化粧箱))
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 特別な薄皮饅頭だけに,化粧箱ののしに作られた薄皮職人さんのお名前まで記載されています。

(薄皮職人手づくり薄皮饅頭(包装紙))
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 包装紙も薄皮のような透けてみえる高級紙が使われています。

(薄皮職人手づくり薄皮饅頭(箱の中))
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 箱は柏屋薄皮饅頭と同じものが使われていますが,薄皮職人手づくり薄皮饅頭は柏屋薄皮饅頭と比べて一回り小さく,その分,箱の仕切りスペースの余裕が大きくなっています。

(薄皮職人手づくり薄皮饅頭)
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 包みには「郡山中町 御菓子 柏屋善兵衛 こし」と記載されています。

(薄皮職人手づくり薄皮饅頭(中身))
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 饅頭を切って中を確かめると,あんこがぎっしりで,見事な薄皮になっているのがわかりました。

 ほのかに黒糖の風味がする薄い饅頭(生地)と,口の中でさらりと溶ける絶妙な甘さのあんこ(こしあん)が特長の手づくり饅頭です。

 萬寿石のようなかわいい丸い形で,手に取って食べやすく,温かみを感じるのは手づくりならではです。

 一般に販売されている柏屋薄皮饅頭との違いを知るため,後日,柏屋薄皮饅頭も購入しました。

(柏屋薄皮饅頭(包装))
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 柏屋薄皮饅頭(季節限定・新あずき)の包装紙です。

(柏屋薄皮饅頭(化粧箱))
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 薄皮職人手づくり薄皮饅頭と同じ外箱ですが,薄皮のような半透明の包装紙はありません。

(柏屋薄皮饅頭(箱の中))
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 先に御紹介した写真「薄皮職人手づくり薄皮饅頭(箱の中)」と見比べていただくとわかるのですが,柏屋薄皮饅頭は箱の仕切りに合わせたジャストサイズとなっています。

(薄皮職人手づくり薄皮饅頭と柏屋薄皮饅頭(包装))
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 写真左側が薄皮職人手づくり薄皮饅頭,写真右側が柏屋薄皮饅頭です。

 包みのデザインも異なっています。

(薄皮職人手づくり薄皮饅頭と柏屋薄皮饅頭(中身))
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 それぞれの薄皮饅頭を切ってみました。

 写真左側が薄皮職人手づくり薄皮饅頭,写真右側が柏屋薄皮饅頭です。

 全体的に,手づくりの方がより薄皮になっていることがわかりました。

 特に饅頭の底の部分は,あんこが透けて見えるぐらい薄く仕上げられていました。

 食材は一緒なので,味については基本的に同じです。

 目の前に計16個の薄皮饅頭。

 萬寿神社での私の願い事は叶いました(笑)


柏屋くしだんご

 郡山駅から東北新幹線で東京駅へ向かいましたが,その新幹線の車中で,開成柏屋で購入した「柏屋くしだんご」をいただきました。

(柏屋くしだんご(こしあん))
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 店頭でこしあんとつぶあんが販売されていたので,私はこしあんを選びました。

 もっちりとやわらかい串団子に,ほどよい甘さのこしあんがきれいにまんべんなく塗られていました。


 福島県郡山市。饅頭好きなら一度は訪れたい饅頭の聖地です。


<関連サイト>
 「柏屋」(「開成柏屋」福島県郡山市朝日1-13-5 ほか)
 「菓祖神 萬寿神社」(福島県郡山市朝日1-13-5(開成柏屋敷地内))
 「日本三大まんじゅうとは」(柏屋)

<関連記事>
 「うどん・そば・饅頭・羊羹発祥の地 博多 -聖一国師と承天寺,禅料理と博多の食文化-

2022年11月27日 (日)

矢口の神事と矢口餅 -矢口餅はなぜ黒・赤・白の3色なのか-

矢口の神事と矢口餅

 「矢口の神事」とは,武家の男子が狩猟で初めて獲物を獲ったことを祝う行事です。

 後継者のお披露目という意味のほかに,人間に動物を恵んでくれた山の神様への感謝の意味もあると言われています。

 源頼朝が富士の裾野で行った巻狩(※)で,子の頼家が鹿を射止めた際に「矢口の神事」が催された話(吾妻鏡)が有名です。
 ※大勢の人が一斉に獲物を追い込み,武将たちが獲物を射る狩り

 この儀式のために用意された食べ物が「矢口餅」です。

 黒・赤・白の3色の餅が用意され,参加者に振る舞われたようです


鎌倉・豊島屋の矢口餅

 歴史や地元・湘南のことにお詳しく,写真もプロ級も腕前の「なーまん」さんのブログに「大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にちなんで,鎌倉の豊島屋で矢口餅が販売されている」との紹介記事がありました。

 この記事を読んだ私は,この歴史的意義のある矢口餅をぜひ買って味わってみたいと思い,ちょうど藤沢へ行く用事があった際に,鎌倉の豊島屋本店も訪問することとしました。

 一度その気になると,止められなくなるのが私のいけないところです。

 「いざ鎌倉!」

 羽田空港から京浜急行電鉄とJR横須賀線を利用して鎌倉駅に到着しました。

(鎌倉駅)
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 2022年10月,鎌倉駅や小町通りなどは多くの観光客で賑わっていました。

 「鳩サブレー」で有名な豊島屋は,本拠地・鎌倉にはたくさんの店舗がありますが,矢口餅を販売しているお店は本店のみとなっています。

 本店の住所が小町なので,小町通り沿いかと思い込み,小町通りを何度か往来しました。

 お店が見つからないので改めてネットで検索すると,若宮大路沿いだとわかり,若宮大路を歩くとすぐに見つかりました(笑)

(豊島屋本店)
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 店内には,鳩サブレー以外にも和菓子を中心に饅頭やお餅などたくさんお菓子が販売されていました。

 鳩サブレーの関連グッズも販売されていました。

 そして,目当ての矢口餅がありました。

(矢口餅)
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 こちらが豊島屋の矢口餅です。

 矢口の神事で用いられた矢口餅はもっともっと大きかったようですが,豊島屋の矢口餅は手のひらにのるコンパクトサイズです。

 旅先,しかも列車の中でいただきました。

 薄い求肥やその求肥で包まれた「あん」の色で3色の餅が表現されています。

 一番上の黒いお餅は,小豆(こしあん)を白く薄い求肥で包んだものです。

 真ん中の赤いお餅は,いんげん豆の白あんを赤く色付けした薄い求肥で包んだものです。

 一番下の白いお餅は,白小豆(つぶあん)を白く薄い求肥で包んだものです。

 どの種類のお餅も,あんこを薄い求肥で包んで作られたものですが,このあんこがさらりとした上品な甘さで,あっという間に3つとも食べてしまいました。

 高価な白小豆を使ったあんこも使われており,お店の誇りと矢口餅への特別な思い入れを感じました。


矢口餅はなぜ黒・赤・白の3色なのか

 矢口餅はなぜ「黒・赤・白」の3色の餅で構成されているのでしょうか。

 インターネットなどで関連記事を探した限りでは,明確な理由はわかりませんでした。

 ここからは私の考察です。

 ○「矢口の神事」は武家の儀式(通過儀礼)という意味合いが強い。

 ○儀式の食べ物として特別な意味を持たせるため,餅本来の色(白)1色や紅白の2色ではなく,3色を用いる。

 ○宮中の新年祝賀会で振る舞われた紅白餅「菱葩(ひしはなびら)」や,桃の節句(ひな祭り)に使われる「菱餅(ひしもち)」がお手本とされた可能性もある。

 ○「菱餅」は3色だが,(宮中・皇族とは)異なる(武家の)行事なので同じ色(赤・白・緑)は使わない。

 ○赤い餅は魔除けを意味し,白い餅とペアで男性(白)と女性(赤)を意味する。

 ○したがって紅白の餅を基本にもう1色,緑以外の色の餅を選ぶ必要がある。

 ○武家らしく,狩りの象徴にもなるような色が望ましい。

 ○黒は勇ましさがあり,狩りで捕獲した肉を表現する色でもある。

 ○黒い餅は黒もち米,古代米,黒砂糖,黒ゴマ,竹炭などの材料で作ることが可能。

 ○黒餅(こくもち)は「石持ち(こくもち)」にも通じ,武家に縁起がよい。

 以上のような理由がいくつか重なって,矢口餅は「黒・赤・白」の3色にまとまったのではないかと思います。


まとめ

 史料に記載されただけの食べ物が,何かのきっかけで復元・創作・紹介され,現代人に再認識されることは,その当時の理解を深める上でも,また新たな経済効果を生み出す上でも,とても効果的な取り組みだと思います。

 この矢口餅を買うだけのために鎌倉を訪問した私がよい例です(笑)

 写真映えするかどうか,美味しいかどうかだけでなく,「過去から現代へのメッセージ・贈り物」として歴史上の料理やお菓子に興味を持つ方が増えれば,食文化の世界はさらに広がりを持つと思います。


<関連サイト>
 「鎌倉百八景60 鎌倉殿の菓子と歌碑」(「なーまんのEye-Level」)
 「鎌倉 豊島屋」(本店:神奈川県鎌倉市小町2-11-19ほか)
 「再現!巻狩り&矢口祝い 後編③矢口祝い」(NHK「大河ドラマ 鎌倉殿の13人」)

<参考文献>
 とらや「源頼朝と矢口餅」(「菓子資料室 虎屋文庫」)

<関連記事>
 「新年の和菓子・花びら餅 -菱葩(ひしはなびら)・包み雑煮と花びら餅-

2022年8月21日 (日)

山本五十六が好んだ「水まんじゅう」 -山本五十六はなぜ「酒まんじゅう」に砂糖をかけて食べたのか-

 新潟県長岡市は,海軍で活躍した山本五十六(やまもといそろく)の生誕地・ゆかりの地です。

(山本五十六の胸像)
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 山本記念公園(長岡市坂之上町)内にある山本五十六の胸像です。

(山本五十六の生家)
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 同じ公園内の山本五十六の生家(復元)です。

 今回は,山本五十六が好んだ「水まんじゅう」を御紹介し,山本五十六がなぜこの「水まんじゅう」を作って食べていたのか,その謎にも迫ってみたいと思います。


山本五十六が好んだ「水まんじゅう」とは

 山本五十六は甘党として知られ,羊羹やお汁粉,饅頭などを好んだようです。

 中でも好物だったのが「水まんじゅう」です。

 「水まんじゅう」は,葛粉やわらび粉で作られた透明な生地であんこ(小豆のこしあんなど)を包み,冷やした饅頭です。

(水まんじゅう)
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 一般的にイメージするのは写真のようなお菓子ではないでしょうか。

 しかしながら,山本五十六が好んで食べた「水まんじゅう」は,こうした葛粉やわらび粉で作られたものとは異なっていたようです。

 山本五十六の「水まんじゅう」は,水を入れたどんぶりに塩小豆の酒まんじゅうを入れ,それに雪(氷)や砂糖を加えて,甘み・冷たさ・やわらかさを加えた山本五十六オリジナルのおやつなのです。

 つまり山本五十六は,ほかの人とは違う珍しい食べ方をされていたわけです。


酒まんじゅう(塩小豆・甘)

 この山本五十六の好んだ独自の「水まんじゅう」は新潟県長岡市の和菓子店「川西屋本店」の「酒まんじゅう(塩小豆)」を使って再現することができます。

 興味を持ち,通信販売を利用して購入しました。

(酒まんじゅうと切りパン(宅配便))
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 「うむ,長旅御苦労(敬礼)」

 新潟・長岡のお菓子やパンが,山本五十六が海軍の要衝・呉(広島県)へ来られたのとほぼ同じ距離を経て,私の元に届きました。

 今回私が注文したのは,「酒まんじゅう(塩小豆)」,「酒まんじゅう(甘・あま)」そして「切りパン」の3種類です。

(酒まんじゅう(包装))
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 写真左側(白色のデザイン)が「酒まんじゅう(塩小豆)」,写真右側(茶色のデザイン)が「酒まんじゅう(甘)」です。

 それぞれの饅頭の中身を確認してみましょう。

 まずは一般的な「酒まんじゅう(甘)」から。

(酒まんじゅう(甘))
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 米麹を使って発酵させた生地(小麦粉と餅米粉)に小豆あん(こしあん)を入れて蒸し上げた饅頭です。

 饅頭は,肉まんやあんまんに近いフカフカの生地で,ほのかに麹の香りがしました。

 中のこしあんもほど良い甘さで,イメージどおりの酒まんじゅうでした。

 続いてお店のオリジナル,山本五十六が好んだ「酒まんじゅう(塩小豆)」を見てみましょう。

(酒まんじゅう(塩小豆))
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 「酒まんじゅう(塩小豆)」は,饅頭の生地は「甘」と同じですが,中に塩で味付けされた小豆が入っているのが特徴です。

 砂糖ではなく塩で煮られているからか,中のあんが多少パサパサしています。

 実際にいただいてみると,一般的な酒まんじゅうとは全く異なる味でした。

 想像していたよりもはっきりと塩味がついた小豆で,これはお菓子ではなく,おやきだと思いました。

 材料は小豆ですが,期待する小豆あんの味がしない全く別物の饅頭で,慣れない私は再びこしあんの酒まんじゅうを食べてホッとしました。


切りパン

 続いて,酒まんじゅうと一緒に注文した「切りパン」を御紹介します。

(切りパン(包装))
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 長さ約30cm,幅約10cm,高さ約4.5cmの大きなパンで,酒まんじゅうと同じ生地で作られています。

(切りパン)
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 切りパンを切った様子です。

 シンプルな味のパンを想像していたのですが,いただいてみると生地に馴染み深い旨味を感じました。

 しばらく考えて,この旨味は醤油によるものだとわかりました。

 表面に薄く醤油で味付けされた蒸しパンなのです。

 このパンを味も形もギュッと凝縮させたら,醤油せんべいか柿の種になりそうです。

 塩小豆の酒まんじゅうと同様,今まで食べたことのない不思議な味でした。


山本五十六が好んだ「水まんじゅう」を作る

 塩小豆の酒まんじゅうが入手できたので,山本五十六オリジナルの「酒まんじゅう」を作ってみました。

 雪のかたまりは調達できないので,かき氷で代用することとしました。

 自宅にかき氷機はないので,職場で親睦会所有のかき氷機を一晩だけ借りました。

(電動氷かき器)
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 器に冷たい水を張り,その中に「酒まんじゅう(塩小豆)」を浸し,さらにかき氷を加えて冷たくしました。

(酒まんじゅうを水に浸してかき氷で冷やした様子)
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 見た目にも涼しげな状態になりました。

 数分待ち,酒まんじゅうに冷たい水が十分に浸み込んだところで,砂糖をまぶしました。

(冷たい酒まんじゅうに砂糖をまぶした様子)
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 普段あまり砂糖を使わない私には,この量でも多めですが,山本五十六がまぶした量は,もっともっと多かったはずです。

(山本五十六の「水まんじゅう」を切り分けた様子)
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 こうして出来上がった「水まんじゅう」は,饅頭の生地が水を吸ってズブズブにやわらかくなっており,簡単に切り分けることが出来ました。

 饅頭の直径が当初の約8cmから約9cmと少し大きくなりました。

(山本五十六の「水まんじゅう」(一口サイズ))
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 塩小豆は粘りがないので,一口サイズに切ってスプーンですくうと,ポロポロと汁の中に落ちてしまいます。

 いよいよ実食の時がきました。

 「塩小豆の塩気が砂糖の甘みを引き立てるのだろう」と思って口にしたのですが,実際は小豆の塩気と砂糖の甘みを別々に感じました。

 元々砂糖が入ってない饅頭なので,「多すぎるのでは?」と思うぐらい大量の砂糖をかけてちょうどよいぐらいなのでしょう。

(山本五十六の「水まんじゅう」の汁)
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 砂糖をかけて甘くなった汁もいただいてみました。

 汁の方は,塩小豆の塩気と砂糖の甘みがうまく混ざり合って,さっぱりしたぜんざいのような仕上がりになっていました。

 冷たくて甘い汁で,これは美味しいと感じました。

 映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実」のワンシーンでも,山本五十六が饅頭に砂糖をたっぷりかける様子が描かれていましたが,山本五十六は現代で言う「ギルトフリー」など意識しない,かなりの甘党であったことがよくわかりました(笑)


なぜ山本五十六は「酒まんじゅう」に砂糖をかけて食べたのか

 現代の感覚から言えば,わざわざ甘くない饅頭に砂糖をかけて食べなくても,最初から甘い饅頭を食べれば済むし,そちらの方が美味しいと思ってしまいます。

 山本五十六が甘くない「酒まんじゅう」にわざわざ砂糖をかけて食べた謎を解くカギは,彼が生きた時代にあるようです。

 山本五十六が生きた時代(1884(明治17)年~1943(昭和18)年)は軍部が台頭し,日本が様々な国と戦争をしていた時代と重なります。

 そして次第に戦局は悪化し,国民は食糧難に苦しむこととなったのです。

 そんな時代において,砂糖はとても貴重なもので,庶民が簡単に口にできるものではありませんでした。

 和菓子屋で砂糖ではなく塩を使った塩小豆の饅頭が販売されたのも,海外から砂糖の輸入が困難となり,砂糖が非常に高価な材料となったことも影響しているのではないかと思います。

 そんな中,軍人には「嗜好品である菓子は兵士の士気を高める」(給糧艦「間宮」艦長ほか)という考えで優先的にお菓子が提供されていたようです。

 こうした時代背景を踏まえた上で,山本五十六の「酒まんじゅう」が誕生した理由としては,次のようなことが考えられます。

(1)戦時中,長岡では砂糖が入っていない塩小豆の酒まんじゅうが市販されていた。
(2)戦時中であっても,軍人で高い地位にあった山本五十六は砂糖を入手することができた。
(3)甘党の山本五十六にとって,甘くない酒まんじゅうは満足できるお菓子ではなかった。

 さらに,山本五十六の出身地・長岡は,小豆を使わず醤油で色付けした全国的にも珍しい「長岡赤飯」という料理があることから,砂糖だけでなく小豆もとても貴重な食材の1つだったはずです。

 つまり,山本五十六の「水まんじゅう」は,山本五十六が特権階級であったからこそ実現できたお菓子であり,一般的な国民には到底真似することができなかったお菓子なのです。

 そう考えると,長岡の庶民に好まれた,全く甘みのない「酒まんじゅう(塩小豆)」そのものにも深い意味があり,歴史が刻まれていることがわかります。

 「切りパン」が醤油で味付けされているのも,同じく醬油で味付けされる「長岡赤飯」と同様の発想(商人の街で,おかずがなくても食べられたこと)や地域特性(昔から醤油づくりが盛んな街だったこと)が関係しているように思います。

 今回御紹介した「酒まんじゅう(塩小豆)」,「水まんじゅう」,「切りパン」は,まさに長岡と山本五十六の歴史を物語る食べ物だと言ってよいでしょう。

 山本五十六の好んだ「水まんじゅう」,「やってみせ 言って聞かせて させてみて」やっと理解できました。

 これで山本五十六さんからほめていただけるかな(笑)


<関連サイト>
 「山本五十六記念館」(新潟県長岡市呉服町1-4-1)
 「山本五十六と酒まんじゅう」(「川西屋本店」新潟県長岡市殿町1-7-2)
 「戦時中にスイーツを食べられたのは軍人だけだったってホント?」(国立公文書館・アジア歴史資料センター)

<関連記事>
 「新潟の食文化探訪4 -新潟県長岡市・山本五十六の水まんじゅうと洋風カツ丼-
 「新潟の食文化探訪3 -おにぎり・神楽南蛮・みどりのラー油・笹団子・醬油おこわ・柿の種・新潟のお菓子-
 「アッタラシイ呉菓子大博覧会 -間宮最中,ドーナツケーキ,伊太利コロッケ,呉海軍工廠工員弁当-

2022年4月17日 (日)

イタリア料理の特徴と主な料理7 -パスクアの伝統菓子・コロンバ(コロンバ・パスクアーレ)-

イースターについて

 イースター(復活祭)は,磔刑に処されたイエス・キリストが復活し,神の子として人々の前に姿を現したことを記念する日です。

 そのため,キリスト教のイースターは,クリスマス(降誕祭),ペンテコステ(聖霊降臨祭)と並ぶ三大祝日の1つとなっています。

 イースターの日付の定義は「春分後最初の満月の後に訪れる日曜日(※)」とされていて,毎年変わる「移動祝日」となっています。
 ※東方正教会の場合はユリウス暦を採用しているため日付が異なります。

 2022年は,今日(4月17日)がイースターです。


パスクアで食べられるイタリアの代表的なお菓子

 イースターは,イタリアでは「パスクア(Pasqua)」と呼ばれています。

 パスクアの際には,イタリア各地で様々なお菓子が作られ,食べられています。

 代表的なお菓子として,「ウオーヴォ ディ チョッコラート(Uovo di Cioccolato)」(卵の形をしたチョコレート)や,「パスティエラ(Pastiera)」(小麦粉・リコッタチーズなどで作られるタルト),「カッサータ(Cassata)」(リコッタチーズやドライフルーツを使ったケーキ),「コロンバ(Colomba)」(鳩の形をした発酵菓子)などがあります。

 今回は,そんなパスクアで食べられるイタリアの代表的なお菓子の1つ,「コロンバ」を御紹介します。


コロンバ

 「コロンバ(Colomba)」は,イタリア語で「鳩(はと)」を意味します。

 お菓子の「コロンバ」は,その名のとおり,鳩の形をした発酵菓子です。

 「コロンバ」は,鳩が復活の象徴であり,平和のシンボルであり,幸せを告げる鳥であることにあやかったパスクアの伝統菓子です。

 そのため,「コロンバ・パスクアーレ(Colomba Pasquale)」(パスクアのコロンバ)とも呼ばれます。

 鳩が平和のシンボルであることは,広島市民である私にもよく理解できます。

 そのコロンバが,「ドンク」の店舗で期間限定で販売されていました。

(コロンバ案内看板(ドンク))
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 毎年,イースター(パスクア)の時期に販売されているようです。

(コロンバ)
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 こちらが「ドンク(サンレモ)」のコロンバです。

 鳩の形をした紙容器に生地を詰め,焼き上げられています。

 表面には白い「あられ糖(砂糖の粒)」がトッピングされています。

(コロンバ(中身))
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 コロンバの中身(断面)です。

 バターと卵がたっぷり使用された生地に,大粒のオレンジピールがたくさん混ぜ込まれています。

 いただいてみました。

 ふんわり・しっとりして粘りがあり,ケーキよりはパンに近い食感でした。

 イタリアのクリスマスの伝統菓子「パネトーネ(Panettone)」にも似ています。

 「♪オレンジの香り~ほのかにただよい~♪」と,思わず「帰れソレントへ」の歌詞を口ずさんでしまうほど,オレンジの香りが口の中いっぱいに広がり,幸せな気持ちになりました。

 ふんわりとしたパンに近いのですが,あられ糖をトッピングすることにより,白い鳩をイメージさせるお菓子となっています。

 オレンジの風味が豊かな美味しいお菓子で,いただくと元気が湧き,疲れた体が復活しました。


<関連サイト>
 「ドンク」(「三宮本店」神戸市中央区三宮町2-10-19 ほか)

<関連記事>
 「イースター(復活祭)を基準としたキリスト教行事 -なぜ卵とウサギが一緒なのか-

<参考文献>
 辻調理師専門学校監修/近藤乃里子・合田達子・正戸あゆみ著「イタリア料理基本用語」柴田書店

2022年2月20日 (日)

第三回全国歴食サミット「令和歴食合戦」(オンライン歴座・2022年2月12日)-広島の歴食・亀屋の「川通り餅」-

第三回全国歴食サミット(令和歴食合戦)

 2022年2月12日に「第三回全国歴食サミット(令和歴食合戦)」がオンラインで開催されました。

(第三回全国歴食サミット開催案内)
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 歴食JAPAN公式サイトの画像を一部引用

 昨年(2021年),山口市での「第三回全国歴食サミット」の開催を知ってから,山口市の会場へ行こうと楽しみにしていたのですが,新型コロナウイルス感染症拡大に伴う「まん延防止等重点措置」の実施に伴い,オンラインでの開催となりました。

(第三回全国歴食サミット「オンライン歴座」開催案内)
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 歴食JAPAN公式サイトの画像を一部引用

 私は山口市で開催された「歴食JAPANサミット・第1回大会(2016年2月20~21日)」以来,6年ぶりの参加となります。

 今回は,この「第三回全国歴食サミット」がオンラインで開催された様子と,そのサミットで新たに歴食に登録された広島のお菓子を御紹介したいと思います。


開会・歴食研究表彰式

 第三回歴食JAPANサミットは,山口市の「山水園」をメイン会場に,代表・実行委員長の大原敏之さんと歴食アドバイザー・俳優の辰巳琢郎さん,そして司会の大和良子さんの3名で進められました。

 歴食研究の表彰式では,入選された4名の方の紹介・作品発表がありました。

 最優秀賞は高杉晋作の好物についての研究,山口市長賞は山口市で食べられてきたものについての研究,山口商工会議所会頭賞は薩長同盟うなぎ寿司についての研究,そして特別賞は奇兵隊ショコラについての研究でした。


歴食認定式

 続いて全国16団体の歴食認定式がありました。

1 新潟県十日町市「土器ドキ最中」(木村屋)
 火焔型土器の最中です。
 個人的には「つぼんこ」や「あささささ」も気になります。

2 福島県会津若松市「五郎兵衛飴」(五郎兵衛飴本舗)
 もち米,麦芽,寒天のみで作られた飴です。
 京から平泉へ向かう途中に源義経と武蔵坊弁慶が食べたと伝えられる飴です。

3 群馬県嬬恋村「嬬恋くろこ」(嬬恋村観光協会・嬬恋村くろこ保存会)
 ※次のプログラム「歴座」で詳しく御紹介します。

4 栃木県壬生町「壬生お殿様料理・壬生お姫様料理」(壬生お殿様料理促進の会)
 ※次のプログラム「歴座」で詳しく御紹介します。

5 栃木県足利市「古代瓦せんべい」(香雲堂
 足利地方の奈良・平安・鎌倉・足利時代の瓦を表現したせんべいです。

6 愛知県美浜町「源義朝御膳」(愛知県美浜町観光協会)
 ※次のプログラム「歴座」で詳しく御紹介します。

7 愛知県犬山市「忍冬酒」(和泉屋 小島醸造)
 徳川家康も愛飲した尾張最古の銘酒。
 甘い「スイカズラ(忍冬)」入りのウイスキーに甘みを加えたようなリキュール。

8 島根県浜田市「利休饅頭」(仲屋
 千利休→古田織部→古田公家(浜田藩主)→治右衛門(「仲屋」家祖)と連綿と伝えられる饅頭。

9 広島県広島市「川通り餅」(亀屋)
 私の地元・広島の歴食ということで,後ほど詳しく御紹介します。

10 佐賀県小城市「小城羊羹」(小城市観光協会)
 ※次のプログラム「歴座」で詳しく御紹介します。

11 長崎県大村市「純忠御膳」(大村市観光コンベンション協会)
 ※次のプログラム「歴座」で詳しく御紹介します。

12 長崎県対馬市「かすまき」(対馬観光物産協会)
 カステラ生地にあんこを巻いて作られる対馬の伝統的な銘菓。

13 山口県山口市「菜香亭料理再現 霜月の頃の御献立~昭和10年披露宴献立より~」(歴史の町山口を甦らせる会
 山口の迎賓館だった「菜香亭」で昭和10年11月21日の披露宴で出された料理を再現。

14 山口県山口市「フィリョース」(イタリア食堂ベケ!?
 小麦粉を練って油で揚げて砂糖をまぶした,ポルトガルのクリスマス伝統菓子。

15 山口県山口市「歴食給食とクネンボフレーバーティー」(山口大学・山口学研究プロジェクト
 長州藩主・毛利敬親とイギリス海軍キング提督が山口県防府市で会見した際の日英饗応料理。
 山口大学教育学部附属光小・中学校の給食で再現。
 クネンボはかつて萩などで栽培されていた柑橘で,吉田松陰が獄中で食べたとされる。

16 山口県下関市「玄米バーガーと味噌玉」(人類学研究機構
 和食の原点・玄米を使ったバーガーと,戦国時代の武将たちが戦場に携行した「味噌玉」を再現


「歴座」-お国自慢バトル-

 続いて,全国各地の歴食に携わっておられる皆さんから,それぞれの歴食とその魅力について紹介していただくコーナーとなりました。

 今回は8団体の皆さんから,御自慢の歴食と地域の魅力を御紹介いただきました。

1 栃木県壬生町「壬生お殿様料理・壬生お姫様料理」(壬生お殿様料理促進の会)
 壬生藩四代目藩主・鳥居忠燾(とりい ただてる)の「御献立帳」の献立をもとに再現・アレンジされた料理です。
 「お殿様料理」は予約が必要な料理,「お姫様料理」は予約なしで女子会や家族で楽しめる料理・スイーツとなっています。
 17世紀に滋賀の水口(みなくち)からお殿様が持ち帰った「かんぴょう」を使った料理や,豆腐と卵を使ったフワフワした料理,壬生町産の「ごぼう」を使った料理などが使われているそうです。
 「かんぴょう」と言えば栃木県が一大産地ですが,そのルーツが滋賀・水口にあったとは驚きです。
 「水口かんぴょう」(甲賀市観光協会)

2 群馬県嬬恋村「嬬恋くろこ」(嬬恋村観光協会・嬬恋村くろこ保存会)
 群馬県嬬恋村と言えば,日本一の生産量を誇る「キャベツ」が有名ですが,じゃがいもを再利用した伝統料理もあります。
 「嬬恋くろこ」は,じゃがいもからでんぷんを取った残りかすを凍結・発酵・乾燥させて作られる伝統的な地域発酵食品です。
 ねぎや味噌を加えたり,そばに混ぜたり,白玉粉に入れてぜんざいにしたりと,いろんな食べ方があるようです。

3 愛知県美浜町「源義朝御膳」愛知県美浜町観光協会
 平治の乱に敗れた源義朝が京から野間(愛知県美浜町)へ逃れた時に食べた強飯(おこわ)を中心とした御膳です。
 源義朝が年末に正月用の餅になる前の強飯(こわめし)を手づかみで食べた話などをもとに再現されています。
 源平の紅白を表現した「源平鍋」(内容は食べてみてのお楽しみ)もあるようです。

4 佐賀県小城市「小城羊羹」(小城市観光協会)
 表面が砂糖でコーティングされている羊羹です。
 長崎街道「シュガーロード」の代表的なお菓子の1つとなっています。
 小城市は23軒もの羊羹を扱うお店がある日本一の羊羹のまちで,羊羹資料館や羊羹の自動販売機もあるとのお話でした。

5 長崎県大村市「純忠御膳」(大村市観光コンベンション協会)
 日本初のキリシタン大名「大村純忠(おおむら すみただ)」の時代に大村純忠邸で出されていた献立表をもとに再現・アレンジした御膳です。
 刺身や天ぷらが中心となっています。
 純米酒「純忠」と一緒にいただくと,より気分が高まりそうです。

6 熊本県熊本市「熊本城本丸御膳」(青柳)
 熊本城(肥後藩主・細川家)で出されていた料理を,当時の料理書をもとに再現した御膳です。
 「煎り酒」(現在の醤油のような調味料)や細川家の家紋「九曜紋」で彩った器が使われるなど,約200年前の料理が忠実に再現されています。

7 島根県益田市「毛利元就をもてなした祝膳 益田『中世の食』」(益田「中世の食」再現プロジェクト
 中世の豪族・益田氏が毛利元就の拠点・吉田郡山城(広島県安芸高田市)を訪れ,振舞った料理です。
 調味料に「煎り酒」を使い,魚のすり身を使った「はむ」(はんぺん),鮎の塩焼きなどが再現されました。

8 山口県山口市「大内御膳」(歴食JAPAN事務局)
 室町幕府の第10代将軍・足利義稙(あしかが よしたね)が山口の大内義興(おおうち よしおき)を訪問した際に催された「中世最大の宴」の料理を再現した御膳です。
 食文化研究家・江後迪子さん監修,湯田温泉のホテル・旅館の料理人の方々の協力のもと,32献110品にも及ぶ料理が再現されました。
 「歴食JAPANサミット第1回大会 in 山口市」でも紹介された歴食を代表する料理で,山口市内のホテル・旅館・料理店で味わうことができます。


閉会式

 締めくくりの挨拶として,歴食アドバイザーの辰巳琢郎さんから,「ハレの料理(特別な料理)だけでなく,『嬬恋くろこ』など,ケの料理(日常の料理)もクローズアップしたらよい」,「旅と食をマッチングさせた地域おこしに取り組んではどうか」といったお話がありました。

 また代表・実行委員長の大原敏之さんからは,「『歴食』は地域をブランド化できる素材の1つ」,「まちの歴史を守り,未来を生きる子供たちに地域の誇りを伝えることが求められている」,「次回はリアルでの開催をしたい。今後も歴食のネットワークを広げていきたい」といったお話でまとめられました。


広島の歴食・亀屋の「川通り餅」

 今回の歴食サミットで認定された歴食は,当日に発表されたものも多くありました。

 その1つが広島・亀屋の「川通り餅」で,発表された瞬間,私は「地元・広島で有名なお菓子が歴食に認定された」と喜びました。

 「川通り餅」は,お餅(求肥)にクルミを加え,きな粉をまぶした広島の銘菓です。

 毛利元就の祖先・毛利師親(もうり もろちか)が,石見の佐波善四郎との戦いで江の川を渡ろうとした際,小石が鐙(あぶみ:馬の両わきにかけ,足を固定させる馬具)に引っかかったにもかかわらず,そのまま戦って勝利をおさめました。

 のちにその小石が宮崎八幡宮に奉納され,餅を小石に見立てて食べる風習が生まれました。

 やがてこの餅が「川通り餅」と呼ばれるようになり,現代に受け継がれています。

 広島県民でこの歴史話を知っている人はあまりいないでしょうが,インパクトのある「川通り餅」のテレビCMを知らない人はいないと思います(笑)

 オンラインでの歴食サミット終了後,私はすぐに「川通り餅」を製造・販売されている「御菓子処 亀屋」本店(広島市東区)を訪問しました。

(「御菓子処 亀屋」本店)
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 歴食サミットの30分後にはお店に着いているというフットワークの軽さ(笑)

 お店で竹皮入りの「川通り餅」のほか「安芸路」と「もなか」も購入しました。

 私がお店の方に「先程の歴食サミットで『川通り餅』が歴食に認定されましたね。おめでとうございます」とお話しすると,お店の方はまだ御存知なかったようで,「えっ,そうなんですか。嬉しいお話をありがとうございます」とお返事いただきました。

(「川通り餅」竹皮)
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 こちらが今回歴食に認定された「川通り餅」です。

(「川通り餅」竹皮(中身))
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 中に7個入っています。

(「川通り餅」)
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 一口サイズのきな粉餅で,中に細かいクルミが入っています。

(「川通り餅」(中身))
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 やわらかいお餅(求肥)にクルミのコクときな粉の香ばしさが加わり,1個と言わず2個3個と食べたくなる誘惑にかられました。

 「歴史の息吹を味に伝える 名代(なだい)の銘菓 川通り餅」
 「味わいの奥に 歴史と人の技がある 亀屋 川通り餅」

 こうしたテレビCMのナレーションどおりの,歴食にふさわしいお菓子でした。


まとめ

 全国歴食サミットに関わる様々な歴食を御紹介しましたが,今回オンラインで参加した私の感想をいくつかまとめてみました。

・オンラインでの開催に合わせ,全国各地の歴食をオンラインで販売するのも効果的だと思います。
・オンラインで紹介するだけでなく,参加者同士で情報交換したり,実際に食べて理解する機会もあればさらに盛り上がるでしょう。
・オンライン開催をマスコミも注目する時代となっていることを感じました。
・歴食を知ること・理解することは,その地域の歴史や文化を知り,理解することにつながると思いました。
・歴食は観光客だけでなく,地元経済の活性化や地元の人々の消費拡大にもつながると思いました。


 今後も微力ながら,歴食や歴食サミットを応援していきたいと思います。


<関連サイト>
 「歴食JAPAN公式サイト」(歴食JAPAN事務局(山口商工会議所内))
 「御菓子処 亀屋」(本店:広島市東区光町1-1-13)

<関連記事>
 「歴食JAPANサミット -山口に誕生した「歴食」という新たな食の世界-
 「歴食JAPANサミット -発掘土器クッキー修復体験-
 「歴食JAPANサミット -長州鐔チョコレートづくり体験-
 「歴食の世界 -「平成大内御膳」の雑煮と中世の香物,私の教育論-
 「歴食の世界 -「幕末維新パン」と幕末維新期のパン開発物語-

2021年2月13日 (土)

ゲーテの小説「若きウェルテルの悩み」とシャルロッテ -ロッテの「CHARLOTTE 生チョコレート」-

 ドイツの小説家・ゲーテの「若きウェルテルの悩み」。

 ファンの方も多いと思います。

 また内容までは知らなくても,その名前は御存知の方も多いでしょう。

 かのナポレオンも愛読し,陣中で7回読んだと言われるほど,今も昔も人気の高い恋愛物語です。

 今回は,そんな「若きウェルテルの悩み」の魅力と,その小説にまつわる会社やチョコレートの話に触れてみたいと思います。


ウェルテルとシャルロッテの出会い

 作者であるゲーテ自身の恋愛体験をもとに書かれた小説「若きウェルテルの悩み」。

 世界的な名作として,日本でも様々な本が出版されています。

(ゲーテ「若きウェルテルの悩み」)
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 この作品は,主人公の青年・ウェルテルがその親友・ウィルヘルムへ宛てた手紙(日記)を,ウェルテルの死後,ウィルヘルムが読者に紹介することで展開します。

 失恋をしたウェルテルがウィルヘルムと一緒に住んでいた街を離れ,感傷旅行をすることから物語が始まります。

 旅先のワールハイムと呼ばれる村で様々な人とふれあい,次第にその村で前向きに人生を送るようになったウェルテルにある転機が訪れます。

 知り合いから「舞踏会をしたいので,参加してほしい」とお願いされたウェルテルは,踊り相手となる女性を誘ってその舞踏会に参加することにしました。

 舞踏会当日,ウェルテルは踊り相手の女性やその従妹と一緒に馬車に乗り,会場を目指します。

 途中,同伴の女性からある提案がありました。

 「舞踏会にシャルロッテも誘いましょう。美しい方ですよ」

 ウェルテルは訳も分からないまま,これに同意します。

 すると同伴の女性の従妹から,

 「恋をなさらないように御用心を」と釘を刺されてしまいます。

 ウェルテルがその理由を尋ねると,

 「あの方はもうお決まりになっていますの」との返事。

 ウェルテルはこの話をさして気にも留めず,馬車でウェルテルの住む屋敷へと向かいます。

 しかしながら,シャルロッテの住む屋敷へ到着し,シャルロッテに出会った瞬間からウェルテルの気持ちは一転してしまいます。

(シャルロッテとの出会い)
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(ゲーテ「まんがで読破 若きウェルテルの悩み」イースト・プレスから一部引用)

 ウェルテルは亡くなった母親代わりとして幼い弟や妹たちの面倒を見ているシャルロッテに出会い,その姿,声,しぐさにすっかり心を奪われてしまいます。

 幼い子供たちもすぐにウェルテルに慣れ親しみ,寄り添ってきました。

 やがて誘いを受けたシャルロッテは身支度を整え,ウェルテルらと共に舞踏会に参加します。

 会場でウェルテルは最初に舞踏会へ誘った女性とダンスを踊るのですが,お互い相性が合わずギクシャクしてしまいます。

 そこでウェルテルはダンスを上手に踊っていたシャルロッテに「一緒に踊ってほしい」と申し入れます。

 それを受け入れたシャルロッテとワルツを踊ってみると,息がピッタリ合いました。

(ウェルテルとシャルロッテのダンス)
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(ゲーテ「まんがで読破 若きウェルテルの悩み」イースト・プレスから一部引用)

 ウェルテルはウィルヘルムに手紙でその時の様子をこう伝えています。

 「ロッテ(シャルロッテの愛称)の身ごなしの,なんと軽く,なんと人を魅了するものだろう」
 「これほどにも愛らしい娘を腕に抱いて…」
 「ほかの男とは踊らせない。たとえわが身はそのために滅びようとも…」
 「私はもう人間ではなくなった」

 最後のセリフはちょっとヤバイですね。

 こうしてウェルテルは完全に恋愛のスイッチが入ってしまい,ドロドロの恋愛劇が始まることとなります。


アルベルトの登場とウェルテルの絶望

 シャルロッテに恋心を抱いたウェルテルは,シャルロッテの弟妹(ていまい)にも気に入られたこともあり,シャルロッテの住む屋敷に足繁く通うようになります。

 ウェルテルは,シャルロッテにはアルベルトという婚約者がいることを知っていながら,旅に出ている彼の事は考えないようにして,シャルロッテやその弟妹たちと楽しく人生を謳歌していたのです。

 しかし,そんな生活も長くは続きませんでした。

 シャルロッテの婚約者アルベルトが旅から帰ってきたのです。

(アルベルトの登場)
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(ゲーテ「まんがで読破 若きウェルテルの悩み」イースト・プレスから一部引用)

 ウェルテルにとって,身分に恵まれ,才能があり,容姿端麗で,包容力があるアルベルトは到底手の届かない,ライバルにすらなれないような存在でした。

 「人間に喜悦を与えるまさにそのものが,かえってその悲惨のもととなる」

 ウェルテルは悩んだ末,シャルロッテとの付合いに終止符を打ち,ワールハイムを離れることとします。

 しかしながらシャルロッテのことが忘れられないウェルテルは,その離れた地での生活に馴染めず,結局再びシャルロッテの住むワールハイムに戻ってくるのです。

 シャルロッテに再会した時,彼女はすでにアルベルトと結婚していました。


ウェルテルの決意

 思い詰めたウェルテルは,使いの少年を通じてアルベルトへ手紙を送り,1つのお願いをします。

 その内容は「旅行がしたいので,護身用にピストルを貸してほしい」というものです。

 アルベルトは何も怪しまずに妻(シャルロッテ)に「ピストルを渡してあげなさい」と言い,使いの少年には「旅行中お大事に,と申し上げておくれ」と言付けます。

 この時シャルロッテはウェルテルの行動を悟ったのですが,夫にウェルテルとの関係を言い出せないため,震える手で使いの少年へピストルを渡します。

 やがてウェルテルのもとにピストルが届き,ウェルテルはピストル自殺を決意します。

(ピストル自殺の決意)
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(ゲーテ「まんがで読破 若きウェルテルの悩み」イースト・プレスから一部引用)

 「こいつで,すべての僕の悲惨な運命ともお別れだ」
 「僕らは永遠にひとつになれる」

 友人のウィルヘルム宛ての最後の手紙(遺書)をしたためます。

 「決まりました,ロッテ,私は死にます」

 「これは絶望ではありません。確信です。自分はたえぬいてきた,そしてあなたのために犠牲になる,その安心です」

 「われわれ3人のうち1人が去らなくてはならないのです。私がその1人になろうと思うのです」

 「弾はこめてあります。12時が鳴っています。では,ロッテ,ロッテ。さようなら,さようなら」

 そしてウェルテルの部屋に銃声が鳴り響いたのでした。

 ウェルテルの自殺の知らせに,アルベルトは驚愕し,シャルロッテは悲嘆し,ウィルヘルムは親友の苦悩に無力だった自分を責めます。

 翌日の正午12時,ウェルテルは亡くなりました。

 こうしてこの物語は静かに幕を閉じるのです。


永遠の恋人「シャルロッテ」からお口の恋人「ロッテ」へ

 お菓子メーカーの「ロッテ」の社名は,これまで御紹介した「若きウェルテルの悩み」に登場するヒロイン・シャルロッテの愛称に由来しています。

 「永遠の恋人」として知られるシャルロッテのように,世界中の人々から愛される会社でありたいという願いが込められているのです。

(ロッテ・ブフ(シャルロッテ))
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(ゲーテ(竹山道雄訳)「若きウェルテルの悩み」岩波文庫から一部引用)


ロッテの「CHARLOTTE 生チョコレート」シリーズ

 お菓子メーカーの「ロッテ」から,秋冬限定で,ずばり「CHARLOTTE(シャルロッテ)」という名称の生チョコレートが販売されています。

 「会名や店名を冠し,なおかつ少し高価な商品・メニューは,かなり気合いが入っていて,得することが多い(ハズレが少ない)」というのが私の経験談です。

 今季(2020年~2021年 秋冬)の「CHARLOTTE 生チョコレート」を購入しました。

(「CHARLOTTE 生チョコレート」(箱・2020-2021 キャラメル・カカオ))
20202021

(「CHARLOTTE 生チョコレート」(箱・2020-2021 カカオ))
20202021_20210211172601

 包装は紙製で,1枚ずつ個包装されています。

(「CHARLOTTE 生チョコレート」(2020-2021 カカオ))
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 チョコレートの表面には,シャルロッテの頭文字にちなんだ「C」と「L」のマークが施されています。

 ロッテの「CHARLOTTE(シャルロッテ)」シリーズは,平たいチョコレートの中に生チョコレート(ガナッシュ)が入っているもので,それらが口の中で溶け合い,豊かで深い味わいが楽しめるチョコレートとなっています。

 まさに「お口の恋人」と呼ぶにふさわしい,ロッテを代表するチョコレートです。

 今季のラインアップは,アクセントにヘーゼルナッツを加えた「カカオ」,ソルトを加えた「キャラメル」,そしてカシスを加えた「ストロベリー」の3種類となっています。

(「CHARLOTTE 生チョコレート」(箱・2020-2021 ストロベリー))
20202021_20210211173101

 社名そのものが商品名だけに,チョコレートはもちろん,パッケージのデザインなどにもかなり力を入れておられます。


 「若きウェルテルの悩み」のウェルテルやシャルロッテに思いを馳せながら,ロッテの「CHARLOTTE 生チョコレート」を味わってみるのもいいかも知れませんね。


<関連サイト>
 「ロッテ(LOTTE)」(東京都新宿区西新宿3-20-1)

<関連記事>
 「千葉ロッテマリーンズ スティッチの耳かき -千葉県千葉市-

<参考文献>
 ゲーテ「まんがで読破 若きウェルテルの悩み」イースト・プレス
 ゲーテ(竹山道雄訳)「若きウェルテルの悩み」岩波文庫

2020年5月15日 (金)

黄檗山萬福寺の普茶料理(後編) -普茶料理の紹介(笋羹・麻腐・浸菜・油じ・雲片・飯子・寿免・醃菜・水果)-

 黄檗山萬福寺の普茶料理(前編)で普茶料理の概要を御紹介しましたが,後編では実際の普茶料理について御紹介したいと思います。

 今回は,私も煎茶道のメンバーとして,3人がまとまって料理をいただけるよう予約していただいたため,これから御紹介する料理は全て3人前であることを前提に御覧いただけたらと思います。

(普茶料理案内板(黄龍閣入口))
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 食事会場の黄檗山萬福寺「黄龍閣」入口です。

 普茶料理を目当てに広島からやってきただけに,期待が膨らみました。

 会場を案内していただき,いよいよ食事の開始です。

 普茶料理は,大皿に盛られた料理を個人の皿に取り分け,お茶を飲みながらいただくのが基本なので,それぞれの席には,箸,湯呑み,取り分け皿が用意されていました。

(個人用食器)
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 お茶を注いで飲みながら歓談していると,大皿に盛られた料理が運ばれてきました。


笋羹(シュンカン)

 「普茶料理の華」と称される「笋羹(シュンカン)」です。

(笋羹(シュンカン))
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 旬の野菜や乾物類の煮物などが大皿に盛られた料理です。

 萬福寺での行事や法要の際,来客のために修行僧が作ったのが始まりとされています。

 それでは個々の料理をみていきましょう。

(巻き湯葉の含め煮)
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(よもぎ麩の揚げ煮)
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(大徳寺麩のレモン添え)
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(かまぼこ擬き)
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 「擬き(もどき)」は本物そっくりという意味で,「擬き料理」は,見た目や味・食感までも本物そっくりに仕上げた料理を言います。

 精進料理には肉や魚が使えないことから擬き料理が発展しました。

 写真の「かまぼこ擬き」は,だしで長いもを煮て,周りに梅肉や食紅で色付けした後,油で揚げた料理です。


(黄檗豆腐)
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 醤油を含ませた押し豆腐です。「豆腐羹(とうふかん)」とも呼ばれます。

(しいたけの含め煮)
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(ナスの田楽)
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(飛竜頭)
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 いわゆる「がんもどき」です。

(けんちん信田巻き)
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(もみじ麩)
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麻腐(マフ)

 麻腐(マフ)はごま豆腐のことです。

(麻腐(マフ))
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 胡麻豆腐の略なのでしょうが,私は麻婆豆腐を想像してしまいます(笑)


浸菜(シンツァイ)

 「浸菜(シンツァイ)」は「浸し物・浸し料理」という意味で,季節感のあるさわやかな味と色彩によって「淡味(たんみ)」の役割を果たす料理です。

(浸菜(シンツァイ))
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 写真上側の褐色の料理が「いんげんのきんぴら」,下側の白っぽい料理が「じゃがいもなます」です。


油じ

 「油じ」は食材ところもに下味をつけて油で揚げ,そのままいただく味付天ぷらのことです。

 「油じ」の「じ」は,食偏に「茲」と書きます。

(油じ)
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(大根)
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(高野豆腐アーモンド包み)
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(紅しょうが)
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(りんご)
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 なぜりんごまで天ぷらにするのか…私はまだまだ修行が足りません(笑)

(こんにゃく)
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(ごぼう)
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(里芋)
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(巴饅頭)
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 おかずと言うよりお菓子ですが,色どりのよさも重要なのだと思います。


雲片(ウンペン)

「雲片(ウンペン)」は野菜の葛あん煮のことです。

(雲片(ウンペン))
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 調理の際に出た野菜くずを雲のかけらのように細切りにし,さっと炒めて葛あんをかけた料理です。

 野菜は人参,レンコン,タケノコ,もやし,きくらげ,干しシイタケ,ゆり根,ぎんなん,グリーンピース,生姜などでした。

 揚げ素麺の上に野菜の葛あん煮がのせられていたので,あんかけかた焼きそばに似ていると思いました。

 無駄なく食材をいただくという仏教の教えに基づいており,普茶料理の代表的な料理の1つとなっています。


飯子(ハンツウ)・寿免(スメ)・醃菜(エンツァイ)

 「飯子(ハンツウ)」はご飯もののことで,ご飯は「行堂(ヒンタン)」と呼ばれる木の桶で用意されます。

 普茶料理では野菜や木の実を入れて炊き込むことが多く,銘茶の産地・宇治にある萬福寺では,お茶の葉が入れられることもあるようです。

 「寿免(スメ)」は汁もののことです。主に昆布だしが使われます。

 「醃菜(エンツァイ)」は香の物のことです。

(飯子(ハンツウ)・寿免(スメ)・醃菜(エンツァイ))
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 今回は「飯子」が豆ご飯,「寿免」がお吸い物(梅干しの天ぷらとゴマ入りすり豆腐),そして「醃菜」が昆布の佃煮,しば漬け,ひょうたん漬けでした。


水果(スイゴ)

 
普茶料理では,お菓子と果物を総称して「水果(スイゴ)」と呼びます。

 普茶料理は油を使った料理も多いので,甘味はその口直しという意味でも重要な役割を担っています。

(水果(スイゴ))
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 オレンジ,きなこ羊羹,抹茶団子をいただきました。


まとめ

 普茶料理がなんとなく中国料理っぽい雰囲気があることが御理解いただけたでしょうか。

 また,中国の陰陽五行説にも通じる「五味五色」(五味…甘・酸・鹹・苦・辛,五色…青・黄・赤・白・黒)の考えを重んじ,色も味もそのすべてがバランスよく盛り込まれているのも特徴です。
 ※鹹(カン)は塩味

 黄檗山萬福寺の境内の建物も,中国風の建物様式(中国・明の時代(末期)の建物様式)となっています。

(売茶堂・有声軒入口)
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 この門をくぐると,煎茶道の祖・賣茶翁をまつるお堂(賣茶堂)とお茶室(有声軒)があります。

 全国煎茶道連盟の本部も設置されています。

(文華殿)
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 宝物館です。黄檗文化研究所も設置されています。


 京都・萬福寺でいただいた普茶料理。
 おなかも心も満腹になりました。


<参考文献>
 黄檗山萬福寺監修『萬福寺の普茶料理』学習研究社

<関連リンク>
 「普茶料理」(黄檗山萬福寺)

<関連記事>
 「黄檗山萬福寺の普茶料理(前編) -中国から伝えられた精進料理「普茶料理」の概要-
 「黄檗山萬福寺の全国煎茶道大会 -隠元と煎茶道-

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