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2016年7月17日 (日)

韓国と日本の似て非なる食文化 -国立民族学博物館の「韓日食博」に参加して-

国立民族学博物館と「韓日食博」

 大阪府吹田市にある万博記念公園。

 公園のシンボル「太陽の塔」です。

(「太陽の塔」)
Photo

 その万博記念公園内に学術研究機関「国立民族学博物館」があります。

 この度,国立民族学博物館で開催された「韓日食博」(開催期間:2015年8月27日~11月10日)に行ってきました。

 日韓国交正常化50周年を記念し,国立民族学博物館と韓国国立民族博物館で共同開催された「韓国と日本の食文化と博物館」をテーマとした特別展です。

(国立民族学博物館と「韓日食博」)
Photo_6

 国立民族学博物館には,主に民族学・文化人類学の見解から食文化を研究されている研究者が多くおられるので,食文化に興味がある私にとって,いつか行ってみたい研究機関でした。

 今回は,その国立民族学博物館で開催された「韓日食博」について御報告します。


韓国の伝統的な祭祀の膳

 韓国の伝統的な祭祀の膳が展示されていました。

(祭祀の膳)
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 儒教の教えに基づき,先祖や親に対する高い孝行心を示すため,餅菓などの食物が高く積み上げられています。

 唐辛子やにんにくは使わず,積み上げるときは奇数にするなどの決まりがあるようです。


韓国ストリートフードの変遷

 1965年から2015年までの韓国ストリートフードの変遷がパネルで展示されていました。

(韓国ストリートフードの変遷)
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※画像をクリックすると拡大します

 トッポッキ,ホットク,スンデ,エゴマの葉のおにぎりなど,韓国ならではの軽食のほかに,オデン,天ぷら(ティキム),コロッケ,回転焼きなど,日本から伝わった軽食も多くみられます。

 最近の食では,キングコングワッフル,麻薬トウモロコシ,爆弾ご飯,メルティング・モンキーなどが紹介されていますが,ネーミングが少し過激な方向に進んでいるような気もします。


学術研究機関との連携展示

 大阪工業大学から出展された「食感シミュレーター」です。

(食感シミュレーター)
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 耳の形に合わせて作られた「骨伝導ヘッドフォン」を耳に付け,食品のシルエットを選ぶと,「ガリガリ」,「バリバリ」といった音や食感が伝わってきます。

 その感覚や食品のシルエット,ヒントから,その食品が何であるか当ててみようという体験機器です。

 このほかにも,大阪工業大学からは,オノマトペ(擬音語・擬態語)ゲームや仮想もちつきゲームなど,食に関する様々なバーチャルリアリティーの世界が,京都造形芸術大学と韓国芸術総合学校の「日韓DNA養成プロジェクト」からは,日韓両国の食文化を表現したアーティスティックな作品が,それぞれ紹介・展示されていました。


韓国の日本食

 韓国に伝わった日本食が紹介されていました。

(韓国の日本食)
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※画像をクリックすると拡大します

 フェドプパプ(刺身丼),サムガクキムパプ(三角おにぎり),カレー(ルウ),ウドン専門店のメニューが展示されています。


(フェドプパプ)

 フェドプバプは,フェ(膾,なます)のドプパプ(丼ご飯)という意味で,要するに刺身丼(海鮮丼)のことですが,日本でイメージするそれとは異なる点がいくつかあります。

 日本では刺身に醤油やわさびをさっとかけて食べますが,韓国では丼飯の上に刺身とチシャやエゴマの葉,青唐辛子といった生野菜が乗せられ,味付けはコチジャン(唐辛子味噌)主体の唐辛子酢味噌なのです。

 そして,ビビンパと同様にスプーンでよく混ぜて食べられることも,日本の刺身丼(海鮮丼)と異なる特徴となっています。


(サムガクキムパプ)

 サムガクは三角,キムパプは韓国で有名な海苔巻きの意味なので,サムガクキムパプは,三角おむすびという意味となります。

 日本でお馴染みの三角おむすびですが,冷や飯を嫌がる韓国人にとってのおむすびは,日本のコンビニエンスストア・セブンイレブンが韓国で販売したことを皮切りに,キムパプと同様の手軽な軽食として,徐々に受け入れられてきた食べ物だと言えます。

 中にコチジャンプルコギ,スパム,ビビンパなど,韓国独自の具材が入れられることにより,サムガクキムパプは韓国の食として浸透してきています。


(カレー)

 韓国のカレーも,日本からの影響を多く受けています。

 バーモントカレーのルウには「正統日本式カレー」と書かれていますが,これもその証の1つと言えるでしょう。

 ただ,韓国で多くの人に好まれるカレーは,日本のカレーとは少し異なるようです。

 一番の特徴は「辛くなく黄色い」ということでしょう。

 唐辛子の辛さは好まれても,スパイスの辛さはあまり受け入れられないようなのです。

 そして,これもビビンパやフェドプパプと同様,ドライカレーのようになるまでよく混ぜてから食べられるのです。

 また,日本のカレーライスには福神漬けやらっきょうが添えられますが,韓国では,やはりキムチとなっています。


(ウドン)

 ウドン専門店のメニューを見ると,単品のウドンのほか,握り寿司,トンカス(とんかつ),ラーメン(韓国にはインスタントラーメンやちゃんぽんはあっても,日本人が想像するようなラーメンは少ない)などが用意されています。

 ウドン専門店とは言え,実際はお手軽な日本料理店としての意味が強いのだと思います。


(オデン)

 醤油ベースのだし汁で魚の練りもの(さつま揚げ)などを煮込んだ韓国の「オデン」は,実際に日本からもたらされた料理の1つであるため,日本のおでんとよく似ています。

 おやつやスナック感覚の食べ物で,ソウルや釜山などの屋台でよくみかけます。

 日本のおでんのように様々な野菜や練りものなどを入れるのではなく,平べったい形の魚の練りものが中心で,この練りものをくねくねと折って串刺しにして売られています。

 私はソウル駅近くの屋台でこのオデンを食べたことがあります。

 オデンを注文すると,オデンのほかに,プラスチックの汁椀にオデンの汁を入れて渡されたのですが,オデンと汁の食べ方がよくわからず,戸惑いました。

(韓国セブンイレブンのオデン広告)
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 韓国セブンイレブンのオデン広告です。

 こちらは中にひじきや人参の入った練りものや竹輪など,日本のおでんに近い商品がラインアップされていますが,それらが串刺しにされているところは,おやつやスナック感覚で食べる韓国人向けにアレンジされた結果だと言えるでしょう。


 どれも日本の料理とよく似ているのですが,どこか微妙に違う料理となっています。


韓国と日本の料理漫画

 会場2階に「食のライブラリー」コーナーがあり,韓国で出版されている料理漫画などが自由に読めるスペースが設置されていました。

 料理漫画好きで,食文化に興味を持つ原点となった私にはたまらないコーナーです。

(韓国の料理漫画)
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 写真は韓国で絶大な人気を得て,ドラマ・映画化もされた「食客」,そして日本でお馴染みの「クッキングパパ」と「美味しんぼ」の韓国語版です。

 私が様々な韓国の食文化を知ることができたのは日本語版「食客」によるところが大きいのですが,同様に,日本の料理漫画のハングル版が出版されることで,韓国の人達にも日本の食文化を知ってもらえる機会が大きく広がったと言えるでしょう。

 ちなみに,韓国での漫画のタイトルは,「クッキングパパ」が「お父さんは料理士」,「美味しんぼ」が「味の達人」,「孤独のグルメ」が「孤独の美食家」など,日本のオリジナルとは少し名前を変えて翻訳出版されているものも多く見られます。

(「味の達人」の様子)
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(「味の達人」第21巻 128~129ページを引用)


「朝倉研究室」での朝倉敏夫先生との出会い

 食を通して韓国社会を研究しておられ,「韓日食博」の実行委員長を務められた朝倉敏夫 国立民族学博物館教授の研究資料が展示されたコーナーです。

(「朝倉研究室」)
Photo

 幸いにも,朝倉敏夫先生に実際にお会いすることができ,日本の焼肉の特徴などの食文化論を伺うことができました。

 朝倉先生は,著書『日本の焼肉 韓国の刺身』の中で,日本の焼肉が「日本化」,「大衆化」したのは,「無煙ロースター」と「焼肉のタレ」によるところが大きいと分析しておられ,今回の「韓日食博」でもそのことについて講演されたのですが,その講演会の要旨を教えていただきました。

(無煙ロースター)
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 無煙ロースターは,焼肉は煙が立ち込め,臭いが付くというイメージを払拭し,外食での焼肉を普及させました。


(焼肉のタレ)
Photo_7

 焼肉のタレが開発・販売されることにより,日本の家庭に焼肉が普及しました。

 韓国の日本食とは逆に,日本の韓国食とも言える焼肉ですが,この日本の焼肉も,「包丁で切るかはさみで切るか」,「つけダレかもみダレか」,「肉を野菜で巻いて食べるか肉だけで食べるか」などで,韓国の焼肉とは異なり,似て非なる食文化が形成されていると言えるとのお話でした。

 会場で購入した『韓国食文化読本』にサインをお願いしたところ,私の名前の次に「恵存」(けいそん)と書いていただきました。

 無知な私は後になって,「恵存」が「末永く,手元に置いてくだされば幸いです」という意味だと知りました。

 とても素敵な言葉だと思います。

 今回の「韓日食博」のほかにも,韓流ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」,「イ・サン」,「馬医」などの日本語版監修や,国立民族学博物館と立命館大学国際食文化研究センターとの学術交流協定締結を記念した国際シンポジウム「世界の食文化研究と博物館」の開催など,多方面で御活躍の朝倉敏夫先生。

 今後ますますの御活躍をお祈り申し上げます。

<参考文献>
 朝倉敏夫・林史樹・守屋亜記子『韓国食文化読本』国立民族学博物館
 朝倉敏夫『日本の焼肉 韓国の刺身』農山漁村文化協会
 森枝卓士『世界のインスタント食品』徳間文庫

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コメント

去年、行かれたのですね^^
やはり、近い国だから・・お互い、近い食文化なんでしょうね。
お箸使うし~知識が浅いけど・・・
ラーメンは、辛いですよね・・美味しいけど(笑)
おでんとかうどんとかあるんですね。
漫画本・・私も、読みましたね~(笑)

ヒナタ 様

おっしゃるとおりで,韓国と日本は近い国だから食文化もよく似ているのですが,微妙に違うところが面白いです。

例えば…

・韓国では箸を使うが,匙(スッカラク)も使う。

・お椀を手に持って食べる日本と,手に持ったら不作法になる韓国。

・ヒナタさんがお好きなラーメンで言えば,韓国にはラーメンはないけど,辛いチャンポンはあり,インスタントラーメンは盛んに食べられている。

・韓国の日本料理店で,板前さんがネクタイしめて板前の服装をしているのに,なぜかコック帽までかぶって調理している

など…。

でも,多分,日本に来られる韓国の人も同じように思われることはあるでしょうね。


漫画ですが,特に食の世界においては,文章だけよりも絵がある漫画の方が料理や食材のイメージがしやすいので,プラスの要素が多いと思っています。

私は韓流ドラマも観ることがありますが,「宮廷女官チャングムの誓い」,「食客」,「製パン王キム・タック」など,ジャンルは全て食の世界です(笑)。

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