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2017年11月12日 (日)

昆虫食の研究4 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボミュージアムとヘボ料理-

今年(2017年)も「くしはらヘボまつり」に参加

 毎年11月3日(文化の日)には,岐阜県恵那市串原で「くしはらヘボまつり」(ヘボの巣コンテスト)が開催されます。

 ※ヘボ:クロスズメバチ,シダクロスズメバチの東濃地方での呼び名

 昨年(2016年),初めてこのイベントに参加して以来,私は職場などですっかり「虫好き」な人間とされてしまい(本当は大の苦手なのですが…),よく虫(昆虫食)の話題が出るようになりました。

 そうなると,開催日の11月3日が近づくにつれ,「くしはらヘボまつり」を意識するようになってしまいます。

 また,この日が近づくにつれ,昨年会場でお会いしたスズメバチ研究者の山内博美さんにもまたお会いできればと思うようになりました。

 ただ,私は昨年参加した際にヘボに刺されてしまい,病院でも医者に散々脅かされたので,今回も刺されたらアレルギー反応(アナフィラキシーショック)で最悪の場合生死に関わるのではないかという恐ろしさもありました。

 参加するかどうか数日悩みましたが,リスクを考えていたらリターンも得られないのは当然のことです。

 そこで,思い切って私から山内さんに連絡してみたところ,「会いましょう」と快諾していただけたため,今年も参加する決意を固めました。

 前日に長野県東御市にある「ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー」へ行き,同県松本市内のホテルに宿泊したため,今回は松本市から会場へ向かうこととしました。

 早朝,松本市からレンタカーで中央自動車道を走行して岐阜県中津川市へ向かいました。
 中津川駅からはJR中央本線で恵那駅へ行き,恵那駅にて山内さんと合流することができました。
 そして山内さんと一緒に恵那駅発の明智鉄道に乗って終点の明智駅へ行き,明智駅からは「恵那市自主運行バス」に乗って会場の串原に到着しました。

(明智駅に到着する急行「大正ロマン1号」)
Photo


くしはらヘボまつり会場

 昨年広島から訪問するのも大変でしたが,今回松本から訪問するのも大変でした。

 当日はよく晴れており,日差しも強く感じました。

 それも影響してか,会場に着き,バスを降りた瞬間からたくさんのヘボが飛び回っていました。

 「危ないな,刺されないよう気をつけねば」と思いつつ,メイン会場に向かいました。

(日程表)
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(ヘボの巣コンテスト会場周辺の様子)
Photo_3

 会場は今年も大勢の人で賑わっていました。

(ヘボの巣コンテスト会場の様子)
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 見学客の皆さんも,ヘボに刺されないようしっかり防護されている方が多いように思いました。

(車でヘボの巣が搬入される様子(ビニールハウス内))
Photo_5

 会場奥のビニールハウス内でヘボの巣の搬入作業が行われていました。

 覆っているビニールシートにも,巣から飛び出したヘボがたくさんとまっています。

 搬入されたヘボの巣は,計量審査が行われた後,袋詰めされ,隣の展示会場で展示・販売されます。

(ヘボの巣の展示・販売)
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 展示会場いっぱいに山積みされた出品者自慢のヘボの巣です。

 ヘボの巣と一緒に,飛び交うヘボもたくさん袋詰めされていました。

 ヘボの巣の単価は1kgあたり8,000円となっていました。

 昨年は1kgあたり9,000円だったので,少し安くなっています。

 今年は全部で144の出品があったようです。

 私が買って,中でヘボがブンブン飛び回っているヘボの巣の袋を新幹線に持ち込んだら…恐らく規則違反で途中で降ろされ,広島には帰れないでしょう。それどころかニュースになって…。


ヘボミュージアム

 ヘボの巣コンテスト会場の一角に,今回初めて見る施設がありました。

 岐阜県立恵那農業高等学校(HEBO倶楽部)が2017年10月に制作した「ヘボミュージアム」です。

(ヘボミュージアム)
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 木造の小さな小屋で温かみのある手作り感いっぱいのミュージアムです。

(ヘボミュージアム案内ポスター)
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 入口にヘボミュージアムの案内ポスターが掲示されていました。

 ポスターには,ヘボやヘボ五平餅の写真とともに,「東濃のソウルフード”ヘボ” とる・そだてる・たべる 自然を味わい・活かす文化を受け継ぎたい。桧の小屋に私達の思いを詰めました。恵那農業高校 HEBO倶楽部」と書かれています。

 私もブログを通じてヘボの食文化をお伝えし,その一助になればと思いつつ,中を見学させていただきました。

(ヘボの巣)
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 ヘボの巣の標本が展示されていました。

 「新女王の巣盤の巣房の1セルは一回り大きい」と説明されています。

 働きバチがシングルルーム,女王バチがスイートルームに泊まっているようなイメージでしょうか。

 こうした標本それぞれの説明文が,日本語だけでなく英語も併記してされていることにも感心しました。

(パネル「ヘボは食べ物」)
Photo_10

 ヘボはかつて全国各地で食べられていたようです。

 左半分の日本地図を見ると,宮城・千葉・大阪・徳島・佐賀以外は過去の文献・資料でヘボの記載が確認されていることがわかります。

 私自身も,広島に戻って職場で蜂の子のお土産を配った際,「昔クロスズメバチ(ヘボ)の巣を探して,巣の幼虫を食べていた。」と証言する人がいて,広島県の中山間地域でも食用としていた地域があることに驚きました。

 右半分の中部地方の地図を見ると,岐阜や長野を中心にヘボの食文化が広がっており,一般的にはヘボを煎る・煮付けるという調理法で食べられているのですが,ヘボの混ぜご飯や寿司,五平餅といったさらに手の込んだ調理法を持つ地域となると恵那市や中津川市に多いことが説明されています。

(パネル「ヘボ飯の準備と調理」)
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 ヘボ飯の準備と調理方法を紹介するパネルです。

 パネル中央上部から,時計回りにすごろくのように紹介されています。

 910g(9,000円)のヘボの巣を入手し,巣室から蜂の子を1匹ずつ引き抜く作業だけで約4時間!

 この作業で蜂の子が600g採れたとあります。ということは実質100gあたり1,500円(9,000円÷(600g÷100g))の食材!黒毛和牛やうなぎと同等の値段ですね。

 そうして苦労して採取した蜂の子(お好みでゴボウ,ショウガも加える)を醤油,砂糖,酒で煮付け,煮汁で炊いたご飯とまぜて,ヘボ飯の出来上がりです。

 ヘボの巣を自分で育てるとなると,さらに時間が必要となる訳で,ヘボ飯に限らず,ヘボを使った料理には想像をはるかに超えた時間や労力,お金が必要となることが御理解いただけるかと思います。

(ヘボ料理の紹介)
Photo_12

 ミュージアムの中央に様々なヘボ料理が紹介されていました。

 食器の上に料理の写真が貼られたイメージ展示品ですが,ヘボを食べるといっても,佃煮やローストだけでなく,いろんな料理があるものだと思いました。

 紹介されている料理は,少し見えづらいと思いますが,左下から時計回りにヘボ飯,オオスズメバチ焼酎,ヘボ朴葉寿司,ヘボのデザート(柿とチーズ),ヘボ煮付け(佃煮),ヘボ成虫のかき揚げ,ヘボちらし寿司,ヘボ箱寿司などです。

 中山間部で貴重なタンパク源であるヘボを様々な料理に応用し,美味しく食べる工夫がなされてきたことがよく理解出来ます。


ヘボ料理を民俗学の視点から理解する

 今回,ヘボの食文化という視点からヘボミュージアムの展示品や資料を見学させていただきましたが,改めて思ったのは「ヘボ料理は『ハレ』の日のごちそう」だということです。

 ヘボを佃煮やローストにして保存性を高め,おかずとして日常から食べられていたかも知れませんが,ここまで手間暇かかる料理が毎日のように作られていたわけではないでしょう。

 当日,地元の方にお話を伺った際にも,「ヘボ料理はお祝いの日など特別な日に食べる高級料理だ」とおっしゃっていました。

 民俗学の世界では,お祝いごとなど特別な日を「ハレ」,日常を「ケ」と定義して民俗研究を行う方法があります。

 民俗学者 柳田国男の研究では,日常(ケ)の食事が粒食(主に雑穀)中心なのに対し,特別な日(ハレの日)の食事は粉食(小麦粉,米粉,餅(米),そば粉など)が中心であるとまとめられています。

 この違いを一言で説明すると,「料理を作るのに手間暇かかるかどうかの違い」だと言うことが出来ます。

 ヘボ料理は粒食か粉食かで区別されるものではありませんが,ヘボの巣を見つけ,育て,(または高額なお金を出して購入して,)その巣から蜂の子を何時間もかけて取り出し,さらにそれを調理する作業は,とても手間暇かかるということを踏まえれば,明らかに「ハレ」の日の食事に分類されることとなるでしょう。

 こうした観点でヘボミュージアムで紹介されているヘボ料理を振り返ってみると,餅(五平餅は山の講(山の神)にお供えしたのが起源とされる)や寿司など「ハレ」の日を象徴する料理が多いことに気付きます。

 言い換えると,ヘボ料理は「ハレ」の日の料理が中心で,特に現代においては日常から作られる機会があまりないため,地域の食文化として継承させることは大変なことでもあるのです。

 だからこそ,岐阜県立恵那農業高等学校やくしはらヘボ愛好会などを中心とした「ヘボ食文化」の継承・情報発信活動は,地元恵那市にとっても大きな文化的・社会的意義を持った活動であると評価できるのです。


<関連リンク>
 「ヘボの巣コンテスト2017」(「都市のスズメバチ」山内博美氏のホームページ)
 「岐阜県立恵那農業高等学校
 「くしはらヘボまつり」(「え~な恵那」恵那市観光協会)
 「くしはらヘボまつり(ヘボの巣コンテスト)」(「ぎふの旅ガイド」岐阜県観光連盟)

<関連記事>
 「昆虫食の研究1 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボの巣コンテスト-
 「昆虫食の研究2 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボ五平餅とヘボ飯-
 「昆虫食の研究3 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボの甘露煮とヘボ・蚕のロースト-

<参考文献>
 山内博美『都市のスズメバチ』中日出版社
 岡田 哲『食の文化を知る事典』東京堂出版
 福田アジオ『柳田国男の民俗学』吉川弘文館
 毎日新聞社編『東海の味』毎日新聞社

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コメント

こんにちはぁ(◎´∀`)ノ

毎度、ヘボのお話し。今年もですね~
読んでるうちに・・・こうじ菌さんってなんてすごいんだろう~
と思うんですよ( ̄ー ̄)ニヤリ
食に対する熱量が違う(笑)(褒めてるんですよ~)

高校生が作ったミュージアムなんですね。
良く出来てますよね~感動。

ヒナタ 様

ヒナタさん,こんばんは!

いつもコメントいただき,ありがとうございます。

今年もヘボまつりに参加しました!
またスズメバチに刺されたどうなるんだろうと思いつつ,「行ける時には行こう」と思い,少し勇気を出して行ってきました。

私が知らない食の世界を調べ,見てみて,新たな世界がわかることはとても楽しいと思いますし,その楽しさをヒナタさんをはじめ,この記事を御覧いただいた皆様にも共有していただけるなら,とても嬉しいことだと思います。

ヒナタさんにお褒めのコメントをいただき,素直に嬉しかったです。
現地へ行き,頑張ってこの記事を書いて良かったなぁと(^o^)

高校生の手作りヘボミュージアム。
今回はこの施設に注目して記事を作成してみました。
私も恵那農業高等学校で頑張る皆さんを応援したいです。
私が高校生の時はパシャパシャ写真を撮るばかりで,こんな立派な取組みをしたことがなかったもので…(笑)

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