アルメニア・ウズベキスタン・ロシア・モルドバのスープとパン
広島市内のカフェで,旧ソ連の国の朝食(スープとパン)を味わう企画がありました。
世界各国を訪問され,とりわけ旧ソ連の国がお好きな店主さんに御紹介いただきながら,各国の朝食を味わいました。
今回御紹介するスープ・パンはアルメニア・ウズベキスタン・ロシア・モルドバの料理ですが,まずは各国の位置関係を確認しておきましょう。
(アルメニア・ウズベキスタン・ロシア・モルドバ)
※画像をクリックすると拡大します。
荻野恭子「ロシアのスープ」東洋書店 表紙裏を引用(一部加工)
東ヨーロッパから中央アジアにかけて,国の料理がバランスよく選択されていることがわかります。
アルメニアの「レンズ豆のスープ」とコーカサス地方のパン
アルメニアはアゼルバイジャン・ジョージア(グルジア)とともにコーカサス地方に位置する国です。
住民のほとんどがアルメニア人でキリスト教徒(アルメニア正教)です。
アルメニアを代表するスープとして,丸く平べったいレンズ豆がたっぷり入ったスープをいただきました。
(レンズ豆のスープとコーカサス地方のパン)
レンズ豆が主体のスープという点で,トルコ料理の「メルジメッキ・チョルパス」やインド料理の「ダル・スープ」ともよく似ています。
今回のスープの具は,レンズ豆,鶏肉,玉ねぎ・ジャガイモなどの野菜,ディル,パセリなどでした。
スープのベースには,トマトペーストとパプリカが使われていました。
パンは同じくコーカサス地方の平たく丸いパンです。
ウズベキスタンの「モシュホルダ」と「ノン」
ウズベキスタンは中央アジア(カザフスタン,キルギスタン,タジキスタン,ウズベキスタン,トルクメニスタン)に位置する国です。
中央アジアには「~スタン」という国名が多いですが,これはペルシャ=トルコ系特有の地名接尾辞で,「~の国(広範な地域)」という意味を持ちます。
ウズベキスタンは,トルコ系遊牧民ウズベク人の国という意味で,イスラム教徒のウズベク人が多くを占める国です。
そんなウズベキスタンの代表的なスープが「モシュホルダ」です。
(モシュホルダとノン)
モシュは緑豆,ホルダは米のスープという意味です。
具は緑豆と米が基本で,それに肉や野菜が加えられます。
中央アジアは,旧ソ連の支配下にあった影響で,イスラム教徒でありながら豚肉を食べる,飲酒をするといった食文化もみられます。
今回のモシュホルダも豚肉が使われていました。
中央アジアでは米を使った料理も多いのですが,モシュホルダのようにスープに米が入れられる理由は,スープにとろみを出すためなのだそうです。
クミン(シード)を入れられるのも特徴の1つで,カレーのような香りがするスープでした。
パンは同じくウズベキスタンの「ノン」と呼ばれるパンで,結局はパンという意味なのだそうですが(笑),平たいパンで,表面にはブラッククミン(ブラックシード)がかけられていました。
ウズベキスタンの「シュルパ」と「ナン」
続いてウズベキスタンのスープを御紹介します。
ウズベキスタンの「シュルパ」です。
(シュルパとナン)
「シュルパ」は(羊の)スープという意味で,シルクロードのイスラム圏で食べられているスープです。
羊とクミンの組み合わせが特徴となっています。
今回のシュルパの具は,羊肉(ハラルフード),玉ねぎ,ジャガイモ,ピーマン,クミン,赤唐辛子,香菜(パクチー)などでした。
ロシア,中国,インド,中東各国など近隣諸国の影響も受けており,クミンや赤唐辛子などのスパイスも使われています。
私は,「ウズベキスタンやタジキスタンのバザールで朝鮮半島のキムチが売られているのはなぜか」と疑問に思っていたのですが,当日カフェで同席した方に旧ソ連の歴史にお詳しい方がおられ,その方から「スターリン体制下の強制労働により,朝鮮半島から移住してきた人々によって伝えられたから」だと教えていただきました。
パンは一次発酵のみで焼き上げた「ナン」です。
ロシアの「ウハー」とライ麦パン
ロシアは川や湖沼が多く,内陸部でも魚料理がよく食べられます。
そんなロシアを代表する魚のスープが「ウハー」です。
魚は,カワカマス,ヒラメ,鯛,スズキ,タラ,鮭などが用いられます。
(ウハーとライ麦パン)
今回のウハーの具は,タラ,干しダラ,ジャガイモ,クレソンなどでした。
干しダラのスープと言えば,韓国・朝鮮料理の「プゴク」が有名ですが,その干しダラからよい出汁が出ていました。
パンはライ麦パンです。
モルドバの「金時豆とベーコンのスープ」とライ麦パン
モルドバは,ウクライナやベラルーシとともに東ヨーロッパに属する国です。
民族や言語は,隣のルーマニアと同じであり,オスマントルコ,ロシア(ソ連),ルーマニア間で支配・併合が繰り返されてきた歴史があります。
今回,モルドバを代表するスープとして「金時豆とベーコンのスープ」をいただきました。
(金時豆とベーコンのスープとライ麦パン)
このスープは,トマトベースのスープで,具は金時豆(レッドキドニー),ベーコン,玉ねぎなどが使われていました。
ニンニクと香菜(パクチー)がきいた,元気が出るスープでした。
パンはライ麦パンです。
まとめ
今回はロシアや旧ソ連のスープを御紹介しましたが,その範囲は東ヨーロッパから黒海やカスピ海を有するコーカサス地方を経て中央アジアまでと広範囲にわたり,気候・民族・文化・宗教など実に様々です。
記事の締めくくりに,ロシア・旧ソ連諸国にちなんだ私の好きな曲を御紹介したいと思います。
ロシアの作曲家アレクサンドル・ボロディンの「ダッタン(韃靼)人の踊り」(ボロヴェッツ人の踊り)です。
ボロディンのオペラ「イーゴリ公」の曲です。
(ボロディン オペラ「イーゴリ公」より「韃靼人の踊り」 )
美しく透き通るような旋律から,異国情緒やノスタルジー,もの悲しさまで感じとれます。
お店では,旧ソ連構成国の国歌メドレーを流していただいたり,有名なロシア民謡「カチューシャ」をロシア語でお歌いになられた方もおられ,盛り上がりました。
日本ではまだあまり知られていない国も多いですが,様々な民族,文化,宗教が融合した魅力いっぱいの国ばかりです。
<関連サイト>
「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)
「Da bin ich! -わたしはここにいます-」(「Cafe Igel あかいはりねずみ」店主のブログ)
<参考文献>
荻野恭子「ロシアのスープ」東洋書店
荻野恭子「大地が育むユーラシアの味 ロシアの郷土料理」東洋書店
21世紀研究会編「地名の世界地図」文春新書
最近のコメント