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2016年7月

2016年7月30日 (土)

岡山が誇る果物 -清水白桃とマスカット・オブ・アレキサンドリア-

 岡山県総社市にあるJA岡山西の直売所「ふれあいの里」と「山手マルシェ」に行ってきました。

 いずれの施設も,新鮮な果物や野菜などがたくさん売られていました。

 今回は岡山の代表的な果物,白桃とマスカットを御紹介したいと思います。

 共通するキーワードは「女王」です。


清水白桃

 岡山市芳賀清水の桃園で発見されたことから「清水白桃(しみずはくとう)」と名付けられた桃です。

 岡山の代表的な桃で,「桃の女王」とも呼ばれています。

(清水白桃)
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 桃の出荷時期は半月程度と短く,私が訪れた7月中旬は,ちょうど「白鳳(はくほう)」から「清水白桃」に移行する時期でしたが,出荷時期のグラフを見ると,6月下旬から9月下旬にかけて,いつでも何らかの品種の桃が出荷されているようでした。

 桃の販売価格は,この出荷時期や等級(主に糖度)などにより,大きな幅があるようです。

(桃の等級と糖度)
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「山手マルシェ」の案内広告

 糖度が上がると,等級も「加工用」,「エース」,「キング」,「ロイヤル」と上がります。

 当然のことながら,等級に連動して値段も上がります。

 今回購入した清水白桃は,自宅用のもので,等級もなく,パック詰めされた格安のものでしたが,帰ってから食べてみると驚くほど甘く,もし出荷用だったら等級も上のクラスだろうなと思いました。

 果肉が柔らかく,果汁たっぷりで,桃の香りもよく感じられる,まさに「桃の女王」と呼ばれるにふさわしい白桃でした。


マスカット・オブ・アレキサンドリア

 「ブドウの女王」,更には「果物の女王」とも称される「マスカット・オブ・アレキサンドリア」。

 栽培面積,生産量ともに岡山が日本一を誇るブドウです。

 原産地は北アフリカとされており,名前の由来は,エジプトの地中海沿岸にある「アレクサンドリア港」を経由し,各地に広まったことにあるようです。

(マスカット・オブ・アレキサンドリア130周年記念ポスター)
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JA全農おかやまポスター

 岡山でマスカットが栽培されるようになって130周年になることを記念して作られたポスターです。

 高温・乾燥した原産地(北アフリカ)から伝わったマスカットが,岡山の温暖で日照時間が長く,雨が少ない気候と適合し,また,岡山の人々の並々ならぬ研究や努力の結果により,岡山の地でマスカット栽培が成功したと説明されています。

(マスカット・オブ・アレキサンドリア)
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 今回購入したものは,「ニューマスカット」と呼ばれる種なしマスカットです。

 ニューマスカットについてQ&Aの説明書きがありましたので,その内容(抜粋,一部加工)を御紹介します。

Q:「ほかのブドウとどう違うの?」
A:「甘さですね。マスカットだけはブドウ糖の甘さで,他のブドウはショ糖,つまりお砂糖の甘さなのです。」

Q:「ニューマスカットって聞いたことないけど…。」
A:「日本で最も希少なブドウと言えるかもしれませんね。出荷先は,東京,大阪,名古屋,金沢だけですし,東京でも1日20房ほどの入荷です。地元の岡山で入手できるのは直売所だけです。」

Q:「一番のポイントは何?」
A:「ブドウ糖の甘さでしょうか。ブドウ糖は脳の栄養源と言われることがあります。ブドウ糖が脳の活動を維持するための,絶対に欠かせない唯一のエネルギー栄養素なので,お勉強やお仕事をやっておられる時にこそニューマスカットがお勧めです。」

 まとめると,ニューマスカットは,「種なし」の珍しいブドウで,脳の栄養源となるブドウ糖の摂取に優れているようです。

 では,実際の粒の様子を見てみましょう。

(マスカット・オブ・アレキサンドリア(種なし)の粒)
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 1粒1粒が大きく,やや長細い形をしています。

 写真の右側は粒を半分に切った様子ですが,種なしということもあり,透き通るような緑色の断面をしています。

 また,断面の様子を御覧になってもわかりますが,皮が非常に薄いのも特徴と言えます。

(マスカット・オブ・アレキサンドリア(種なし)の皮)
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 ただ,この皮,薄い割にはしっかりした張りがあり,酸味もあるので,もちろん丸ごと食べる方法もありますが,私は皮をむいて食べる方が,マスカット本来の風味や甘味を損なわず,より美味しくいただけるように思いました。

 マスカットを食べ進めるうち,薄い皮を上手にむくコツがわかりました。

 あえてマスカットの粒の先端からゆっくり皮をむくのです。

 こうすると,むける皮の面積が多くなり,比較的簡単にむくことができます。

 逆に枝に付いていた軸の部分から皮をむこうとすると,少しの面積しか皮がむけず,皮むきにかかる時間や回数が増えるように思いました。

 いずれにせよ,皮をむくのに多少の手間がかかるのですが,この皮をむいたマスカットを口にほおばると,その苦労が吹き飛ぶぐらいの感動を与えてくれることは確かです。

 マスカットのさわやかな香り,やわらかいゼリーを食べているかのような果汁たっぷりの食感,そして強くすっきりとした甘味を堪能することできました。


まとめ

 今回「清水白桃」と「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を食べて思ったことは,いずれも「高い値段を出してでも買う価値がある果物」だということです。

 これが普段あまり果物を食べることのない私が思った素直な感想です。

 今回の清水白桃やマスカット・オブ・アレキサンドリアのほかにも,白鳳,シャインマスカット,瀬戸ジャイアンツ(桃太郎ぶどう)など,岡山が誇る果物がたくさん売られていました。

 天晴れ「くだもの王国おかやま」。

 感動の味を求め,また岡山を訪問したいと思いました。

2016年7月24日 (日)

しょうゆの研究12 -キッコーマン もの知りしょうゆ館見学-

 千葉県野田市は江戸時代以降,醤油の代表的な産地として発展してきました。

 今回,その千葉県野田市にある醤油メーカー「キッコーマン」を訪問しました。

(東武鉄道 野田市駅と電車)
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 東武鉄道野田市駅を出ると,目の前にキッコーマンの工場群が広がり,ほのかに醤油産地特有の醤油の香りも漂ってきました。

(野田市駅前から見えるキッコーマンの仕込みタンク)
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醤油の代表的な産地 野田

 江戸時代初期,新興都市江戸への醤油の供給は,そのほとんどが醤油製造のノウハウを有する上方(紀州・湯浅,播州・龍野,備前・児島,讃州・小豆島,摂州・灘,近江・日野など)の醤油業者が製造し,樽廻船で運ばれてきた「下り醤油」によるものでした。

 やがて江戸の人口が増加し,急激に醤油の需要も増してきたこともあり,関東でも醤油が盛んに製造されるようになりました。

 その代表的な産地となったのが,漁民によって紀州・湯浅の醤油製造法が伝えられ,原料の大豆や小麦も収穫でき,江戸川や利根川を利用して大消費地江戸にも水運で醤油を供給できる野田,銚子だったのです。

(江戸時代の醤油の産地)
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(武光 誠「食の進化から日本の歴史を読む方法」から引用)

 私は,つくばエクスプレスの車内から利根川を眺めたのですが,この川が関東の一大醤油産地の形成に大きく貢献した川かと思うと,感慨深いものがありました。


もの知りしょうゆ館での工場見学

 野田市駅から歩いてすぐの場所に,キッコーマンの工場見学施設「もの知りしょうゆ館」があります。

(醤油工場と「もの知りしょうゆ館」)
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 入館手続を済ませ,最初に館内で醤油が出来上がるまでの映像を鑑賞しました。

 醤油の製造過程を理解しやすいように,こうじ菌ちゃん,酵母ちゃん,乳酸菌ちゃんというそれぞれのキャラクターが説明してくれました。

 麹菌のことを「キッコーマン菌」と呼んでおられましたが,これはキッコーマンが独自に菌を所有・保存されていることの証しだと思います。

(キッコーマン菌(麹菌),酵母,乳酸菌)
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 麹菌,酵母,乳酸菌それぞれの微生物の働きを利用して深みのある味や香り,色が作られることや,香りの成分が300種類以上あることなど,醤油の発酵・熟成を中心に学びました。

 次に工場見学をさせていただきました。

 私が強く印象に残ったことを中心に御紹介したいと思います。


醤油のパイプライン

 野田市内にはキッコーマンの工場が建ち並んでいますが,各工場はパイプラインで結ばれており,分業化が進んでいるようです。

 このパイプライン,道路や野田市駅の地下にも張り巡らされているとのお話だったので,とても驚きました。


仕込みタンク

 館内のガラス窓越しに仕込みタンクを見学しました。
 
 これでペットボトル(1リットル)約33万本分の容量があるそうです。

 ガラス窓には,仕込みタンクの仕組みが図で説明されています。

(仕込みタンクとその説明図)
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濾布の大きさと圧搾の重さ

 しょうゆのもろみを搾る布のことを「濾布(ろふ)」と言いますが,この濾布1枚の大きさが,幅約3m,長さ約2,800m(東京スカイツリー4つ分の高さ)もあるそうです。

 この濾布にしょうゆもろみを充填し,何層にも折ってプレスさせることで,鮮やかな色の醤油が搾り出されます。

(充填室と充填機)
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(パンフレット「しょうゆ キッコーマンのしょうゆ工場」から引用)

 プレスの加重は,ジャンボジェット機1機分の重さにもなるとのお話でした。

 しょうゆもろみを,東京スカイツリー4つ分の長さの濾布で包み,その上にジャンボジェットが乗っかってプレスすることをイメージすると,その規模の大きさに驚かされます。


しょうゆ粕としょうゆ油の活用法

 醤油を作るとその副産物として大量のしょうゆ粕が生じることは,「しょうゆの研究11 -手作り醤油キットから醤油の圧搾と仕上げを学ぶ(後編)-」でも触れました。

 同様に,大豆にはたんぱく質のほかに大量の油脂が含まれているため,醤油を搾った後には「しょうゆ油(しょうゆあぶら)」と呼ばれる油脂が生じます(そのため,醤油メーカーでは脱脂加工大豆を使用されることも多い。)。

 キッコーマンでは,これらの副産物の有効活用に取り組んでおられます。

(しょうゆ粕)

 しょうゆ粕については,家畜の配合飼料にしたり,紙(非木材紙)に加工されています。

 実際にしょうゆ粕を見せてもらうと,さすがジャンボジェット機の重さでプレスされるだけあって,醤油が抽出され尽くしており,粕がコルク板のようになっていました。

 私が作った際に生じたしょうゆ粕と比べると,いかに液体と固体に分けられているかがよくわかると思います。

(自作の醤油で生じたしょうゆ粕)
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 自宅で醤油を作った際に生じたしょうゆ粕です。

 まだ液体(醤油)が多く含まれており,味噌のような固体となっています。

(しょうゆ粕とレターセット)
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 キッコーマンの工場で生じたしょうゆ粕とその繊維を利用して作られたレターセットが展示されている様子です。

 見事に液体(醤油)が搾り出されて,乾燥した固体となっています。

 職員の方から,「大切な醤油を無駄にすることのないよう,醤油を十分搾り出している」と説明していただきました。

 ここで,こういう御意見もあるかも知れません。
 「だったら自分で醤油を作った時も,もっと力を入れて搾ればよかったじゃないか」と。

 確かにそうなのですが,無理に醤油を搾り出そうと力を加えると,醤油が濁ってしまい,きれいな醤油にならないのです。

 これが素人では技術的に難しいところで,濁らせず,可能な限り醤油を搾り出すことを可能とした技術は,キッコーマンの誇るべき技術の1つだと言えるでしょう。

 余談ですが,見学されていた方から,「しょうゆ粕は食べられないのですか」という質問が出ました。

 職員の方は,「しょうゆ粕は,塩分が高いので人間には不向きです」と回答されていましたが,それを聞いて,私の心中は少し複雑になりました。

 以前,私が醤油を手作りした際,副産物として約1kgものしょうゆ粕が出来上がったのですが,その際,いろいろと使い道を考え,その「人間には不向き」とされるしょうゆ粕で漬物を作ったり,ご飯のお供にしたりして,きれいに食べ切ってしまったからです…。

(しょうゆ油)

 「しょうゆ油」と書いて「しょうゆあぶら」と読みます。
 漢字で書くと「醤油油」となり,紛らわしくなります(笑)。

 このしょうゆ油については,自社工場のボイラーの燃料にされているとのお話で,副産物も効率よく活用されていることを理解することができました。

(しょうゆ油)
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 しょうゆ油が燃料になると「なあにちゃん」(キッコーマンのキャラクター)が教えてくれています。


キッコーマンの社名・マーク

 キッコーマンの社名やマークは,「鶴は千年,亀は万年」と呼ばれることや,千葉県香取市の亀甲山にある香取神宮にあやかって考案されたようです。


キッコーマンしょうゆの海外展開

 館内に世界のキッコーマンしょうゆが展示されていました。

(世界に展開するキッコーマンしょうゆ)
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 写真は,上段左半分がアメリカ,右半分がヨーロッパ,下段左側が中国,中央がアジア・オセアニア,右側が台湾で販売されている醤油となっています。

 日本の醤油は,第二次世界大戦以前からアメリカに輸出されていましたが,戦後は,キッコーマンがアメリカへの輸出を再開しました。

 そして,1973年,キッコーマンがアメリカに初めて海外生産拠点を作り,以降,キッコーマンは北米,ヨーロッパ,アジアと様々な国に海外進出を図り,醤油を「グローバルスタンダードな調味料」としてその魅力を発信し続けておられます。

2016年7月17日 (日)

韓国と日本の似て非なる食文化 -国立民族学博物館の「韓日食博」に参加して-

国立民族学博物館と「韓日食博」

 大阪府吹田市にある万博記念公園。

 公園のシンボル「太陽の塔」です。

(「太陽の塔」)
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 その万博記念公園内に学術研究機関「国立民族学博物館」があります。

 この度,国立民族学博物館で開催された「韓日食博」(開催期間:2015年8月27日~11月10日)に行ってきました。

 日韓国交正常化50周年を記念し,国立民族学博物館と韓国国立民族博物館で共同開催された「韓国と日本の食文化と博物館」をテーマとした特別展です。

(国立民族学博物館と「韓日食博」)
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 国立民族学博物館には,主に民族学・文化人類学の見解から食文化を研究されている研究者が多くおられるので,食文化に興味がある私にとって,いつか行ってみたい研究機関でした。

 今回は,その国立民族学博物館で開催された「韓日食博」について御報告します。


韓国の伝統的な祭祀の膳

 韓国の伝統的な祭祀の膳が展示されていました。

(祭祀の膳)
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 儒教の教えに基づき,先祖や親に対する高い孝行心を示すため,餅菓などの食物が高く積み上げられています。

 唐辛子やにんにくは使わず,積み上げるときは奇数にするなどの決まりがあるようです。


韓国ストリートフードの変遷

 1965年から2015年までの韓国ストリートフードの変遷がパネルで展示されていました。

(韓国ストリートフードの変遷)
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※画像をクリックすると拡大します

 トッポッキ,ホットク,スンデ,エゴマの葉のおにぎりなど,韓国ならではの軽食のほかに,オデン,天ぷら(ティキム),コロッケ,回転焼きなど,日本から伝わった軽食も多くみられます。

 最近の食では,キングコングワッフル,麻薬トウモロコシ,爆弾ご飯,メルティング・モンキーなどが紹介されていますが,ネーミングが少し過激な方向に進んでいるような気もします。


学術研究機関との連携展示

 大阪工業大学から出展された「食感シミュレーター」です。

(食感シミュレーター)
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 耳の形に合わせて作られた「骨伝導ヘッドフォン」を耳に付け,食品のシルエットを選ぶと,「ガリガリ」,「バリバリ」といった音や食感が伝わってきます。

 その感覚や食品のシルエット,ヒントから,その食品が何であるか当ててみようという体験機器です。

 このほかにも,大阪工業大学からは,オノマトペ(擬音語・擬態語)ゲームや仮想もちつきゲームなど,食に関する様々なバーチャルリアリティーの世界が,京都造形芸術大学と韓国芸術総合学校の「日韓DNA養成プロジェクト」からは,日韓両国の食文化を表現したアーティスティックな作品が,それぞれ紹介・展示されていました。


韓国の日本食

 韓国に伝わった日本食が紹介されていました。

(韓国の日本食)
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※画像をクリックすると拡大します

 フェドプパプ(刺身丼),サムガクキムパプ(三角おにぎり),カレー(ルウ),ウドン専門店のメニューが展示されています。


(フェドプパプ)

 フェドプバプは,フェ(膾,なます)のドプパプ(丼ご飯)という意味で,要するに刺身丼(海鮮丼)のことですが,日本でイメージするそれとは異なる点がいくつかあります。

 日本では刺身に醤油やわさびをさっとかけて食べますが,韓国では丼飯の上に刺身とチシャやエゴマの葉,青唐辛子といった生野菜が乗せられ,味付けはコチジャン(唐辛子味噌)主体の唐辛子酢味噌なのです。

 そして,ビビンパと同様にスプーンでよく混ぜて食べられることも,日本の刺身丼(海鮮丼)と異なる特徴となっています。


(サムガクキムパプ)

 サムガクは三角,キムパプは韓国で有名な海苔巻きの意味なので,サムガクキムパプは,三角おむすびという意味となります。

 日本でお馴染みの三角おむすびですが,冷や飯を嫌がる韓国人にとってのおむすびは,日本のコンビニエンスストア・セブンイレブンが韓国で販売したことを皮切りに,キムパプと同様の手軽な軽食として,徐々に受け入れられてきた食べ物だと言えます。

 中にコチジャンプルコギ,スパム,ビビンパなど,韓国独自の具材が入れられることにより,サムガクキムパプは韓国の食として浸透してきています。


(カレー)

 韓国のカレーも,日本からの影響を多く受けています。

 バーモントカレーのルウには「正統日本式カレー」と書かれていますが,これもその証の1つと言えるでしょう。

 ただ,韓国で多くの人に好まれるカレーは,日本のカレーとは少し異なるようです。

 一番の特徴は「辛くなく黄色い」ということでしょう。

 唐辛子の辛さは好まれても,スパイスの辛さはあまり受け入れられないようなのです。

 そして,これもビビンパやフェドプパプと同様,ドライカレーのようになるまでよく混ぜてから食べられるのです。

 また,日本のカレーライスには福神漬けやらっきょうが添えられますが,韓国では,やはりキムチとなっています。


(ウドン)

 ウドン専門店のメニューを見ると,単品のウドンのほか,握り寿司,トンカス(とんかつ),ラーメン(韓国にはインスタントラーメンやちゃんぽんはあっても,日本人が想像するようなラーメンは少ない)などが用意されています。

 ウドン専門店とは言え,実際はお手軽な日本料理店としての意味が強いのだと思います。


(オデン)

 醤油ベースのだし汁で魚の練りもの(さつま揚げ)などを煮込んだ韓国の「オデン」は,実際に日本からもたらされた料理の1つであるため,日本のおでんとよく似ています。

 おやつやスナック感覚の食べ物で,ソウルや釜山などの屋台でよくみかけます。

 日本のおでんのように様々な野菜や練りものなどを入れるのではなく,平べったい形の魚の練りものが中心で,この練りものをくねくねと折って串刺しにして売られています。

 私はソウル駅近くの屋台でこのオデンを食べたことがあります。

 オデンを注文すると,オデンのほかに,プラスチックの汁椀にオデンの汁を入れて渡されたのですが,オデンと汁の食べ方がよくわからず,戸惑いました。

(韓国セブンイレブンのオデン広告)
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 韓国セブンイレブンのオデン広告です。

 こちらは中にひじきや人参の入った練りものや竹輪など,日本のおでんに近い商品がラインアップされていますが,それらが串刺しにされているところは,おやつやスナック感覚で食べる韓国人向けにアレンジされた結果だと言えるでしょう。


 どれも日本の料理とよく似ているのですが,どこか微妙に違う料理となっています。


韓国と日本の料理漫画

 会場2階に「食のライブラリー」コーナーがあり,韓国で出版されている料理漫画などが自由に読めるスペースが設置されていました。

 料理漫画好きで,食文化に興味を持つ原点となった私にはたまらないコーナーです。

(韓国の料理漫画)
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 写真は韓国で絶大な人気を得て,ドラマ・映画化もされた「食客」,そして日本でお馴染みの「クッキングパパ」と「美味しんぼ」の韓国語版です。

 私が様々な韓国の食文化を知ることができたのは日本語版「食客」によるところが大きいのですが,同様に,日本の料理漫画のハングル版が出版されることで,韓国の人達にも日本の食文化を知ってもらえる機会が大きく広がったと言えるでしょう。

 ちなみに,韓国での漫画のタイトルは,「クッキングパパ」が「お父さんは料理士」,「美味しんぼ」が「味の達人」,「孤独のグルメ」が「孤独の美食家」など,日本のオリジナルとは少し名前を変えて翻訳出版されているものも多く見られます。

(「味の達人」の様子)
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(「味の達人」第21巻 128~129ページを引用)


「朝倉研究室」での朝倉敏夫先生との出会い

 食を通して韓国社会を研究しておられ,「韓日食博」の実行委員長を務められた朝倉敏夫 国立民族学博物館教授の研究資料が展示されたコーナーです。

(「朝倉研究室」)
Photo

 幸いにも,朝倉敏夫先生に実際にお会いすることができ,日本の焼肉の特徴などの食文化論を伺うことができました。

 朝倉先生は,著書『日本の焼肉 韓国の刺身』の中で,日本の焼肉が「日本化」,「大衆化」したのは,「無煙ロースター」と「焼肉のタレ」によるところが大きいと分析しておられ,今回の「韓日食博」でもそのことについて講演されたのですが,その講演会の要旨を教えていただきました。

(無煙ロースター)
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 無煙ロースターは,焼肉は煙が立ち込め,臭いが付くというイメージを払拭し,外食での焼肉を普及させました。


(焼肉のタレ)
Photo_7

 焼肉のタレが開発・販売されることにより,日本の家庭に焼肉が普及しました。

 韓国の日本食とは逆に,日本の韓国食とも言える焼肉ですが,この日本の焼肉も,「包丁で切るかはさみで切るか」,「つけダレかもみダレか」,「肉を野菜で巻いて食べるか肉だけで食べるか」などで,韓国の焼肉とは異なり,似て非なる食文化が形成されていると言えるとのお話でした。

 会場で購入した『韓国食文化読本』にサインをお願いしたところ,私の名前の次に「恵存」(けいそん)と書いていただきました。

 無知な私は後になって,「恵存」が「末永く,手元に置いてくだされば幸いです」という意味だと知りました。

 とても素敵な言葉だと思います。

 今回の「韓日食博」のほかにも,韓流ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」,「イ・サン」,「馬医」などの日本語版監修や,国立民族学博物館と立命館大学国際食文化研究センターとの学術交流協定締結を記念した国際シンポジウム「世界の食文化研究と博物館」の開催など,多方面で御活躍の朝倉敏夫先生。

 今後ますますの御活躍をお祈り申し上げます。

<参考文献>
 朝倉敏夫・林史樹・守屋亜記子『韓国食文化読本』国立民族学博物館
 朝倉敏夫『日本の焼肉 韓国の刺身』農山漁村文化協会
 森枝卓士『世界のインスタント食品』徳間文庫

2016年7月10日 (日)

二十世紀梨の耳かき -鳥取県倉吉市-

日本一を誇る鳥取の二十世紀梨。
その二十世紀梨を女の子の頭に見立てた耳かきです。

目が種,顔が果肉,髪が斑点のある皮とツル(この部分だけは地毛!)で表現されています。
そして,後ろ髪には「二十世紀梨」と書かれています。

きっと二十世紀梨のような,瑞々しい肌の女の子なのでしょう。

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2016年7月 5日 (火)

タイ料理の特徴と主な料理3 -カオソーイ-

カオソーイについて

 カオソーイは,タイ北部チェンマイの代表的な麺料理です。

 わかりやすく表現すれば,ココナッツカレーラーメンです。

 「カオ」は米,「ソーイ」は細かく切る,伸ばすという意味があるので,カオソーイは米で作られた麺料理を表現していることになります。

 ただ,今回御紹介する麺もそうですが,現在のカオソーイには卵麺を使われることが多いようです。

 カオソーイは,もとは中国・雲南省の回族(イスラム教徒)がタイに移住した際に伝えられた麺料理ですが,タイで受け入れられる過程で,米麺から卵麺に変化していったものと考えられています。

 また,スープはココナッツカレースープが使われますが,このココナッツミルクやカレーについても,中国の南方に位置するタイの食文化,よりグローバルな視点でみれば東南アジアやインドの食文化が融合して生まれた料理だと言えるでしょう。

(カオソーイ)
Photo


2種類の麺を同時に楽しむ

 ココナッツカレースープに,揚げ麺と「バミー」と呼ばれる卵麺の2種類の麺が入っています。

 パクチー(香菜,コリアンダー),ホムデン(赤わけぎ),揚げ玉ねぎなどと一緒に,揚げ麺がのせられているのがわかります。

 一方,茹でた卵麺はラーメンのようにスープの中にあります。

 その卵麺を上に出してみました。

(卵麺が入れられている様子)
Photo_2

 写真左上が卵麺,中央が揚げ麺です。

 次に,それぞれの麺を取り皿に盛ってみました。

(卵麺と揚げ麺)
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 このように,カオソーイは食感の異なる2種類の麺を同時に楽しめることが特徴となっています。


ココナッツカレースープとタイで定番の調味料

 一方,ココナッツカレースープは,赤唐辛子のレッドカレー,ココナッツミルク,鶏がらスープ,ナムプラー,レモングラスなどで作られたスープとなっています。

 辛くてスパイシーなレッドカレーとココナッツミルクが合わさることによって,マイルドなカレースープに仕上げられています。

 ナムプラー,レモングラス,パクチーというタイ料理に欠かせない調味料やハーブの香りがします。

 マナオ(ライム)が添えられており,絞ってスープに加えることにより,酸味が増して,よりさっぱりとした味わいになります。

 このスープの味で十分なのですが,このスープにタイで定番の4種類の調味料,ナムプラー,酢,粗挽き唐辛子,砂糖(グラニュー糖)を加えて,自分好みの味にすることもできます。

(タイの4種類の調味料)
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 一番奥が砂糖,そこから時計回りに,酢,ナムプラー,粗挽き唐辛子が揃えられています。

 右側の受け皿の上にあるのが,マナオ(ライム)です。

 調味料に砂糖まで必要かと思われるかも知れませんが,半信半疑で砂糖を加えてみると,この砂糖こそが,スープをマイルドにし,コクを出し,料理全体のまとめ役として大きな役割を果たすことがわかります。


「複雑」こそタイ料理の特徴

 いろんな味の調味料が揃えられていますが,これらの調味料を自分でアレンジし,5つの味覚(辛味,酸味,甘味,塩味,旨味)が複雑に絡み合った味こそ,まさにタイ料理の特徴と言えるのです。(「タイ料理の特徴と主な料理1」参照。)

 今回のカオソーイは,5つの味覚が絡み合ったスープに,さらにライムや4種の調味料を足して好みのスープに仕上げ,2種類の麺を一度に食べる料理です。

 統一せず,ごちゃごちゃした味になってしまうようにも思いますが,タイ料理の場合は,それはそれで,うまくまとまる味になるので不思議です。

 それは,「それぞれの食材や調味料の個性が強いため,日本料理のように微妙な匙加減一つで料理全体の味が大きく変化するようなことがない」という理由もあるのではないかと思います。

 中国の麺,インドのカレー,東南アジアのココナッツミルクやハーブなどが融合し,一度に様々な味覚や食感を楽しむことができる欲張りな麺料理,それがカオソーイです。

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