アーミッシュの特徴と食文化6 -ステラおばさんのクッキー-
アーミッシュ・カントリーのクッキースタンド
ANAグループ機内誌「翼の王国」2017年3月号に「アメリカン・ビューティー アーミッシュ・カントリーで見た美しいアメリカ」という題名で,アーミッシュの特集記事が掲載されていました。
その記事の中で,ペンシルべニア州ランカスターにあるアーミッシュ・カントリーのクッキースタンドが紹介されていました。
アーミッシュの女の子が自分でクッキーを焼き,家の軒先で手書きの看板を用意してクッキーを販売し,周りの住民もそれを楽しみにしている様子が描かれていました。
クッキーのほかにも,瓶詰のジャムやピクルス,大小のパイ,パン,ケーキそして手作りパスタなど様々な商品が並べられた販売スタンドが用意され,住民同士でやりとりされているようです。
こうしたやりとりからは,単なる利益最優先の商売にはない,あたたかい心の交流を重視し,大切にしておられるアーミッシュの方々の価値観が伺えます。
アーミッシュを象徴する女性「ステラおばさん」
こうしたお話は日本から遠く離れたアーミッシュ・カントリーだけの話ではなく,実は日本でも,クッキーなど焼菓子を中心に食を通じてアーミッシュの伝統や精神を伝えておられる有名な会社があります。
「ステラおばさんのクッキー」(株式会社アントステラ)です。
アーミッシュはあまり聞き慣れない言葉でも,「ステラおばさんのクッキー」は御存知の方も多いと思います。
実はそのステラおばさんこそ,ペンシルベニア・ダッチカントリーに実在したアーミッシュの女性なのです。
(ステラおばさんとダッチカントリー)
(ステラおばさんのクッキー『クッキーガイド』株式会社アントステラから引用)
ステラおばさんのクッキーのロゴとアーミッシュの暮らすアメリカ・ペンシルベニアのダッチカントリーの風景が描かれたアントステラのクッキーガイドです。
このクッキーガイドやアントステラのウェブページによると,ステラおばさんは1908年生まれで,本名がステラ・ダンクル。ペンシルベニア・ダッチカントリーで幼稚園の先生をされていたと紹介されています。
(ステラおばさんの紹介)
(ステラおばさんのクッキー『クッキーガイド』株式会社アントステラから引用)
この紹介の中で,私が面白いなと思ったのは,
「ステラおばさんは,ときどき子どもたちのお尻を叩きながら,でも叩いた回数と同じだけ,子どもたちのためにクッキーやケーキを焼く,そんな先生でした。」
という話です。
ステラおばさんがクッキーやケーキを沢山作った日は,その分だけ子供達のお尻を叩いたということで,さらにそのあと小麦粉の生地までバンバン叩いて…(笑)。
いえいえ,子供達への思いやりがあればこその行動と理解すべきですね。
私はアーミッシュについて勉強していく中で,ステラおばさんとのつながりを知ったのですが,そのつながりを知ってから,俄然,ステラおばさんのクッキーに興味を持つようになりました。
興味を持つとやはりステラおばさんのクッキーが食べたくなり,広島市内の「ステラカフェ」を訪問しました。
ステラカフェ
ステラカフェ店頭の販売コーナーの様子です。
(ステラカフェ店頭)
ショーケースの中だけでも16種類のクッキーが用意され,量り売りも可能となっています。
前述のアーミッシュ・カントリーのクッキースタンドの光景が目に浮かぶようです。
店内のカフェに入ると,女性店員さんの制服もステラおばさんの服装,すなわちアーミッシュの女性の服装とよく似たかわいいデザインに工夫されていることがわかります。
席に案内され,メニュー表をいただきました。
メニュー表に「コーヒーマシュマロ」という飲み物があったので,マシュマロに興味を持ち,このコーヒーを注文しました。
(コーヒーマシュマロとクッキー)
「コーヒーマシュマロ」は,コーヒーの上に細かいマシュマロがのせられた飲み物です。
このマシュマロが熱いコーヒーに溶けてミルクと砂糖の役割を果たし,甘くクリーミーなコーヒーへと変化します。
私は普段コーヒーはブラックしか飲まないのですが,マシュマロを浮かべて飲むコーヒーも格別で,こんな美味しい飲み方もあったのかと驚きました。
アーミッシュの有名なお菓子「ウーピーパイ」にもマシュマロがはさまれていますが,アメリカでは甘い生クリームの感覚でマシュマロがよく用いられています。
クッキーはキャラメルカスタードとぐるぐるメロンです。
私はオーブンでクッキーを作ったこともあるのですが,あの手作りクッキーを食べた時と同じような感動がありました。
帰りに量り売りのクッキーも買いました。
(各種クッキー(ステラおばさん))
手前からキャラメルカスタード,コーンフレーク,バタースカッチ,オールドファッションシュガー,ダブルチョコナッツ,チョコレートチップです。
目の前にたくさんのクッキーがあるだけで幸せな気分になります。
アーミッシュの人々の生活から学ぶ
ステラおばさんの故郷ペンシルベニア・ダッチカントリーでは,今日もクッキーが焼かれ,家の軒先のクッキースタンドに並べられて,心の通った人々の交流が行われていることでしょう。
現代日本と比べると,生活様式から時間の流れに至るまで,かなりのギャップがあることは確かです。
人間,一度便利さや楽を覚えたら,それ以前の不便な生活に戻りたいとは思わなくなるのが常ですので,日本人がアーミッシュの生活から学ぶことはたくさんあっても,その生活そのものに回帰しようとまでは思わないでしょう。
それに,アーミッシュの人びとが現代においてもなお,昔からの生活をかたくなに守っておられるのは,宗教的教義に支えられている部分が大きいからでもあります。
そうした前提を踏まえた上で,私たちはアーミッシュの人々から何を学び,生活に生かすことがでしょうか。
私は,1つには,「常日頃からの人と人とのつながり・コミュニケーションを大切にされていること」が挙げられると思います。
産業革命にはじまる科学技術の発展により,人間はより楽な,より快適な,よりスピーディーな生活を求め,それを可能にしてきました。
しかし,そんな生活ばかり追い求めるあまり,人間同士のつながりやコミュニケーションといった,より人間らしい生活を送る上で欠かせないことを後回しにし,犠牲にし,過去に置き忘れてはいないでしょうか。
アーミッシュの人々の生活を理解することは,私達自身の生活の現状を理解することでもあるのです。
皆様も今後「ステラおばさんのクッキー」などを召し上がる機会があれば,これまで御紹介してきたようなアーミッシュのお話を思い出し,何かを感じ取っていただければ幸いです。
<関連リンク>
「ステラおばさんのクッキー」(株式会社アントステラ)
当ブログで御紹介したようなアーミッシュのお話もたくさん掲載されています。
<関連記事>
「アーミッシュの特徴と食文化1 -アーミッシュについて理解を深める-」
「アーミッシュの特徴と食文化2 -アーミッシュの食文化-」
「アーミッシュの特徴と食文化3 -アーミッシュとクエーカー(前編)-」
「アーミッシュの特徴と食文化4 -アーミッシュとクエーカー(後編)-」
「アーミッシュの特徴と食文化5 -広島にある「アーミッシュ」,流通の原点「顔の見える生産・販売・消費」-」
「アメリカ料理の特徴と主な料理 -ウーピーパイ-」
<参考文献>
『翼の王国 573(2017年3月1日)』ANA「翼の王国」編集部
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コメント
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へ~ステラおばさん実在してたなんて・・・
クッキーのイメージキャラだとばかり思ってた。
クッキーを計り売りしてるお店があるなんて~
これも、驚きですw(゚o゚)w
お洒落なおやつだわ~(*'▽')
投稿: ヒナタ | 2017年6月 7日 (水) 13時43分
ヒナタ 様
コメントいただき,ありがとうございます!
そうなんです。ステラおばさんは実在の人物で,クッキーを作るのがお得意だったようです。
アーミッシュについてシリーズで御紹介してきましたが,実はこのステラおばさんの記事をまとめることが1つの大きな目標でした(笑)
クッキーの量り売りやカフェ・軽食まであるお店は限られると思いますが,クッキー1枚からでも喜んで販売していただけます。
クッキーの種類によっては,香りが他のクッキーに移らないよう,1枚ずつビニールで包んでいただけるものもあり,とても丁寧な印象を持ちました。
日によっては,クッキー詰め放題や食べ放題のイベントもあり,こちらも魅力的です。
お店の方もとても丁寧で,こうした応対も「あたたかい心の交流」の一環なんだろうなと思いました。
お洒落でプチ贅沢気分が味わえるクッキーですね。
こうしたお話をしていると,またクッキーを食べたくなりました(笑)。
投稿: コウジ菌 | 2017年6月 7日 (水) 20時47分
こんにちは。
「ばばあのクッキー」と言ってて周りから顰蹙を買っていました(苦笑)
投稿: じもん | 2017年6月 8日 (木) 04時32分
じもん 様
コメントいただき,ありがとうございます。
実際は「グランマステラ」(ステラおばあさん)なのかも知れませんが(笑),愛着を込めて「アントステラ」(ステラおばさん)と呼ばれるのでしょうね。
ただ,「ばばあのクッキー」でも「ステラおばさんのクッキー」のことかと理解してもらえるでしょうから,やっぱり知名度,人気度は抜群です。
よっちゃん食品の「らあめんババア」はそのまんまですが(笑)。
投稿: コウジ菌 | 2017年6月 8日 (木) 19時18分