しょうゆの研究1 -「醤(ひしお)」から世界に誇る万能調味料「醤油」の誕生に至る歴史-
(醤油のルーツ,中国・朝鮮の「醤(ひしお)」)
醤油の原形である「醤」は,中国や朝鮮から日本に伝わってきた説が有力となっており,中国伝来の醤は「唐醤(からびしお)」,朝鮮伝来の醤は「高麗醤(こまびしお)」と呼ばれていました。
中国・周の時代に,獣や鳥の肉に粱麹と塩とをまぜ,美酒に漬けて醤が作られた記録がありますが,当初は大豆ではなく,もっぱら肉類を漬け込んだ「肉醤(ししびしお)」だったようです。
大豆が使われ始めたのは,周の時代から約1千年近く後で,大豆にかび付けした「鼓(し)」という発酵食品が登場し,醤や鼓を煮出した「鼓汁(くきじる)」という今の醤油の先祖のような調味料が使われていました。
(「醤」から液体調味料「醤油」へ)
日本では古い時代から,塩辛の上澄みのような魚醤(うおびしお)が使われていました。また,白鳳時代の「大宝律令」では,醤は原料別に「草醤(くさびしお)」,「肉醤」,「穀醤(こくびしお)」の3種類があることが記録されています。
-醤の主な材料-
「魚醤」…魚,貝,カニ,ウニ,エビなど
「草醤」…ウリ,ナス,カブ,ダイコン,ウド,モモ,アンズなど
「肉醤」…鳥獣
「穀醤」…米,小麦,豆など
やがて,大陸からの醤の技術に,日本在来の醤を作る技術が加わり,日本でも,末(未)醤,荒醤,真作醤,滓醤,鼓,大麦醤,小麦醤,大豆醤など様々な種類の醤が作られるようになりましたが,味噌とも醤油ともつかない調味料だったようです。
そして鎌倉時代には「溜(たまり)」が登場します。覚心が留学先である宋の径山寺(きんざんじ)で学んだ径山寺味噌(刻んだ野菜を漬け込んだ味噌)の製造法を日本に持ち帰り,紀州・由良で伝えられました。
この径山寺味噌を醸造中に,発酵槽の底に溜まった液体のおいしさが発見され,液体調味料としての醤油が由良の隣,湯浅を中心に製造されるようになります。
「こいくちしょうゆ(生しょうゆ)」
(醤油の工業化と世界進出)
醤油の製造は,高度な技術と蔵などの設備が必要とされるので,早くから企業が製造することとなりました。
醤油の工業化は,当時の文化の中心であった関西(播州・泉州など)からはじまりましたが,江戸時代となり,江戸での需要増加に伴って,原料となる大豆や小麦を産する関東平野に位置し,江戸への輸送(利根川や江戸川など水路輸送)に便利な野田や銚子が醤油の最大の生産地となりました。
現在では,醤油はアメリカをはじめとする世界百か国以上に輸出されており,健康志向で和食が注目される中,世界中で使われる万能調味料となっています。
参考文献:
山本泰・田中秀夫『味噌・醤油入門』日本食糧新聞社
大塚滋『食の文化史』中公新書
宮崎正勝『知っておきたい「食」の日本史』角川ソフィア文庫など
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