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2017年4月10日 (月)

うどん・そば・饅頭・羊羹発祥の地 博多 -聖一国師と承天寺,禅料理と博多の食文化-

粉食文化発祥の地 博多と承天寺

 福岡市博多区,博多駅から徒歩約10分の場所に承天寺(じょうてんじ)というお寺があります。

 このお寺は,1242年(鎌倉時代)に聖一国師(弁円,円爾)が開山した臨済宗のお寺です。

 このお寺の境内には,食文化などにまつわるいくつかの興味深い石碑があります。

(承天寺の石碑)
Photo

 写真左から,「饂飩蕎麦発祥之地(うどんそばはっしょうのち)」,「御饅頭所(おまんじゅうどころ)」,「満田彌三右衛門(みつたやざえもん)」の石碑です。

 博多は,うどん,そば,饅頭そして満田彌三右衛門による博多織の発祥の地なのです。

 今回は,食文化の視点から,粉食文化発祥の地,博多について御紹介したいと思います。


うどん・そば発祥の地

 日本には,奈良時代から平安時代にかけて,中国(唐)から,米粉や小麦粉を使った「唐菓子(からくだもの)」などの粉食が伝えられていましたが(「唐菓子(からくだもの) -清浄歓喜団と餢飳(ぶと)-」参照),それは神社や神棚,仏様へのお供え物(「神饌」,「供物」)や,宮廷内の食事として貴族が口にする程度のもので,一般的に広まるまでには至りませんでした。

 その理由の1つとして,小麦などの製粉技術が未発達だったことがあります。

 そこで登場するのが,鎌倉時代の禅僧,聖一国師です。

 彼は,中国(宋)で禅を学び,帰国後は博多で承天寺を開山して禅の教えを日本に広めた僧ですが,留学先の中国から水車による製粉技術も日本に持ち帰り,うどんやそばの作り方を広めることで,日本の粉食文化の普及に努めました。

(「饂飩蕎麦発祥之地」石碑)
Photo_2

(承天寺とうどん)
Photo_3
「博多の食と文化の博物館」ミュージアム展示資料


中国から日本に伝えられた「点心」

 聖一国師をはじめとする禅僧は,中国の「点心」(禅寺で食事の間に取る軽い食事)を日本に伝えました。

 点心として伝えられた食べ物としては,麺類,羊羹,饅頭などがあります。

(聖一国師と羊羹)
Photo_4
「博多の食と文化の博物館」ミュージアム展示資料


聖一国師と「とらや」の饅頭

 
聖一国師が伝えた饅頭には,有名な話があります。

 中国(宋)から帰国した聖一国師は,ある日,禅の布教で出向いた先で,とある茶店の主人から心づくしの歓待を受けました。

 それを喜んだ聖一国師は,主人に宋から持ち帰った饅頭の製法を教え,「御饅頭所」の看板まで書き与えたのです。

 この話をもとに,博多が饅頭発祥の地とされました。

(御饅頭所の碑と饅頭)
Photo_6
「博多の食と文化の博物館」ミュージアム資料

 その看板は現在,東京の「虎屋」が所蔵しており,饅頭の製法も,虎屋の「虎屋饅頭」として代々受け継がれています。

 「聖一国師と酒饅頭(株式会社虎屋ウェブページ「菓子資料室 虎屋文庫」に掲載)


博多うどん

 博多と言えば,博多ラーメンが全国的によく知られていますが,博多で多くの屋台が誕生した昭和20年代,博多の屋台では主にうどんが売られていました。

 博多ラーメンは素早く茹でた麺が出されることが特徴ですが,博多うどんはあらかじめ茹で置きしておき,素早く出されることが特徴となっています。

 そんな,うどん発祥の地として,博多ラーメンより古くから地元の人達に親しまれてきた「博多うどん」を御紹介したいと思います。


【牧のうどん】

 「牧のうどん」の「ごぼう天うどん」です。

(ごぼう天うどん)
Photo_10

 牧のうどんの特徴は,麺が太くてやわらかく,食べても食べてもうどんが減らないように感じることにあります。

 食べている間も麺が汁を吸い続けるため,もう半分食べたと思っても,麺が減ったようには思えないのです(笑)。

 なので,麺が汁を吸っても追加で汁を注ぎ足せるよう,やかんに入った注ぎ足し用の汁をいただくことができます。(写真「ごぼう天うどん」の右上)

 次の写真は,私がうどんを半分食べた時の様子です。

 全然減ってないように見えるので,本当に半分食べたのかと疑われそうですが,本当に麺が汁を吸ってどんどん増えていくのです(笑)。

(ごぼう天うどん(途中))
Photo_11

 茹でたうどんを水でしめないことから,こうした現象が起きるようです。

 お店では,「軟めん」,「中めん」,「硬めん」と博多ラーメンと同様,麺のかたさを選ぶことも出来ます。


【資さんうどん】

 続いて,北九州市を拠点とする「資さんうどん」の「ゴボ天うどん」です。

(ゴボ天うどん)
Photo_12

 長細くピンと立ったゴボ天がのせられています。

 「資さんうどん」の特徴は,太めでもちもちの麺と,香り高く,上品に仕上げられた「だし汁」にあります。

 この「資さんうどん」にはもう1つの人気メニューがあります。

 それはデザート(またはお持ち帰り用)の「ぼた餅」です。

(ぼた餅(包装))
Photo_13

 あんこの甘さが絶妙で,たくさん食事した後でも,すんなり食べられる美味しさです。

 小倉の屋台では,肝心な「酒」が用意されておらず,代わりに「ぼた餅(おはぎ)」が用意されているという面白い食文化があるのですが,それほど北九州の食文化にぼた餅(おはぎ)は欠かせない食べ物となっています。


禅料理から生まれた博多の食文化

 福岡県内のうどん店に行くと,トッピングにごぼう天をよく見かけます。

 実際,福岡県民はごぼうの消費量が多いのですが,これは郷土食である「がめ煮」が好まれていることに由来するものです。

 「がめ煮」は筑前煮とも呼ばれ,鶏肉,ごぼう,れんこん,人参などを油でさっと炒め,醤油や砂糖で煮込んだ料理です。

 さらに突き詰めていくと,この「がめ煮」は,禅僧により中国から日本にもたらされた精進料理(普茶料理)の「けんちん(巻繊)」の調理法と共通点が多いことに気付きます。

 つまり,ごぼう天うどんやがめ煮も含め,博多の食文化は,禅僧により中国から日本にもたらされた精進料理から形成されているところが大きいと説明出来るのです。

 地理的に中国に近いことで,いち早く禅の教えや文化を受け入れた博多。

 この禅料理から生まれた博多の郷土食も多いことを理解しておくと,博多の食文化を研究される上で大いに役立つことでしょう。

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宗教・食文化史」カテゴリの記事

コメント

おはようございます!
おうどん美味しそうですね。ゴボ天も美味しそう。
硬さも選べるなんて~画期的な・・・(笑)
うどん屋さんは、こちら、チェーン店しかないから~
どうしても、蕎麦屋さんにうどんもメニューにある感じです。
天ぷらはニシンの天ぷらが有名ですが~骨が多いので
あまり好きじゃないのです。
がめ煮はけんちん汁と似た感じですかね~
(*^-^)ぼたもちもあるなんて~こちらでは考えられないかも・・(笑)
でも、大好きです。

ヒナタ 様

こんばんは!
博多のうどんは,やわらかめで,だし汁も美味しいです。
私はこの記事を書く前は,福岡へ行くと博多ラーメンばかり食べていましたが,今回博多うどんを食べてみて,すっかり博多うどんのファンになりました。
福岡に行かれた時は,博多うどんもぜひ召し上がってみてください。おすすめです!

蕎麦屋さんにうどんのメニューがあるのはわかりますが,なぜ福島の蕎麦屋さんにはラーメンのメニューまであるのか不思議です(笑)
それと,ニシンの甘露煮をのせた京都の「ニシンそば」なら知っていますが,ニシンの天ぷらそばまであるとは,とても驚きました。

「がめ煮」は中国から伝えられた「けんちん(汁)」がベースになっていることは間違いないと思います。

ぼた餅,北九州市小倉の旦過市場などの屋台では,おでんとぼた餅がメインで,酒自体は店に置かれてないので,店の方にお酒を注文しようとすると,「あ~お酒は向かいのコンビニで買ってきて!」と言われてしまいます(笑)。
その代わり,屋台におはぎの注文(お取り置き)の電話がかかってきたりもします(笑)。

福岡,旅行に行かれると,いろんな(ユニークな)発見があると思います。
観光地だけでなく,博多の食文化も魅力が一杯です!

南の地方は私にとって未知の世界(笑)
コウジ菌さんのブログ読んで楽しんでます(笑)
ニシンの天ぷらはね~会津では、海の物が手に入らなかったから~
私が会津に来て~高速道路が開通したので・・・(笑)
県内でも会津は閉ざされた場所だったらしい^^;

ほんと、場所が変われば・・驚きの発見です(笑)

ヒナタ 様

ブログ記事を楽しんでいただき,ありがとうございます。
私は逆に東北地方は未知の世界です(笑)
だから,ヒナタさんからいただくお話は,とても新鮮で,いつも興味津々です。

ニシンの天ぷらのお話は,カルチャーショックを受けました。
広島でニシンが販売されているのを見たことがありません。
海の物が入手しづらかったという視点では,京都のニシンそばも同じ理由かもしれないですね。
この話題でブログ記事が1本書けそうです(笑)

おかげ様で,大変勉強になりました。

何か1つは新たな発見や役立つ知識を盛り込んだブログ記事が作成できればと思っています。

またいろいろと教えていただければ幸いです。
今後ともよろしくお願いします!

ああ、お腹が微妙に空いた時に読んだので、めちゃ空腹感が

こんばんうどんにしちゃおうかな。

コメントいただき,ありがとうございます。

博多うどん,讃岐うどんとは違って,こちらもとても美味しいんですよ。

ただ,私が途中まで食べたうどんの写真は,ちょっといただけませんよね(笑)
でもそれぐらい,私がうどんが減らないことに驚いたことを皆さんにも御覧いただきたかったのです。

機会があれば,博多うどんのような,こしのないやわらかいうどんも味わってみてください。

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