ドイツ・ウィーン菓子の特徴と主な菓子2 -フェアレンゲルター・カイザーシュマーレン・トプフェンクヌーデル-
ヨーロッパで歴史的にカフェが有名な都市と言えば,パリ,ロンドン,ウィーンです。
パリのカフェは政治論議の場やフランス革命の発信源として,ロンドンのカフェは海上保険や株式売買など情報交換の場として,そしてウィーンのカフェは文学の拠点として,それぞれ賑わいを見せました。
現代のウィーンのカフェは,飲み物だけでなく,ケーキや菓子類もたくさん用意されており,ウィーン菓子の伝統と誇りを感じることができます。
今回は,ウィーンに本店のある東京・青山の「カフェラントマン」でいただいたコーヒーやお菓子を御紹介します。
フェアレンゲルター
「フェアレンゲルター」は「薄めのコーヒー」といった意味で,アメリカンコーヒーの意味でも使われています。
(フェアレンゲルター)
アメリカンコーヒーを「フェアレンゲルター」と表現されていると,全く別の飲み物のように聞こえますね(笑)。
トプフェンクヌーデル
オーストリアでは,料理でもお菓子でも「クヌーデル(団子)」がよく登場します。
小麦粉が加えられるので,「メール・シュパイゼ(粉もの料理・菓子)」とも呼ばれます。
クヌーデルはそのまま料理の付合せにされたり,スープに入れて食べられたり(クヌーデル・ズッペ),デザートとしても食べられており,オーストリアではポピュラーな食べ物です。
今回御紹介するお菓子「トプフェンクヌーデル」の「トプフェン」はチーズという意味で,要するにチーズ団子のお菓子です。
クリームチーズに砂糖・バター・玉子・小麦粉などを加えて団子にして茹で,その団子に焼いたパン粉をまぶしたお菓子です。
時のオーストリア皇帝フェルディナント1世(1835~48)が好んだ菓子でもあります。
(トプフェンクヌーデル)
チーズを丸め,焼いたパン粉をつけて,粉砂糖をまぶしたクヌーデルです。
皿にはベリーソースが添えられています。
(トプフェンクヌーデル(中身))
トプフェンクヌーデルの中の様子です。
やわらかいカッテージチーズ(牛乳に酢やレモン汁を加えて凝固させて作られるチーズ)がフィリングとなっています。
チーズ特有のクセが少なく,ベリーソースを添えながら美味しくいただきました。
チーズや小麦粉で作られた団子ということもあって,とても食べ応えのあるデザートでした。
カイザーシュマーレン
カイザーシュマーレンは,レーズン入りのパンケーキのお菓子です。
「カイザーシュマーレン」の「シュマーレン」は「無価値なもの,くだらないもの」という意味です。
この意味からすると,イギリスの「トライフルケーキ」(「トライフル」は「つまらないもの」という意味)と同じニュアンスのケーキだと言えるでしょう。
意訳すれば「ありあわせの食材で作られたケーキ」という意味となります。
シュマーレンは,もともとはアルプス地方の料理だったようです。
このケーキは,時のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ(1848~1916)が好んだ菓子としても有名です。
ここでピンときた方もおられるでしょうが,「カイザーシュマーレン」の「カイザー(皇帝)」とは,この場合,皇帝フランツ・ヨーゼフを意味します。
このカイザーシュマーレンには逸話があります。
カイザーシュマーレンは当初,フランツ・ヨーゼフの皇紀エリザベートに出されたお菓子なのですが,彼女はこれに手をつけようとすらしなかったのです。
この様子を見兼ねた夫のフランツ・ヨーゼフは,このお菓子を口にし,残すことなく全部召し上がったそうです。
こうしたいきさつから,宮廷菓子料理人が当初は「カイゼリン(皇紀)シュマーレン」と命名しようとしたお菓子が「カイザーシュマーレン」と命名されることとなり,後にオーストリアを代表するお菓子となりました。
こちらが,そのカイザーシュマーレンです。
(カイザーシュマーレン)
レーズン入りのパンケーキが一口大にちぎられ,表面に粉砂糖がまぶされています。
写真上側のソースは,スモモとリンゴのフルーツソースです。
これらのソースをつけていただきました。
食感や味から例えると,厚めに焼かれたレーズン入りのホットケーキを一口大にちぎったものが近いように思いました。
シンプルな味のパンケーキなので,フルーツソースにつけていただくと変化が楽しめ,より一層美味しくいただけました。
今回,私は欲張って,通常はデザート1皿のところを,単品でもう1皿デザートをお願いし,一度に2皿もデザートをいただきました。
「夢のようだ」と喜んだのもつかの間,いずれもメール・シュパイゼなので,食べ続けるうちに,動くのも面倒になるほどお腹が一杯になりました。
「食べ応えがあるかどうか」もお菓子の大切な要素の1つとされ,今に伝えられているのでしょう。
<参考文献>
関田淳子『ハプスブルク家の食卓』新人物往来社
<店舗情報>
「カフェ ラントマン」(東京都港区北青山3-11-7 AOビル4F)
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