パンの研究1 -コッペパンの基礎知識と給食のコッペパン-
戦後の救世主 コッペパン
コッペパンと言えば,学校給食を思い出される方も多いかと思いますが,日本でパンと牛乳が一般家庭に普及したのは,戦後,学校給食で子供達がコッペパンと脱脂粉乳に親しむようになってからのことです。
戦後の厳しい食糧難のなかで,1954(昭和29)年に「学校給食法」が制定され,アメリカから大量のメリケン粉(小麦粉)が運ばれたこともあって,コッペパンは戦後の学童の成長・健康を支える食べ物として重要な役割を果たしてきたのです。
まさに戦後の救世主とも言えるべきコッペパンですが,現代に至るまで,シンプルなコッペパンだけでなく,ジャムやクリームがはさまれた「菓子パン」や,焼きそばやコロッケなどがはさまれた「調理パン」など,様々な商品が販売されています。
岩手県盛岡市の「福田パン」や福岡県福岡市の「コココッペ」のように,多くの種類の具材から自分の好みの具材を選んで食べられることで人気を得ているコッペパン専門店もあります。
今回はこのコッペパンについてお話ししたいと思います。
コッペパンはクッペから
コッペパンは日本発祥とされていますが,その原形・お手本はフランスパンの一種「クッペ」とされています。
パンに切れ目を入れることをクープと言いますが,「クッペ」は,そのクープが1本入ったフランスパンの名称です。
(クッペ)
写真は「ドンク」のクッペです。
「クラム(パンの中身,やわらかい部分)が多い小型フランスパン」と説明書きがありました。
確かに,そのずんぐりとした形や大きさなどが,コッペパンそっくりですし,「クッペパン」が「コッペパン」に呼ばれるようになったというのも自然な流れのようにも思えます。
日本各地の給食コッペパン
今この記事をお読み皆さんはコッペパンというと,どんなコッペパンを想像されるでしょうか。
ここでは,このブログの読者の皆様から事前にお寄せいただいた情報を中心に,学校給食で出されたコッペパンを御紹介したいと思います。
主に1980年代~2000年代に給食を召し上がった皆様からいただいた情報です。
(日本各地の給食コッペパン)
青森…リンゴ入り
岩手…クルミ入り
宮城…プレーン
秋田…甘く煮た細かい人参入り
山形…プレーン
茨城…プレーン(マーガリン,ジャム,マーマレード),揚げパン,干しぶどう入り,黒糖入り,ミルクパン
福島…プレーン(イチゴジャム,マーマレード),黒糖入り
群馬…チーズ入り
埼玉…プレーン(ジャム,マーガリン),揚げパン(きなこ)
神奈川…干しぶどう入り,プレーン(はちみつ)
石川…プレーン,揚げパン
静岡…リンゴ入り
愛知…干しぶどう入り
岡山…サツマイモ入り,干しぶどう入り(細長バージョン)
広島…プレーン(マーガリン,マーマレード),黒糖入り,パイナップル入り
福岡…黒糖入り,干しぶどう入り,ケチャップ味のソーセージ(真ん中割れバージョン)
などがあったようです。
このほか,給食のコッペパンではありませんが,「名古屋めし」として全国的な知名度を持つようになった「小倉マーガリン」や,滋賀県長浜市の「サラダパン」(「つるやパン」)と呼ばれる,たくわん漬け入りのコッペパンなど,地域の個性的なコッペパンもあり,その地域の人々の好みに合わせて様々なコッペパンが作られてきた様子が伺えます。
情報をお寄せいただいた読者のみなさんに,この場をお借りして深くお礼申し上げます。
昔のコッペパンと現代のコッペパンの違い
昔のコッペパンと現代のコッペパンの違いについて考えてみました。
昔のコッペパンの方が大きいという違いがあるかも知れません。今と違って,コッペパンの食事量に占める割合が高かっただろうと想定されるからです。
ただ私はそれ以上に,コッペパンの生地に違いが生じているのではないかと思っています。
これはコッペパンに限った話ではありませんが,昔のパン生地はバターやクリームといった油脂の含有量が少ないため,パサパサで,食べたらパンくずがたくさん落ちていたように思います。
それもあって,私が小学生の時は,給食のトレーに個人で持参したナプキンを敷いていました。
現代のパンはどうでしょう。
日本人の好む食感(テクスチャ)が「もちもち」,「しっとり」ということもあり,パンくずがこぼれて困るという現象は,一部のこだわりを持って作られたハード系パンを除いて,あまりみられなくなったのではないでしょうか。
豊かな食生活が送れるようになるにつれ,パン生地も,砂糖や油脂を多く含み,それだけで食べても十分おいしいリッチ系のパンが多くを占めるようになりました。
このことは,コッペパンにおいても例外ではないでしょう。
ただ,最近では,素材の穀物そのものの味や,健康面を重視したハード系(リーン系)のパンも注目を浴びるようになっており,パンの世界も多様な展開をしています。
私の給食の思い出とコッペパン
私の地元・広島では,給食に出されるコッペパンについては,コッペパンと呼ばれるより,「パン」,「給食パン」または「味付けパン」と呼ばれることの方が多かったように記憶しています。
また,低学年の時は,先生と児童でコッペパンの大きさが異なり,先生用のコッペパンには包装用ビニール袋の上にマジックで黒丸がされていたのが印象的でした。
プレーンのほかに,黒糖入りや角切りのドライパイナップルが入ったコッペパンもあったように思います。
ただ,私は今も昔も牛乳が飲めないことが原因で,給食には全くいい思い出がありません。
牛乳が必ず付く給食が嫌いで仕方ありませんでした。
牛乳が体に良いからと,私に無理矢理飲ませようとする先生,それに従い,飲めない私に何とか飲ませようと励ますクラスメイト。
牛乳が飲めないからと楽しいはずの学校行事にも参加させてもらえず,午後からの授業が開始されても,私だけ机の上には食べられない給食がずっとある状態でした。
放課後,皆が帰った後も,私だけ帰らせてもらえず,じっと給食と向き合ったまま。
やっと帰れても,残したパンやおかずを今度は家に持って帰って食べろとビニール袋に詰め込まれる始末でした。
そもそも食べられずに困ってたのですから,帰り道にポーンと捨てて帰ってましたが…。
ビン入り牛乳に底から高さ1cmだけ牛乳を残した状態で,「今日はこれだけ飲みなさい」と先生から言われるのですが,口をつけても吐くだけで,どうしても飲めませんでした。
そこで,早く解放されたいが一心に,コッペパンに牛乳を浸み込ませ,飲んだと先生に報告したこともあります。
そうすると,先生は気を良くし,翌日に「今日は高さ1.5cmまで牛乳を飲みましょう」とさらにハードルが高くなるという悪循環(笑)。
牛乳が飲めない理由を調べに医者へ行けと言われ,親と一緒に泣きながら病院に行ったこともあります。
今だったら問題になるかも知れませんね。
今の私の知識を持ってすれば,当時の先生の主張程度なら論破することは容易だと思います。
そもそも私は小学生の時点で,牛乳を飲まなくても,身長がかなり高かったのですから(笑)。
牛乳以外の乳製品は美味しく食べられるのですが…。
もうとっくの昔の話ですので,この記事をもとに問題点を騒ぎ立てるようなことはしないでくださいね。
コッペパンの新たな魅力を求めて
食の世界に興味を持ち,食べる物を強制されることのない身になった現在。
改めてコッペパンの世界を探訪し,これまで見逃していたコッペパンの魅力を再発見できればと思っております。
(「黒コッペ」)
フジパンの「黒コッペ」です。
黒糖入りコッペパンにクリームがはさみこまれています。
昭和30年代のヒット商品が再現されたものです。
黒糖の香ばしい香りやコクと,中身のクリームがうまく調和し,どこか懐かしさを感じさせる仕上がりとなっています。
結構大きいのですが,シンプルな美味しさで,軽く1本食べられます。
私はこのほかにも,クリーム入りのチョコがけや,バナナクリーム入りのコッペパンも好きです。
皆さんはコッペパンにどんな思い出があり,どんなコッペパンがお好きでしょうか。
<参考文献>
岡田 哲『明治洋食事始め』講談社学術文庫
北岡正三郎『物語 食の文化』中公新書
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