島根県松江市の不昧公三大銘菓(山川・若草・菜種の里)と日本茶カフェ
島根県松江市を訪問しました。
尾道松江線(中国やまなみ街道)が開通したおかげで,以前と比べてずいぶんアクセスがよくなり,所要時間も短くなりました。
松江城を囲むお堀をめぐる遊覧船です。
(堀川めぐり遊覧船(甲部橋付近))
大勢の観光客が乗船されているのですが,これから低い橋(甲部橋)の下を通るということで,屋根が降ろされ,人は船内でかがんだ状態になっています。
福岡県柳川市のお堀めぐり(川下り)と雰囲気がよく似ています。
不昧公と松江のお茶・和菓子文化
松江市街を散策すると,お茶や和菓子の店を多く見かけます。
これは普段の生活にまでお茶の文化が浸透している証拠でもあります。
松江は京都・金沢と並ぶ「日本三大菓子処」の1つなのです。
そうした松江のお茶の文化の礎(いしずえ)を築いたのが,江戸時代に活躍した松江藩の七代藩主 松平治郷(まつだいら はるさと)です。
松平治郷は松江にお茶の文化を広めた茶人としても有名な人物で,「不昧公(ふまいこう)」という名で今も多くの人に親しまれています。
不昧公はお茶会で数多くのお茶菓子を用いましたが,とりわけ自らが命名した3つのお茶菓子を好んだようです。
それが「山川」,「若草」,「菜種の里」です。
今回はその3つのお茶菓子を御紹介します。
三英堂「不昧公三大銘菓」
松江市の和菓子店「三英堂」では,「山川」,「若草」,「菜種の里」が2個ずつ詰め合わせられたお試しセットが販売されています。
(三英堂「不昧公三大銘菓」(包装))
不昧公三大銘菓を食べ比べることができるセットで,お土産としても喜ばれることでしょう。
(三英堂「不昧公三大銘菓」(中身))
写真手前左下から写真奥右上に向かって,順に「山川」,「若草」,「菜種の里」です。
それでは,1つずつ御紹介したいと思います。
「山川」
「山川」は,「越乃雪」(新潟県・大和屋),「長生殿」(石川県・森八)と並ぶ「日本三大銘菓」(※)の1つとされています。
※「日本三大銘菓」を,「越乃雪」,「長生殿」,「鶏卵素麺」(福岡県・松屋)とする説もあります。
「山川」は紅白の一対の落雁です。
(「山川」)
不昧公の時代に作られたこのお菓子は,時の流れとともに製法の伝承が途絶え,一時姿を消してしまったのですが,松江の和菓子店「風流堂」の二代目・内藤隆平がわずかに残された文献や古老・茶人からの話などを元に「山川」を復刻させ,現在では松江の代表的な銘菓となっています。
「山川」の名の由来は,不昧公の歌
「散るは浮き 散らぬは沈む紅葉(もみじば)の 影は高尾の山川の水」
に詠まれる山川にちなんでいると言われています。
赤が紅葉の山を,白が川をそれぞれ表現しています。
紅葉で有名な京都市右京区の高雄山の情景を詠った歌なのでしょう。
主に「寒梅粉」(かんばいこ,もち米を加工した粉)と砂糖で作られています。
しっとりふんわりと固められているため,いただくと徐々に口の中でやさしく溶けていくような食感が楽しめます。
抹茶など濃いお茶に合うように甘みが強いのも特徴です。
「若草」
不昧公三大銘菓を代表する銘菓「若草」です。
「若草」は,「求肥」(ぎゅうひ,もち米を石臼で水挽きし,水あめや砂糖を加えて練り上げたやわらかい餅)に,薄緑色で砂糖入りの寒梅粉をふんわりとまぶしたお菓子です。
(「若草」)
写真の断面を見ていただくと,長方形の求肥の周りに薄緑色の寒梅粉が均一にまぶされている様子がお分かりになるかと思います。
「山川」と同様,「若草」も時の流れとともに製法の伝承が途絶え,姿を消してしまったのですが,松江の和菓子店「彩雲堂」の初代・山口善右衛門が当時の史料や言い伝えなどを元に「若草」をよみがえらせ,現在では松江の代表的な銘菓となっています。
「若草」の名の由来は,不昧公の歌
「曇るぞよ 雨ふらぬうち 摘んでおけ 栂尾山の春の若草」
に詠まれる若草にちなんでいる言われています。
栂尾(とがのお)山は京都市右京区にあり,僧の明恵上人によって日本ではじめてお茶が栽培されたことで有名な山です。
ということは,この歌に詠まれる「若草」とは茶葉の意味ではないでしょうか。
真相はあきらかではありませんが,茶道とかかわりの深い菓子であることは間違いありません。
薄緑色の甘い寒梅粉と,中のほのかな甘さの求肥を一緒にいただくと,ちょうど良い甘さとなり,寒梅粉のサクサク・シャリシャリ感や求肥のモチモチ感といった異なる食感も楽しめるお菓子となっています。
「菜種の里」
不昧公三大銘菓の中で珍しい銘菓「菜種の里」です。
(「菜種の里」)
クチナシで黄色く色付けした寒梅粉や砂糖などをふんわりと固めた落雁です。
上にある白い点のようなものは,炒り米(ポン菓子)です。
黄色く染まった春の菜畑に白い蝶が飛び交う様子が表現されたお菓子です。
不昧公は,
「寿々菜さく 野辺の朝風そよ吹けは とひかう蝶の 袖そかすそふ」
と詠み,「菜種の里」と命名したとされています。
「山川」と同様,しっとりふんわりと固められており,いただくと徐々に口の中でやさしく溶けていくような食感が楽しめる甘いお菓子です。
この「菜種の里」は,松江の和菓子店「三英堂」のみで販売されている珍しいお菓子です。
気軽にお茶を楽しめる日本茶カフェ
不昧公は晩年,作法や形式にとらわれない「不昧流茶道」を創設しました。
そのため松江では現代においても,日常生活にもお茶や和菓子を取り入れ,気軽にお茶の時間を楽しまれる方が多いようです。
街中にも気軽にお茶や和菓子を楽しめるカフェスタイルの甘味処が多くあります。
私も気軽にお茶を楽しんでみたいと思い,松江市京店地区にある日本茶カフェ「スカラベ別邸」を訪問しました。
お店のメニューには,抹茶と和菓子のセットのほかに,抹茶パフェ,抹茶エスプレッソ,抹茶ラテ,抹茶マキアート,抹茶スムージー,抹茶デセール(抹茶の洋菓子)などお茶にまつわる様々なドリンクやスイーツが用意されていました。
私は抹茶クレープとグリーンティーを注文しました。
(抹茶クレープとグリーンティー)
抹茶クレープは中に抹茶カスタードと小豆が入っており,アイスクリームや白玉だんごが添えられています。
グリーンティーは甘いアイス抹茶ドリンクです。
抹茶ラテなどミルク入りの抹茶はよくみかけますが,ミルクなしのアイス抹茶はあまり見かけないので,久しぶりに出会えた味に感動しました。
このカフェでは抹茶だけでなく,コーヒー,紅茶,各種ジュースなども用意されており,自分の好きな飲み物やお菓子でひとときを楽しむことができます。
「不昧流」のお茶の楽しみ方を取り入れたカフェだと表現することもできるでしょう。
こうしたカフェで松江のお茶を楽しむのもおすすめです。
今年(2018年)は不昧公没後200年という記念の年にあたり,松江市を中心に様々な記念事業(不昧公200年祭記念事業)が実施されます。
こうしたイベントが,より多くの人にお茶や和菓子の世界の魅力や楽しさを知ってもらえるきっかけとなればいいですね。
夕方,宍道湖畔の「宍道湖夕日スポット」にカメラをセットし,夕日を撮影しました。
(宍道湖夕景)
不昧公はどんな気持ちでこの夕日を眺め,この地にお茶や和菓子の文化を広めていったのでしょうか。
近くの自動販売機で買った缶コーヒーを味わいながら,しばし思いを馳せました。
<関連リンク>
「不昧公200年祭」(不昧公200年祭記念事業推進委員会事務局)
「風流堂」(島根県松江市矢田町250-50)
「彩雲堂」(島根県松江市天神町124)
「三英堂」(島根県松江市寺町47)
「スカラベ別邸」(島根県松江市末次本町75)
<参考文献>
「日本!食紀行 殿様が愛したスイーツ ~城下町 松江は和菓子とともに~」(公益財団法人 民間放送教育協会)
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