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2017年2月12日 (日)

チョコレートの新しい潮流1 -ビーントゥバー(Bean to bar)-

ビーントゥバー(Bean to bar)とは

 ビーントゥバー(Bean to bar)とは,チョコレートの原料であるカカオ豆(bean)の選別・焙煎から,板チョコレート(bar)までの全ての工程を一括して行うという意味です。

 私は,広島市植物公園で実施された広島大学の佐藤清隆先生による講演会「チョコレートのサイエンスロマン」を聴講した際に初めてこの言葉を知りました。

(Bean to barの特徴)
Bean_to_bar
(広島大学佐藤清隆名誉教授作成・配付資料・一部加工)

 以前,「自家製チョコレート」の記事で,カカオニブから自家製チョコレートを作り,その味に感動したことを御紹介しましたが,これがまさにビーントゥバーだった訳です。

 そのビーントゥバーのチョコレートを味わえるお店が尾道にあることを知り,実際に伺ってみました。

 広島県尾道市向島に,カカオ豆の仕入れからチョコレートの製造・販売までを行っておられるチョコレート工場「ウシオチョコラトル(USHIO CHOCOLATL)」があります。

(ウシオチョコラトル外観)
Usio_chocolatil

 立花自然活用村という施設の2階にあります。

(入口の看板)
Usio_chocolatil_2

 ストレートな案内ですね(笑)。

 店内はカカオの香ばしい香りが漂っており,チョコレートに魅せられた男性陣が奥の厨房でチョコレートを作られていました。

 カカオ豆の仕入れからチョコレートの製造・販売までを3人の男性が行っておられるだけでもすごいことですが,ここでは更に一歩進んで,カカオ豆と砂糖だけでチョコレートを作られていることに驚きました。


カカオ豆と砂糖だけでチョコレートを作ることの難しさ

 カカオ豆と砂糖だけでチョコレートを作れば,それだけ純粋に各カカオ豆の特徴を味わい,比較することができます。

 カカオ豆と砂糖だけで作るというのは,一見シンプルで簡単そうですが,カカオ豆(カカオニブ)に含まれる脂肪分(約55%)だけでは,十分ななめらかさが出ず,扱いが難しいため,通常はココアバターや植物油脂が加えられています。

 実際,私がカカオニブからチョコレートを作った時も,サラダ油を加えました。

 ウシオチョコラトルのチョコレートは,こうした追加の脂肪分なしで作られているわけですが,この場合,精練(コンチェ)したり,成形することがとても難しくなるらしく,大量生産用の機械では無理だと伺いました。

 このほかにも,カカオ豆の皮を取り除く際に,農機具である唐箕を使われていること,パプアニューギニアのカカオ豆など産地から直接取引されている原材料もあることなど,興味深いお話をたくさんしていただき,盛り上がりました。


チョコレートで世界を巡る

 チョコレートはどれも似たような味なのではないかと思いつつも,ガーナ,トリニダードトバコ,パプアニューギニアという3種類のタブレットを購入し,実際に食べ比べてみました。

 今回購入した3種類のタブレットです。

(ウシオチョコラトルのチョコレート)
Usio_chocolatil_4


 現代のカカオ産地と今回のチョコレートの産地を御確認ください。

(現代のカカオ産地と今回のチョコレートの産地)
Photo
(武田尚子『チョコレートの世界史』から引用。一部加工)


ガーナ

(ガーナ)
Usio_chocolatil

(ガーナ説明文)
Usio_chocolatil_3

 慣れ親しんでいる日本のチョコレートの香り・味がします。

 ハイカカオチョコレートのイメージです。

 深いコクとほろ苦さがありますが,酸味は少ないように感じました。


トリニダード・トバコ

(トリニダード・トバコ)
Usio_chocolatil_5

(トリニダード・トバコ説明文)
Usio_chocolatil_6

 ガーナに比べ苦味は弱く酸味が少し強いです。

 ガーナ特有の焦げ臭はなく,洋酒,ハーブのような気品のある香りがしました。


パプアニューギニア

(パプアニューギニア)
Usio_chocolatil_7

(パプアニューギニア説明文)
Usio_chocolatil_8

 フルーツ,ナッツの香りがします。

 苦味や酸味が少なく,口あたりが軽いのが特徴です。

 アーモンドペースト入りのチョコレートような甘い香りでコクのあるチョコレートです。


ビーントゥバーのメリットとデメリット

 ビーントゥバーの最大のメリットは,産地のカカオ豆のフレーバーや味を純粋に楽しめることにあると思います。

 実際,今回の3種類のチョコレートは,食べ比べてみると味や香りに明確な違いがあることがよくわかりました。

 チョコレートをカカオニブから作ったり,今回御紹介したような純粋なチョコレートを味わってみたりすると,ひと味違ったチョコレートの魅力を感じることができると思います。

 一方で,ビーントゥバーのデメリットと言えば,カカオ豆の入手経路が限られていること,入手できてもそれをチョコレートにするまでに技術や手間暇がかかること,こうした事情から値段が高価であること,などが挙げられるでしょう。


 世界各地のカカオ豆を使ったチョコレートを食べ,世界旅行の気分を味わってみるのも楽しいと思います。


 「チョコレートの新しい潮流2 -ハイカカオと機能性チョコレート,発酵の重要性-」も御覧いただければ幸いです。


<関連記事>
カカオ豆とチョコレート」」(2014年2月16日)
自家製チョコレート」(2014年2月23日)

<関連サイト>
ウシオチョコラトル
http://ushio-choco.com/

<参考文献>
佐藤清隆『チョコレートのサイエンスロマン(広島市植物公園講演会)』資料
武田尚子『チョコレートの世界史』中公新書

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