チョコレートの新しい潮流2 -ハイカカオと機能性チョコレート,発酵の重要性-
ハイカカオ(高カカオチョコレート)とは
「ハイカカオ」とは,チョコレートの原料であるカカオマスが60~70%以上含まれているチョコレートのことを言います。
前回御紹介した「ビーントゥバー(Bean to bar)」(「チョコレートの新しい潮流1 -ビーントゥバー(Bean to bar)-」参照)に続き,今回はこのハイカカオについて御紹介したいと思います。
ハイカカオのメリットとデメリット,今後の可能性
ハイカカオのメリットは,純粋なカカオの風味が楽しめることと,カカオマスに含まれる機能性成分をより多く摂取できることにあると言えるでしょう。
カカオマスの主な機能性成分としては,ポリフェノール,リグニン,テオブロミンの3つが挙げられます。
ポリフェノールには「抗酸化作用」(体内を酸化(サビ)させる活性酸素を抑える働き)が,リグニンには不溶性食物繊維による「整腸作用」が,テオブロミンには「集中力向上効果」や「疲労回復効果」が期待できるのです。
一方で,カカオマスの含有量が多いということは,それに含まれる脂肪分も多く摂取することとなりますので,砂糖やミルクの割合が低くなることだけに注目することのないよう留意する必要がありそうです。
毎日新聞(2017年2月9日)に,ハイカカオに関する注目すべき記事が掲載されていました。
内閣府の脳に関する研究チームと株式会社明治の共同研究の中間報告で,「高カカオチョコレート(ハイカカオ)を4週間以上続けて食べると大脳皮質の量が増え,脳の若返りの可能性がある」と発表されたのです。
成人男女30人を対象にした限定的な調査のため,今後精度を高めていく必要がありますが,高齢化の進む中,注目に値する報告だと思います。
広島市植物公園のチョコレート講演会
2017年2月11日に「バレンタインフェスティバル」が開催されている広島市植物公園へ行きました。
(広島市植物公園「バレンタインフェスティバル」フラワーデコレーション)
広島市植物公園は,中国地方で唯一カカオの木がある植物園です。
現在,大温室が大規模改修中で,従来あったカカオの木は寿命のために処分されましたが,代わりにカカオ豆から育てられたカカオの木がすくすくと人間の背丈ほどの高さにまで成長しています。
(カカオの木(広島市植物公園))
植物公園の講堂で,広島大学の佐藤清隆先生によるチョコレートの講演会「チョコレートのサイエンスロマン」を聴講しました。
数年前から毎年バレンタインデーの時期に開催されているイベントです。
その講演会の中で,話題となっている「ビーントゥバー(Bean to bar)」や「ハイカカオ」についてもお話がありました。
ハイカカオに期待される効果
ハイカカオについて興味深かったお話を御紹介したいと思います。
チョコレートメーカー「ハーシー社」の調査では,カカオの香りの成分は約1500種類から成り立っており,人工的に合成して作ることはかなり困難なのだそうです。
その魅力的なカカオの香りには,「アロマテラピー(芳香療法)」としてのリラクゼーション・ストレス軽減効果があるとのお話でした。
ハイカカオは芳香性が強いことから,より高い効果が期待できそうです。
「失恋にチョコレート」と言われるのも,こうした理由があってのことなのです。
また,国際スポーツ栄養学会誌の論文には,ダークチョコレート(ハイカカオ)を食べたサイクラー(自転車乗り)は,食べなかったサイクラーに比べ酸素消費量が低減し,走行距離もアップしたという報告もあるようです。
機能性チョコレートとハイカカオ
カカオ豆に不足している栄養素はビタミンCで,そのビタミンCを補うためには,イチゴとチョコレートの組み合わせがおすすめなのだそうです。
また,こうした食べ物の組み合わせで栄養を補う方法のほかに,最近は「機能性チョコレート」と呼ばれる,健康に配慮したチョコレートも数多く売られるようになったと紹介されました。
講演会の後,私はスーパーマーケットのチョコレート売場に行ってみました。
売場には,機能性チョコレートのコーナーが設けられ,様々な商品が売られていました。
(ロッテ「スイーツデイズ 乳酸菌ショコラ」)
ロッテの「スイーツデイズ 乳酸菌ショコラ」は,乳酸菌をチョコレートで包むことにより,乳酸菌が生きたまま腸に届けることができるチョコレートです。
株式会社ロッテと日東薬品工業株式会社の共同開発商品です。
チョコレートなので,常温で持ち運べ,手軽に摂取できることが利点です。
(森永製菓「ビフィズス菌チョコレート」)
こちらは,森永製菓の「ビフィズス菌チョコレート」です。
森永製菓株式会社と森永乳業株式会社の共同開発商品です。
ロッテの乳酸菌ショコラと同じく,ビフィズス菌をチョコレートで包むことにより,ビフィズス菌を生きたまま腸に届けることができるチョコレートです。
1箱あたり「ビフィズス菌BB536」が100億個も配合されており,常温でいつでも手軽に摂取できることが利点となっています。
以上御紹介した機能性チョコレートは,いずれもハイカカオ(ビターチョコレート)であることにも注目すべきだと思います。
ハイカカオに乳酸菌やビフィズス菌を配合することで,より健康面でのメリットを高めたチョコレートとなっているのです。
チョコレートの製造工程に欠かせない発酵
話を講演会に戻します。
講演会の終わりに,質問コーナーが設けられました。
せっかくの機会なので,私も質問させていただきました。
私:「チョコレートの製造には,カカオ豆の発酵→乾燥→ローストといった工程がありますが,発酵なしでチョコレートを作ったらどんな味になるのでしょうか。人間がカカオ豆を発見した当初から,カカオ豆は発酵させる必要があると認識していたとは思えないのですが。」
佐藤先生:「インドネシアのカカオ豆を入手し,発酵なしのチョコレートを作って食べてみたことがありますが,全く味がないチョコレートになりました。発酵した方がよいという発想は,カカオ豆を外に放っておいたか何かから生まれた偶然の産物なのでしょうが,発酵を経てこそチョコレートになるのです。バナナの葉に包むなどの方法でカカオ豆を発酵するのですが,それはバナナの葉に存在する菌の力を借りているのです。」
私:「ならば,日本で大豆を藁に包んで納豆を作るのと同じ発想・方法ですね。」
佐藤先生:「そのとおりです。熱帯地方のバナナの葉にいる菌と日本の藁などにいる菌は異なるため,日本にいる菌でカカオ豆を発酵させようとしてもなかなかうまくいかないのです(笑)。ちなみに,カカオ豆を包み込んでいるカカオパルプの糖分が発酵を促しています。」
私:「勉強になりました。ありがとうございました。」
カカオパルプは,カカオポッド(カカオの実)を割った時に出てくる,中のカカオ豆を包み込んでいる白いワタのような果肉のことです。
(カカオポッド(実))
写真は会場に展示されていたカカオポッドの模型ですが,左の割ったカカオの中心部にある白い雲のようなものがカカオパルプです。
このカカオパルプの中にカカオ豆が入っています。
ちなみにこのカカオパルプ,味はアケビに似ているとのことです。
佐藤先生は株式会社明治が誇るビーントゥバー(bean to bar)チョコレート「明治 ザ・チョコレート」の開発にも協力しておられます。
最近では,世界初のチョコレート作り専用石臼(ショコラミル)を「石の三徳」(広島県東広島市)や「井上石材」(岡山県矢掛町)と共同開発され,話題となっています。
株式会社明治・大阪工場からは,佐藤先生を通じて,毎年手作りチョコレート用のカカオニブを提供していただいており,参加者はチョコレートやカカオ酒などを作って味わうことができます。
(明治・大阪工場直送のカカオニブ)
このカカオニブは,ガーナ産です。
近年,カカオニブは製菓・輸入食品店などでも販売されるようになりました。
御興味を持たれた方は,カカオニブから世界に1つだけのチョコレートを作ってみられてはいかがでしょうか。
まとめ
このように,チョコレートの世界には,「ビーントゥバー(bean to bar)」や「ハイカカオ(高カカオチョコレート)」といった新しい潮流が生まれています。
チョコレートを味わって食べる時代,単なるお菓子から健康食品として食べる時代へと,チョコレートは進化し続けていることがお分かりいただけたかと思います。
<関連記事>
「カカオ豆とチョコレート」(2014年2月16日)
「自家製チョコレート」(2014年2月23日)
<関連サイト>
広島市植物公園
http://www.hiroshima-bot.jp/
「ショコラミル」(「石の三徳」運営サイト)
http://www.chocolat-mill.jp/
<参考文献>
『Hanako特別編集 ハイカカオBOOK』マガジンハウス
『ニュートン別冊 食品の科学知識』ニュートンプレス
『毎日新聞 ヘルシーリポート(2017年2月9日)』毎日新聞社
佐藤清隆『チョコレートのサイエンスロマン(広島市植物公園講演会)』資料
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コメント
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はじめてコメントします、ゆめはるといいます。
私はチョコが無性に食べたくなる時があるのですが、
チョコがこんなに奥深い食べ物だとは知りませんでした。
最後まで、ほ~(°°*)と読みました。
せっかくなので、チョコを食べる時は、
その効果とかを考えて選んでみたいなぁと、
安売りだったチョコを食べながら思いました(^^;)
とても勉強になる記事をありがとうございました。
これからも楽しみにしてます。
投稿: ゆめはる | 2017年2月13日 (月) 15時52分
バレンタインも明日に控えてのチョコですね(*^-^)
最近ビターがいいと情報がはいってきてますが・・
ビター過ぎて食べれなかった90%カカオは無理
70%はまだ食べれた(笑)
県内でもカカオからチョコになるまで手作りしてるお店が出来たみたいで
テレビで製造工程を見ました。すご~い。感動しました。
手作りだから・・お高いですけどね(笑)
味わってみたい(*´▽`*)
投稿: ヒナタ | 2017年2月13日 (月) 16時22分
ゆめはる 様
コメントいただき,ありがとうございます。
ゆめはるさんのブログも楽しく拝読しております。チョコレートがお好きなことも書かれていましたね(笑)。
チョコレートがお好きで,よく召し上がるなら,なおさら,今回御紹介したようなチョコレートの特徴を理解されておくと良いでしょうね。
ビーントゥバーでも,ハイカカオでも,誰でもメリットは書きますが,デメリットはあまり書きませんよね(笑)。
でも,デメリットも知った上で,その時の自分に合ったチョコレートを上手に選び,楽しむことが大切なのではと思い,網羅してみました。
チョコレートは原産地によって味やフレーバーがかなり違うので,ちょっとお金はかかりますが,食べ比べてみるとまた新たな発見や感動もあるかと思います。
チョコレートをはじめとする食べ物のことや,写真のことで疑問などありましたら,一緒に考えますので,お気軽にどうぞ!
ちゃんとしたお返事ができるかどうかは別ですが…(笑)
今後ともよろしくお願い申し上げます。
投稿: コウジ菌 | 2017年2月13日 (月) 23時34分
ヒナタ 様
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
バレンタインを間近に控え,チョコレートの記事を2本作成しました。
90%カカオですか!それはローストしたカカオ豆本来の味にかなり近いですね。
70%ぐらいから既にハイカカオですから,御無理なさらないように(笑)
お近くにもカカオ豆からチョコレートまで一貫して作られる「ビーントゥバー」のお店があるようですね。
おそらく,今後もこうしたお店は増えると思います。
少し高価ですが,機会があればチョコレートの食べ比べをされるのも,新たな発見があって面白いですよ。
また,最近ではカカオニブが輸入食品店・製菓材料店などで買えるようになりましたので,それで御自分でチョコレートをお作りになって召し上がったら,これも楽しいと思います。
チョコレートは嗜好品ですが,だからこそ,ビーントゥバーやハイカカオなど,おいしさだけでなく,原産地や健康まで追求されるのでしょうね。
投稿: コウジ菌 | 2017年2月14日 (火) 01時06分
こんばんは
大好きなチョコのお話ありがとうございます。
三年前の記事に、目立てってシャレが入ってて、この頃からお変わりないんだなぁと、ふと楽しくなってしまいました。
カカオの発酵と、納豆の発酵と生い立ちが似てるんですね、偶然って神秘的
偶然といえば、今注目?のブロンズチョコ、今朝作りました。
ダースのホワイトチョコで。
投稿: ここは | 2017年2月15日 (水) 19時20分
ここは 様
こんばんは。
コメントいただき,ありがとうございます。
チョコレートがお好きなんですね。
「メターテ(カカオ豆磨砕板)に目立ーてた」という文章,目立つシャレでもないのに,よく気付いていただけましたね。パチパチ!とても嬉しいです!
記事が堅い文章になっていることは自覚しているので,少し遊びも入れている訳です(笑)。
関連文書も含め,よく読んでいただいたことに,感謝申し上げます。
カカオと納豆の発酵の共通点。興味深い話ですよね。
カカオにせよ,納豆にせよ,腐ったものと紙一重のものをよく最初の人は食べたなと感心します。
食文化って面白いですね。
以前,板チョコをたくさん御用意されたとお話がありましたが,それはブロンズチョコを作るためだったんですね。
ブロンズチョコ,恥ずかしながら初めて知りました。
ホワイトチョコをキャラメリゼして作られるようですね。
私のイメージでは,ホワイトチョコの糖分をメイラード反応で褐変させて作られたチョコに思えます。
カカオの褐色成分を除いたホワイトチョコを使い,再度褐変させて作られるブロンズチョコ。
さすが,ここはさん。とても興味深く,勉強になりました。
メイラード反応:https://kojikin.air-nifty.com/blog/2014/02/post-9f39.html
投稿: コウジ菌 | 2017年2月16日 (木) 01時38分