昆虫食の研究5 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボの刺傷被害-
ヘボが多く飛び回る危険なイベント
今回はヘボ(クロスズメバチ,シダクロスズメバチ)の刺傷被害について御報告したいと思います。
昨年(2016年),私はスズメバチが黒色に対して激しく攻撃することを知らず,黒いジャンパーに黒いジーンズ姿,そして無帽の黒髪,黒い靴,黒いリュックサック,黒いカメラ…とまさに全身黒一色の無防備な姿で会場へ行き,帰りにヘボに刺されてしまいました。
それを反省し,今年は白いジャージ上下,帽子,軍手を持参し,会場に着いたらその場で着ている服の上から着用しようと考えていました。
しかしながら…。
会場に着き,バスを降りた瞬間からヘボがたくさん飛び回っており,ジャージを着用しようとしても,服の中にヘボが飛び込んでくるほど多く飛び回っていたので,服の上からジャージを着用することすら大変な思いをしました。
「今年は昨年以上にヘボがたくさん飛び交っている。刺されないよう気をつけないと。」というのが,会場に着いた時の感想でした。
何とかジャージ上下,帽子,軍手を着用し,これで今年はひとまず安心と思いつつ,メイン会場へ向かいました。
ヘボの巣の出品者やイベント関係者はもとより,見学客の皆さんも,ヘボに刺されないようしっかり防護されている方が多いように思いました。
ヘボが多く飛び回っていた理由
ヘボが多く飛び回っていた理由として考えられるのは,
(1)晴天で日差しが強く,ヘボが活動しやすい天候・気温であったこと。
(2)ヘボの巣を車で移動させたり,会場で取り出したり,出品するために袋詰めにするなど,巣を防衛しようとするヘボに対し,過度に興奮・怒らせる行動をとっていたこと。
(3)ヘボの巣が1か所に集中するため,巣から飛び出すヘボを制御しきれないこと。
(4)スズメバチは黒に対して激しく攻撃する習性があり,それは主に人間をターゲットにしているからと言われているが,今回のイベントでは,そのターゲットである人間が多く存在していたこと。
(5)会場で飲食する人が多く,ヘボ飯やヘボ五平餅,ジュースなどヘボが好む炭水化物源が多く存在したこと。
などが挙げられると思います。
(ヘボの巣コンテストの様子)
(柳原望『高杉さん家のおべんとう 3』第20話「Have a good ヘボタイム」から引用)
人間が美味しいと思うものはヘボだって美味しい?
私がヘボまつりで楽しみにしているのは,飲食物などが販売されている販売会場です。
昨年以上にヘボがたくさん飛び交っているのを警戒してか,会場内で最もヘボが多く飛び交っているコンテスト会場周辺は,イベント主催者,ヘボの巣の出品者,購入予定者など関係者以外の見学客は,あまり長居せず,販売会場の方へ向かわれる方が多いように思いました。
私も今回刺されたら危険ですし,どちらかと言えば興味があるのはヘボの食文化の方なので,早々に飲食物などが販売されている販売会場の方へ向かいました。
(販売会場の様子)
まだこちらの販売会場の方が飛び交うヘボの数が少なく,安全な様子でした。
そこで私は人気のくしはら名物「ヘボ五平」を購入するため,列に並んで順番を待っていました。
しかしやはり,立ち止まっていると,販売会場にまでヘボがどんどん飛んできて,振り切るためにじっと立っていられないという状況で,ヘボに慣れない私は大変でした。
逆に,私の後ろで並んでおられた地元の御夫婦は,先程ヘボに刺されたにもかかわらず,平気な様子で順番を待っておられました。
私には信じられないことです。
私はスズメバチ研究者の山内博美さんと御一緒させていただいたので,お互いヘボが体にとまったら(手で払いのけるのは危険なので)フッと息を吹きかけてヘボを追い払うことで何とかしのぎ,無事ヘボ五平餅を購入することが出来ました。
(くしはら名物「ヘボ五平」の看板)
「日本でここだけ!?…かも。」と案内されていますが,そのとおりだと思います(笑)。
(五平餅にヘボ入り味噌だれを塗る様子)
味噌だれに混ざっている黒い粒々がヘボです。
飛び回っているヘボも,この香ばしくて甘味のある味噌だれが好物のようです。
(くしはら名物「ヘボ五平」)
くしはら名物「ヘボ五平」です。
ヘボまつりへ来たからには,押さえておきたい一品です。
私が五平餅を買っている間に,山内さんが「へぼ御飯」を2人分買ってきてくださいました。
「へぼ御飯」は,醤油,酒,みりんなどで調味されたヘボの蜂の子入り炊き込みご飯で,蜂の子は幼虫から成虫に近いものまで,様々な成長過程のヘボが具として混ぜ込まれています。
(「へぼ御飯」(クローズアップ))
昨年,左手をヘボに刺されて激痛が走る中,複雑な思いで夕食としていただいた「へぼ御飯」。思い出深い一品です。
当日,会場に来られると伺っていた大手衛生薬品メーカーの研究員Hさんとも合流でき,山内さん,Hさん,私の3人でヘボ料理の昼食をとることとなりました。
販売会場周辺にもヘボがたくさん飛び回っていたので,さらに離れた場所の芝生広場に座って食事しました。
それでも…いざ「ヘボ五平」や「へぼ御飯」を広げて食事しようとすると,ヘボが食べ物を目掛けてたくさん寄ってきました。
(「へぼ御飯」を食べるヘボ)
炭水化物源はヘボの好物なのでしょうが,これ共食いに近いですよね…。
ゆっくり腰を落ち着けて食事や会話を楽しみたいと思ったのですが,どこへ行ってもヘボがたくさん飛び回っており,じっとしていると体にとまるので,その状況に耐えられず,私は立って移動しながら食事しました。
行儀悪いなんて言っている状況ではないのです。
一方で,山内さんとHさんは,私とは対照的に落ち着いて座ったまま食事をされていました。
初めて参加されたHさんは,むしろ寄ってくるヘボと遊んでおられるようにさえ見受けられました。
Hさんから会場内の施設「マレットハウス」で購入されたオオスズメバチの焼酎漬けを紹介していただきました。
その時のHさんの目がとても輝いておられたのが印象的でした。
当日の刺傷被害状況
(芝生広場での刺傷被害)
3人でヘボ料理を味わい,会話を楽しんでいた最中,山内さんがヘボに口元を刺されました。
ヘボまつり参加5回目にして初めて刺されたらしく,すぐに水洗いし,救護所に行かれて応急処置を受けられていました。
「口元は痛いだろうな」,「アナフィラキシー(ショック)は起きないだろうか」など山内さんのお体を心配しつつ,しばらく様子を伺ったのですが,大丈夫とのお話だったので,ひとまず安心しました。
人間だけでなくヘボも「ヘボ五平」や「へぼ御飯」が大好物なのでしょう。
ヘボが間断なく食べ物目がけて飛んでくるので,早々に食べ切って芝生広場から移動することとしました。
3人で移動中,私が「こんなにヘボが呼び寄せる食べ物は持ち歩きたくない」と思っていたところ,「せっかくだからお土産に買って帰ろう」とさらに「ヘボ五平」を買っておられたHさんには,さすがだなと思わずにはいられませんでした。
(商業施設「マレットハウス」での刺傷被害)
車で来場されたHさんは引き続き会場をまわり,ヘボの巣の出品者などにヒアリングされるとのお話だったので,帰りのバスの時刻が迫っていた山内さんと私はここで失礼させていただき,バスが来る時刻まで近くの施設「マレットハウス」でお土産などを見ながら過ごすこととしました。
昨年,店内だから大丈夫と油断していた私がヘボに左手を刺された場所です。
しばらく見て回っていると,山内さんがまたヘボに刺されてしまいました。
今度は右手の親指です。
親指の爪の近くだったこともあり,大きく腫れあがることはなかったようですが,もうこりごりだという御様子でした。
「マレットハウス」を出て,なるべくメイン会場から離れた場所で帰りのバスを待つことにしました。
(バスを待つ道路上での刺傷被害)
山内さんと私は,メイン会場からなるべく離れた場所へ移動して帰りのバスを待っていたわけですが,それでも今年のヘボは数が多く,ひっきりなしに私達の体に襲ってきました。
お互いヘボが体にとまっていないか確認し,相手にヘボがとまっているのがわかると,お互いが息を吹きかけてヘボを追い払うという対処を何度も繰り返しながら,バスが来るのを待ちました。
その時,私は首の後ろ側,カッターシャツの襟の奥の方がゴソゴソする感じがしました。
後ろ側なので直接様子がわからなかったこともあるのですが,つい後ろに手を伸ばし,寄ってきたヘボを手で払い除けようとしてしまいました。
その瞬間です。
「いててててーっ!!!」
私の首筋をヘボが刺してきました。
二度目は危ないと,あれほど恐れていたことが起きてしまったのです。
(ヘボに刺された首筋)
大丈夫なんだろうかと不安に思いながら,私も救護所に駆け込みました。
(救護用品)
救護所には「エクストラクター」(写真左上の黄色い器具)や「インセクトポイズンリムーバー」(写真中央の3本の白い器具)といった毒液を吸い出すための器具や軟膏(写真右上)が用意されていました。
私は針が残っていないか患部を見てもらい,これを塗って応急処置していただきました。
(キンカン)
キンカンです。
山奥の会場で,ヘボに刺されたぐらいで動揺してはいけないのです(笑)。
後でよく考えたら,首の後ろ側だったこともあり,毒出しの水洗いもしていませんでした。
でも不思議と,去年刺された時のように後で激痛に襲われることもなく,腫れも蚊に刺された程度の大きさで済みました。
むしろ首筋に鍼治療を受け,肩が軽くなったような感じすらしました。
鍼治療と言っても,スズメバチの毒針ですが…(笑)。
冗談はさておき,私の気持ちが軽くなったことは確かです。
なぜなら,山内さんが同日ヘボに2か所も刺されてしまったので,私が山内さんをヘボまつりにお誘いしたことを申し訳なく思うようになっていたのですが,そんな矢先に私もヘボに刺されたからです。
これでおあいこ。
ヘボに刺された箇所は少し痛かったですが,その分気持ちや肩も軽くなって帰路につきました。
※スズメバチに刺された時の対処法につきましては,山内さんが「スズメバチに刺された時の対処法」としてまとめておられますので,こちらを参考になさってください。
ヘボに刺された私が癒されたのは…
明知鉄道明智駅に向かうバスの中で,山内さんと「昨年診察してもらった広島の病院にはもう行けない。またヘボまつりへ行って刺されたなんて報告したら医者から怒られるに決まっている…。」と真面目に冗談話をしました。
明智駅の駅舎では,数量限定で「寒天かすていら」が販売されていました。
(寒天かすていら)
恵那市は岩村町のカステラや山岡町の細寒天が有名なのですが,そのコラボ商品です。
(寒天かすていら(中身))
寒天入りのカステラなので,とてもしっかりした,弾力のある生地に仕上がっていました。
甘味の強い,昔ながらの素朴なカステラという印象を持ちました。寒天入りなので,体にも良いことでしょう。
恵那行きの電車を待っていると,駅構内やホームにアニメキャラか何かの着ぐるみをした皆さんがおられました。
せっかくなので,記念に何枚か写真を撮らせていただきました。
(着ぐるみキャラ(セーラー服))
(着ぐるみキャラ(ペア))
写真撮影している間は夢中になり,ヘボに刺されたことなどすっかり忘れていました。
この着ぐるみキャラの皆さんと一緒の電車で恵那駅まで戻り,恵那駅からはJR中央本線で名古屋駅へ。名古屋駅近くの喫茶店で山内さんとしばし会話を楽しんだ後,山内さんは帰宅され,私も新幹線で広島に戻りました。
ヘボの刺傷被害に遭わないために
最後に,昨年に続き今年もヘボに刺された私が,その経験をもとにヘボまつりでヘボに刺されないための対策をまとめておきます。
それは次の2つだと思います。
(1)ヘボが体にとまっても手で払い除けようとしないこと。
(2)そで口や襟元など衣服の開口部をしっかりふさいでおくこと。
ヘボまつりではヘボが異常に飛び回っているので,黒い服・持ち物を避けるというのはもはやあまり関係ないレベルでした。
実際,今回は山内さんも私も黒はなるべく避けたにもかかわらず,ヘボに刺された訳ですから。
それよりも,巣の移動・搬入などですでに興奮し,怒っているヘボをこれ以上怒らせず(※(1)の対策),巣のような進入路を設けない(※(2)の対策)ことが防止策となるように思いました。
そのためには,場の雰囲気を和ませ,全身を衣装で覆った「着ぐるみキャラ」の皆さんのような格好で参加するのが一番なのかも知れません(笑)。
(クロスズメバチ(ヘボ)の対処法)
(柳原望『高杉さん家のおべんとう 3』第20話「Have a good ヘボタイム」から引用)
今年もヘボに刺されてしまいましたが大したことはなく,山内さんとの再会やHさんとの出会いもあって,忘れられない良き思い出となりました。
御興味を持たれた方は,ぜひ恵那へお越しください。
<関連リンク>
「ヘボの巣コンテスト2017」(「都市のスズメバチ」山内博美氏 この記事と同じ刺傷被害が紹介されています。)
「くしはらヘボまつり」(「え~な恵那」恵那市観光協会)
「くしはらヘボまつり(ヘボの巣コンテスト)」(「ぎふの旅ガイド」岐阜県観光連盟)
「明智鉄道株式会社」
<関連記事>
「昆虫食の研究1 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボの巣コンテスト-」
「昆虫食の研究2 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボ五平餅とヘボ飯-」
「昆虫食の研究3 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボの甘露煮とヘボ・蚕のロースト-」
「昆虫食の研究4 -岐阜県恵那市「くしはらヘボまつり」ヘボミュージアムとヘボ料理-」
<参考文献>
山内博美『都市のスズメバチ』中日出版社
柳原望『高杉さん家のおべんとう 3』メディアファクトリー
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コメント
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(。・ω・)ノ゙ コンチャ♪
お口あんぐり∑ヾ( ̄0 ̄;ノで読みました(笑)
やっぱ・・・怖いです~ヘボ。
こうじ菌さんのうなじセクシー(笑)色が白い(笑)
そっち~~!( ̄▽ ̄)
着ぐるみキャラはなんでしょうか??
参考の漫画・・・こんな本あるんですね~(^_-)-☆
投稿: ヒナタ | 2017年11月21日 (火) 15時45分
ヒナタ 様
コンチャ!いいですね,このノリ。思わず笑ってしまいました(笑)。
ヘボ,おとなしいスズメバチなのですが,刺してくるのはやはり怖いですよね~。
私のうなじ,確かに白いですね(笑)。私もヒナタさんと同じ事考えてました(笑)。
夏でも長袖シャツ中心で,肌の露出が少ないからだと思います。
襟があり,そこにヘボがもぐりこんで我慢できず,払いのけたいと思ったのが間違いだったのでしょう(>_<)
着ぐるみキャラはネットで検索しましたが,よくわかりませんでした。
かわいいので,写真撮影をお願いしたら快く応じていただけました(笑)。
こういう場面では自分でも不思議なほど積極的になるんですよ(笑)。
参考の漫画,名古屋を舞台にした漫画で,地理学のフィールドワークで串原のヘボまつりを訪問した様子が描かれています。
食に関連した漫画も好きなんです(笑)。
投稿: コウジ菌 | 2017年11月21日 (火) 19時26分