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2016年3月 1日 (火)

歴食JAPANサミット -山口に誕生した「歴食」という新たな食の世界-

「歴食」という新たな食の世界

 2018年に明治維新から150年を迎える山口。
 山口市の街中に維新150年を記念する紅白の旗が掲げられ,近代日本の「幕開け」が,まさにこの地を中心に展開されたことを感じさせてくれます。

(「明治維新策源地・山口市」の旗とロゴ)
Photo

 このロゴは「幕開け」を象徴する朝日をベースに,一・五・〇を落款印風に意匠化したものです。

 そして,この度,維新150年を迎える山口市において,食の世界で「維新」が起きました。

 「歴食」という新たな食の世界が誕生したのです。

 「歴食」を最初に提唱した山口商工会議所山口名物料理創出推進会議によると,「歴食」とは,「歴史的なストーリーを有した,価値ある食」と定義付けされています。

 同会議は,「歴食」を通じて,各地域が連携し,食のルーツを知り,地域の歴史を知る機会を創出することを主な目的として活動されています。


歴食JAPANサミット・第1回大会 in 山口市

 今回私は,2016年2月20,21日に開催された「歴食JAPANサミット・第1回大会」の「歴市(21日開催)」に参加しました。

(「歴食JAPANサミット」パンフレット)
Photo_2

 会場は,山口市湯田温泉にある「カリエンテ山口」です。

 開場前から既に大勢の人で賑わっていました。

 開場セレモニーでは,「歴市」出展者から,出展された「歴食」が紹介されました。

(開場セレモニー)
Photo_3

 歴食アドバイザーに就任されている辰巳琢郎さんも来場され,会場は盛り上がりました。

 メイン会場では,様々な歴食の展示,試食・販売コーナーが設置されていました。

 そのいくつかを御紹介します。


大内氏の宴と「平成大内御膳」

(大内氏の宴)
Photo_4

 1500(明応9)年,室町幕府の将軍 足利義稙(よしたね)が山口の大内義興(よしおき)を訪問した際に供されたとされるもてなし料理です。

 中世最大級の宴が催され,料理は32献110品以上あったというから驚きです。

 その食材も,鯛,伊勢海老,ウニ,アワビ,数の子,果てはイルカやツルまで出されたようなので,まさに贅の限りを尽くした宴です。

(『明応九年三月五日将軍御成雑掌注文』にみる食材)
Photo_5
(山口市教育委員会「大内氏の宴 -出土品にみる中世山口の食文化-」から引用)

 
こうしたふるまいは,食が単に食欲を満たし,栄養を摂取するための手段だけではなく,交渉や情報交換の場の提供や,社会的地位や権威を誇示するための手段でもあったことを如実に示しています。

 また,宴に使われた食器も,ある意味贅沢品です。

 と言うのも,食器には素焼きの土器である「土師器(はじき)」が使われたのですが,これが1回限りの使い捨てだったようなのです。

 1回限りの食器とすることで,宴の価値を高める意味があったのだと思います。

 ただ,個人的には,せっかく苦労して作った器なのにもったいないという感想を持ちました。

 ここまで書いてふと思ったのですが,現在私達は外などで食事する際,紙やプラスチック製の食器を使い捨てにしていますが,このことを未来の人間が知ると,「彼らは何てもったいないことをしていたんだ」と思われることになるかもしれませんね(笑)。

 冗談はさておき,逆にこうした使い方がされたおかげで,土師器が捨てられた現場(廃棄土坑)の出土品や残留物を調査することにより,どれくらいの規模で,どんな食べ物が食べられていたのかを解明することができ,当時の書類と照合することで,大内氏の宴の様子を知ることが可能となりました。

(廃棄土坑の調査風景)
Photo_6
(山口市教育委員会「大内氏の宴 -出土品にみる中世山口の食文化-」から引用。一部加工)

 出土した食器だけでなく,土まで持って帰って調べるのですから,相当根気のいる大変な作業です。

 この一大御膳を,山口名物料理創出推進会議が,関係者の協力を得て現代に甦らせたのが「平成大内御膳」で,湯田温泉の各施設で味わうことができます。

(「平成大内御膳」)
Photo_7
(「歴食JAPANサミット」パンフレットから引用)

 当時の味を忠実に再現するために,砂糖,みりん,醤油などは一切使わず,塩や煎り酒,たれ味噌といった当時の調味料が使われているのが魅力です。

 まさに殿様気分を味わえる料理なので,その雰囲気も含め,一度味わってみたいです。


弥生の食器

 愛知県の安城市埋蔵文化財センターから出展された弥生時代の食器です。

(弥生の食器)
Photo_8

 写真左から,煮炊きをする器(台付甕),液体などをためる器(広口壺),料理を盛り付ける器(高坏)です。

 これらの食器は今回「歴食器」と表現されていました。


益田氏の饗応料理

 島根県の益田「中世の食」再現プロジェクトにより再現された,益田氏の饗応料理です。

(益田氏の饗応料理)
Photo_9

 現存する益田家文書の解読や専門家の協力により再現されました。

 調味料においても,砂糖や醤油が普及してない時代を考慮し,中世の甘い酒で甘味を出したり,その酒を梅などと一緒に煮詰めた「炒り酒」でうま味を足したりする工夫がなされています。


三角縁神獣鏡チョコ

 福井市立郷土歴史資料館からの展示品です。

(三角縁神獣鏡チョコ)
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 同資料館では,古墳時代の鏡「三角縁神獣鏡」のシリコン製鋳型にチョコレートを流し込んで,原寸大のチョコレプリカをつくるワークショップが行われており,楽しみながら歴史を学べる工夫がされています。

 今回の「歴食JAPANサミット」でも,食の体験型ワークショップとして,土器にみたてたクッキーを一度割って,砂糖を煮詰めた接着剤等で復元させる「発掘土器クッキー復元体験」や,刀の長州鐔(つば)でつくられたシリコン型にチョコレートを流し込んで鐔のレプリカをつくる「長州鐔チョコレート造り体験」の2つのイベントが開催され,好評を得ていました。

 このほかにも,縄文・弥生時代の土器クッキー「ドッキー」・縄文どんぐりクッキー・古墳型ケーキ・歴史意匠グッズ,奈良時代の宮廷料理「天平の宴」,奈良~平安時代の万葉食「貴族の御膳」,室町時代の「香物」・「橘焼」,戦国時代の「戦国三好御膳」,江戸時代の「熊本城本丸御膳」,幕末の「和宮御膳」・「新撰組御膳」・山口の久坂玄瑞や大村益次郎にちなんだ料理,明治時代以降の「日本のワインの歴史」・「名古屋めし」など,各時代の「歴食」をバランスよく展示・販売されていました。

 内容がとても充実していたので,開場から閉場セレモニーまでの時間があっという間でした。

 歴史や食に興味・関心を持つ人たちが一同に会した今回のサミット。

 「歴食」が新たな歴史・食の分野として,もっと多くの人に認識され,食から歴史に興味・関心を持ち,歴史から食に興味・関心を持つという,相互の有機的なつながりを持った発展につながってほしいものです。

 新たな食の世界の「幕開け」を,維新150年を迎える山口で実感しました。

(関連サイト)
 歴食JAPAN公式サイト http://reki-shoku.jp/

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コメント

こんなイベントが有ったんですね~
あの何とか御膳とか、お弁当は、イベント会場で食べることが出来たのでしょうか?
その時限りのチャンスだったんでしょうか。
湯田温泉に行けば、いつでも食べられるんですかね?
写真をパッと見ると、今の時代の温泉宿の夕食とか、
ちょっと豪華な仕出し弁当とあまり変わらないように見えちゃいます。
でも、きっと食べてみたら、全然違うんでしょうね。
最後のチョコですが、割と最近テレビで見たと思うんですが・・・
このイベントがらみだったのかな?
バレンタインがらみだったのかも・・・
思いだせません

食いしん坊倶楽部・海 様

ちょっと豪華な仕出し弁当ですか…。読みながら,かなりウケました(笑)。
「大内氏の宴」や「平成大内御膳」などは展示でしたが,その中で代表的な雑煮は試食することができました。
具は干しなまこ,アワビ,鰹,餅で,鰹の生節からとった出汁でいただいたのですが,これが絶品でした。
しかも,試食だからか,この食材で500円。もう一杯いただこうかと思ったぐらいです。
料理長自らお椀によそっていただいたのですが,その様子がテレビカメラに収録されたため,その雑煮を買った私は写真を撮ることができませんでした(笑)。
湯田温泉に行けば,いつでも食べられるようですが,事前予約が必要のようです。
http://reki-shoku.jp/portfolio-items/340/
この時代の料理は,調味料が乏しく,食材で直球勝負というのが基本なので,その分値段も高くなるのだと思います。
食べたら違うことももちろんですが,一番は食材が高級だということでしょう。
チョコのお話ですが,こちらも珍しいので,テレビで紹介されたかも知れませんね。
テレビはほんのチョコっとしか見ないので,私は初めて見ましたが…。
また思い出されたら,ぜひ教えてください。
コウジ菌

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