関東の「長命寺桜もち」と長命寺 -東京都墨田区向島-
長命寺桜餅と道明寺桜餅
和菓子の桜餅は、小麦粉の生地で作られた関東風の「長命寺桜餅(ちょうめいじさくらもち)」と、もち米(道明寺粉)で作られた関西風の「道明寺桜餅(どうみょうじさくらもち)」の2種類に分類できます。
桜の香りがする生地であんこを包み、桜の葉でくるんだお菓子と言えば共通しているのですが、小麦粉で作られたクレープ状の生地と、もち米で作られたもち生地とでは、見た目や食感はかなり異なるお菓子となります。
今回は関東風の桜餅をテーマに、東京都墨田区向島の「長命寺桜もち」と長命寺を御紹介します。
当ブログの関連記事(文末の<関連記事>参照)と合わせてお読みいただければ、関東風桜餅と関西風桜餅の違いがわかり、それぞれの発祥地を旅した気分になっていただけるかと思います。
桜の名所・隅田川と東京スカイツリー
江戸時代、8代将軍の徳川吉宗が隅田川の土手に100本の桜を植樹し、隅田川は花見の名所となりました。
台東区側から隅田川に架かる歩行者専用橋「桜橋」を渡って、墨田区向島へ向かいました。
(桜橋から眺めた東京スカイツリー)
桜橋では、間近に東京スカイツリーを眺めることが出来ました。
長命寺桜もちと正岡子規
桜橋を渡って、隅田川の上流方向にしばらく歩いたところに、「長命寺桜もち」のお店と長命寺があります。
「長命寺桜もち」のお店の手前に、「正岡子規仮寓(かぐう)の地」の碑がありました。
(「正岡子規仮寓の地」の碑)
俳人の正岡子規は、大学予備門の学生時代、長命寺桜もち「山本や」の2階を3か月ほど借り、自ら月香楼と名付けて滞在し、次の句を詠んだそうです。
「花の香を 若葉にこめて かぐはしき 桜の餅 家つとにせよ」
「家つと」は家に持ち帰るお土産という意味で、全体で「とても良い香りがする桜葉に包まれた桜餅をぜひお土産に」といった感じの意味になります。
お店の2階に住まわせてもらっている以上、正岡子規も積極的にお店の宣伝をする必要があったのでしょう。
これに関連し、長命寺のウェブサイト「長命寺と桜もち」には、次のような紹介文があります。
「明治二十年頃には「お陸さん」という娘が美人で名高く、正岡子規が当家の二階に下宿していたのもその頃である。子規とお陸さんとの恋物語もあったとかいわれる。」
当家とは「長命寺桜もち」の山本家のことです。
正岡子規が長命寺桜もちの2階に下宿した一番の理由は、隅田川の自然や桜の魅力か、桜もちか、それともお陸さんか…真相は桜もちの葉のごとく謎に包まれています。
長命寺桜もちを味わう
長命寺桜もちのお店に着きました。
(長命寺桜もち店舗)
「桜毛ち」と書かれた立派なのれんをくぐり、お店に入りました。
店内を見渡すと、桜もちの購入だけでなく、お店でいただくこともできるとわかったので、「召し上がり」(喫茶・イートイン)をお願いしました。
テーブル席に座り、しばらくすると、煎茶と一緒に桜もちが運ばれてきました。
(召し上がり(煎茶付))
桜もちは紙で包んだ状態で提供されます。
桜もちを取り出してみました。
(長命寺桜もち(葉で包まれた状態))
塩漬けされた桜の葉が、くるんだ状態ではなく、桜もちにそのまま貼り付ける感じで3枚も使用されています。
静岡県松崎町の「大島桜」の葉が使われています。
「大島桜」の葉は、ほかの桜と比べて大きく、桜独特の甘い香りがあることが特長です。
葉っぱをめくって、めくって、めくって、やっと桜もちと出会えました。
(長命寺桜もち)
小麦粉の生地を薄いクレープのように焼き、あんこ(こしあん)を巻いた桜もちです。
桜餅の生地は、関東風(小麦粉生地)と関西風(餅生地)いずれも、ピンク色(桜色)と白色(無着色)のものがありますが、こちらのお店では白い生地で仕上げられています。
この桜もちをいただく際、ふと考え込んでしまいました。
「桜の葉は桜もちと一緒に食べるべきか、外して食べた方がよいか…」
子どもの頃は桜の葉を外して食べていましたが、桜の葉も食べられることを知ってからは「何となく」桜餅と一緒に食べるようになりました。
それに、今回のように大きな桜の葉を贅沢に3枚も使われていると、貧乏性の私は、これらの葉をすべて残すことがもったいないように思われました。
そこで、桜の葉を外すことなく、そのまま桜もちと一緒にいただきました。
最初に桜の甘くさわやかな香りを強烈に感じました。
さらに噛み進めると、パリパリという音とともに、中の桜もちに到達し、桜の葉のしょっぱさとあんこの甘さが口の中いっぱいに広がりました。
さらりとして上品な甘さのこしあんと、それを包むもっちりとした生地、そして甘く香り高い桜の葉のハーモニーが素晴らしく、満開の桜が目に浮かぶようでした。
熱く濃いめの緑茶と一緒にいただくと、心がほっと和みました。
正岡子規がこのお店の桜もちを宣伝したくなる気持ちもわかりました。
会計の際、お店の方に「桜の葉がたくさん巻かれていましたが、一緒に食べた方がいいのでしょうか」とお尋ねしました。
すると、お店の方から「外して召し上がることをおすすめしています」というお返事があったので、びっくりしました。
私が「ええっ、桜の葉が3枚も巻かれていたので、てっきり一緒に食べるものかと…」とお話しすると、お店の方は「桜の葉をすべて外して召し上がる方、1枚で召し上がる方、2枚で召し上がる方…皆さんお好みの食べ方があるようです。ただ、3枚だと塩辛いと思います。」とおっしゃっていました。
確かに若干しょっぱかったことは否めませんが、桜の葉と一緒に食べるのが「通(ツウ)の食べ方」、「大人の食べ方」だと信じていた私は少なからずショックを受けました。
「長命寺桜もち」の桜の葉は香り付けと餅の乾燥を防ぐためのもので、半年以上塩漬けにしているのでしょっぱく、ごわごわしているとのことでした。
「今度来た時は桜の葉1枚で食べてみよう」と思いましたが、おそらく残した桜の葉も後でペロンと食べてしまうことでしょう(笑)
長命寺と長命寺桜もち
長命寺桜もちとお茶をいただいた後、お店のすぐ近くの長命寺を散策しました。
長命寺は天台宗のお寺です。
(長命寺山門と言問幼稚園)
お寺の中に言問(こととい)幼稚園が併設されています。
(長命寺)
もともとは「常泉寺」という名のお寺でしたが、江戸幕府3代将軍・徳川家光がこの地に鷹狩りに来られた際、腹痛を起こし、住職の加持した庭中の般若水(井戸水)で薬をのんだら痛みが止まったので、以後「長命寺」と呼ばれるようになったそうです。
(長命水(井戸跡))
現在、この地で長命寺桜もちを味わえるのは、3代将軍・徳川家光が鷹狩りをし、8代将軍・徳川吉宗が桜を植樹し、正岡子規が滞在したおかげなのかもしれませんね。
<関連サイト>
「長命寺桜もち」(東京都墨田区向島5-1-14)
<関連記事>
「関東の和菓子と関西の和菓子 -和菓子の比較検証-」
「菅原道真ゆかりの地(大阪府藤井寺市道明寺)で道明寺粉と道明寺桜餅について学ぶ」
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