「バウムクーヘン博覧会 2017」 -広島からはじまる日本のバウムクーヘンの歴史-
日本のバウムクーヘンは広島から
バウムクーヘンで有名な「ユーハイム」の創業者,カール・ユーハイムは,日本軍の捕虜として現在の広島市南区似島の捕虜収容所に連行されたドイツ人で,彼の焼き上げたバウムクーヘンを広島県物産陳列館(現在の原爆ドーム)でお披露目したことにより,日本で初めてバウムクーヘンが知られることとなりました。
このお披露目をしたのが1919年3月4日のことで,これを記念して毎年3月4日は「バウムクーヘンの日」とされています。
「バウムクーヘン博覧会」
そんなバウムクーヘンとゆかりのある広島で,「バウムクーヘンの日」に近い2017年3月15日~21日に「バウムクーヘン博覧会」が初開催されました。
(「バウムクーヘン博覧会」ポスター)
広島そごうの特設会場には,全国47都道府県,67ブランドのバウムクーヘンがずらりと勢ぞろいしました。
ほかにも,焼きたてバウムが食べられるコーナーや,バウムクーヘンの食べ比べセットの販売など,バウムクーヘンにまつわる様々なイベントが用意されていました。
(会場パネル「バウムクーヘンの歴史」)
※写真をクリックすると拡大します。
会場にバウムクーヘンの歴史について説明されたパネルが展示されていました。
その内容をまとめると,
(1)紀元前のギリシャで木の棒にパン生地を巻き付けて焼いた「オベリアス」と呼ばれるパンがバウムクーヘンの元となった。
(2)やがてそのパンがドイツに渡り,現在のようなバウムクーヘンの形状となった。
(3)ドイツ人のカール・ユーハイムがドイツの租借地である中国の青島(チンタオ)で独立し,店を開いた。
(4)その青島が日本軍に占領され,カール・ユーハイムも捕虜として広島の収容所に強制連行され,広島にバウムクーヘンの技術が伝わった。
とありました。
ひととおり見学し,興味を持ったバウムクーヘンをいくつか購入してみました。
そのバウムクーヘンを御紹介したいと思います。
焼きたてバウム
会場内の実演コーナーで,ユーハイムのマイスターの方が手作りで丁寧に焼き上げられた,焼きたてのバウムクーヘンです。
(焼きたてバウム)
焼きたてバウム1/4ピースです。
しっかりと弾力があり,とてもしっとりとしたバウムクーヘンに仕上がっていました。
「瀬戸内レモンのバウムクーヘン」
ユーハイムが将来販売を予定されている「瀬戸内レモンのバウムクーヘン」です。
会場で先行販売されていました。
ユーハイムの方に伺ったところ,一般的にいつから売り出されるかは,未定とのことでした。
(瀬戸内レモンのバウムクーヘン(外箱と中身))
外箱にはカール・ユーハイムの写真や,似島と広島県物産陳列館(現在の原爆ドーム)のイラストがあり,「日本バウムクーヘン発祥の地 広島から」と記載されています。
また,外箱の側面には,
「1919年,広島県物産陳列館(現・原爆ドーム)で開催されたドイツ俘虜技術工芸品展覧会で,創業者カール・ユーハイムはバウムクーヘンを焼き上げました。ここから日本のバウムクーヘンの歴史は始まりました。」
と説明されており,日本のバウムクーヘンの歴史を知ることができる商品となっています。
(瀬戸内レモンのバウムクーヘン(外箱側面))
瀬戸内レモンのバウムクーヘンを取り出し,いただいてみました。
(瀬戸内レモンのバウムクーヘン)
しっとりとした食感をした,ほのかなレモン風味のバウムクーヘンです。
生地には小さな粒々のレモン果皮も入っています。
これはユーハイムの原点を伝える商品として,また広島土産としても最適だと思いました。
バウムパン
すでに御紹介したように,バウムクーヘンの起源は,木の棒に生地を巻きつけて焼いたパンのような食べ物だったようです。
この製法にならって,棒にパン生地をぐるぐる巻きつけて焼き,昔のバウムクーヘンを現代に再現したパンが「バウムパン」として販売されていました。
(バウムパン説明文)
とても面白い発想のパンなので,私も買って,自宅でいただいてみることとしました。
(バウムパン(断面))
説明文には「ぐるぐる,ほどいてお召し上がりください」とありましたが,いつもの調子で輪切りに切ってしまいました(笑)。
外側はグラニュー糖がまぶされてカリカリに焼かれており,ちょうど甘いクロワッサンのような感じの仕上がりです。
逆に,中身はしっとりときめ細かく,綿菓子のようにふわふわな仕上がりです。
ほんのりした甘味とバターの風味が感じられました。
残ったパンをぐるぐるほどいてみました。
(バウムパン(ほどいた様子))
バネを伸ばすように,面白いようにほどくことが出来ました。
1個のパン全てを伸ばすと,かなりの長さにほどけたことと思います。
ほどいて食べた方が,食べやすく,何より楽しむことが出来ました(笑)。
まとめ
食文化史を学ぶ上では,「他国からの食材や食文化は,世界のどの国においても,戦争とその影響によってもたらされたものが多い」という事実を認識しておく必要があると思います。
捕虜として日本に強制連行されながらも,それにめげず,自国ドイツのバウムクーヘンを日本に広めたカール・ユーハイム。
彼がその後の日本の食文化に及ぼした影響は大きいと言えるでしょう。
(カール・ユーハイムによるバウムクーヘン披露)
(広島市『南区七大伝説 菓子伝説(バウムクーヘン上陸秘話)』南区魅力発見委員会から引用)
同時に,そうしたドイツ人捕虜が持ち備えていた文化や技術を,寛大に受け入れた当時の日本人関係者の対応にも注目すべきだと思います。
カール・ユーハイムが強制連行先の日本でバウムクーヘンを作り,日本人に披露出来た背景には,敵味方を超えた人と人との交流があり,それを受け入れる寛容な心があったからに違いありません。
そうした人間の持つ本来のやさしさや素晴らしさによって,日本に伝わり,広まったドイツ菓子。
それが日本のバウムクーヘンなのです。
<参考文献>
広島市『南区七大伝説 菓子伝説(バウムクーヘン上陸秘話)』南区魅力発見委員会
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「ドイツ・ウィーン菓子の特徴と主な菓子 -シュトロイゼルクーヘン・レープクーヘン・バウムクーヘン-」コウジ菌のブログ
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