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2017年1月22日 (日)

黄檗山萬福寺の全国煎茶道大会 -隠元と煎茶道-

 京都府宇治市の黄檗山萬福寺で開催された煎茶道のお茶会に参加しました。


黄檗山萬福寺の概要

 萬福寺は,JR奈良線または京阪宇治線の「黄檗駅」から歩いて約10分の所にあります。

(萬福寺総門)
Photo

 萬福寺の総門(入口)です。

 中国風の門に「葵の御紋」が飾られていますが,これは中国(明)から来日した隠元(黄檗宗の宗祖)が,江戸幕府からこの宇治の地に土地を与えられ,萬福寺が創建されたことに由来します。


(三門)
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 総門をしばらく歩くと三門があります。

 「萬福寺」と書かれています。

 門の左右には漢字が書かれていますが,これもどこか中国風です。

 この三門に全国煎茶道大会の総受付もありました。


(法堂の卍くずし)
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 欄干が卍(まんじ)の形をしています。

 「匂欄(こうらん)」と呼ばれる中国風の欄干で,日本のお寺では珍しい意匠となっています。


(木魚)
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 「開梛(かいぱん)」と呼ばれる木魚です。

 この木魚をたたくことで,時を知らせます。

 口からあぶく(煩悩)が出ています。

 同じ所ばかり叩かれるので,叩かれた所がへこんでいます。


(釈迦如来坐像と売茶翁)
Photo_5

 本堂の中におられる本尊(釈迦,ブッダ)です。

 両脇には,「迦葉尊者(かしょうそんじゃ)」(摩訶迦葉,マハーカッサパ)と「阿難尊者(あなんそんじゃ)」(阿難陀,アーナンダ)がおられます。

 また,大会期間中だけ特別に,宇治煎茶を全国に広めた「売茶翁(ばいさおう)」の掛け軸がかけられています。

 この売茶翁が煎茶を売り歩き,煎茶を世に広めました。

 日本画家の伊藤若冲も売茶翁の生き方に憧れた人物の1人です。


(隠元禅師)
Photo_6

 萬福寺を開山された隠元禅師です。

 隠元は日本にインゲンマメ,スイカ,レンコン,孟宗竹などの食材をもたらしました。

 寒天も隠元が名付け親となっています。

 ちなみに,隠元禅師が左手に持っているものですが,私が近くにおられた僧侶の方に「これはインゲンマメですか」と尋ねたところ,「そう言われたのは初めてです」と笑われました。

 これは虫などを払うための道具のようです。


献茶式

 本堂前にて,お茶を捧げる献茶式が行われました。

(献茶を点てる様子)
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 息がかからないよう,マスクをされています。

 その様子を,私も息を呑む思いで見守りました。


(献茶の様子)
Photo_8

 できたお茶を本堂に運ぶ様子です。


(読経の様子)
Photo_9

 本尊前にお茶が供えられ,読経が行われました。

 献茶式をひととおり拝見し,一杯のお茶に込められた思いが相当なものであることを実感しました。


お茶会の様子

 私は今回,煎茶道の流派の1つ「三癸亭賣茶流(さんきていばいさりゅう)」の先生と一緒に訪問したことから,数あるお茶席の中から,この三癸亭賣茶流のお茶席に参加させていただきました。

 本堂前での「野点(のだて,屋外のお茶会)」でした。

(野点の様子)
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 作法もろくに知らない私を,いきなり家元の隣の席に案内していただいたので,野点とは言え,少し緊張しながらお茶を楽しみました。


(煎茶道の作法)
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 煎茶道の興味深いところは,中国の飲茶のように,一口サイズの茶碗を円状に並べ,その上から急須のお茶を回し入れることです。

 また,茶碗が一口で飲める大きさなので,一杯ではなく,何杯かお茶をいただくのですが,1杯目と2杯目,2杯目と3杯目ではお茶の濃度が変わってきます。

 最初はうま味が強く,後になるほどすっきりとした味になるのですが,こうした変化が楽しめるのも,煎茶道の特徴の1つだと思います。

 また,ふくさや敷物にはインド更紗(さらさ)が用いられていることも注目に値します。

 インド更紗は隠元禅師が中国(明)から来日した頃,日明(勘合)貿易により日本にもたらされた紋様染めで,この頃から茶道具の一種としても用いられてきたようです。


(お茶とお菓子)
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 茶銘は「滴清」,菓銘は「揺翆」です。

 お茶の本場,宇治で新茶を味わうことができたのは,幸せなことだと思いました。

 お菓子は,今回のお茶会のために作られたもので,5月下旬の緑茶をはじめとする新緑の時期に合わせ,緑があざやかな仕上がりとなっていました。

 柑橘が使われており,さわやかな味わいのお菓子でした。


(飾り)
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 蓮や菊などが中国風の入れ物の中に飾られています。

 手前に蟹が2匹いますが,これも季節を表現する置物のようです。

 後日,地元広島で開催されたお茶会でも同じものを見かけたので,煎茶道ではよく用いられる置物なのだと思います。


 お茶会を終え,中国臨済宗黄檗法派歴代祖師の特別展を見学したり,境内のお土産店でゴマ豆腐などのお土産を買って帰りました。

 全国煎茶道大会に参加した記念品として,隠元禅師にはじまる黄檗山萬福寺の歴代住持が記載されたミニ扇子をいただきました。

(記念品の扇子)
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 中央には「煎茶道」と記載されています。

 この日は日差しが強く,暑かったため,帰りに早速広げて使われている方を多く見かけました。


まとめ

 煎茶道に出会ってわずか数か月後に地元の先生と一緒に煎茶道の全国大会に参加させていただくこととなり,不思議な御縁を感じました。

 今回の訪問で,煎茶道や黄檗宗のことを学ぶことができ,よき思い出となりました。

 わずか1回,それも数時間お茶会に参加しただけの私を,京都・宇治の全国大会にまで快くお誘いくださった先生をはじめ,お世話になった地元広島の三癸亭賣茶流の皆様に,この場をお借りして,深くお礼申し上げます。


<関連記事>
 「黄檗山萬福寺の普茶料理(前編) -中国から伝えられた精進料理「普茶料理」の概要-
 「黄檗山萬福寺の普茶料理(後編) -普茶料理の紹介(笋羹・麻腐・浸菜・油じ・雲片・飯子・寿免・醃菜・水果)-

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宗教・食文化史」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。
このような、行事というかお茶会事態しらなかったので
壮大な感じですね^^
お茶うけもあるんですね。さぞかし美味しい事でしょうねo(*^▽^*)o
木魚は何回もテレビで見たことがあります。
煩悩だらけなので・・・たたいたら消えるかしら~(笑)

ヒナタ 様

早速コメントいただき,ありがとうございます。

掲載の時期が遅くなりましたが,本日,広島で初炉(煎茶道での1年で最初のお茶会)がありましたので,御紹介させていただきました。

お茶うけは,お茶の世界では必須ですが,その理由として,苦いお茶に甘いお菓子が合うからだと思います。

お茶よりも,ついお菓子の方に目移りしてしまうのは,私の修行が足りないからでしょうか(笑)。

萬福寺の木魚は有名のようですね。
あぶくの形をした煩悩が,木魚の口にありますが,これは消し難いものだから口にくわえられたままの状態が描かれているのではないかと思います。

ヒナタさんはみんなに優しい心をお持ちだから,御心配はいらないですよ。

煩悩まみれの私が木魚を叩いたら,逆に私が叩かれて,お寺を追い出されそうです(笑)。

コウジ菌さん何者なんですか?!

煎茶の野点?!というか全国大会?!初めて知りました!w(゚o゚)w

私の野点歴っていったら、菓子屋の時に勉強と称して京都の和菓子屋巡りつつ

円山公園で水筒のお湯と携帯用の抹茶椀で野点?して

和菓子ランチしたことあるぐらいかな~

(;´▽`A`` レベル違いすぎ

でも煎茶はお湯の温度が難しいのでコンロ持参しなきゃいけませんが

お茶(抹茶)の師範代の私の姉とは違い、作法のサの字も知らないけど

旅先で購入した生菓子食べつつ野点も面白いかも~( ´艸`)プププ

以前使っていたのは割れちゃったので

地元の常滑焼か瀬戸焼の窯元で手作りのお椀作ってみようかな~♪

tomo 様

京都の和菓子屋巡りや円山公園での野点を通じて勉強されたtomoさんの方が,よっぽどレベル高いですよ。

全国大会なので,全国からいろんな流派の方が集まっておられ,実に多くのお茶席,野点会場が設けられていました。

おっしゃるとおり,煎茶はお湯の温度と茶葉の量によって,味が変わってきます。
煎茶道は同じ茶葉で2煎~3煎作られるので,お湯の温度や茶葉の濃度も変わってきて,淹れられたお茶に変化が生じるのですが,その味の違いを知ることも楽しいです。

tomoさんが尊敬されるお姉さまは茶道の先生ですか。私もお姉さまを尊敬します。

お茶を味わうことが一番の目的であることは理解しているのですが,私は生菓子をいただきながらお茶を飲む時が一番嬉しいと思ってしまいます(笑)。

お茶は作法も大事ですが,ざっくばらんに会話を楽しみながら,美味しいお茶やお菓子を食べることが一番だと思います。

その考えは,イギリスのアフタヌーンティー(ハイティー),フランスのカフェ・サロン・ド・テ,インドなどのチャイ,中国の飲茶などにも共通するようにも思います。

そう言えば,愛知は焼き物の本場。
地元の窯で焼いた手作りのお椀でお茶が飲めると最高ですね!

ん〜素敵な空間♪ 面白い出会いでしたね。

お茶のお話だけでなく、場所だけでなく、
使われてる小物にまで意識が向かうところが、コウジ菌さんらしい。
お土産に、胡麻豆腐^^ いいなこれも美味しそうだな。

そういえば売茶翁、仙台に、同じ名前で、美味しい和菓子処のお店がありました。
やってるかどうか行かないとわからない、不思議なお店でした。

ここは 様

 出会いやチャンスを生かすことは結構大切ですね。

 今回の記事は,煎茶道の世界を読者の皆さんにどう御紹介するかに苦労しました。

 煎茶道について何も知らないままで,いきなり全国大会に行くのもどうかと思いましたので,岡倉天心の「茶の本(The Book of Tea)」などの本を読んでおきました。
 その本の中に,中国から日本にお茶が伝えられたのは,大きくは3つの時期があって,唐の団茶,宋の抹茶,そして明から伝わった煎茶とありました。
 そして,茶道は「道」,つまり禅宗だけでなく,中国の道教の流れも汲んでいると説明されていたのです。
 ならば道教にルーツを持つものが何かないだろうか,という視点で,使われている小物までいろいろ観察してみた,という訳です。

 萬福寺の中には,お土産店もあり,萬福寺オリジナルの胡麻豆腐やお菓子,グッズなどがたくさん売られていました。

 仙台の和菓子店「売茶翁」,ネットで検索したら,電話番号は非公開となっており,おっしゃるとおり,行ってみないとわからない不思議なお店のようですね。
 京都を中心に,煎茶を売って歩き,口コミで煎茶を広めた売茶翁と商売のやり方が似ているような気がします(笑)。

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