カンボジア料理の特徴と主な料理3 -カンボジアの発酵調味料「プラホック」作り体験-
カンボジアの代表的な発酵調味料「プラホック」
カンボジアはトンレサップ湖やメコン川,シェムリアップ川など豊かな水源に恵まれ,雨季と乾季では水量が大きく異なります。
そのため,稲作による米と,水量の変化に伴って移動する大量の魚を食の基本とする食文化が形成されました。
そして,限られた時期に大量に採れる小魚を1年を通じて安定的に食べるため,魚を塩とともに発酵させ,保存する食文化も形成されました。
その1つが今回御紹介する発酵調味料「プラホック」です。
今回の「カンボジア食の旅」の1番の目的はホームステイ先でのプラホック作り体験でした。
プラホックは,淡水の小魚を塩漬けにして発酵させたペースト状の調味料で,カンボジアの代表的な発酵食です。
日本でいう味噌や醤油のような,カンボジア料理には欠かせない調味料です。
発酵には時間がかかるので,2泊3日のホームステイ期間中にプラホックを作り上げるのは限界がありますが,小魚を仕込んで発酵させるまでの一連の作業を学んできましたので,御紹介したいと思います。
ホームステイ先の紹介
今回,私はカンボジア・コンポントム州の郊外,「サンボー・プレイ・クック遺跡」近くの家にホームステイさせていただきました。
アンコール・ワットのあるカンボジア・シェムリアップから東南に約180km,車で約3時間ほどの場所にあります。
(ホームステイ先の玄関)
(ホームステイした家)
家は高床式で,2階で生活するようになっていました。
カンボジアの,特に郊外では,ほとんどの建物がこうした高床式なのですが,これは雨季の増水対策や暑さ対策によるものです。
プラホック作りは,主に1階の調理スペースで行いました。
初日(小魚の鱗をとる)
それでは具体的なプラホック作りを御紹介します。
川や湖で収穫した様々な種類の小魚です。
(様々な種類の小魚)
銀色の魚,茶褐色の魚,丸い魚や細長い魚など様々な小魚で作られることがわかりました。
あらかじめ頭と尾びれは取り除かれています。
初日の夕方,まずは包丁で小魚の鱗を取り除く作業を体験しました。
(包丁で小魚の鱗をとる)
見た目は簡単そうだったのですが,実際にやってみると,小魚がグニュグニュ動く上に鱗が硬いので,鱗だけ取り除くのはかなり面倒でした。
(鱗を取り除いた後の小魚)
写真手前の青いザルに入っているのが鱗を取り除いた後の小魚,緑の容器に入っているのが作業前の小魚です。
作業が終わった小魚は,再び水に漬けて一晩置きました。
(水に漬けた小魚)
2日目(小魚の内臓を取り除く)
翌朝,プラホック作りの再開です。
次の写真は,一晩水に漬けておいた小魚の様子です。
(一晩水に漬けた小魚)
小魚が水を吸って膨らんでいるのがわかります。
この小魚のお腹に指を突っ込み,内臓を取り除く作業を体験しました。
(小魚の内臓を取り除く様子)
カンボジアのガイドさんが英語で丁寧に教えてくださいました。
(小魚の内臓を取り除く様子(拡大))
「いちいち内臓を取り出さなくても,いっそのこと包丁でお腹の部分を全部切り取ってしまえば楽なのに」と思ったのですが,お腹の部分も発酵させることでうま味が出てくるのだと思います。
2日目(水洗い・脂抜き・水抜き)
小魚の内臓を取り除いたら,きれいに水洗いし,腹身の脂を抜きます。
これは脂肪分による傷み(酸化・腐敗)を防ぎ,長期保存を可能にさせるためなのでしょう。
その後,細かい網目の布で水分を抜きます。
(布で小魚の水分を抜く様子)
かつては布ではなくバナナの葉を使って水分を抜いたそうです。
その後,小魚をザルに入れ,上から重りをのせてさらに水抜きをします。
(小魚の水抜き(カボチャの重り))
上から重りを載せて水分を抜いている様子の写真ですが,重りにカボチャが使われています。
ポルトガル人がカンボジアを経由して日本に伝えられたことに由来する「カボチャ」の名称ですが,カンボジアでも大活躍です(笑)
その地にある材料を活用して食文化が形成されている事例ですね。
2日目(小魚を塩でもむ・塩漬けにする)
しばらく置いてある程度水分が抜けた小魚に,たっぷりと塩をかけます。
(水分を抜いた小魚に塩をかけた様子)
プラホック作りに使われる塩は,カンボジアのコッコン(Koh Kong)やカンポット(Kampot)で採れる海の塩を使っておられるそうです。
(プラホックに使われる塩)
精製されていない粗目の塩です。
この塩でないと長期保存ができず,プラホックがうまく作れないとおっしゃってました。
コンポントムは海から遠く離れた内陸部の地域で,しかも淡水魚で作るにもかかわらず,塩は海の塩が使われることは興味深いです。
この塩を使って,手で小魚をよくもみます。
(小魚を塩でもむ様子)
この作業を何度か繰り返すことにより,小魚の水分を抜くとともに,塩分濃度を上げ,保存性を高めるのです。
作業終了後,再びカボチャの重りをのせて一晩置きました。
3日目(小魚を塩でもむ・容器詰め)
一晩塩漬けした後の様子です。
(塩漬け後の小魚の様子)
かなり水分が出ています。
その水分が抜けた小魚を布(写真上部)に移しかえている写真です。
この状態になると,魚が腐敗したような,かなりのにおいがします。
そしていよいよ,この小魚を容器で保存・発酵させるための最後の塩もみを行いました。
(小魚を塩でもむ様子(仕上げ))
こうして小魚に塩をまんべんなくして,それを保存・発酵用の容器に詰めました。
(容器詰め)
小魚の上に葉っぱをのせ,その上から手で押し込んでいるのですが,この葉っぱはバナナの葉です。
バナナの葉を入れておくと,その葉っぱに幼虫が集まってくるので,しばらく置いた後,バナナの葉ごと捨てるのだそうです。
当ブログのチョコレートの記事(※関連記事参照)で,バナナの葉を使ってカカオ豆を発酵させることを御紹介しましたが,バナナの葉により,発酵が促進される効果もあると思います。
この状態で数か月~1年間程度保存・発酵させればプラホックの完成です。
(プラホック)
小魚の塩漬けですが,意外と手間と時間がかかることがわかりました。
実際,現在のカンボジアでは,プラホックを作った経験のある人は30代以降の人々に限られるとのお話でした。
こうした伝統食の移り変わりも,かつては各家庭で作られていた日本の味噌と似ているように思いました。
出来上がったペースト状のプラホックは,日本の味噌と同じくスープのベースにしたり,肉・野菜等の炒め物やディップの調味料にしたり,さらにはそのまま焼いて食べることもあるとのことで,カンボジア料理の基礎調味料・保存食として幅広く料理に用いられています。
カンボジアの食文化を直接学ぶことができ,貴重な経験となりました。
<関連記事>
「カンボジア料理の特徴と主な料理1 -アモック・プラホック・クティ・ラパウ・ソンクチャー・Go to Cambodia!-」
「チョコレートの新しい潮流2 -ハイカカオと機能性チョコレート,発酵の重要性-」
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タイやベトナムの料理は好きですし、しょっつる鍋もいけますが
くさやは修行が足りないのでまだ苦手(^_^;)
レストランに比べ屋台はクセがあったと記憶しているので、家庭
で作るプラホックは結構クセがありそうですが如何でしょう?
子供の頃、父親の田舎で作った手前味噌が時々送られて来まし
たが、私は好きでしたが兄は苦手でした(^_^;)
投稿: なーまん | 2019年11月18日 (月) 00時56分
なーまん 様
なーまんさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
くさやは独特のにおいがありますが,プラホックはそのにおいに近かったです。
カンボジアでも若者はプラホックを作らなくなったようですが,それは手間がかかる上に,特有の発酵臭があるからではないかと思います。
確かにクセが強かったですが,その分ハマると好物になるのかなと思いました(笑)
現代では,手作りより市販のものが安定していておいしいと思う人も多いのかも知れませんね。
今回訪問した家のお母さんたちは逆に「誰が作ったか,何が入っているかわからないものは食べたくないから全て手作りにしている」とおっしゃってました。
だから1日中食事を作りっぱなしだったのが強く印象に残っています。
ひと昔もふた昔も前の日本だなと思いながら寝食を共にしました。
投稿: コウジ菌 | 2019年11月18日 (月) 20時14分
作ったプラホックは日本にお持ち帰りしたんですか?
臭いから持ち込み禁止??
それにしても、これを学びにカンボジアまで行かれるとは、
コウジ菌さんの食の探求心には脱帽です。
投稿: chibiaya | 2019年11月18日 (月) 22時22分
chibiaya 様
chibiayaさん,こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
さすがchibiayaさん,いい御質問です。
「プラホックを日本に持って帰ることができるかどうか」が一番の悩みでした。
日本への持込み品で,肉はダメだと説明されているのですが,魚は明記されてなく,どうなんだろうとずっとメンバーで悩みました。
においも強烈ですし…。
ヘタすれば,プラホックだけでなく,荷物全部が没収になるかもという不安が付きまとい,最終的には「持って帰らない」という判断をしました。
肉や完熟したパパイヤなどもそうですが,数々の制限があり,現地でしか味わえない食べ物もたくさんあるんだなと改めて思いました。
カンボジア旅行は,プラホックをはじめ,日本ではあまり知られていないカンボジアの食文化について学びたいと思い,決断しました。
いろんな発見があったので,引き続き記事でまとめてみたいと思います。
投稿: コウジ菌 | 2019年11月19日 (火) 19時28分