台湾料理の特徴と主な料理 -燜齋鴨(素食北京ダック)と菜食主義(ベジタリアン)-
台湾料理は,中国全土の料理が揃っていると言われています。
海の幸や山の幸にも恵まれており,日本の料理の影響も受けているため,日本人にもなじみやすい料理が多いのも特徴です。
中国料理がベースなので,当然ながら,肉(特に豚肉)料理や海鮮料理がメインとなります。
しかし一方で,医食同源の思想や宗教上の理由から,菜食主義者(ベジタリアン)も多く,「素食(料理)」(菜食主義者向け(料理)という意味)と表記された食品・料理(店)も多く存在しています。
今回は,そんな素食の1つ,「燜齋鴨」(素食北京ダック)の缶詰を御紹介します。
(「燜齋鴨」(漢字表記))
「燜齋鴨」の「燜」がシチュー(煮込み),「齋」が菜食,「鴨」がアヒルという意味です。
上側の「良友牌」という表記は,「コンパニオンフーズ」という会社名に由来する「コンパニオンブランド」という意味でしょう。
(「燜齋鴨」(英語表記))
缶詰の下部に「Peking Vegetarian Roast Duck(Braised Gluten)」(ベジタリアン向け北京ローストダック(蒸し煮のグルテン))と表記されています。
「燜齋鴨」はおそらく「ムンチャイア」と読むのでしょうが,自信がないので間違えていたらお許しください。
(「純素食」のマーク)
缶詰の一部に「純素食」と書かれたマークがありました。
英語で「100% Vegetarian」とあることからも,「完全なベジタリアン向け食品」と言った意味でしょう。
その下に控え目な字で「imitation」(イミテーション,もどき)とも表記されていますね。
(「燜齋鴨」(食品表示))
食品表示を見てみると,「素鴨(アヒルもどき,グルテン,遺伝子組み換えでない)」,「水」,「黄豆油(大豆油)」,「醤油」(天然発酵),「糖」,「盬(塩)」とあります。
つまり,小麦粉のグルテンが持つ粘着性と弾性をうまく利用して,アヒルの肉のような食感を作り出し,その肉もどきを醤油や砂糖,塩などで味付けした食べ物なのです。
缶詰の写真にある北京ダックほどではないでしょうが,どこまで北京ダックに似た食べ物が出てくるのか,興味深く缶詰の蓋を開けました。
(「燜齋鴨」)
なるほど。見た目が鳥の肉や皮とそっくりです。
ただ色合いについては,北京ダックというよりは鶏肉の醤油煮のような印象を持ちました。
電子レンジで少し温めて,実際にいただいてみました。
味付けは醤油と砂糖が中心で,甘辛い味に仕上げられています。
そして,確かに淡泊な鶏肉のような弾力,歯応えがあります。
この食感を可能にしているのは,薄く伸ばしたグルテンの板を何層にも重ねて肉の形に成形されているからなのでしょう。
(「燜齋鴨」(断面))
この幾重にも重なるグルテンの層が肉のような食感を生み出しているのです。
味は,北京ダックまでには至りませんが,鶏肉の醤油煮だと言われて出されると,まぁそうとも言えるかなというレベルです。
ただ,この肉もどきをゴボウや里芋などの根野菜と一緒に煮て,筑前煮だと言われて出されたら,鶏肉だと信じてしまうような気がします。
それにしても,グルテンを使って,ここまでの代用肉を作り上げる台湾の方々の執念には脱帽です。
東アジアとインドの菜食主義(ベジタリアン)の違い
今回,北京ダックもどきの食品を御紹介しましたが,こうした「肉もどき」の食品・料理は主に中国やその影響を受けた台湾・日本など東アジアの国や地域で多くみられるものです。
日本でも,豆腐や野菜で作られる精進料理の「がんもどき」が「肉もどき」食品として有名ですね。
しかしながら,菜食主義(ベジタリアン)の本場と言われるインドでは「肉もどき」を作るという発想がありません。
なぜなら,インドの菜食主義者の間では,肉が食べ物であるという考え自体がないからです。
そもそも肉に執着心がない以上,肉に憧れることもなく,したがって「肉もどき」を作ってまで菜食主義を貫こうなどと思うこともないのです。
普段の暮らしの中で肉や魚を食べる習慣があるかないかによって,菜食主義(ベジタリアン)でも発想の違いがあるのです。
このことを踏まえると,日本を含め,肉や魚を食べる習慣がある国や地域で菜食主義(ベジタリアン)を貫き通すことがいかに難しく大変なことかを御理解いただけるかと思います。
<参考文献>
森枝卓士(ジャーナリスト・食文化論)『食べてはいけない!』白水社
<関連リンク>
「コンパニオンフーズ(良友牌)」(英語表記)
菜食レストラン&カフェ「菜食健美」(広島市西区己斐上4丁目32-2,「燜齋鴨」販売店)
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