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2017年1月 2日 (月)

山形の食文化の特徴1 -米沢の鯉料理と食用菊-

 2016年12月末,休暇を利用して南東北3県(山形・宮城・福島)を訪問しました。

 1泊2日で行き先を欲張った分,分刻みのタイムスケジュールに追われながらの旅となりましたが,山形では郷土食をいただける余裕が少しだけありました。

 今回は,山形で味わった郷土食を御紹介したいと思います。


上杉鷹山と鯉


 広島から山陽・東海道・山形新幹線に乗って,山形県米沢市を訪問しました。

(米沢駅に停車する山形行719系電車)
719

 米沢駅では,山形新幹線「つばさ」と奥羽本線(山形線)の普通列車が同じ線路を交互に走っています。(レール幅が新幹線の幅「標準軌」になっていることに驚きました。)

 米沢は,童門冬二氏の「小説 上杉鷹山」を読んで以来,一度訪れてみたい地でした。

 上杉鷹山は米沢藩の財政再建や藩政改革など様々な偉業を成し遂げた人物として有名ですが,米沢の食についても先見の明がある人物でした。

 かつて海から遠い内陸の米沢では,魚の入手が困難で,動物性たんぱく源が不足していたため,人々は水腫病や乳不足などに悩まされていたようです。

 そこで上杉鷹山が着目したのが鯉です。

 養鯉業が盛んな福島の相馬から稚魚を取り寄せ,米沢城の濠で育てたのがはじまりとされています。
 同時に,家臣たちにも屋敷内に池を掘らせて養鯉をすすめたようです。

 こうした経緯から生まれ,育まれて現在に至る米沢の鯉を食べるという食文化。
 その鯉料理をいただくこととしました。


米沢の鯉料理


 鯉料理店で鯉料理を注文する際,お店の方におすすめを伺ってみたところ,鯉の甘煮がおすすめとのお話だったので,それを注文しました。

 するとお店の方から,「鯉の甘煮には鯉の卵か白子が付きますが,どちらがよいですか」と尋ねられました。

 これは悩ましい選択です。せっかくならどちらも食べてみたいからです。
 こうなると,もはやお金の問題ではありません。
 私は「追加料金出しますので,どちらもいただくことはできませんか」とお願いしてみたところ,快く「わかりました。やってみましょう。」とおっしゃっていただき,厨房に戻られました。

 料理が届けられるまでの間,「無理を言ってしまい,申し訳ない事をしたな」と思いつつ,店の外に設置されている養鯉場へ行き,鯉を眺めながら料理が出てくるのを待ちました。

(養鯉場と鯉供養搭)
Photo

 養鯉場の様子です。写真中央が鯉の供養塔です。

 泳ぐ鯉を愛らしく眺めながら,これから出される鯉料理に期待する矛盾を感じつつ…。
 本当は供養搭に手を合わせるべきでしょうね。

 しばらくゆっくりした時間が流れた後,お待ちかねの鯉料理が供されました。


鯉の甘煮,卵,白子

(鯉の甘煮のセット(オリジナル))
Photo_2

 鯉の甘煮に菊の味噌汁,菊のおひたし,漬け物がセットになっています。

 そして,鯉の卵が甘煮の中心に,白子は別皿に盛って用意していただきました。

 先程までの供養の気持ちなどどこへやら…。
 嬉しくて夢中になっていただきました。

(鯉の甘煮と卵)
Photo_3

 鯉を輪切りにし,甘辛い醤油の煮汁で煮詰めた料理です。

 中心には一緒に煮込まれた鯉の卵が盛られています。

 濃い味付けになっているのは,食欲増進や保存性向上の意味もあるのでしょう。

 鯉の生臭さを消す意味もあるのだろうと思いましたが,生臭さは全くと言っていいほど感じられませんでした。

 お店の説明書きにも,「米沢の鯉は,清流と冬の厳しい寒さが鯉の身を締め,川魚特有の泥臭さがまったくありません」とありました。

 となると,米沢の人々が昔から濃い味付けを好んできたという理由も大きいでしょう。

 そもそも,名前からして,鯉は薄い味より「濃い」味の方が合うようにも思います(笑)。


 鯉の身は,コロッと骨から外れ,噛みしめるほどに味わいが増す白身魚でした。

 卵は魚卵の中では粒が大きい方だと感じました。
 味がよく浸み込んでおり,卵のねっとり濃厚な味を楽しむことができました。

(鯉の白子)
Photo_4

 鯉の白子です。

 よく煮込まれており,蒲鉾やいかのような,ほどよい弾力が感じられました。
 こちらも,味がよく浸み込んでおり,ねっとり濃厚な白子の味を楽しむことができました。

(鯉の白子と卵)
Photo_5

 卵と白子の味は,どちらも美味で,甲乙付け難いというのが私の率直な感想です。


鯉の皮の唐揚げ

 私が鯉に恋している気持ちがお店の方に通じたのか,お店の方から「今日は今年最後の営業なので,こちらも召し上がってみてください」と特別に鯉の皮の唐揚げを出していただきました。

(鯉の皮の唐揚げ)
Photo_6

 鯉の鱗を取り除き,唐揚げにした料理です。

 平たい皮が,油で揚げることにより,くるっと丸まっています。

 鯉の皮は比較的厚みがありますが,唐揚げにすることにより,パリパリとスナック感覚でいただくことができます。

 珍味として,美味しくいただきました。

 鯉の皮までも余すところなく料理していただく。
 この料理もまた,鯉が与えてくれた命を決して無駄にすることなくいただくための米沢の食文化の1つです。


生産量日本一を誇る山形の食用菊

 味噌汁やおひたしに食用菊が使われていますが,山形県は食用菊の生産量が日本一となっています。

 年末ということもあり,お店の方から,「来年良いしらせを聞く(菊)ようにという願いも込められているのですよ」と教えていただいた時には,思わず感動が胸にこみ上げてきました。


心を込めて「おしょうしな!」

 お店の方の御厚意により,鯉料理と菊料理を堪能することが出来ました。

 広島から訪れた私を温かく迎えてくださり,無理まで聞いてくださったお店の方にせめてお礼の気持ちだけでもと,名刺の裏に今日のお礼を書き,最後に「鯉を愛されるように,広島の鯉(広島カープ)も応援してください」と書き添え,それをお渡ししました。

 その後,レンタサイクルで「上杉城史苑」へ行き,集めているご当地耳かきを購入したのですが,その際,レジの女性店員から明るく元気な声で「おしょうしな!」と言っていただきました。

 意味がわからず,どういう意味か伺ったところ,「『ありがとう』という意味です」と教わりました。

(米沢駅銘品館「おしょうしな」)
Photo_7

 米沢駅で山形行きの電車を待つ間,米沢駅銘品館でも「おしょうしな」の説明書きがありました。

 米沢にはわずかな滞在時間でしたが,美味しい料理に出会い,温かい人情に触れることができました。


 私からも米沢の皆さんに心を込めて「おしょうしな!」


<関連サイト>
 「鯉の六十里

 「食用ぎく」(「おいしい山形」 おいしい山形推進機構事務局)

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コメント

こんにちはぁ!
懐かしい(笑)米沢^^
鯉の甘煮も懐かしく感じます。父が好きだったから~(生きてますが・・)(笑)
食用菊の酢の物が美味しいよ~山形に居た人がよく作ってくれた。
おしょうしな・・・は同じ東北でも分からない。
鯉だけにカープ繋がりで良かったですねヽ(´▽`)/

明けましておめでとうございます!

成程、何故に山形で鯉なんだろうと思っていたらば、そんな経緯があったとは?!
そう言えば
職場の先輩に山形出身の方がいて、ハレの日は「鯉」よね~と仰っていたのを思い出しました

愛知県の私の住む地方ではなじみのない魚でイメージが泥臭い魚だったんですが
実に美味しそう
そして、1つの命を無駄なく頂くという心意気も
お客さんの要望に快く答えてくれる店の方の人情も素敵だなと思いました(*´ェ`*)

にしても刺身の添え程度に思っていた食用菊、にそんないわれがあったとは?!
私もまだまだ勉強不足ですわ(;´▽`A``

「おしょうしな」こんど先輩に使ってみよう(*^m^)

ヒナタ 様

道路地図を見ると,会津と米沢って道路で結ばれているんですね。
鯉の甘煮を召し上がったことがあるようですが,やはり地理的に近いこともあるのでしょうね。
鯉は泥臭いイメージがあったのですが,全くそんなことはなく,美味しくいただきました。

食用菊ですが,味噌汁にたくさん入れられ,小鉢にも山盛り入れてくださったのですが,菊の香りが気になるでもなく,シャキシャキして美味しかったです。
食用菊はやっぱり山形なんですね。

「おしょうしな」は米沢地方だけの方言ですか。
女性店員から言われて,とっても印象が良かったんです。きれいな言葉だなと。
本当は私も広島弁でお礼の言葉を言いたかったのですが,汚くきつく聞こえるだろうと控えました。

鯉とカープの話にも触れていただき,おしょうしな!
文章にダジャレをいくつか散りばめてみましたが,気付いてもらえるかと思っておりましたので,嬉しかったです。

tomo 様

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。

山形の方がハレの日は鯉というお話,わかるような気がします。
私が行った鯉料理の店に,新年用の鯉料理を買い求める人がたくさん来られていたからです。
それに,もともとは中国の故事なのでしょうが,鯉が滝を登って龍になる話から言っても,やはり縁起のいい食べ物なんでしょうね。

tomoさんや私のように海に近い沿岸部へ住んでると,川魚にあまり縁がなく,鯉は泥臭い魚というイメージがつきまとうのですが,米沢の鯉はそんなことはありませんでした。

今回,私の要望に快く応えてくださり,人情の温かさに触れることができたというお話を強調して書きたいという気持ちが強かったので,tomoさんに共感していただいたことがとても嬉しいです。

食用菊,菊独特の香りが少ないので,野菜と同じようにたくさん食べることができました。

「おしょうしな」,先輩に通じるといいですね。鯉や菊の話で盛り上がるのもいいかも知れません(笑)

こんにちは。
あれ?奥羽本線のあの辺りは3線軌ではなかったでしたっけ?
鯉、地元茨城は養殖鯉生産量日本一なのですが、鯉料理には縁がありません。
鯉は味付け濃いですね。以前何時食べたか覚えてないぐらいなので、
中途半端なコメントは差し控えさせていただきます。
皮の唐揚げ、卵、白子は食べてみたいなあ。
鯉をはじめ、川魚料理は海から遠い地方で発達している気がします。
よい経験をされましたね。
食用菊は、お浸しか酢の物かな。彩として添えられることが多いと思います。
しかし、米沢で鯉。素晴らしい選択(^^)私なら、米沢牛を探し求める事でしょう(笑)
大分前に行った焼肉屋はマーベラスでした。
それでは。

こんにちは。
3線軌ではないんですね。私の勘違い。って、完全に本題からずれてますが(苦笑)

大学の友達が、米沢の興譲館出身で、よく鷹山のお話を聞きました^^
鯉も、垣根で植えられてたウコギの新芽を味噌で刻んだもの、ご飯にかけていただいたりとか。
懐かしい思い出です。

鯉に恋してるのが伝わったんですね、おまけで皮の唐揚げいただけるとはさすがです♪

山形では特に紫色の「もってのほか」が有名ですね。
青森でも菊をいただく文化があって、ですが黄色の方がほとんどです^^
彩として黄色の方が重宝されたのかも。

そうなの~会津と米沢繋がってる~
実家は福島市だしこれまた、繋がってるし~
近いと、食文化も近い物がありますね('ω')ノ

じもん 様

 山形線,私も3線軌だと思ってましたが,行ってレールを確認すると標準軌に統一されていました。

 茨城が日本一の農林水産物,多いですね。養殖鯉もなんですか。
 鯉の甘煮は,しっかり醤油で甘辛く煮つけてあり,脂も程よく乗っていたので,うなぎの蒲焼きのような美味しさがありました。

 皮の唐揚げ、卵、白子。じもんさんはやっぱりその路線に興味をお持ちですね。
 私もその路線です。

 おっしゃるとおり,私は川魚料理にはあまり馴染みがないので,貴重な経験となりました。

 食用菊,小鉢に盛られていたので,たくさんいただきましたが,クセがなく,美味しかったです。

 米沢で鯉。素晴らしい選択でしょう?
 「来い,こい」と私が呼ばれてたんですから(笑)。

 次回,行く機会があれば,米沢牛ですね!

ここは 様

興譲館は有名な学校ですね。
上杉鷹山ゆかりの学校で学べたなんて,羨ましく思います。

そしてウコギのお話。
こちらも上杉鷹山が関わり,食用を兼ねた植物の垣根として奨励されたものなんですね。

恥ずかしながら,そこまで調べてなかったので,少し後悔していますが,今回ここはさんに教えていただいたことは,私にとって大きな収穫となりました。

いずれ記事にして掲載しようと思いますが,米沢や山形市内のお土産屋や料理店で,「ひょう」という植物を煮て作られた「ひょう干し煮」という料理がありまして,「雑草を食べる山形県民」と紹介されていました。

「雑草を食べる」と言う言葉にはぎょっとしますが,ウコギもひょうも,食用になる植物をうまく調理し,糧としたという点では,上杉鷹山の精神に相通じるものがあるように思います。

「鯉に恋してる」,御指摘いただき,おしょうしな(笑)!

小鉢や味噌汁で出していただいた食用菊は紫色で,普段広島で見かけることはなく,菊の香りも気にならなかったので,ザクザクいただきましたが,青森の黄色い食用菊は,より香りが強そうなイメージを持ちます。刺身のつまにある菊のような。彩がきれいでしょうね。食べてみたいです。

ヒナタ 様

あ,やはり会津と米沢は道がつながっているのですね!
そして福島とも!

おかげ様で,広島に住む私も,だんだん南東北の地理がわかるようになりましたよ。

この地方には歴史的なロマンを感じます。

道がつながっていて,人や物の往来があり,その地域でとれる資源によって,似た食文化が作られてきたのでしょうね。

私はヒナタさんの住んでおられる所へ行って,美味しいラーメンとカツ丼セットをいただき,その食文化についてじっくり考えてみたいです(笑)

お仕事お疲れ様です^^
スベリヒユ、私も食べたいなぁって。。。
ここら辺でもよく見かけるので、畑の脇に生えてるのみていつも思っています(笑)
宮城県の手樽(仙石線の駅です)というところで、自然学校のサークルがあって山遊びをしていて、食べられそうなものは大概^^

記事楽しみにしています。

ここは 様

写真撮影のお話では,励ましのお言葉をいただき,ありがとうございました!
「ひょう」を「スベリヒユ」とひょう現されているとは,さすがここはさん。よく御存知ですね。
私に見分ける能力があれば,いつも食べてると思うのですが…(笑)。

仙石線,仙台から松島海岸駅まで往復しましたが,手樽駅は松島海岸駅と目と鼻の先だったようですね。
そうかー,その手樽の自然学校で自然と触れ合っておられたことも,植物にお詳しい理由の1つなのですね!
植物にお詳しい人の方が,食べられる植物をたくさん御存知な分,いざ食料不足になったとしても有利だと思います。
食べられるものかどうか識別できる能力や料理する能力というのは,その人の生命力を示していると言っても過言ではないでしょうから。

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