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2016年4月15日 (金)

歴食の世界 -「平成大内御膳」の雑煮と中世の香物,私の教育論-

 「歴食JAPANサミット第1回大会 in 山口市」(「歴食JAPANサミット -山口に誕生した「歴食」という新たな食の世界-」参照)で展示・販売された歴食を御紹介します。


「平成大内御膳」の雑煮

 「大内氏の宴」を現代に甦らせた「平成大内御膳」を代表する料理が雑煮で,この雑煮が会場で販売されていました。

(「平成大内御膳」の雑煮 販売の様子)
Photo

 「干しなまこ,鮑など,高級食材がたっぷり入った…」と紹介されており,これこそ昔の御馳走だと思った私は,どのような雑煮なのか興味津々で注文しました。

 注文すると,調理服を着た板前さんが,丁寧に中の具を温め直し,お椀に熱いだし汁を注いでくださいました。

 その職人技と完成した雑煮を,報道の方がテレビカメラで一部始終撮影されたので,私が購入した雑煮にもかかわらず,その様子を写真撮影する余地はありませんでした…。

(「平成大内御膳」の雑煮)
Photo_2

 これが,もうテレビでとっくに紹介されているかも知れない雑煮です(笑)。

 鰹の生節の出汁に,醤油の代わりとなる「たれ味噌」(詳細は後述)で調味された汁です。

 「たれ味噌」が使われているため,醤油に比べて深みのある色になっています。

 鰹の生節から引き出された深みのある出汁と,たれ味噌のコクが相まって,香り高い滑らかな汁に仕上がっています。

 中の具は,干しなまこ,鮑(アワビ),鰹の切身,里芋,餅という豪華な食材です。

 いずれの具も一口大に揃えられ,汁ともうまく絡まっているので,1つ1つ味わいながらいただくことができました。


中世の香物

 山口県美祢市立於福中学校から,中世の香物(こうのもの)が出展されていました。

(中世の香物)
Photo_3

 大根や守口大根を味噌で漬けた漬物です。

 「皮があるままを漬けた方がよいか,皮をむいて漬けたほうがよいか」など中学生が試行錯誤されながら作られたそうです。

 ほのかに味噌のよい香りがする,おいしい大根漬に仕上がっていました。


「香の物」と呼ばれる理由

 試食後,香の物について,展示資料を読んだり,於福中学校の先生・生徒さんからお話を伺ったりして理解を深めました。

 今回の香の物は,「貞丈雑記(ていじょうざっき)」という有職故実の書物をもとに再現された料理だそうです。

(「香物」についての説明(古文))
Photo_4

 古文の説明書きの隣に,現代語訳も用意されていました。

(「香物」についての説明(現代語訳))
Photo_5

 この説明書きや,於福中学校の先生・生徒さんからの説明で,「漬け物」を「香の物」とも呼ばれるのは,漬け物に味噌が使われ,その味噌の香りが強いことにルーツがあることを知りました。


「たれ味噌」が「香の水」と呼ばれていた

 また,「たれ味噌」という表現もみられますが,これは味噌からにじみ出た液体調味料のことで,のちに醤油へと進化していく調味料です。

 「香(味噌)の水」と表現されていますが,「醤油」という言葉が生まれる前はこのように呼ばれていたのかも知れませんね。

 今の時代に,食堂などで醤油びんに「香水」などと書かれていたら,化粧品と間違えられそうですが…。

 於福中学校では,「大内料理」の再現や,そのための古文書解読,京料理を学ぶ修学旅行など,大内文化を中心とした歴史教育,食文化教育に力を入れておられるようで,恵まれた環境で学べる生徒達を羨ましく思いました。


これからの日本の教育のあり方を考える

 於福中学校の取組み事例に刺激を受け,私なりに,これからの日本の教育のあり方について少し考えてみました。

 きっかけは,歴史でも食でも何でもいいと思うのですが,自分が興味を持った分野を深く勉強することの楽しさや,新たな世界を見つけることの喜びを子供達に気付かせること,これこそが教育の原点なのではないかと私は思っています。

 そして,自分で研究を進めていけるだけの能力を身につけるために,基礎的な必修科目の勉強が大切になってくることを自覚させることが出来るならば,教育の目標は達したと言ってもよいでしょう。

 なぜなら,あとは教育などしなくても,自然とその目標に向かって自主的に勉強するようになるからです。

 ただ,この考え方は教育の最終目標であって,実際には,それ以前に受験競争に臨むために無理矢理詰め込み式の勉強をしたり,学問の楽しみや喜びを味わえぬまま卒業する生徒・学生達がほとんどと言ってよいでしょう。

 受験競争,学歴社会は,明治以降,社会が要請した効率的な人材選別システムの一部であり,理不尽とも言える受験勉強を通じて,どれだけ社会に適応し得るか,どれだけ忍耐力があるかをはかる「ものさし」になっている感があります。

 確かにある意味それも必要なことなのですが,グローバルな視野で日本の将来を考えると,自主的に学び,考え,解決する能力を身に付けた人材が求められており,そうした人材を育成するための教育が必要とされているように思います。

 そういう意味からも,於福中学校のような,生徒に自主的に考えさせ,様々な体験をさせることで,勉強の本来の楽しさや喜びを知ることを目標とした取組みは,注目に値するのではないでしょうか。

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