魚柄仁之助先生の世界1 -講演会「食生活が急速に変化した昭和の時代~昭和初期の非常食が生んだ今日のグルメ料理~」に参加して-
魚柄仁之助さんの本との出会い
私が本格的に食生活・食文化に興味を持つようになったきっかけは,何気なく買った一冊の本との出会いでした。
食生活研究家・魚柄仁之助(うおつか じんのすけ)さんの「魚柄の料理帖 人生,楽しく食べること」(光文社文庫)という本です。
本には,保温調理,鍋の二段活用,鍋で作る薫製など,斬新な技法を駆使して作る簡単で健康的で美味しい料理が面白おかしく紹介されていて,「料理にこんな世界もあるんだ」と新鮮な感動を覚えました。
食生活・料理の本を男性が執筆されていることも,私にとっては新鮮でした。
こうして魚柄さんの本に興味を持ち,それ以降,魚柄さんの本を探して夢中で読むようになりました。
「ひと月9000円の快適食生活」,「うおつか流 清貧の食卓」,「冷蔵庫で食品を腐らす日本人」,「冷蔵庫で食品を腐らせない日本人」といった代表的な本から,「明るい食品偽装入門」,「「笑って死ねる」安全食実践講座」といったきわどいタイトルの本,そして「おかわり飯蔵」などの漫画まで,数多くの本を書店,古本屋,ネット販売などを利用して買い,読ませていただきました。
(魚柄仁之助さんの本)
その影響で,現在に至るまで,毎日食事記録をつけ,平日の昼食は押し麦ご飯の手弁当を持参し,食材を無駄にせず,私生活も仕事も段取りを考えて行動するようになりました。
私が今こうして食文化のブログを書いているのも,魚柄仁之助さんの本との出会いがあってこそと言っても過言ではありません。
魚柄仁之助講演会に参加
このように,私は魚柄仁之助さんから大きな影響を受け,食生活・食文化について研究を進めるようになりました。
そして,本でしか知らない魚柄仁之助さんの講演会にいつか参加出来たらと思うようにもなりました。
数年前に魚柄仁之助さんが関東を中心に講演されていることを知ったのですが,広島からだと会場が遠いこともあり,なかなか次の一歩が踏み出せませんでした。
そんな中,2018年10月下旬に魚柄仁之助オフィシャルサイトで,横浜で魚柄仁之助さんの講演会が開催されることを知りました。
講演会のテーマは「食生活が急速に変化した昭和の時代~昭和初期の非常食が生んだ今日のグルメ料理~」となっており,私がとても興味を持っている分野です。
しばらく考えましたが,「また次回と言ったら,いつになるかわからないし,このテーマは今回限り。少し勇気を出して参加してみよう。」と思い,横浜の事務局へ電話し,申し込みました。
その際,私の住所を聞かれたので「広島市南区…」とお伝えすると,「えっ!?」と驚いておられました。
後日,今回は宮城から来られる人もおられると伺いました。
講演会当日,私は広島から東海道・山陽新幹線で横浜に向かいました。
片道4時間弱あるので,私は今回購入した本(魚柄仁之助「食育のウソとホント 捏造される「和食の伝統」」こぶし書房)を新幹線車内で全て読むことができました。
こうしてある程度予習した上で,講演会場の横浜市中区の「産業貿易センタービル」へ向かいました。
(産業貿易センタービル)
講演会の内容
少し緊張しながら会場に着くと,主催の「食の文化を考える会ミズホ」の皆様が温かく迎えてくださいました。
そして講師の魚柄仁之助さんも会場におられました。
受付の方が一番前の席をすすめてくださったので,私は宮城から来られた方と一緒にその席で聴講させていただきました。
講演前,私は目の前におられた魚柄さんに「広島から参りました」とお話しすると,魚柄さんから「広島は豪雨災害で大変なところですよね。こんなとこ来とる場合じゃないだろうがぁー」と言われてしまいました。
実は前日も豪雨災害現場に行っていたので少し複雑な気持ちになりましたが,その分しっかり勉強させていただこうと意気込んで聴講しました。
講演の主な内容は,
○「昭和の食生活の変遷」(戦前の和洋中取り混ぜた食を楽しめた時期→戦中の「軍事優先」・「質素倹約生活」を強いられた時期→戦後の飢えをしのいだ時期→復興期の昭和初期レベルに戻った時期→大阪万博前後の「飢え」を忘れ,欧米食を追いかけた時期→昭和末期までの食べ過ぎ・物の使い過ぎ・廃棄物の出し過ぎに気付く人も出てきた時期)について。
○大正から昭和初期にかけて,すでに「セロファン筒 炊飯(レトルトご飯)」,「大豆珈琲」,「黒豆コーヒー」などが存在していたこと。
(大豆で作った珈琲)
講演配付テキストから抜粋
(黒豆コーヒー)
講演配付テキストから抜粋
○砂糖をふんだんに使えたり,鰹節・昆布・いりこなどの「だし」を使えたのは一部の上流階級の人達のみであり,その憧れから料理レシピが作られたこと。
○おふくろの味・懐かしの味などもてはやされたものは,実は居酒屋の味・縁日の味であること。
○戦後,日本に中華料理が広めたのは,中国大陸から引き揚げてきた日本人であること。
○昭和末期に家庭からまな板と包丁が消え,平成末期には冷蔵庫や台所も消えたこと。
○「昔ながらの」,「伝統的な和食」などは,そのほとんどが根拠のない「捏造」であること。
○食育は子供よりもむしろ大人に必要なこと。
などでした。
講演内容の質問と参考テキスト
講演終了後,質問時間が設けられました。
ほかに質問される方がいない様子だったので,挙手をして魚柄さんに質問させていただきました。
私:「家庭で冷蔵庫が使われるようになってから食品保存を冷蔵庫に頼る食生活へと変化しましたが,そもそも冷蔵庫がなかった時代には,料理を作ることイコール保存食を作ることだったのではないでしょうか。」
魚柄さん:「かつては当たり前に料理されていたことが,冷蔵庫の登場以降,されなくなりました。現代では食の外部化が進み,冷蔵庫すら使わない人も多くなっています。それだけ現代人は生活力を失い,考えなくなってしまったとも表現できるでしょう。」
確かに近くにスーパーやコンビニがある都市部を中心に,こうした現象がすでに起こっているのでしょう。
いろいろ考えさせられた講演会でした。
今回の講演会の参考テキストを御紹介します。
(講演会参考テキスト)
魚柄仁之助さんの「台所に敗戦はなかった 戦前・戦後をつなぐ日本食」と「食育のウソとホント 捏造される「和食の伝統」」の2冊です。
写真左端は魚柄仁之助さん謹製の「冷蔵庫お守り札」(本のしおり)です。
冷蔵庫に貼っておくと効果があるそうです。
このお札で病気が治った人もいるとか,いないとか…(笑)。
魚柄仁之助さんを囲んでのカフェタイム
主催された「食の文化を考える会ミズホ」の皆様の御好意で,講演後のカフェタイムに誘っていただきました。
カフェにメンバー全員が揃うまでの間,横浜で観光ガイドもされている方の御好意で,目の前の横浜港を案内していただきました。
(横浜港・みなとみらい)
会場近くのカフェへ行き,魚柄仁之助さんを含む9名のメンバーで食の話を中心に会話を楽しみました。
私は真ん中に座られた魚柄仁之助さんの目の前の席をすすめていただきました。(お邪魔してはいけないと端の席に座っていたのですが…。)
メンバーの皆さんから食にまつわるいろんな質問が出されたのですが,それらの質問に魚柄さんが丁寧に詳しく答えてくださいました。
フグの毒と調理師免許,捕鯨と食文化,食事と寄生虫,砂糖と料理,うま味調味料,鶏皮料理,野菜・食器併用洗剤,乾物の活用,食器の吊り下げ,歌と料理,コーヒーと流行歌,紀伊半島のサンマ寿司,食育の考え…などいろんなテーマについてお話いただきました。
私も,北前船と沖縄の昆布・さとうきび,石川のフグの卵巣の糠漬け,旦過市場と「大學丼」(北九州市は魚柄さんの出身地),下関・小倉の鯨,料理の段取りと仕事への応用などいろんなお話をさせていただきましたが,一番盛り上がったのは食とは関係のない私の耳かきコレクションの話でした(笑)。
魚柄さんはどんなテーマでも深く,わかりやすく,面白くお話いただけるので,話が尽きることはありませんでした。
そして「食の文化を考える会ミズホ」の皆さんの話のレベルも高く,食生活・食文化についてよく勉強されている印象を受けました。
約2時間のカフェタイムはあっという間でした。
憧れの魚柄さんと食について直接いろいろなお話しができ,とても幸せなひとときでした。
講演会場で遠目に魚柄さんを拝見できたら,それで満足と思って訪問したからです。
魚柄さんは,九州弁交じりのユーモラスたっぷりの文章をお書きになるのですが,実際にお会いしてみると,想像よりずっと真面目な方でした。
あと,本などのお写真で拝見するよりずっとお若い印象を受けました(笑)。
皆さんで記念写真を撮り,解散となりました。
魚柄さんと「食の文化を考える会ミズホ」の皆さんに深くお礼申し上げ,カフェを後にしました。
新幹線車内で食べた手作りサンドイッチ
今回の講演会では,「食の文化を考える会ミズホ」の皆さんが温かく迎え入れてくださったことにも感動しました。
広島へ帰る際にメンバーの皆さんから,お土産として手作りのサンドイッチと横浜中華街の焼売をいただきました。
魚柄さんも「あぁ,帰りの新幹線で食べるといいね」とおっしゃってくださいました。
帰りの新幹線車内で,夕食として車内販売のコーヒーと一緒にいただきました。
(手作りサンドイッチと新幹線車内販売コーヒー)
やわらかいリーン系のロールパンに切れ目を入れてクリームチーズを塗り,プロシュート,レタス,スライスオニオンをはさんだおしゃれなサンドイッチでした。
帰りの新幹線で食べることを考え,1つずつラップして御用意くださったのでしょう。
そのお気持ちも含めて,美味しくいただきました。
後日いただいた横浜中華街の焼売も,肉と海老がプリプリで,今まで食べたことのない美味しい焼売でした。講演会の前に買いに行ってくださったようです。
携帯電話にメールをくださった方もおられました。
お世話になった皆様には,今も感謝の気持ちで一杯です。
今でも夢ではなかったのかと思うぐらい幸せな1日でした。
<参考文献>
魚柄仁之助「食育のウソとホント 捏造される「和食の伝統」」こぶし書房
魚柄仁之助「台所に敗戦はなかった 戦前・戦後をつなぐ日本食」青弓社
魚柄仁之助「魚柄の料理帖 人生,楽しく食べること」光文社文庫
魚柄仁之助講演会「食生活が急速に変化した昭和の時代~昭和初期の非常食が生んだ今日のグルメ料理~」資料
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