しょうゆの研究11 -手作り醤油キットから醤油の圧搾と仕上げを学ぶ(後編)-
前編(「しょうゆの研究10 -手作り醤油キットから醤油の圧搾と仕上げを学ぶ(前編)-」参照)の圧搾作業の様子に続き,後編では,一晩寝かせて圧搾させた後,醤油に仕上げるまでの様子を御紹介したいと思います。
生揚げ(生しょうゆ)としょうゆ粕
丸1日をかけ,ようやくすべての量のもろみを圧搾することができました。
圧搾したばかりの醤油は「生揚げ(きあげ)」または「生しょうゆ(なましょうゆ※1)」,残りのもろみかすは「しょうゆ粕」と呼ばれます。
※1 「生しょうゆ」の「生」はこの場合「なま」と読む。「生」を「き」と読む場合は,純粋な,だしなどを混ぜ合わせてない醤油という意味で用いられる。
ここから先の文章では,「生揚げ(生しょうゆ)」については,わかりやすく「醤油」という表現で統一します。
絞りたての醤油の様子です。
(醤油全量)
計量カップで量ると,生揚げは,約650mlありました。
(醤油の計量)
次にしょうゆ粕の様子です。
(しょうゆ粕全量)
こちらは重さを量ると,1kg近い約950gもありました。
大きなボウル1個分です。
1年間発酵・熟成させたことでの変化
では,この1年間発酵・熟成させたことにより,食材はどう変化したのか検証してみたいと思います。
(当初(2015年2月1日))
しょうゆ麹 700グラム
塩 225グラム
水 1,000グラム(1リットル)
計1,975グラム
(圧搾後(2016年1月31日))
醤油 650ミリリットル(≒650グラム)
しょうゆ粕 950グラム
計1,600グラム
よって,
(1)圧搾後の全体の減少量は,1,975グラム-1,600グラム=約375グラムとなります。
(2)また,液体のみの変化を考えると,当初の水1,000グラムが醤油(生揚げ)650グラムになったので,1000グラム-650グラム=350グラムが減少したこととなります。
(1)と(2)の平均をとると,(375+350)/2=362.5となり,この1年間の発酵・熟成で,約360ミリリットル(缶ジュース約1本分)が水分として蒸発したこととなります。
ペットボトルに入ったもろみを,毎日振って混ぜては,蓋を開けて発生したガスを抜くという作業を1年間続けてきましたが,このガス抜きによって,缶ジュース約1本分の水分が抜けたこととなり,改めて麹による発酵・熟成の力強さを感じました。
手作り醤油の完成と味見
私は,しょうゆ粕がほとんどで,液体の醤油はほんのわずかしか採れないと思っていただけに,650ミリリットルもの醤油は,私の想像をはるかにしのぐ量となりました。
絞りたての酸化してない醤油なので,薄い褐色です。
(絞りたての醤油の様子)
この絞りたての醤油を味見してみました。
仕上がった醤油は,大豆や小麦のうま味が凝縮され,雑味が全くなくすっきりとした,とてもおいしい醤油となっていました。
これが醤油本来の味で,この味が日本の食文化の基礎となっているのかと思うと,とても感慨深いものがありました。
ただ,市販の醤油に比べ,若干塩辛く感じました。
元々の塩分濃度が,18.37%と少し高め(※2)だったこともありますが,全てのもろみを十分に発酵・熟成しきれてなかったことが原因なのかも知れません。
※2 現代の醤油の塩分濃度は,塩分を控えめに16%程度が主流となっている。
この醤油をびん詰めしました。
(びん詰めした醤油)
これでようやく市販の醤油らしくなりました。
1年という長い期間を経て,やっと手作り醤油が完成しました。
醤油本来のうまさを知ることの意義
現代の食品工業技術を使えば,もっと短期間に,安く,大量に,更には本来の醤油の味以上にうま味のある醤油だって作ることは可能です。
ただこうした技術を駆使していけばいくほど,本来の醤油の持つ味・風味からかけ離れた調味料となってしまうことは確かでしょう。
それだけに,純粋な醤油が持つ本来のうまさを知っておくことは,今,私たちの周りでどんな醤油が市販されているのかを理解する上でも意義のあることだと思います。
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コメント
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素晴らしいですねo(*^▽^*)o
コウジ菌さんは、子供の頃から、自由研究とか
お好きでしたか?(笑)
お醤油って・・すごいですよね~大事にしようとか思う。
投稿: ヒナタ | 2016年6月21日 (火) 15時52分
ヒナタ 様
ありがとうございます。
小学生の頃は,勉強が嫌いで嫌いで,自由研究などもってのほか。
やってないことを先生からどうやって言い逃れしようかそればっかり考えてました。
自由研究が好きになったのは,自分が好きな経済学を学ぶようになってからです。
そう考えると,自由研究というのは,自発的にやってみたいとか,楽しいと思えない限り,取り組んでもあまり意味がないのかも知れませんね。
今回の記事は,自由研究と呼んでいただくにはお恥ずかしいような内容ですが,何か1つでも御参考になるようなことがあったなら,とても嬉しいです。
醤油を大事にというお話ですが,確かに醤油は,下ごしらえの余りとか,つけ醤油・かけ醤油・めんつゆなどの残りとか,意外とロスが多い食品ですよね。
仕方ないと言えばそれまでですが,少しでもロスを減らすよう心掛けたいものです。
投稿: コウジ菌 | 2016年6月22日 (水) 19時38分
コウジ菌さん、こんにちは!
醤油が美味しいと料理のグレードが格段に上がりますよね( ^ω^ )
というか、醤油を手作り?!
私、来年は、大豆を栽培して味噌を作ってみたいな~と思っているんですが
ずぼらな私には、醤油はレベル高すぎて手が出ませんわ
にしても
塩分がちょっと高めならば、今の時期なら冷奴や刺身、とろろや短冊切りにした山芋などのネバネバ系、
ただ茹でただけのホウレンソウや小松菜、白菜、人参にも
王道の卵がけごはんに焼はんぺんなんて甘めの材料に直掛けて食べたら美味しいかも~♪
日本が世界に誇る万能発酵調味料だけあって、料理の幅無限大!
楽しんで使って食べてくださいね
投稿: tomo | 2016年6月22日 (水) 23時08分
そうなんです。余るのです。そして、捨ててるのが現実w(゚o゚)w
こんなに、大変なのに~って思う。
へ~意外です(笑)逆に、自由研究と言って失礼かも・・って^^;
高卒の私の頭では、思いつかないのですよ(笑)
色々、参考になります。
投稿: ヒナタ | 2016年6月23日 (木) 16時35分
tomo 様
コメントありがとうございます。
本当は,それこそ「コウジ菌」(種麹)を入手して,最初から醤油を作ってみたいと思っていたのですが,醤油業者も専門業者から入手されていたり,その業者だけのオリジナル種麹を持っておられたりする程なので,一個人では難しく,「しょうゆ麹」から作れる手作り醤油キットで作ってみました。
日本でいち早く醤油が商業化したのも,それだけ専門的な技術を必要としたからなのでしょうね。
でも,もしtomoさんが自ら栽培された大豆を使って味噌を作られるなら,この方がもっとすごいことですよ。一から全て手作りですから。
塩分高めの醤油に合う料理についても,いろいろと教えていただき,ありがとうございます。
お話いただいた料理は,冷奴や刺身,茹で野菜,卵などすべてシンプルな料理を挙げていただいていますが,まさにこうしたシンプルな料理こそ,素材や醤油の良し悪しがものをいう世界です。
はっきり言って…素材と調味料のどっちも良いなら,凝った料理は必要ないと思います。
焼きはんぺんなど,甘めの食品にも合いそうですね。こういう発想はありませんでした。さすがtomoさん,ナイスアイデア!
tomoさんの畑で採れた野菜とこの手作り醤油があれば,最高でしょうね(笑)。
投稿: コウジ菌 | 2016年6月23日 (木) 23時57分
ヒナタ 様
いつもありがとうございます。
醤油を余らせ,その多くを捨てているということを普段から意識している人は,世界広しと言えども数少ないと思います。
かと言って,残った醤油を飲み干したり,再利用する訳にもいかないので,悩ましいところですが…。
うどんやそばの汁を飲み干すと,そっちの方が健康によくないと言われますもんね(笑)
醤油が安価に大量生産できるようになったからこそ,こうした使われ方も可能になったのでしょう。
醤油は意外とロスが多い食品であること,このことを今回ヒナタさんと共有できたことが一番嬉しいです。
また,ヒナタさんに自由研究と呼んでいただき,記事にして良かったなと改めて思いました!
ありがとうございました。
投稿: コウジ菌 | 2016年6月24日 (金) 00時44分