日本料理の特徴と主な料理1 -日本料理は引き算の文化-
日本料理の特徴
日本料理というと,少しかしこまった表現ですが,日常の食事から料亭の料理まで,多種多用な料理があります。
日本料理の特徴を列挙してみますと,
(1)季節感を大切にした目で楽しむ料理であり,全体的に淡泊で繊細な味付けが中心となっている。
(2)食材の鮮度を重視し,素材の持ち味を生かした料理が多い。
(3)海に囲まれており,長く肉食禁止とされていたため,米・野菜・魚中心の食文化が形成されてきた。
(4)世界でも稀な,乳製品や動物性脂肪に頼らない食生活を送ってきたため,それに代わる良い「水」,だしなどの「うま味」,(もち)米のような粘り気のある「もちもち感」が求められる。
(5)生の魚を切って盛り付ける刺身や,昆布・鰹節・いりこなどから一瞬にして作られる「だし」など,調理には時間よりも調理人の技が問われる。
(6)刺身,生卵,生野菜など生食を好む傾向がある。
(7)温暖湿潤な気候であることから,発酵食品(日本酒・味噌・食酢・醤油・納豆・鰹節・漬物など)が数多く作られ,食生活の基本となっている。
(8)長い歴史の中で主体性がなかったために,逆に世界中の食を受け入れて同化させている。(てんぷら・カレーライス・とんかつ・パン食など。)
以上,いろいろと挙げてみましたが,世界の料理と比べて,日本料理はかなり特殊な料理であることは間違いありません。
日本料理は「引き算の文化」
日本料理は,よく「引き算の文化」と表現されます。
これに対し西洋料理,インド料理,中国料理などは,様々な食材を加え,スパイスやハーブを加え,乳製品や油脂を加え,熱を加え…と「足し算の文化」であると表現されます。
日本料理の「引き算の文化」について刺身を例に御説明すると,魚に熱を加えず生のままで,血抜きをし,余分な部位を取り除き,形を揃え,そのたった何切れかを皿にのせ,盛り付けには皿の余白を重んじ,スパイスなどで味付けせず醤油や塩などシンプルな調味料のみで,素材そのものの味を楽しむ…というように常に「引く」ことが良しとされているのです。
(刺身と調味料)
写真の刺身は熟成させたカワハギと鯛の刺身です。
調味料は左からポン酢,醤油,粗削りの塩で,とてもシンプルな構成です。
煮物においても,昆布や鰹節,いりこなどからだしを引き,素材そのものの味をいかに引き出すかが問われます。
日本酒も良い例です。
特に純米大吟醸酒などは,原材料は米,米麹,水だけで,アルコールすら添加されません。
酒米は雑味をなくすために丸い玉のようになるまで削られますし,米や水そのものの味や杜氏の技術力で日本酒の出来栄えが決まってしまいます。
このように,日本料理には必要以上に手を加えないこと,本当に必要なものだけを用いること,そして素材そのものの味を引き出すことを良しとする「引き算の文化」があるのです。
この文化は,日本においしい水が豊富にあるからこそ可能だったとも言えます。
まとめ
現在,世界各国の様々な料理が流入している日本ですが,それらの料理によって日本人の食の価値観,嗜好,好まれる食感(テクスチャ)などまで大きく変化させられるわけではないと思います。
それゆえに,こうした日本料理の基本的な特徴を理解しておけば,日本料理そのものだけでなく,日本の食に関係するあらゆる分野・業種で,研究やビジネスのヒントとなることでしょう。
<参考文献>
石毛直道・鄭大聲 編「食文化入門」講談社
岡田 哲「食の文化を知る事典」東京堂出版
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