スペイン料理の特徴と主な料理 -ソパ デ アホ・スペイン風サラダ・たことジャガイモ・コシード風煮込み・ボカディージョ-
広島市内のカフェで「ドン・キホーテの夜(Noche de Don Quixote)」と称したスペイン料理を味わうイベントがありました。
今回はスペインの代表的な料理を御紹介しながら,スペインの食文化の特徴についてまとめてみたいと思います。
ドン・キホーテの夜
スペインの代表的な料理をプレートに盛られて御用意いただきました。
(スペイン料理プレート)
それぞれの料理を御紹介します。
【ソパ・デ・アホ】
(ソパ・デ・アホ)
スペイン語で「ソパ」がスープ,「アホ」がニンニクで,ニンニクのスープという意味です。
スペイン料理は,ニンニクやオリーブオイルを使った料理が多いのが1つの特徴ですが,このソパ・デ・アホもそうした料理の1つです。
そしてこの料理のもう1つの大きな特徴は,スープの中に乾燥したパンが入れられることです。
食事で余ったパンは,乾燥してすぐにカチカチに固まってしまいますが,ソパ・デ・アホは,そうしたパンを捨てずに食べ尽くすための料理でもあるのです。
(スペインに限らず,スープはもともと乾燥したパンを液体に浸して食べるための料理であり,スープにクルトンを浮かべるのはその名残りだと言えます。)
今回のソパ・デ・アホも,ニンニクが効いたスープの中に,ふわふわの玉子と一口大にちぎったパンが入っていて,とろみのある美味しいスープに仕上がっていました。
ちなみに,スープにパンを入れる量が多いとドロドロの,少ないとサラサラのスープになります。
【スペイン風サラダ】
(スペイン風サラダ)
レタス,トマト,ピーマン,レンズ豆,ツナなどのスペイン風サラダ(ピカディーリョ)です。
オリーブオイルで生野菜をいただくと,野菜の甘みが増すように思いました。
【たことジャガイモ】
(たことジャガイモ)
スペイン人は,日本人と同様,魚介類や米をたくさん食べるという特徴があります。
魚介類で言えば,タラ,イカ,タコ,海老,ムール貝などが食べられますが,この中に他のヨーロッパ人が「悪魔の使い」として忌避するタコまで入っていることが興味深いです。
最近は日本でも,スペイン料理店などで惣菜・タパスの1つとして,ガリシア地方の「タコのガリシア風」という料理もよく見かけるようになりました。
今回の料理は,タコと一緒に茹でたジャガイモが添えられていますが,これも定番料理の1つです。
【コシード風煮込み】
(コシード風煮込み)
コシードとは,肉や野菜,豆などを使った煮込み料理のことです。
今回のコシード風煮込みは,豚肉,ソーセージ,ひよこ豆,人参,玉ねぎ,キャベツなどの食材で作られていました。
角切りの豚肉やひよこ豆がやわらかくなるまでじっくり煮込まれていて,ボリューム感もある美味しい料理でした。
ボカディージョ
ボカディージョは,スペイン版のサンドイッチのことです。
(ボカディージョ)
細長いバゲットに切れ目を入れて,中にハム(生ハムなど)やチーズ,トルティージャ(スペイン風オムレツ),タラ(バカリャウ)の天ぷら,イカのフライなどの具をはさんだサンドイッチで,バルなどで気軽に食べられている国民食です。
今回のボカディージョは,バゲットにトルティージャをはさんだものを御用意いただきました。
(ボカディージョ(中身))
皮がパリパリで中がもっちりとしたバゲットにトルティージャがよく合い,シンプルな美味しさを感じました。
ちなみに今回のバゲットは,広島県東広島市の「Boulangerie Chez Georges」(ブーランジュリ シェ ジョルジュ)のパンです。
今回のイベントでは,ドリンクとしてスペインビールやラ・マンチャ(地方)のワインも用意されていました。
お酒に弱い私はいただきませんでしたが,ラ・マンチャには古くは「ティナハ」と呼ばれる素焼きの甕でワインが作られてきた歴史があり,セルバンテス「ドン・キホーテ」のゆかりの地でもあるので,今となっては多少酔ってでもラ・マンチャのワインを味わっておくべきだったと少し後悔しています。
スペインの豚食とドン・キホーテ
スペインの代表的な食材として,オリーブ(オイル)・米・ブドウ(ワイン)・豚肉(生ハム)などが挙げられますが,このうちオリーブ(オイル)や米についてはイスラム教徒がイベリア半島にもたらした食材で,逆にワインや豚肉(生ハム)についてはイスラム教徒が決して口にすることのない,キリスト教徒ならではの食材です。
こうした食材が混在する背景には,かつてのイスラム教徒によるイベリア半島占領と,それを受けたキリスト教徒によるイスラム教徒からのイベリア半島奪還運動(「国土回復運動(レコンキスタ)」)が深く関係しています。
レコンキスタによりイスラム教徒から国土を奪還したキリスト教徒は,イスラム教徒やユダヤ教徒,そしてレコンキスタによりキリスト教に改宗した「新キリスト教徒」と区別するための手段として,「豚肉(主に生ハム)が食べられるかどうか」を「踏絵」として利用しました。
こうした時代背景を物語っている文学作品が,セルバンテスの「ドン・キホーテ」です。
「ドン・キホーテ」の舞台であるラ・マンチャは,かつて多くのイスラム教徒が住んだ地方であり,物語の主人公(アロンソ・キハーダ,ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ)や作者のセルバンテス自身は「改宗ユダヤ教徒(コンベルソ)」,ロレンソ(ドゥルシネーア姫)などは「改宗イスラム教徒(モリスコ)」であったとする研究成果があります。
そして豚(食)と差別に関係する話が頻繁に登場することから,当時のスペインの世相を皮肉たっぷりに表現した作品だと説明することができるのです。
スペインやその影響を受けたフィリピン(国名はスペイン国王・フェリペ2世に由来)などの国で豚肉の料理が多いのも,豚肉がスペイン人のアイデンティティに関わる食べ物だからと言えます。
今回のスペイン料理イベント「ドン・キホーテの夜」では,ラ・マンチャ(地方)の話題などで盛り上がりましたが,「ドン・キホーテ」については,「♪ドン ドン ドン ドン・キー,ドン・キ ホーテ♪」とディスカウントストア「ドン・キホーテ」の話題となり,ドンドン話が別の方向へ進んでいきました。
私も「夜のドン・キホーテ」の話題で盛り上がった客の1人ですが(笑)
<関連サイト>
「Cafe Igel あかいはりねずみ」(広島市南区的場町1-7-2)
「Boulangerie Chez Georges(ブーランジュリ シェ ジョルジュ)」(東広島市西条東北町2-14-101)
<参考文献>
神田外語大学編「連続講義 <食べる>ということ 「食」と「文化」を考える」神田外語大学出版局
(Ⅰ 世界の<食> 「6 スペインの豚食」本田誠二教授(スペイン文学))
沼野恭子編「世界を食べよう!東京外国語大学の世界料理」東京外国語大学出版会
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