昆虫食の研究3 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボの甘露煮とヘボ・蚕のロースト-
これまで「くしはらヘボまつり」の「ヘボの巣コンテスト」(「昆虫食の研究1 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボの巣コンテスト-」参照)と「ヘボ五平餅とヘボ飯」(「昆虫食の研究2 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボ五平餅とヘボ飯-」参照)について御紹介しましたが,今回は「くしはらヘボまつり」の会場で販売されていたヘボの甘露煮やスナック菓子などを御紹介したいと思います。
※昆虫が苦手な方にも御覧いただけるよう,写真の一部を縮小して表示しています。御理解・御了承ください。
ヘボの甘露煮
農事組合法人「くしはら田舎じまんの会」の販売ブースで販売されていた「ヘボの甘露煮」です。
(ヘボの甘露煮(パッケージ))
70g入り(2,000円)と140g入り(4,000円)の2種類が用意されていました。
昼前に販売コーナーに行ったのですが,すでに70g入りと140g入りがそれぞれ1個ずつ残るのみとなっていました。
私はこの残りの2個を購入し,そのうち70g入りは,当日お世話になったスズメバチ研究者の山内博美さんにお礼として差し上げました。
(ヘボの甘露煮)※クリックすると拡大します。
さすが140g入りだけあって,ヘボ(クロスズメバチ,シダクロスズメバチ)がずっしりと詰め込まれています。
原材料は,「ヘボ(恵那市串原産),醤油,砂糖,酒,みりん」と表記されています。
ヘボの幼虫,さなぎ,成虫すべてが入っている,贅沢な甘露煮です。
ヘボの巣からこうした様々な成長過程にあるヘボが取り出されたのでしょう。
(ヘボの甘露煮(拡大))※クリックすると拡大します。
味についてですが,幼虫やさなぎは,弾力があり,小粒ながら濃厚なうまみがありました。よく煮詰められているからか,見た目もそんなに気になりませんでした。
一方,成虫は煮詰めることで殻までやわらかくなっていました。殻に覆われた体全体のパリッとした食感を楽しめると言えます。
いずれも,甘露煮にすることでやわらかくなっており,クセもないので,食べやすかったです。
味が濃いので,ご飯のおかずとしてもおいしくいただけると思います。しじみやいかなごの佃煮を食べる感覚とよく似ています。
ただ1つ,成虫を食べていて,気になることがありました。
ヘボに刺されたからかも知れませんが,成虫を食べている最中,「舌など口の中を毒針に刺されるのではないか」と思ったのです。
スズメバチの毒針はメスの産卵管が発達してできたものであり,まだ巣にから出ていない未熟な成虫に十分な毒針は備わっていないでしょうし,毒針がある成虫の場合でも,加熱することによってその機能は失われるでしょうから,何も問題はないと頭では理解しているつもりなのですが・・・。
ヘボ・蚕のロースト
会場内で,ヘボや蚕をローストしたスナック菓子が販売されていました。
(ヘボ・蚕のロースト販売の様子)
写真提供:山内博美 氏
ヘボは,甘露煮と同様,幼虫から成虫まで様々な成長過程のヘボをローストしたものが販売されていました。
これには,かぼちゃの種のローストも一緒に詰められていました。
一方,蚕の方は,さなぎをローストしたものが袋詰めされていました。
(ヘボ・蚕のロースト(包装))※クリックすると拡大します。
「甘いのと塩味とどちらにされますか」と尋ねられ,どっちもよくわからないなと思いつつ,おつまみ風に塩味のローストを購入しました。
(ヘボのロースト)※クリックすると拡大します。
ヘボのローストですが,幼虫は見た目や食感は松の実に似ているように思いました。よく乾燥しており,幼虫の濃厚なうまみが凝縮されていました。
成虫は全体的に殻がパリパリしており,干し海老のような味・食感でした。
いずれもクセがないので,ヘボの甘露煮と同様,食べやすかったです。
(蚕のロースト)
蚕のさなぎのローストです。
試食をすすめられた際,御一緒いただいた山内さんは少し苦手な様子でしたが,先入観のない私は,試食の段階ではすんなり食べられたので,購入して帰りました。
しかしながら,自宅に帰り,封を開けて改めて観察すると,蚕のさなぎが,芋虫のローストのような,グロテスクな食べ物に見えてきました。
食事の際,一緒に出されると少し抵抗を覚えます。
実際に食べてみると,しっかりローストされているので,サクサクと食べられるのですが,クワの葉などの植物を食べて育っているからか,若干青臭さや泥臭さも感じられました。
青臭いにおいも感じました。
そして何より,見た目のハードルが高いように感じました。
松浦軒本舗の「カステーラ」
せっかくの機会ですので,明智鉄道沿線の名菓も御紹介したいと思います。
恵那土産として有名な松浦軒本舗の「カステーラ」です。
(カステーラ(包装))
帰り際に,山内さんからお土産としていただいたものです。
銅板造りの小釜を使い,風味をそのままに,1本1本念入りに焼き上げるという江戸時代の長崎でのカステラの技法を今に伝えるカステラです。
(カステーラ)
カステーラの表面には「松浦軒」という文字の焼印がされています。
市販のカステラに比べ,一回り小さいのですが,その分,生地にしっかりとした弾力があります。
そして,卵のコクと砂糖や和三盆糖の甘味など,カステラ本来の風味が楽しめる仕上がりとなっています。
古き良き農村景観や町並みが残る恵那らしいお土産だと思います。
まとめ
岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」に参加したことで,ヘボとふれあい,ヘボとともに暮らしてきた人々の文化を知り,ヘボ料理などの昆虫食を味わい,スズメバチ研究者の山内博美さんとも出会うことができました。
そして何より,私自身がヘボに刺されたことが,一番の体験であり,そのことから学んだことは多かったように思います。
まさに体を張っての食文化事例研究の旅となりました。
<参考文献>
山内博美『都市のスズメバチ』中日出版社
松浦 誠『スズメバチを食べる-昆虫食文化を訪ねて』北海道大学図書刊行会
<関連リンク>
「ヘボの巣コンテスト2016」(「都市のスズメバチ」山内博美氏のホームページ)
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コウジ菌さん こんにちは
ヘボ・スズメバチシリーズ楽しく読ませて頂いてます。
甘露煮やスナックなど、それぞれの特徴を詳しく書かれていて、特にローストの食感がエビに似ているということで、少し食べてみたくなりました。
イナゴは食べたことがあるので、成虫のローストが一番ハードルが低そうです。
蚕は、昔、鮒や鯉釣りをしたときの餌にした「サナギ粉」の臭いの先入観があって、少しハードルが高そうですね。
やはり一番食べてみたいのは、松浦軒のカステーラです。
投稿: Khaaw | 2016年11月20日 (日) 07時22分
こんにちは。
甘露煮、旨味がちゃんと味わえるというのは料理上手ですね。味が濃すぎてってのが
結構あるんで。私は幼虫成虫問いませんが、どっちと言われたら幼虫かな。あのプチッ、トロッと
した感じが美味しい。
ローストは食べた事ありませんが、いいですね。サクサクスナックー(^^;
ポテトチップばりにパソコンしながら(テレビ視ながら)ばりばり食べてたらおかしい。
さて、こちらでも調べてみるかもですが、江戸時代の長崎の技法を使ったカステラのお店の
名前が「松浦軒」って偶然ですかね?松浦半島に関係があったりしないかな?
プチですけど歴史ロマンを感じました。
投稿: じもん | 2016年11月20日 (日) 10時14分
じもんです。
「松浦軒」を名乗ったのは明治になってからみたい。残念。明智光秀=天海上人なんて
オカルト説の補強になるかもと思ったのに(^^;
んでも、なんで長崎の技術がそんなところに?って疑問は残りますねー。
いやいや、面白いです。ヘボからシュールストレミングやら明智光秀やら色々と広がって、
それがまた興味深い。ネタ提供ありがとうございます。
投稿: じもん | 2016年11月20日 (日) 10時44分
Khaaw 様
ありがとうございます。
楽しく読んでいただいている方は数少ないと思いますので(笑),とても嬉しいです。
昆虫は,牛や豚などに比べ,固い骨がない分,ほぼ丸ごと食べられるのがメリットですが,その代わりに殻に覆われているため,成虫は海老のような食感になってしまうものが多いではないかと思います。
ヘボのローストですが,確かに臭いやクセがなく,食べやすいのですが,成虫・さなぎ・幼虫と,そのまんまの姿なので,見た目が多少ハードルを高くしています。
そういう意味では,ヘボの甘露煮が見た目の刺激が少なく,佃煮なのでやわらかくて食べやすいように思います。
元来昆虫食が苦手な私でも抵抗が少なく,これならおいしいと思いました。
そして,やはり蚕はいくらローストされているとはいえ,取り出した時や食べた時のの臭いが強く,さなぎは見た目もグロテスクなので,今回御紹介した中では一番ハードルが高かったです。
おっしゃるとおり,釣りの寄せ餌の臭いがしました。
カイコを買ってコーカイはしてませんが,苦手になってしまいました。
昆虫食は海老のような食感・風味になるというお話をしましたが,だからこそ,海老料理も多いタイで,イエコオロギなども割合抵抗なく受け入れられているのかなと思います。
トムヤムコオロギ,案外いけるかも知れませんね(笑)。
投稿: コウジ菌 | 2016年11月20日 (日) 16時59分
じもん 様
こんにちは。
甘露煮は確かに味が濃いと思いますが,ある程度濃くないと食べるのに抵抗があるので,私にはちょうど良かったです。
わたしも,じもんさんと同様,幼虫も成虫もいけますが,あえて言えば幼虫が美味しいと思いました。
お茶の間でテレビを観ながら昆虫スナックを食べる。
これで昆虫が「やめられない止まらない」となれば,すごいことですよ。
松浦軒と松浦半島の関係,私はよく知りませんが,鋭いお話かもしれません。
と言うのも,同じ恵那市岩村町内に「松浦軒本舗」と「松浦軒本店」というよく似た名前のカステラのお店があるからです。
店名を「松浦」にこだわる理由が何かありそうな気がします。
江戸時代の長崎のお菓子やパンの技法は,おそらく日本全国から貿易港の長崎に勉強に来る人がいて,その人たちが日本各地に広めたのだと思います。
特にパンは,幕末になって開国,尊王攘夷,倒幕思想の高まりとともに,幕府も各藩も軍備を増強する必要が出て,兵糧食としてパンが優れていることを知り,必死になって長崎からパン技術を取り入れたようですので。
長崎は西洋菓子やパンの先進地だったことが,長崎の技術が恵那に伝わった理由の1つでしょうね。
投稿: コウジ菌 | 2016年11月20日 (日) 17時29分
こんにちは。
「松浦軒本舗」の紹介によると、
松浦軒本舗のカステーラは、江戸時代に岩村藩の藩医であった神谷雲沢先生が長崎にて蘭学を学ばれし時、和蘭の技法を持ち帰り伝えたものといわれております。
との事。何故”松浦”かは良く調べないと分からないかも?
いずれにせよ、興味深い事実であります。
投稿: じもん | 2016年11月21日 (月) 03時44分
じもん 様
こんにちは。
「松浦」は謎ですね。
もう一度恵那へ行って,直接お店の方に尋ねてみたいです(笑)。
投稿: コウジ菌 | 2016年11月22日 (火) 23時45分