カカオ豆とチョコレート
先日,広島市植物公園で開催された「カカオとチョコの秘密展」に行ってきました。
当日,実演会「チョコの原料(カカオニブ)の磨砕実演会」と題して,広島大学名誉教授の佐藤清隆氏の講演と学生の皆さんの実演指導が行われました。併せて,ボランティアガイドさんよる「展示解説とカカオガイドツアー」もあり,いずれも興味深く,とても有意義なひとときを過ごせました。
チョコレートについては,「キットカット」の記事でまとめましたが,今回新たに勉強したことを列記します。
①カカオの木は,幹に直接黄色い花が咲く。これを幹生花(かんせいか)と言う。よって枝だけでなく,幹にも実ができる。
[カカオの木と実がなるイメージ(協力:通りすがりの人)]
②1つのカカオの中から,カカオ豆が30~40個取れる。周りの白いわたは「カカオパルプ」と呼ばれ,チョコレート等の原材料には用いられないが,これはこれで甘くて美味しく原産地では逆にこれだけを食べてカカオ豆を捨てていたとのこと。
[カカオ豆の様子(展示)]
③カカオ豆を木箱やバナナの葉で包んで発酵させ,香りをつけて乾燥させた状態で出荷,製造メーカーのチョコレート工場等へ運ばれる。
④カカオ豆を焙煎し,皮を取り除いた胚乳部分だけのものを「カカオニブ」と言う。その約55%は油脂分(ココアバター)であり,残りが食物繊維等(ココアケーキ)である。
[ローストカカオ豆(上半分が皮(シェル)をはいだ状態)]
[カカオ豆の変化(展示)]
⑤カカオニブを磨砕してドロドロにしたものが「カカオマス」と呼ばれる。油脂分が多いので,カカオニブをすりつぶしただけで,ドロドロになる。ココアバターは31℃以上で溶けるので,磨砕の際には,石のまな板(メターテ)を40℃ぐらいに温めておく必要がある。原産地は,赤道±20度の暑い地域なので,そのまますりつぶせるが,ヨーロッパなど寒い国では,昔はメターテの下に炭火を置き,温めながら作業した。
[特製メターテ(厚い鉄板は温められている)]
⑥実際にカカオニブを試食してみる。また,研究室にある特製メターテやすり鉢でカカオニブの磨砕を体験。お土産に小袋に入ったカカオニブをいただく。家ですり鉢を使い,粉糖とサラダ油を混ぜ合わせてすりつぶすと実際にチョコレートが作れるとのこと。
[カカオニブ磨砕(佐藤先生による磨砕。超高速回転で右手が流し撮りの写真となる。)]
実演会の途中や終了後に,せっかくの機会なので,佐藤先生にいくつか質問させていただきました。
Q「チョコレートは,(脂肪分を加える必要があるため)カカオマスにさらに別のカカオ豆から
作ったカカオバターを加えることになるのでしょうか。」
A「そのとおり。チョコレートはイギリスのジョーゼフ・フライが発見しました。」
Q「サラダ油の代わりに,生クリームを入れてもいいかと思うですが。」
A「水分が邪魔をしてうまくチョコレートはできません。」
Q「今日のカカオニブの品種は何でしょうか。」
A「フォラステロ種です。」
Q「一度でいいので,クリオロ種を食べてみたいのですが…。」
A「店頭ではほとんど売られてないと思います。」
Q「クリオロ種の農園を御覧になったことがありますか。」
A「農園は世界でもほんのわずかしかありません。私が訪問した農園では,数百メートル
四方に及ぶ農園にクリオロ種が栽培されていましたが,それはたった1本から派生する
木を大事に支えて栽培しているものでした。クリオロ種は病気に弱いので,毎日カカオ
の実を1つ1つ観察してまわる必要があり,非常に手間がかかる栽培方法でした。」
Q「クリオロ種はそのままでも美味しいと聞きますが。」
A「確かにそうです。ミルクチョコレートにするなどもったいないです。」
Q「カカオも紅茶のように発酵という工程があるのですね。」
A「カカオは何万,何億とおりも発酵方法ありますが,発酵が果たす役割は非常に大きい
のです。」
チョコレートへの愛と情熱でチョコレートも溶かすような,楽しくて素晴らしい先生でした。
お忙しい中,佐藤先生をはじめ,研究室の学生さん,ボランティアガイドさんには大変お世話になりました。心からお礼申し上げます。
(豆知識)
・ココアはお湯で溶かして飲まれることが多いが,原産地など暑い国では,逆に冷水で溶かして飲まれることも多い。
・マカダミアナッツは,オーストラリア原産で,現在ハワイなどで栽培されているが,ハワイやグアムのお土産で有名なマカダミアナッツチョコレートを開発したのは実は日系人(マモル・タキタニ氏)。
・カカオマスに牛乳や生クリームを入れてもミルクチョコレートは作れない。逆に牛乳や生クリームの水分により,分離してしまう。粉乳などを用いる。
(研究)
ミルクチョコレートはスイス・ヴェヴェイのアンリ・ネスレとダニエル・ペーターが開発。ネスレは薬剤師で,乳幼児用粉ミルクの開発に成功,ココア製造の経験を持つペーターに,チョコレートの中に粉ミルクを入れることを勧める。ところが,うまくできず,ネスレのライバルが開発したコンデンス・ミルクを使うとなめらかなミルクチョコレートができた。そこでネスレもコンデンス・ミルクを作るようになる。
スイス・ヴェヴェイのアンリ・ネスレが母乳代替食品(ミルク加工品・ミルク入り穀粉)を開発。それに影響を受けた隣人のダニエル・ペーターがミルクチョコレートを開発した。
チューリッヒでココアを製造していたルドルフ・リンツは「コンチェ」(攪拌・すり混ぜる)の機械の改良に成功。カカオマス・ココアバター・砂糖・ミルクを混ぜ合わせ,なめらかな食感のミルクチョコレートを作る。こうした経緯を経て,スイスのミルクチョコレートが有名になる。
ココアを改良・普及させたオランダのヴァン・ホーテンは化学・機械技術に造詣が深かった。チョコレートを開発したイギリスのジョーゼフ・フライはもともと薬局経営者。ネスレは薬剤師。リンツは薬剤師の家庭に生まれ,兄は薬局経営。兄から助言を得た。カカオ加工・ココア製造には化学・薬学的知識が必要不可欠だったことがわかる。
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