鯨の食文化2 -下関の鯨料理-
鯨料理を求めて,休暇を利用して山口県下関市の「長州くじら亭」へ行ってきました。
今回は鯨料理の勉強も兼ね,鯨の各部位が楽しめる日新丸御膳を注文しました。
(鯨料理の数々)
「赤身の刺身」
川浪店長さんのお話では,これが南氷洋(南極海)で捕れた最後のミンククジラとのことでした。ハーグ国際司法裁判所の判決(南極海での日本の調査捕鯨の中止命令)を受けての話ですが,何だかとても貴重な食べ物に思えました。解凍されてすぐ調理され,すじ切りもされているので,やわらかく,鯨の味を楽しむことができました。
「本皮の刺身」
皮下脂肪の部分だと思います。見た目とは裏腹に脂身としてはしつこくなく,かなり噛み応えがありました。赤身の刺身と一緒に生姜醤油でいただくと,肉と脂身の味が調和し,一層おいしくなります。
「ベーコン・薫製ベーコン」
ふちが赤いのがおなじみ鯨のベーコン,茶色が薫製ベーコンです。畝須(下アゴから腹部にかけての縞状のひだの部分の脂身(畝)と畝の内側の赤身(須の子))にあたります。臭味がなく,肉は肉,脂身は脂身でそれぞれ美味しくいただけました。
「尾羽雪(おばいけ)」
鯨の尾の皮の部分です。薄くスライスし,湯にくぐらせたもので,さっぱりとして,海藻のようなシャキシャキした独特の歯応えが特徴です。酢味噌でいただきました。
「さえずり」
鯨の舌です。今回の料理の中では,これが一番脂が乗っていて(ほとんどが脂身です),口の中でとろけて,美味しかったです。
「胃袋」
この「胃袋」と「特選赤身の刺身」があるかないかで千円の差があるぐらいなので,希少な部位だと思います。胃袋だけあって,とても噛み応えがあり,適度に塩味も効いているので,そのままで味わっていただきました。
「特選赤身の刺身」
鯨肉には珍しく,霜降りの赤身です。半解凍の状態で供されましたが,とてもやわらかく,しばらく経つと,常温でも溶けてくるぐらいでした。「尾の身」と呼ばれる最高級の赤身,又はその周りの赤身だとのお話でした。
「竜田揚げ」 「カツ」
鯨肉の食べ方として,昔の学校給食も含めて,日本人に馴染み深い料理だと思います。肉が固く筋張っている印象が強いですが,これは筋切りされ,生姜醤油のつけダレで下拵えされた肉なので,とてもやわらかくて,くせもなく,食べやすかったです。
「ステーキ」
このステーキも,丁寧に下拵えされており,上品なステーキに仕上がっていました。焼き加減は程よいミディアムでした。
今回の御膳は,このほかにも,小鉢(鯨の佃煮),茶碗蒸し,そしてご飯と味噌汁(具は尾羽雪),漬物で構成されており,豪華な昼食となりました。
平日の昼一番乗りだったこともあり,川浪店長さんとゆっくりお話する時間がありました。これも大きな収穫でした。例えば,
○鯨肉の問屋も兼ねておられるため,解凍してすぐに料理として提供できること。
○時間とともに赤身や脂が溶け出してしまうのを防ぐため,半解凍の赤身を提供していること。(脂身は不飽和脂肪酸で,常温だと溶けてしまうが,これは鯨が体内ですぐにエネルギーにするためでもあるとのこと。)
○鯨の赤身には「バレニン」という抗疲労成分が豊富に含まれていること。
○捕鯨国と反捕鯨国での文化の違いはどうしようもできない一面もあること。
○調査捕鯨をめぐるハーグ国際司法裁判所での判決日当日,この店でマスコミの取材に対応されたこと。
○山口県長門市など,全国に鯨の墓や供養塔があり,鯨は人間と同じ尊い命として供養されていること。
などです。
このほかにも,「鯨の食文化1 -捕鯨の基礎知識と食文化の事例-」でまとめた内容を思い出しながら,鯨の話で川浪店長さんと話が盛り上がり,1人だったにもかかわらず,店を出て時計を見ると,軽く1時間以上滞在していました。お忙しい中,親切に対応いただいた川浪店長さんに深く感謝しています。
様々な部位を使った様々な鯨料理が味わえ,その1つ1つに,鯨に関する様々な物語があるように思いました。
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