歴食JAPANサミット -長州鐔チョコレートづくり体験-
山口で開催される「歴食JAPANサミット第1回大会」に参加してみようと思った時,歴食JAPANの公式サイトで唯一事前申し込みが可能だったのが,今回の「長州鐔(ちょうしゅうつば)チョコレートづくり体験」でした。
広島から意気込んで行く以上,何か1つでも確実に参加できるイベントがあればと思っていたので,早速インターネットの申込みフォームから申し込みました。
後日,歴食JAPAN事務局から受付完了のメールをいただき,これで少なくとも1つはイベントに参加できると安心して,山口を訪問しました。
当日,「長州鐔チョコレートづくり体験」午後の部に参加しました。
チョコレートで長州鐔をつくる
講師は,山口県立大学看護栄養学部の園田純子先生(食生活・食文化論)です。
園田先生は,地域の食文化などを研究されており,同大学で「弁当の日」を実践されています。
「弁当の日」と言えば,私は,漫画『玄米せんせいの弁当箱』(魚戸おさむ/北原雅紀)の話が頭に浮かびますが,自分で弁当を作ってみることで,食についてたくさん学ぶことが出来る素晴らしい取り組みだと思います。
私自身もその影響を受けて,弁当を持参しています。
話が少し脱線しましたが,園田先生と山口市のヘルスメイト(食生活改善推進員)の皆さんからの説明・指導を受けながら,実習に取り組みました。
(長州鐔チョコレート材料・調理器具)
長州鐔チョコレートの材料・調理器具です。
板チョコレート(1人1枚),長州鐔の型枠(シリコン),チョコレートの温度調整(テンパリング)のための温度計,湯せんのためのお湯とボウル,キッチンペーパー,皿となっています。
最初に,板チョコレートを手で細かく折って片手鍋の中に入れ,一回り大きな鍋のお湯の中にその片手鍋を入れて,徐々にチョコレートを溶かしていきます。
(チョコレートを溶かす様子)
途中,チョコレートの温度を温度計で測り,適温になっているか確かめながら作業を進めます。
十分に溶け,つやが出たら,溶かしたチョコレートをシリコンの型枠に流し込みます。
(チョコレートを流し込む様子)
厚さ約5mmの型枠なので,チョコレートをゆっくりと静かに流し込まないと,すぐあふれてしまいます。
私は欲を張ってチョコレートを多めに流し込みました。(これが後に面倒な結果となるのですが…。)
チョコレートを流し込んだら,型枠の微細な模様や文字がはっきり出るよう,型枠を台の上で軽くゆさぶります。
ここまでできたら,型枠ごとチョコレートを冷やし,時間をおいて固めます。
チョコレートが固まるまでの間,山口大学教育学部の吉村誠先生(国文学,国語教育)から,長州鐔についてのお話がありました。
長州鐔を知る
「長州鐔」は,かつての長州藩(山口)で作られた日本刀の鐔(つば)のことです。
今回のワークショップのために,古武具のコレクションで有名な「岩国美術館」の展示品などが会場内に展示されていました。
(日本刀と刀装具)
間近で見るのは初めてですが,厳粛な空気,緊張感を感じました。
鐔は,刀から自分の拳を守るために付けられる仕切りの役目をするとともに,刀のバランスを整える(重心を手元にする)役割もあるそうです。
(「蓑亀図大小鐔(みのがめのずだいしょうつば)」)
長州鐔は,山口市や萩市に鐔工(つばこう)が多くおられたことや,安価だったことなどから,全国に流通し,長州藩の一大産業となったようです。
今回のチョコレートのモデルとなった長州鐔は,「長州萩住清久作(ちょうしゅうはぎじゅうきよひささく)」と呼ばれるもので,宝暦年間(徳川家重の時代)に萩に住んでいた松井清久という人がつくった鐔だそうです。
お話を伺って,長州鐔が盛んに生産され,全国に広まった理由の1つとして,隣の島根が,「たたら製鉄」にみられるように,全国屈指の鉄の生産地だったことも関係しているのではないかと思いました。
長州鐔とお菓子のきんつばの関係
吉村先生から日本刀や長州鐔について教えていただいた時,ふと思いついたことがありました。
それは,「和菓子の「きんつば」のモデルとなった「つば」は,長州鐔だったのではないか」ということです。(きんつばについては,「関東の和菓子と関西の和菓子 -和菓子の比較検証-」参照)
江戸時代,刀の「つば」が庶民にも広く知れ渡っていたからこそ,「つばの形に似ているお菓子」として「きんつば(金鍔)」・「ぎんつば(銀鍔)」という名称が受け入れられ,現在に至っているのではないでしょうか。
その際,モデルとなった鐔(鍔)は,全国的に広く流通していた長州鐔だった可能性もあると思います。
そうであれば,長州鐔をきんつばの材料で作ってみるというのも面白そうだと思いました。
チョコレートのような美しい形までは再現できないとは思いますが…。
長州鐔チョコレートの完成
吉村先生の講義の後,チョコレートが冷えて固まったことを確認し,長州鐔チョコレートづくりの再開です。
型枠から固まったチョコレートを取り出します。
これが意外と難しかったです。
チョコレートがやわらかいシリコンの型枠に密着した状態で固まっているため,密着した端の部分をゆっくりはがしていく必要があるのです。
急いではがそうとすると,チョコレートの厚みが薄いので,割れてしまいます。
更に,今回の長州鐔には,中央に刀をはめ込むための穴や,四隅にハート型のような「猪目(いのめ)」と呼ばれる飾りの穴があるのですが,この穴の部分をきれいに型枠から外すことも難しかったです。
(型枠とチョコレート)
写真を見ると,穴となる部分が,突起となっていることがわかるかと思います。
これをそのままきれいに外すのが大変でした。
私は型枠にチョコレートを多めに流し込んでおけば大丈夫だろうと思っていましたが,実際は逆で,多めに流し込んだことにより,接着部分が多くなり,取り外すのに苦労しました。
時間をかけて何とか取り外し,長州鐔チョコレートが完成しました。
(長州鐔チョコレート)
皆様の期待どおり(笑),縦に割れてしまいました。
しかしながら,中央に「長州萩住 清久作」という文字も出ており,私としては十分な出来です。
(販売用の包装紙と長州鐔チョコレート)
当日会場で販売されていた長州鐔チョコレートの包装紙と一緒に記念撮影しました。
包装紙の左側に,「もののふは さすが肥後づか 長門つば 九曜の星と一に三星」と書かれています。
これは,ペリー来航の頃の俗謡で,『外国人に立ち向かう勇敢な「もののふ(武士)」は,「肥後づか」(柄,刀を握る部分),「長門つば」(長州鐔),「九曜の星」(肥後細川氏の家紋),「一に三星」(毛利氏の家紋)を装備している』といった意味になります。
この話は,開場セレモニーの際,歴食JAPANサミット実行委員長の御挨拶でも取り上げられたのですが,山口から「歴食」を日本全国,世界へ発信するきっかけの1つとなった話なのではないかと思います。
歴食JAPANサミットを通じた人との出会い
ワークショップ終了後,吉村先生に万葉集の長意吉麻呂(ながのおきまろ)の歌に登場する,まずいと酷評された水葱(ミズアオイ)を私が探し求めた話(「しょうゆの研究4 -鯛と醤酢(ひしおす)・ひしお飯-」参照)などをお話しし,盛り上がりました。
また,同席されていた山口大学教育学部の五島淑子先生(食生活・食文化論)にもお会いでき,食文化についてお話を伺う機会がありました。
そのほかにも,私と一緒のテーブルで,とてもきれいに長州鐔チョコレートをつくったにもかかわらず,スマートフォンのバッテリー切れで写真が撮れなかった男性や,はるばる佐賀から来られた心優しい「歴女」の女性,歴食JAPAN事務局の皆さんなど,数多くの方との楽しい出会いがあり,とても有意義な1日を過ごすことが出来ました。
お世話になった方々に,この場をお借りして深くお礼申し上げます。
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コメント
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すみません、この記事で一番気になったのは、
スマホのバッテリー切れで写真撮れなかった方。
残念過ぎますよね~
もしかして、その後画像送ってあげたりなさったのでしょうか?
最近、写真撮り忘れたりしたら、凹んでしまうワタクシなので・・・。
あっ、コウジ菌さんのチョコも割れちゃって残念なんですけど、
それは、ご愛敬ってことで
投稿: 食いしん坊倶楽部・海 | 2016年3月15日 (火) 22時03分
食いしん坊倶楽部・海 様
そうきましたか!
思いもよらぬコメントです(笑)。
スマホのバッテリー切れさんは「チョコレートを流し込む様子」の写真の手前で流し込んでる人です。
きれいに出来て,周りもすごいと評判が良かったので,それなら写真でも撮っておくかという気になられたのですが,そこで充電されてないことに初めて気付き,「撮れない!」とかなり慌てておられました(笑)。
急速充電器を借りようにも短時間では写真が撮れるまでにはいかなくて,そこで登場したのが私…ではなくて,心優しい佐賀の「歴女」さんでした。
「私のスマホで撮って,後でメールアドレスに送って差し上げましょう。」となったのです。
しかも,お近づきのしるしにと,私たちにバレンタインチョコまでいただきました。
嬉しくて,私は土産用に買ったお菓子を「歴女」さんに差し上げました。
記事の補足が出来て,食いしん坊倶楽部・海さんに感謝です。
コウジ菌
投稿: コウジ菌 | 2016年3月15日 (火) 23時18分