秋田の食文化探訪2 -比内地鶏・ハタハタ・がっこ・あねっこ漬け・ばっけ・きりたんぽ鍋・秋田産枝豆のコロッケ・秋田産りんごジュース-
2025年3月7日、山形県鶴岡市の鶴岡駅から「特急いなほ」に乗り、秋田県秋田市を訪問しました。
(特急いなほ7号・秋田駅到着)
秋田駅に到着した「特急いなほ7号」です。
秋田駅から秋田市の繁華街「川反(かわばた)通り」沿いにある郷土料理店「お多福」へ行き、秋田の郷土料理を堪能することとしました。
こちらのお店は、約7年前に一度訪問したことがあり、その際に店主さんから秋田の郷土料理の話を中心にいろんなお話を伺うことができ、楽しいひとときを過ごした思い出があります。
そのため、また秋田市へ行くことがあればぜひ再訪したいと思っていたのですが、それが今回実現しました。
予約時間を迎え、少し緊張気味にお店に入りました。
(「お多福」店舗)
前回と同様、カウンター席に案内していただきました。
店主さんと板前さんを前に、「実は約7年前にも来たことがあるのですが、その時もお二人とお話しさせていただきました。またお会いできて嬉しいです」とお話しすると、店主さんが笑いながら「ずっとこのメンバーですから」とおっしゃいました。
緊張がほぐれ、また同じ雰囲気で食事ができることを幸せに思いつつ、料理をいただきました。
それでは、今回味わった秋田の郷土料理を御紹介します。
トマトジュース
飲み物として、トマトジュースをいただきました。
トマトジュースはこどもの頃から苦手意識を持っていたのですが、塩無添加ということで注文してみました。
(トマトジュース(塩無添加))
「あっ、これなら甘くて美味しい」
トマトの旨みと甘みが凝縮された濃厚なトマトジュースでした。
お通し三種
「お通し」を御用意いただきました。
(お通し三種)
今回のお通しは「魚のマヨネーズ和え」、「なめ茸」、「糸こんにゃくのきんぴら」でした。
糸こんにゃくのきんぴらには、魚卵がまぶされており、美味しくいただけました。
お造り盛り合わせ
続いて、お造り(刺身)が用意されました。
(お造り盛り合わせ)
写真奥がソイ、手前右側がヒラメ(昆布漬け)、手前左側がシマアジです。
ソイは北海道や東北の日本海側で多く漁獲される、高級白身魚です。
脂がのって、プリプリとした食感の魚でした。
ヒラメは昆布漬けで、淡白な味わいの中に、昆布と白身の旨みを感じました。
シマアジは肉厚で、噛みしめるほどに旨みが口の中いっぱいに溶け出しました。
比内地鶏手羽焼き
「比内地鶏」は、秋田県北部・比内地方で飼育されてきた「比内鶏」(国の天然記念物)にロードアイランドをかけ合わせた鶏で、日本三大地鶏(比内地鶏、名古屋コーチン、薩摩地鶏)の1つです。
その比内地鶏の手羽焼きが提供されました。
(比内地鶏手羽焼き)
手羽先を塩こしょうで焼き、レモンを添えたシンプルな料理です。
表面の皮がパリッとして、噛みしめると中の肉汁が飛び出してきました。
肉は水っぽさがなく、弾力があって、旨みとコクが凝縮されていました。
シンプルな料理・調味ほど、素材の良し悪しが影響しますが、この比内地鶏には余計な調理・調味は要らないと思いました。
ハタハタの塩焼き
秋田を代表する食材の1つが「ハタハタ(鰰)」です。
秋田県の県魚にも指定されています。
そのハタハタの塩焼きを提供していただきました。
(ハタハタの塩焼き)
板前さんが丁寧に焼いてくださった一品です。
その板前さんから「よかったら、こちらで骨をお取りしましょうか」とお話があったので、興味津々でお願いしました。
骨抜きの作業をカウンター越しに見ると、菜箸でハタハタの胴体をお腹からしっぽに向けて軽くはさみ続け、徐々に身から骨を外しておられました。
最後に中骨を手に取り、その中骨をスルスルと横にスライドさせると、ものの見事に中骨だけが取り除かれました。
(ハタハタの塩焼き(骨抜き))
長い菜箸を使いこなし、身を崩すことなく、中の骨だけを取り除く板前さんの姿に、うっとりと見とれてしまいました。
しばらくしてハタと我に返り、ハタハタをいただきました。
ハタハタは、その見た目よりはるかに脂ののった魚で、それが大きな魅力です。
大根おろしが添えられているのも、脂がのった魚をさっぱりといただくためです。
ハタハタ漁は、今シーズン(2024年冬から2025年春まで)記録的な不漁となり、店主さんも嘆いておられました。
昔は、ハタハタの卵(ブリコ)が海岸を埋め尽くすほどたくさん獲れたそうですが、温暖化の影響で海水温が高くなり、ハタハタの産卵や成長にも影響が及んでいるようです。
そうした中でも、ハタハタを御用意いただいたことに感謝です。
がっこ盛り合わせ
お店の看板メニューの1つ、「がっこ(漬物)」です。
秋田では漬物のことを「がっこ」と呼びます。
この言い方は「香の物(=漬物)」を意味する「こうこ」や、「雅香」に由来するようです(その他諸説あります)。
漬物が売りの郷土料理店というのも珍しいですが、美味しい「がっこ」が食べられるお店として有名です。
(がっこ盛り合わせ)
写真右上が「やたら漬け」、それから時計回りに「いぶりがっこ」、「さっと干し大根(柿漬け)」、「大根の赤紫蘇漬け」です。
「やたら漬け」は、ありあわせの野菜を「やたら」めったら塩漬けし、味噌や醤油で調味した漬物です。
「いぶりがっこ」は、大根をいったん燻(いぶ)し、その燻した野菜を米ぬかで漬けこんだ漬物です。
大根を薫製にする理由ついては、「生のままだと大根が辛いため」とか、「漬物にする大根が寒さで凍ってしまうのを防ぐため」とか、「囲炉裏の上でいったん薫製にすると美味しかったため」といったものが挙げられています。
私が最も納得している理由は、「冬場に大根を置いておくと中の水分が凍ってしまう(使い物にならなくなる)ので、家の囲炉裏で大根を燻製して水分を抜き、保存性を高めるため」というものです。
今回御用意いただいた「いぶりがっこ」は、燻製と相性が良いクリームチーズがはさまれていました。
「さっと干し大根(柿漬け)」は,さっと軽く干した大根に柿(酢)を加えて漬けたものです。
「大根の赤紫蘇漬け」は、大根を赤紫蘇で漬けたもので、きれいなピンク色に仕上がっていました。
あねっこ漬け
「あねっこ漬け」は、きゅうりや大根などの漬物を刻み、梅酢で色をつけたもち米と混ぜ合わせた漬物で、その見た目や食感が初々しい娘さんを想像させることから名付けられた漬物です。
(あねっこ漬け)
もち米で漬けられているので、ほんのり甘く、漬物というよりは「もち米入りの野菜料理」という印象を持ちました。
天ぷら(ばっけ・タラの芽)
秋田の様々な「がっこ」を味わった後に、天ぷらが用意されました。
(天ぷら(ばっけ・タラの芽))
「ばっけ(ふきのとう)」と「タラの芽」の天ぷらです。
いずれも春の訪れを告げる野菜です。
ふきのとうは、先に訪問した山形県鶴岡市でも「ばんけ」と呼ばれ、甘い味噌と混ぜ合わせた「ばんけ味噌」をはじめとする料理で親しまれています。
きりたんぽ鍋
続いて、秋田名物であり、このお店の看板料理でもある「きりたんぽ鍋」を御用意いただきました。
「きりたんぽ」の語源は、粗くつぶしたご飯を棒に巻き付けて焼いた「たんぽ」を切って鍋に入れたことに由来します。
(きりたんぽ鍋)
写真手前がヒラタケ、中心の緑色の野菜がセリ、右上が白ねぎ、左上がセリの根です。
セリやセリの根は、シャキシャキした食感と香りの良さに特長があり、鍋をはじめとする煮込み料理に最適な野菜です。
東北地方の料理でよく使用される野菜です。
(きりたんぽ鍋(きりたんぽ))
醤油仕立ての具だくさん鍋で、食べ進めると、中にきりたんぽ、比内地鶏、糸こんにゃくが入っていました。
きりたんぽは、焼いたごはんの香ばしさと、鍋のだし汁をたっぷり吸ったもちもち感を楽しむことができました。
滝川豆腐
「滝川豆腐」は、豆腐を「ところてん突き」で押し出して、細長く仕上げた豆腐です。
(滝川豆腐)
全国的にみられる料理ですが、このお店の看板メニューの1つです。
(滝川豆腐(崩した様子))
生姜醤油でいただきました。
食べやすく、つるんとしたのどごしの豆腐麺でした。
秋田産枝豆のコロッケ
もう少し食べられると思い、板前さんにおすすめを聞いてみました。
すると板前さんから「秋田産枝豆のコロッケはいかがでしょう」と御提案があったので、私は「あ、それをお願いします」と注文しました。
秋田産の枝豆。
鶴岡で「だだちゃ豆(※)」と呼ばれる枝豆があることを知ったのですが、「秋田では「だだちゃ豆」とは呼ばないのだろうな」と思いつつ、出来上がりを待ちました。
※「だだちゃ」は鶴岡の方言で「お父さん」という意味
しばらくして、「はい、枝豆コロッケです」と料理が提供されました。
「えっ!」
(秋田産枝豆のコロッケ)
ソーセージのような形をしたコロッケです。
「枝豆の揚げ物」と呼んだ方がいいような一品です。
板前さんが笑顔で「イメージと違うでしょ?」とおっしゃったので、「確かに…」とお答えしました。
私はてっきり、ジャガイモと枝豆で作った小判形のコロッケが出てくるものと思っていました。
(秋田産枝豆のコロッケ(枝豆))
すりつぶした枝豆に海老のすり身を混ぜ合わせ、きめ細かいパン粉をまぶして油で揚げたコロッケです。
枝豆のさわやかな風味と海老の旨みを堪能しました。
1つ1つ、きめ細やかで丁寧な調理をされる板前さんらしさが表現された一品でした。
秋田産りんごジュース
食事を終え、店主さん、板前さん、そしてカウンターの常連さんと一緒にいろんな話で盛り上がりました。
(秋田産りんごジュース)
お酒に弱い私は、無添加の秋田産りんごジュースやウーロン茶をいただきながら、会話を楽しみました。
(アルコールを飲まない方が陽気でテンションが高いのです…)
まとめ
店主さんとは、秋田の食文化だけでなく、旅行の話や飛行機(マイル)の話、さらに釣りの話などでも盛り上がりました。
川に棲むヤマメが海へ出て、成長して再び川に戻ってくるとサクラマスとなるのですが、このサクラマスは警戒心が強く、釣り人が自然と一体化するぐらいでないと釣れないという話になりました。
店主さんがこの話をされた時、私は「まさに「釣りキチ三平」の「石化け」じゃないですか!」とお応えしました。
秋田県出身の漫画家・矢口高雄さんの漫画「釣りキチ三平」で、「石化け」と呼ばれる釣法が紹介されています。
この釣法は、釣り人が渓流の石や岩と一体化するぐらい存在感を無くすことで魚の警戒心を取り除いて魚を釣る方法を言います。
この話を地元秋田の方なら御存知ではないかと思ってお応えしたのですが、予想どおり皆さんも「釣りキチ三平」や「石化け」の話を御存知でした。
板前さんとは、板前さんが休暇を利用し、(雪のないところを求めて、私の地元)広島県沿岸部へ来られた時の話で盛り上がりました。
閉店時刻を過ぎても話が尽きることなく、前回の訪問時と同様に、アットホームでとても楽しいひとときを過ごすことができました。
夜も更けてきたので、おいとますることにしました。
会計を済ませ、女性の店員さんにお店の外までお見送りいただいた時、雪が降っていました。
夜空を見上げた店員さんがぽつり、「なごり雪が舞ってます」とおっしゃいました。
お店で楽しいひとときを過ごし、名残惜しく思っていた私は、その言葉が心に沁みました。
時は3月、秋田ももうすぐ春。
「♪春になれば 氷(すが)こもとけて どじょっこだの 鮒っこだの 夜が明けたと思うべな」
(童謡「どじょっこ ふなっこ」)
「またよろしくお願いします」とお礼申し上げ、お店を後にしました。
<関連サイト>
「お多福」(秋田市大町四丁目2-25)
<関連記事>
「秋田の食文化探訪1 -がっこ・なた漬け・きりたんぽ鍋・くじらかやき-」
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