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2017年1月12日 (木)

山形の食文化の特徴2 -芋煮,納豆汁,ひょう干し煮,あさつきの酢味噌和え,そば-

 豊かな食文化に恵まれた山形県。

 東京から山形新幹線,米沢からは奥羽本線(山形線)の普通列車に乗り,山形市を訪問しました。

(山形新幹線「つばさ」と「とれいゆつばさ」の模型)
Photo

 JR山形駅に設置されている山形新幹線の模型です。

 写真手前,右半分が「つばさ」,奥の左半分が「とれいゆつばさ」です。

 「とれいゆつばさ」は,英語の「トレイン(列車)」とフランス語の「ソレイユ(太陽)」を合わせた造語で,車内にはお座敷やバーカウンター,そして何と足湯の間まで用意され,山形の食材をふんだんに使ったお弁当などを味わいながら旅を楽しめる新幹線初のリゾート列車となっています。

 知ってればこれに乗車したのですが…(笑)。


 今回は,山形市内の郷土料理店でいただいた郷土料理を御紹介したいと思います。


芋煮

 芋煮は山形を中心に東北各地で作られる,東北を代表する料理です。

 芋煮の起源は京都の郷土料理「芋棒」(いもぼう,芋と棒鱈を炊き合わせた料理)にあると言われており,京都方面から最上川上流に荷物を運んでいった船頭達が河原で芋棒を作って食べたことにより,その調理法が広まったとされています。

(最上川(米沢市内))
Photo_2

 芋煮は大きく分けて(1)味噌ベースの煮汁で里芋と豚肉を用いる「庄内風」と,(2)醤油ベースの煮汁で里芋と牛肉を用いる「内陸風(山形風)」の2種類があります。

 山形は海に近い庄内地方と,山側の内陸地方でなにかと文化が違うようで,芋煮にもその違いが顕著に表れているようです。

 このことを『玄米せんせいの弁当箱4』の「いも煮戦争勃発!?」のシーンで見てみましょう。

(庄内地方と内陸地方)
Photo_3
(魚戸おさむ 脚本/北原雅紀『玄米せんせいの弁当箱4』から引用)

 次の画像は,庄内地方出身者(左)と内陸地方出身者(右)が芋煮の調理法をめぐって対立するシーンです。

(芋煮をめぐる対立)
Photo_4
(魚戸おさむ 脚本/北原雅紀『玄米せんせいの弁当箱4』から引用)

 また,山形では直径6mもの巨大鍋に大量の具材を投入し,工事用のバックホウでかき混ぜて作る「日本一の芋煮会フェスティバル」が毎年開催されています。

 バックホウは衛生面を重視し,潤滑油の代わりにバターやマーガリンが使われるという徹底ぶり。とても興味が湧きます。

 山形の人がこれほどまでに芋煮に強い情熱を持っておられることがよくわかります。

 今回は山形市内の郷土料理店で「内陸風(山形風)」の芋煮を御用意していただきました。

(芋煮)
Photo_5

 醤油の煮汁で里芋,牛肉,長ねぎなどが煮込まれています。

 醤油の旨味と程よい甘味そして牛肉の出汁が調和し,やわらかい里芋の味を引き立てていました。

 汁もお吸い物としてそのまま飲める程の濃さで,美味しくいただきました。


納豆汁

 山形の冬の郷土料理,納豆汁です。

(納豆汁)
Photo_6

 ごぼう,こんにゃく,きのこ,大根,いもがら(里芋の茎),ねぎ,豆腐など賽の目に切り揃え,煮込んで味噌で味付けします。そこに,すり鉢でよくすった納豆を溶かし入れたものです。

(納豆汁の具)
Photo_7

 納豆はすりつぶされているため,細かな粒となっていますが,味噌仕立ての汁が納豆のねばりでどろっととろみが出ており,寒い冬でも汁があつあつで,冷めにくくなっています。

 ほのかに納豆の香りがし,贅沢に根菜類を使用した,心も体も温まる郷土料理です。


ひょう干し煮

 「ひょう」は,夏場に畑や道端に自生する雑草です。
 山形では「ひょう」と呼ばれますが,一般的な名称は「スベリヒユ」です。

(ひょう干し煮)
Photo_8

 ひょうを水でもどして,油揚げや糸こんにゃくなどと一緒に油で炒め,だし汁を加えて煮た料理です。

 この料理は,米沢でも惣菜として売られており,その説明書きを読んで強く印象に残ったので,自宅用に買いました。

 その説明書きには,
 「雑草を食べる県民」として有名な米沢の代表的郷土料理。戻すのに一晩かかる。「ひょっとして今年は良いことがあるように」と正月に食べられる縁起物。
 と説明されていました。


 自宅用に購入したひょう干し煮も御紹介します。

(ひょう干し煮(惣菜))
Photo_9

 こちらは刻んだ人参や厚揚げが入っていました。

(ひょうの様子)
Photo_10

 また,葉を分けてみると,ひょうの葉一枚一枚はとても小さな葉っぱであることがわかります。

 ひょう干し煮をいただいてみると,ひょうは丁寧に下拵えされているからか,えぐみはなく,野草独特の青臭さもないため,とても食べやすかったです。

 雑草をお正月の縁起物として食べるというのは,山形の先人の素晴らしい知恵だと思います。

 ここまで美味しくいただける雑草なら,ひょっとして山形の代表的な郷土料理として全国でも注目されるかも知れませんね。


あさつきの酢味噌和え

 庄内地方で冬から春にかけて収穫される「あさつき」を酢味噌で和えた料理です。

(あさつきの酢味噌和え)
Photo_11

 あさつきはさっと茹でられているため,シャキシャキした食感を楽しめます。

 私の地元広島では「わけぎ」と呼ばれるねぎが多く生産されていますが,そのわけぎも,山形のあさつきと同様,酢味噌和えの「ぬた」として食べられることが多く,味や食感も含めて,共通点が多いように思いました。


そば

 お店の方から「おそばは別で茹でたてをお持ちしますので」と言われ,楽しみに待っていました。

 「お待たせしました」とそばを持ってきていただき,私は一見して,「あー,かけそばですね。いいなぁ。」とお答えし,「東北の寒い冬には温かいかけそばがありがたい」と思いつつ,そばをいただきました。

(そば)
Photo_12

 すると…そばは温かいどころか,逆にキーンと冷たかったので驚きました。
 でも,これがとても美味しかったのです。

 角がピンと立ち,半透明で引き締まったそばに甘辛いそばつゆがよく合いました。

 そのコシの強さには感動しました。

 よく考えれば,福井で冬におろしそばをいただいた時も一緒でした。(「福井のソースカツ丼と越前おろしそば」,「越前おろしそばの食べ方」参照)

 福井の冬も寒かったので,私は温かいおろしそばをいただきましたが,地元の友人は冷たいおろしそばを食べていました。

 冬でも冷たいそばをいただくことには,それだけの理由があるのだと改めて思いました。


山形の食文化の特徴

 このほかにも,お店の方から,「ひっぱりうどん」という郷土料理もあることを教えていただきました。

 これは,鍋でうどんを煮込み,できたうどんを鍋を囲んだ皆で直接ひっぱり上げながら食べることから名付けられた料理だそうです。

 「ひっぱりうどん」(「いま,山形から…」山形県メールマガジン第249号)

 芋煮,納豆汁,ひっぱりうどんと,みんなが集まって鍋を囲み,賑やかに食べる光景が目に浮かんでくるようでした。

 地元で採れる食材を無駄なく使い,家族や仲間が一緒になって食べること,それは,ただ単に生きるために食べるのではなく,連帯感を強め,共に同じものを食べることの喜びを享受する行為でもあります。

 その大切さや喜びを,山形の人達はよく理解されているからこそ,今回御紹介したような郷土料理・食文化が生まれ,育まれてきたのではないでしょうか。

<参考文献>
魚戸おさむ 脚本/北原雅紀『玄米せんせいの弁当箱4』

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コメント

こんにちは。
へえ、庄内地方も味噌なんですか。山形は牛肉で醤油、宮城は豚肉で味噌、だと
思ってました。県内で喧嘩するなよ(笑)
#まあ、400年喧嘩してる津軽と南部なんてのもありますしー。
私はどっちも好きですが、醤油ベースの場合、ちょい甘めの味付けになる場合が
あるので、それなら味噌かなーなどと。
納豆汁は美味いですねー。東北ならでは、って感じの温かみを感じます。
茨城は納豆県ですが、納豆汁は作らないかも。
蕎麦もいいなあ。あ、大体は地元で揃う食材かー(笑)

こんにちはぁ!
すご~い。詳しく調べてありますね~
そうなんですよね~ひょうを食べるんですよね~山形に昔住んでた人が
お浸し作って来て~こちらでは、受け入れてもらえず顰蹙かってた(笑)
山形の人に怒られると思うけど~^^;
芋煮は味噌かなぁ~豚肉だし~あさつきは同じ酢味噌で頂きます。
食べたくなりました(≧◇≦)

冷たいお蕎麦!そうなんですよね〜、寒河江で「鳥そば」の美味しいとこつてれってもらったの思い出しました^^
芋煮、仙台外すと宮城の人に怒られちゃいそう。
仙台では、肉は比較的なんでもよくて「仙台赤味噌」でいただきます。この仙台赤味噌っていうのがミソらしいです。
私としては、美味しければなんでもいいんじゃないかなって思うのですが(笑)
みんなでワイワイ、、心も体も温まりますね。
ヒョウが、ひょっとしたら、、なんて、素敵な語呂合わせだなぁって思いました。
それにしても、コウジ菌さんのブログ、美味しそうだなぁ^^

じもん 様

味噌ベースの庄内風と醤油ベースの内陸風と御紹介しましたが,宮城など東北の他県も含め,実際には多様な味付けの芋煮があるのでしょうね。
同じ県内でも喧嘩になる程,自分のところの芋煮に自信を持っておられるということなのでしょう。

おっしゃるように今回の醤油ベースの芋煮は少し甘めの味付けでした。
私にとっては,新鮮で美味しく,汁も飲み干しました。

納豆汁はとても体が温まりました。
保温性に優れているために納豆を入れるのかと思ったぐらいです。
においが気になる人には若干気になるかもしれません。

茨城は水戸の納豆のイメージが強いですが,料理ではなく,純粋にご飯と納豆で食べられることが多いのではないでしょうか。

蕎麦の味わい方については,じもんさんの方がよく御存知だと思います(笑)。
広島はそば屋さん,少ないんですよ。
お好み焼きの「そば」なら売られていますが。

ヒナタ 様

山形のお近くにお住まいのヒナタさんから褒めていただくととても嬉しいです。

山形では「ひょう」のお浸しや煮物が日常のおかずの一品となっているようですね。
「ひょう」は山形以外の人には受け入れられないというか,馴染みが薄い食べ物だと思いますが,食べてみるとクセがなくて美味しかったです。

以前,確かヒナタさんは味噌ベースの芋煮を作ると教えてくださいましたね。
もしかして,ヒナタさんの前で,私が醤油ベースの方がいいとかお話ししたら,ケンカに発展するのでしょうか(笑)

芋煮は山形だけにとどまらず,東北地方の各地で愛され続けている料理だなと改めて思いました。

「あさつき」は,山形以外の地域でも食べられているようですね。広島では逆に馴染みがないのですが…。
「わけぎ」がこの広島周辺で通用するのと同じ事なのでしょう。

ここは 様

寒河江に美味しい鳥そば屋さんがあるのですか。私は寒河江=さくらんぼのイメージがあります。

芋煮は,やはり山形だけでなく東北の食文化ととらえた方がよさそうですね。
少し気になっていました。

仙台では「仙台赤味噌」がミソですか(笑)。熟成味噌なので,里芋と相性が抜群でしょうね。食べてみたいな。

「美味しければどちらでもいい」という御意見,実は今回掲載した『玄米せんせいの弁当箱4』の芋煮の話でも同じ結論となっているんですよ(笑)。さすが!
私もその意見に賛成です。でも…できればどっちも食べてみたいです(笑)。

「ひょう」ですが,以前「スベリヒユ」のお話をしていただいた時,やはりお詳しいなと感心しました。
ほかの地域では雑草と言われる「ひょう」を食べて「ひょっとして良いことがあるように」と願う山形の人々の気持ちには,私も感動しました。

美味しそうとの感想をいただき,ありがとうございます!
ブログの記事・写真を通じて,ひょっとしたら私と同じ体験・思いを持っていただけるかなと思いながら作成していますので,そう感じ取っていただけるのが一番嬉しいです。

こんにちはぁ!
芋煮は自分がみそで食べるだけで~会津だと醤油ベースみたい。
そこに、キノコ入ってた(笑)
だから~コウジ菌さんが醤油がいいと言ったら~醤油ベースにしますよ(笑)
ケンカしないよ~o(*^▽^*)o

ヒナタ 様

こんにちは!

会津地方は醤油ベースの芋煮ですか。
それにキノコが入っているなら,今回御紹介した芋煮とよく似ているのでしょうね。
勉強になりました。

ヒナタさんの優しさが伺えるコメントに,思わずホッコリしました。
これでケンカしたら,私が悪者になってしまいます(笑)。
ヒナタさんの作ってくださる芋煮なら,味噌と醤油,どちらの味でも美味しいと感じると思います。

あっそうだ~こんにゃくも入ってますよ~
糸こんやら~角こんとか~
山形は丸こんが有名ですが~どうなんだろね(笑)

ヒナタ 様

こんにゃくを入れて煮こむと,味がしみて美味しいですよね。
芋煮にこんにゃくを入れるという点では共通していますが,種類は糸こん,角こん,丸こんと様々なようですね。

味噌味で,具が里芋,豚肉,こんにゃく…。里芋がメインなら芋煮ですが,1つの具として扱うなら,豚汁と呼べるような気もするような…。

いや,不用意な発言は控えねば。
ヒナタさんや山形の庄内地方の皆さんからお叱りを受けてしまう…(笑)

コウジ菌さん。その通りですよ~(笑)
芋煮と言って~結局、トン汁なんですよ~
あっ、もしかして~芋煮って醤油ベースで
トン汁は味噌ベースなのかもしれない┐( ̄ヘ ̄)┌ フゥゥ~
自分でも・・・分からなくなってきました(笑)
美味しければ、何でもいいかな~(ノ∀`)・゚・。 アヒャヒャヒャヒャ

ヒナタ 様

芋煮とトン汁をそんなに厳密に分ける必要はないのですね。
どう違うのだろうと考え込みましたが,これで気が楽になりました。

東北で芋煮が支持され続けている理由は,難しい調理法ではなく,その土地の具材で,その土地の人々の好みに応じて臨機応変に作ることができるからでしょうね。

「美味しければ何でもいい」,芋煮の重要なキーワードだと思います。

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