秋田の食文化探訪 -がっこ・なた漬け・きりたんぽ鍋・くじらかやき-
岩手県盛岡市から秋田新幹線こまちを利用して秋田県秋田市を訪問しました。
(秋田駅に停車する秋田新幹線こまち)
秋田駅に停車する秋田新幹線こまちです。
写真右奥には,秋田支社色のピンク色のラインが入った奥羽本線701系電車も見えます。
新幹線と在来線が同じ駅のホームを利用する様子は,とても興味深いものがあります。
(JR東日本「行くぜ,東北。」キャンペーンのぼり旗)
秋田駅構内に設置されていたJR東日本「行くぜ,東北。」キャンペーンののぼり旗が私を迎えてくれました。
広島から「来たぜ,東北。」
秋田駅から秋田市の繁華街「川反(かわばた)通り」沿いにある郷土料理店へ行き,秋田の郷土料理を堪能することとしました。
がっこ
(がっこ盛合せ)
「がっこ」(漬物)の盛合せです。
写真左上から時計回りに,ピンク色の「あねっこ漬け」,「いぶりがっこ」,器に盛られた「やたら漬け」,皿の右下へ回って「人参漬け」,「さっと干し大根(柿漬け)」,「いぶりがっこチーズのせ」で,計6種類のがっこ盛合せです。
「あねっこ漬け」は,きゅうりや大根などの漬物を刻み,梅酢で色をつけたもち米と混ぜ合わせた漬物で,その見た目や食感が初々しい娘さんを想像させることから名付けられた漬物です。
「いぶりがっこ」は,大根をいったん燻(いぶ)し,その燻した野菜を米ぬかで漬けこんだ漬物です。
秋田では漬物のことを「がっこ」と呼びますが,この言い方は「香の物(=漬物)」を意味する「こうこ」や,「雅香」に由来するようです(その他諸説あります)。
大根を薫製にする理由ついては,生のままだと大根が辛いためとか,漬物にする大根が寒さで凍ってしまうのを防ぐためとか,囲炉裏の上でいったん薫製にすると美味しかったためといったことがあるようです。
「やたら漬け」は,ありあわせの野菜を「やたら」めったら塩漬けし,味噌や醤油で調味した漬物です。
私は山形市を訪問した時にいただいた「丸八やたら漬」のやたら漬けを思い出しました。
いぶりがっこと同様,生活の知恵から生み出した漬物と言えるでしょう。
「人参漬け」は,人参版のいぶりがっこです。
「さっと干し大根(柿漬け)」は,さっと軽く干した大根に柿を加えて漬けたもので,柿の上品な風味がする漬物です。
「いぶりがっこチーズのせ」は,いぶりがっこにチーズをのせたもので,薫製とチーズの相性の良さを生かした漬物です。
なた漬け
秋田の漬物「なた(鉈)漬け」です。
(なた漬け)
大根を「なた」(包丁)で切って麹(甘酒)に漬けた漬物です。
米麹のほんのりとした甘味が感じられる漬物で,べったら漬けとよく似ています。
私はこの「なた漬け」を味わって,石川の「かぶら寿司」を思い出しました。
「かぶら寿司」は大根ではなく蕪(かぶ)をブリや人参とともに麹で漬けた料理ですが,麹とともに漬け込み,麹と一緒に食べるという意味で共通していると思いました。
漬物(がっこ)だけでもたくさんの種類があり,食べ応え十分でした。
きりたんぽ鍋
秋田を代表する郷土料理と言えば「きりたんぽ鍋」が挙げられるでしょう。
きりたんぽ鍋を注文すると,1人だったこともあり,お椀で提供していただきました。
(きりたんぽ鍋(きりたんぽとせり))
「きりたんぽ」の語源は,粗くつぶしたご飯を棒に巻き付けて焼いた「たんぽ」を切って鍋に入れたことに由来します。
今回のきりたんぽ鍋は,このきりたんぽのほかに,比内地鶏,舞茸,白ねぎ,糸こんにゃく,せりなどが入った醤油仕立ての鍋に仕上げられていました。
お椀の中の緑色の野菜が「せり」で,お椀の右下部分に見えるもやしのような食材が,せりの根です。
せりの根まで食べられているのかととても興味を持ちました。
せりの根をいただいてみると,シャキシャキした食感で,醤油仕立てのだし汁とよく合いました。
きりたんぽも,ご飯を焼いた香ばしさと鍋のだし汁をたっぷり吸ったもちもち感がありました。
全て食べ終え,お腹が一杯になったところへ,2椀目のきりたんぽ鍋が提供されました。
(きりたんぽ鍋(きりたんぽと比内地鶏))
一瞬「えっ?」と思い,お店の方に伺うと,1つの椀にきりたんぽを2つ入れており,2椀でたんぽ1本分(きりたんぽ4つ分)になるからだそうです。
具材は1椀目と一緒です。手前に比内地鶏の肉やもつ(内臓)も見えます。もつも一緒に煮込まれているので,良いだしが出ていました。
くじらかやき
ここまででかなりお腹一杯になったのですが,最後にどうしても味わってみたかった秋田の郷土料理を注文しました。
「くじらかやき」という料理です。
こちらの店に来る途中,川反通りの料理店を眺めながらを歩いていると,「くじらかやき」と記載されたお品書きがやたらと目に付きました。
鯨料理なのだろうとは想像はできますが,なぜ秋田で鯨が食べられているのか,鯨と言えば山口の下関や仙崎,和歌山の太地など限られた地域しか頭に浮かばない私には不思議でした。
そこでこの「くじらかやき」を味わってみることとしました。
(くじらかやき)
「くじらかやき」は,ナスと塩クジラを煮込んだ味噌仕立ての料理です。
具を取り皿に盛ってみました。
(くじらかやき(具材))
ナスも塩クジラも拍子木切り(細長い棒切り)に揃えられています。
塩クジラは皮と皮下脂肪の部位が使われています。
ナスと塩クジラのみ,味付けは味噌というシンプルな料理です。
鯨は皮下脂肪の塊なので,味噌の汁にあぶらがかなり溶け出しています。
ナスは塩クジラ(脂肪)との相性が良く,交互に美味しくいただきました。
この「くじらかやき」と呼ばれる郷土料理について,店主さんから詳しくお話を伺うことができました。
お話によると「くじらかやき」は,
(1)かつて秋田県男鹿市では鯨がたくさん捕獲できたため,捕鯨業が栄えた。
(2)鯨の売り上げで地元はうるおい,後に「くじら学校」と呼ばれる校舎まで新築された。(現在の秋田県男鹿市立船川第一小学校)
(3)捕鯨は出稼ぎの一つとなり,捕鯨に携わった人々を通じて,鯨の食文化も広がっていった。
(4)そうした鯨料理の1つが「くじらかやき」。
(5)「くじらかやき」は,「鯨貝焼き」が語源で,もともとは貝(ホタテ貝など)を鍋代わりにし,鯨とナスを煮込んで作られた。
(6)ナスを入れることからもわかるように,これは夏の料理。夏の重労働を克服するため,鯨の脂肪や塩分を摂取してスタミナをつける意味もあった。
(7)ナスの代わりに「ミズ」と呼ばれる山菜が入れられることもある。
とのことでした。
男鹿半島にも立派な鯨の食文化があったのですね。
ちなみに,秋田には「くじらかやき」と似た「なんこかやき(なんこ鍋)」と呼ばれる料理もあります。
「なんこ」とは「馬肉」のことで,干支で南(南向(なんこう))は「午(馬)」があてられることに由来しています。
つまり「なんこかやき(なんこ鍋)」とは,馬脂を溶かして馬肉を炒め,野菜とともに味噌で煮た鍋のことなのですが,その発想や調理法は「くじらかやき」とよく似ていることは注目に値します。
秋田の食文化は奥が深く,興味が尽きません。
今回訪問した秋田の郷土料理店「お多福」では,店主さんや板前さんから,この「くじらかやき」のお話をはじめとして,秋田の食文化や伝統文化について多くのことを教えていただきました。
カウンターでお店の方と楽しくお話ししながらいただいた秋田の郷土料理。
秋田の人のあたたかさに触れることができ,思い出深い食事となりました。
<関連サイト>
「お多福」(秋田市大町4丁目2番25号)
「丸八やたら漬」(山形市の漬物・郷土料理店)
「なた漬け」(お宝!日本の「郷土」食)「農林水産省広報誌「aff(あふ)」2011年4月号」」
<関連記事>
「山形の食文化の特徴2 -芋煮,納豆汁,ひょう干し煮,あさつきの酢味噌和え,そば-」(「丸八やたら漬」の食事処「香味庵まるはち」でいただいた郷土料理を紹介しています)
「鯨の食文化2 -下関の鯨料理-」(鯨料理(各部位)を紹介しています)
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こんにちは!
こまち(* ´ ▽ ` *)ノカッコいいね~!
元同期の子が秋田から来てて、いぶりがっことか
教えて貰った‼
きりたんぽ汁は大好き(*^▽^)/★*☆♪
よく冬に鍋したよ!(笑)
投稿: ヒナタ | 2018年4月 4日 (水) 16時37分
ヒナタ 様
こんばんは。
コメントいただき,ありがとうございます。
秋田新幹線こまちに乗ってみたかったんですよ。
大曲駅で新幹線の進行方向が逆になるのが面白かったです。
いぶりがっこもきりたんぽも,囲炉裏のある部屋で作られるイメージがあります。
どちらの料理も,最近になってようやく広島の店でも見かけるようになりましたが,広島ではまだまだ珍しい料理です。
きりたんぽを鍋に入れると,別にご飯を用意しなくても済みそう(笑)。
きりたんぽ鍋,しょっつる鍋,芋煮,納豆汁…東北の冬は寒いけど,身も心もあったまる料理でいっぱいですね!
投稿: コウジ菌 | 2018年4月 4日 (水) 19時48分
そうそう!きりたんぽ鍋はご飯がないときに
きりたんぽ買ってきて鍋に入れて食べます(笑)
ある時ふと!きりたんぽってご飯だから
作れんじゃね~!と思い試行錯誤で
作ってみたけど~!
うまくいかなかった(笑)
子供の頃鯨肉食べてたから食べたくなりました(* ´ ▽ ` *)ノ
投稿: ヒナタ | 2018年4月 5日 (木) 19時25分
ヒナタ 様
こんばんは。
きりたんぽ鍋だけでご飯も一緒だから食事になりますね。
きりたんぽ,自分で作るのではなく,買って召し上がる方が多いんですか。
勉強になりました。
(きり)たんぽは,昔は山へ持っていくための保存食として作られたようですね。
先人は,焼いてご飯の水分を飛ばすことにより,軽く,長持ちするよう工夫したのでしょう。
きりたんぽ鍋にするつもりが…ご飯がバラバラになったとなると…雑炊になったのでしょうか(笑)。
それはそれで美味しそうですが(^o^)
鯨肉,今や高級食材ですよね。
いつでも食べることのできる食材ではないだけに,私もまた鯨肉をいただきたいです。
投稿: コウジ菌 | 2018年4月 5日 (木) 22時51分