チョコレートの魅力 -ショコラミルの実演とオランジェット作り体験-
広島市植物公園のバレンタイン企画
広島市植物公園では,毎年2月にバレンタインデーにちなんだイベント「バレンタインフェスティバル」が開催されています。
チョコレート研究の第一人者,広島大学の佐藤清隆名誉教授の講演会や,カカオニブからのチョコレート作り体験など,盛りだくさんのイベントが用意されています。
身近にチョコレートのことが学べる絶好の機会ですので,私も参加し,勉強させていただいています。
チョコレートはもちろん,佐藤先生のお人柄や面白いトークも大きな魅力となっています。
佐藤先生とは広島空港から帰りのバス・電車や通勤電車の中でもお会いしたことがあり,その時は食文化やご当地耳かき,旅行の話などで話が盛り上がりました。
昨年参加できなかった分,今年(2019年)は佐藤先生にお会いしたい気持ちも強く,バレンタインフェスティバルの講演会に参加しました。
講演会「チョコレートのサイエンスロマン~チョコレートのおいしさを探る~」
私が講演会場に着くと,佐藤先生からいきなり「去年はいなかったよね?」と言われてしまいました(笑)
ハイ,スミマセン…。
カカオの特徴やチョコレートの歴史などチョコレートの概要については,当ブログの過去の記事(「チョコレートの研究」食文化事例研究)を御参照いただくこととして,今回私が新たに学んだことを中心にまとめておきたいと思います。
【カカオ豆の生産量について】
チョコレートの故郷は中南米だが,生産量は40万トンと,アフリカの292万トン,アジアの66万トンに次ぐ順位となっている。
アフリカなどに比べて面積が狭いことが主な理由。
【カカオ豆をバナナの葉で発酵】
カカオ豆の発酵にバナナの葉が使われる理由は,バナナの葉にはカカオ豆の発酵に必要な酵母がたくさん含まれているため。
そして何より,カカオ豆にバナナの葉をバサッとかけて発酵させるのが最も手っ取り早い方法であるため。
【カカオ豆の摩砕方法】
カカオ豆の摩砕には,①石を水平に回転させる(石臼),②石を垂直に回転させる,③ローラーを回転させる(リファイナーなどの専用機械)といった方法がある。
現在,ビーントゥバーの店では②の方法が,チョコレート工場では③の方法が中心となっている。
【カカオニブの栄養成分】
脂質(ココアバター)が多くを占める。
ポリフェノール,アルカロイド,ミネラル,食物繊維も多い。
ビタミンA,B(1,2,3,5,6,9),E,Kも含まれるが,ビタミンCがない。
【第4のチョコレート】
ブラックチョコレート(第1のチョコレート),ミルクチョコレート(第2のチョコレート),ホワイトチョコレート(第3のチョコレート)に次ぐ第4のチョコレートとして「ルビーチョコレート」が注目されている。
(キットカットショコラトリー サブリム ルビー)
ルビーチョコレートは,カカオ豆の紫色(ポリフェノールの色)を保たせたチョコレートで,カカオ豆に酸を加え,発酵させて作られる。酸味があるのが特徴。
製法が難しいので,高価なチョコレートとなっている。
(※ホワイトチョコレートを進化させた「ブロンドチョコレート」も第4のチョコレートとして注目されている。)
講演会では,カカオニブ(カカオ豆の中身)の試食もありました。
(ハチミツ入りカカオニブ)
そのまま食べると苦いため,カカオニブにハチミツがかけられています。
レモン汁をかけても美味しくいただけるそうです。
ショコラミルの実演とオランジェット作り体験
講演終了後,カカオニブを磨砕する石臼(ショコラミル)の実演とオランジェット作り体験が行われました。
(ショコラミルの実演)
ショコラミルの上にある穴にカカオニブを少しずつ入れていき,ハンドルで石臼をグルグル回すと,摩砕されてドロドロに液状化したチョコレートが下から出てくるしくみになっています。
(ショコラミルからチョコレートができあがる様子)
ショコラミルの下側から褐色のチョコレートが流れ出ています。
この純粋なチョコレートを,マシュマロやオレンジピールにつけて試食させていただきました。
続いてオランジェット作り体験と試食をさせていただきました。
オランジェットは,砂糖漬けの柑橘類の皮(ピール)をチョコレートでコーティングしたフランス生まれのお菓子です。
今回はあらかじめ用意されたオレンジピールを湯せんで溶かしたチョコレートでコーティングする仕上げの作業を体験させていただきました。
(オランジェット作り体験の様子)
チョコレートフォンデュと同じ要領です。
このオランジェットがとても美味しく,感動しました。
ここで,オランジェットについても少しまとめておきたいと思います。
オランジェットの美味しさの秘密
今回のオレンジピールは,広島県呉市・大崎下島久比で採れた完全無農薬の甘夏ミカンで作られたものです。
佐藤先生が私に,このピールの素晴らしさをしきりに熱弁されたので,私もそれに応え「皆さんにもぜひ,このピールをアピールしてください」とお答えしました。
冗談はともかく,このオレンジピールがとても美味しかったのです。
(オランジェット)
その美味しさの理由をまとめてみました。
【美味しさの理由 その1】 「厚い皮」
皮が厚い柑橘類は食べにくく,敬遠されがちですが,オレンジピールにする場合は,逆に皮が厚い方が美味しいことがわかりました。
【美味しさの理由 その2】 「甘夏みかんの果汁」
さらにこのオレンジピールには美味しい理由がありました。
オレンジピールは一般的に,柑橘の皮に水と砂糖(グラニュー糖)を加え,ことこと煮て,乾燥させるという流れで作られますが,今回のオレンジピールは水の代わりに甘夏みかんの果汁を使って作られていたのです。
こうすることで,濃縮された甘夏みかんの果汁がピールに浸み込み,苦味もやわらいだ美味しいオレンジピールに仕上がっていました。
【美味しさの理由 その3】 「カカオ90%のチョコレート」
今回のチョコレートは,ガーナ産カカオ90%で,かなりのハイカカオチョコレートが使用されています。
この苦さがオレンジピールの甘さを引き立て,美味しいオランジェットに仕上がることがわかりました。
広島は日本有数の柑橘類の産地ですが,近年,高齢化の進展や後継者不足で,柑橘類ができても収穫されず(収穫できず)にそのままとなっている農園も多くみかけます。
そして消費者も「食べにくい」という理由で,特に厚い皮の柑橘は人気がいま一つとなっているのが現状です。
こうした状況の中,オランジェットのような食べやすく,高付加価値のお菓子を作ることで,高収益化・ブランド化につなげ,もっと魅力を感じる農業・地域に発展させることができないかと思っています。
広島市植物公園のカカオポッド
広島市植物公園の大温室で2個のカカオポッドがすくすくと育っていました。
(広島市植物公園のカカオポッド)
今年春から夏にかけて完熟する見込みだそうです。
5月にはカカオの花が咲き,花見も楽しめるようです。
その花粉を受粉させる道具として,耳かきが適しているとのお話がありました。
会場の皆さんは「へえー耳かきがいいんですか」と驚いておられました。
耳かきの話題が出たのですが,私はあえて大人しく聞いていました。
だって…カカオの花の受粉用に,私が集めた全国の耳かきを持ってきてほしいという話になっても困りますから(笑)
<関連サイト>
「広島市植物公園」(広島市佐伯区倉重三丁目495番地)
「ショコラミル」(石臼チョコレートの紹介)
「ルビーチョコレート」(キットカットショコラトリー)
<関連記事>
「チョコレートの研究」(食文化事例研究)
<参考文献>
佐藤清隆『チョコレートのサイエンスロマン(広島市植物公園講演会)』資料
« 富山の薬膳料理・菓子 -やくぜんカレー・やくぜん茶・富山飴・ゲンゲ・薬都富山のめぐみ 食やくスイーツ- | トップページ | CAPIC・木製ふくろうの耳かき -北海道釧路市- »
「食文化事例研究」カテゴリの記事
- 関東の「長命寺桜もち」と長命寺 -東京都墨田区向島-(2025.01.19)
- 侍MANEKI珈琲(兵庫県姫路市)のアーモンドトーストとバックハウスイリエ(兵庫県尼崎市)のクリームパン(2024.12.29)
- あずきの研究19 -「さいちのおはぎ(秋保おはぎ)」の特長と人気の理由を探る-(2024.12.22)
- ドライブインの魅力3 -山口県岩国市「ドライブインあけみ」のマヨカツ丼と貝汁-(2024.12.01)
- チョコレートの新しい潮流6 -ごぼうを使ったチョコレート風味のお菓子「GOVOCE(ゴボーチェ)」-(2024.11.24)
コメント
« 富山の薬膳料理・菓子 -やくぜんカレー・やくぜん茶・富山飴・ゲンゲ・薬都富山のめぐみ 食やくスイーツ- | トップページ | CAPIC・木製ふくろうの耳かき -北海道釧路市- »
太田哲雄さんのカカオの話に興味を持たれたのが理解できた気がします。
今頃!と言わないでくださいね(^^;)
ブロンドチョコレートが出た頃、ずいぶん話題になっていた&いろんな商品が
出ていた記憶がありますが、今じゃすっかり影を潜めてしまいましたね。
ルビーチョコレート、一度は食べてみたいものです…
投稿: chibiaya | 2019年2月13日 (水) 22時21分
chibiaya 様
chibiayaさん,こんばんは!
コメントいただき,ありがとうございます。
書評を通じて太田哲雄さんについて教えていただき,ありがとうございました。
http://chibiaya.cocolog-nifty.com/chibiaya/2018/10/2018-9-aa29.html
太田哲雄さんのスゴイところは,カカオをチョコレートの原料だけでなく,食材として活用することも考えておられることです。
例えば,今回の記事でも,カカオニブ(ローストしたカカオ豆の中身)の試食について触れましたが,(人によって差はありますが)そのまま食べても美味しいんです。
そんな魅力的な食材ともなり得るカカオを料理に応用される試みに興味を持っています。
ブロンドチョコレート,確かに一時期に比べるとあまり話題に出なくなりましたね。
ミルクチョコ,ホワイトチョコとチョコレートの製法の変化でとらえると,ブロンドチョコレートも第4のチョコレートと言えると思うのですが…。
注目のルビーチョコレートは,その色が魅力的なことや,希少性があることで注目を浴びているのでしょうね。
確かに私も食べてみたいです(゚▽゚*)
ルビーチョコがかかった赤いレモンケーキとか販売されたら,お互いすぐ買いに行きますよね(笑)
投稿: コウジ菌 | 2019年2月14日 (木) 20時50分