美祢社会復帰促進センターと受刑者の食(前編) -センターの概要,美祢定食,受刑者・出所者の人権について-
職場で人権学習会があり,「刑を終えて出所した人の人権」について,広島法務局,広島矯正管区そして中国地方更生保護委員会の方々の講演を聴講しました。
その中で,受刑者の食事についての話題となり,「(賛否両論はあるが,)受刑者が健全できちんとした考えを持って社会復帰するためには,栄養・カロリー・美味しさなどバランスのとれた食事を提供することが1つの方法」という観点で食事を提供されているというお話を伺いました。
食によって人は豊かな気持ちにも,すさんだ気持ちにもなりますので,受刑者の矯正や社会復帰そして再犯防止のために,普段の食生活を考慮することも大切ではないかと思います。
ただ,受刑者・出所者の人権だけでなく,犯罪被害者の人権も尊重・考慮する必要があるため,誰もが納得できる方法を導き出すのは難しいところもあるのですが。
こうしたことを考えるうち,山口県美祢市(みねし)にある刑事施設「美祢社会復帰促進センター」を訪問し,矯正行政の先進的な事例や受刑者の食について学んでみたいと思うようになりました。
そこで広島からJRとレンタカーを利用し,同センターを訪問しました。
美祢社会復帰促進センター
美祢社会復帰促進センターは,山口県下関市との市境に近い美祢市豊田前(とよたまえ)町にある刑事施設(刑務所)です。
(美祢社会復帰センター庁舎)
(美祢社会復帰センター案内図)
敷地総面積280,622㎡,収容人員1,300人(男性受刑者500人・女性受刑者800人),職員数(国・民間)合わせて約1,000人という大規模な施設です。
(美祢社会復帰センター東エリア)
PFI手法を活用した官民協働の刑務所で,法務省のほかに,セコム,エームサービス,日立製作所,日本ユニシス,日鉄エンジニアリング,小学館集英社プロダクション,ニチイ学館,美祢市などで運営されています。
(美祢社会復帰センター西エリア)
さらに「地域との共生」事業の一環として,美祢市立豊田前保育園の敷地内併設,食堂の一部(一般食堂)の一般開放など全国的にも珍しい先進的な取組みがなされており,同センターの大きな特長となっています。
美祢社会復帰促進センターの美祢定食
美祢社会復帰促進センターの一般食堂を訪問しました。
ランチは11時からなのですが,少し早く到着した私は,食堂に併設された売店を見て回りました。
食堂入口に,全国の各刑務所で製作された「CAPIC」(キャピック:矯正協会刑務作業協力事業)製品が陳列販売されていました。
北海道釧路で製作された木彫りのふくろうの耳かきも販売されていて,ご当地耳かきコレクターとしては大きな発見だったのですが,すでに持っているので,米やサツマイモといった食品を買うことにしました。
やがて11時を迎えたので,食堂と売店を兼ねたレジで売店の食品とランチの食券を購入することとしました。
食堂のメニューは,定食・そば・うどん・カレーライスなどお馴染みのメニューが揃えられていますが,1つだけ特別限定メニューがあります。
「美祢定食」と呼ばれる定食です。
「美祢定食」は,同日にセンター生(受刑者)に給与されている食事と同じものとなっており,センター生の皆さんと同じ料理をいただくことで,センターの食生活を体験することができる特別な定食です。
ちなみに,刑務所の食事は刑務作業の1つとして受刑者自らが作るのが一般的ですが,「美祢定食」については食堂の方が作られているようです。
私は,この定食を味わうことが1番の目的でしたので,「美祢定食」の食券(410円)を購入しました。
これで無事注文できたのですが,ここで1つ考えなければならないことがありました。
食堂に「食堂内撮影禁止」の貼り紙がされていたのです。
こういうケースは初めてでしたが,念のため売店職員の方に「私が購入した定食の写真だけなら可能ですよね」と料理写真に限った撮影について承諾を求めました。
すると「確認してきますので,しばらくお待ちください」とお返事がありました。
しばらく待った後,売店職員の方から「インターネットに掲載せず,個人用としての撮影なら構いません」との回答をいただきました。
私にとっては予想外の回答でしたが,今後のお客さん達に御迷惑をおかけしないためにも,これは守ることにしました。
そこで後日,約1時間かけて「美祢定食」の絵を描きました。
そもそも私は絵を描くことが大の苦手で,だからこそ学生時代は写真部だったのですが,まさか今頃になって絵を描く必要が出るとは思ってもいませんでした。
色鉛筆を使い,気分は法廷画家です(笑)
とてもお恥ずかしいですが,イメージだけでもお伝えできれば幸いです。
(美祢定食(絵))
はい,笑いは収まりましたか?
では続けます。
定食の内容は,麦ご飯,すまし汁,鶏肉と野菜のケチャップソテー,カリフラワーとコーンのサラダでした。
【麦ご飯】
私は普段から麦ご飯を食べているのですが,いつも食べている麦ご飯とは色や粒が少し異なりました。
色が全体的に少し黄色味を帯びていて,少し匂いもありました。
古米が使われているからではないかと思います。
大麦の粒もふっくらとした楕円形ではなく,米粒のような形をしていて,不揃いで細かい粒の割合が多かったです。
また,刑務所での麦ご飯の米と麦の割合は,よく7:3と言われますが,大麦の粒が細かいので,「同量で混ぜられているのでは」と思うほど,麦の粒が目立ちました。
受刑者への食事ということで,市販品とは別扱いされているのでしょう。
一般的にイメージするようなもっちりとした麦ご飯ではなく,多少ボソボソとした食感の麦ご飯でした。
ただ,決してまずいご飯というわけではなく,多少慣れが必要なのだろうなというレベルです。
一方で地元山口県美祢市産のブランド米「晴るる(はるる)」が使われるなど,その地域の食材を生かす取組みもなされています。
【すまし汁】
具はあるかないか程度のネギ,玉ねぎ,もやしなど,味付けは塩・醤油ベースでかなり薄味のすまし汁でした。
外食や中食で濃い味付けに慣れている人には少し物足りない味付けだと思いますが,こちらも「慣れ」の問題なのかもしれません。
【鶏肉と野菜のケチャップソテー】
訪問日の美祢定食のメインディッシュは「鶏肉と野菜のケチャップソテー」でした。
鶏肉,玉ねぎ,ピーマン,さやいんげん,マッシュルームなどを等間隔に切り,ケチャップで炒めた料理です。
肉の割合が多く,ボリュームもあり,美味しかったです。
【カリフラワーとコーンのサラダ】
副菜は,カリフラワーとコーンを酢のドレッシングで和えたサラダでした。
カリフラワーのピクルスをいただいているような味でした。
まとめ
これは「美祢定食」に限った話ですが,確かに麦ご飯は少し独特だったものの,ほかの料理は,とびきり美味しいわけでも,まずいわけでもなく,レシピに忠実に作られた料理だと思いました。
その上で,「刑事施設の食事が美味しい」というイメージが先行するのは本来の趣旨から外れていますが,たとえ限られた予算・条件での食材でも,その美味しさを最大限生かし,食のありがたさをも感じられるような料理を提供することも大切だと思いました。
社会復帰後の再犯防止の観点から言えば,受刑者がきちんとした食生活を送り,豊かな心で自分の人生を見つめ直し,将来をよく考えてもらうことも矯正の1つと言えるのではないでしょうか。
このことについては,皆さん様々なお考えがあろうかと思います。
いずれにせよ,センター生(受刑者)と同じ食事内容となる「美祢定食」の一般への提供は,こうしたことを考えるきっかけにもつながる,矯正行政の先進的な素晴らしい取組みだと思いました。
<関連サイト>
「美祢社会復帰促進センター」(山口県美祢市豊田前町麻生下10番地)
<関連記事>
「美祢社会復帰促進センターと受刑者の食(後編) -紅はるか・受刑米「再誕の丘」-」
「CAPIC・木製ふくろうの耳かき -北海道釧路市-」
「ひろこうフェスタ in 広島拘置所(前編) -性格テスト,人権・薬物クイズ,拘置所内見学-」
「ひろこうフェスタ in 広島拘置所(後編) -革製品制作体験・刑務所製コッペパン・記念品-」
<参考文献>
リーフレット「美祢社会復帰促進センター」美祢社会復帰促進センター
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コメント
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受刑者の男女比は意外でしたが、懲りない面々が収監されている府中刑務所とは、全く異なる施設の様ですね^^
応報刑か教育刑か?
一概には申せませんが、司法というものが統治機構だとすれば、どちらに重点を置いたら治安が良くなるか?
という事で答えを出すしかないと思います^^
監獄飯を「臭い飯」というそうですが、娑婆とは異なる食事を三食摂る事で反省を促すのでしょうか?
身寄りのない老人の中には万引きなどを繰り返し、刑務所を特別養護老人ホーム代わりにしている老人もいて、若い受刑者が介護にあたっている様ですね^^
食べ物と関係ない話ですみませんm(_ _)m
追伸
なーまんは個人事業主で、上司も部下も同僚もなく、今はリモートワーク主体でお客様と直接顔を合わせる機会もはとんどなく、家族も似たような性格なので、キメハラにあう心配はありません(╹◡╹)
痴漢冤罪で収監されない限り(^O^)
投稿: なーまん | 2021年1月23日 (土) 22時10分
なーまん 様
なーまんさん,こんばんは。
同日に二度も御訪問・コメントいただき,お気遣いに心から感謝申し上げます。
とても嬉しいです(^-^)
今回御紹介した美祢社会復帰促進センターは,初犯者のみ対象,女性受刑者の割合が多い(日本一の規模)などの特徴があります。
受刑者を厳格に罰することに重点を置いた矯正を行うか,社会復帰を見据えた教育に重点を置いた矯正をするか,これは法務行政当局も悩んでおられるように感じましたが,おっしゃるとおり,「どちらに重点を置けば治安が良くなるか」が大きな判断基準になりますね。さすがです。
刑事施設で「うまい飯」が食べられるというのも変ですし,だからと言って「くさい飯」を引きずったままというのもどうかと思います。
食事まで罰を与えるのか,食事ぐらいは充実させて反省を促す心を養うのか…。
現在の日本の刑務所は,おっしゃるとおり高齢者の割合が高く,そうした高齢者のために,やわらかい食事を提供するとか,作業できない高齢者に別室を設けて配慮するとか,介護を行うとか,医療施設を設置するといった対策にも取り組む必要が生じているようです。
娑婆よりも居心地がよいと感じている高齢者もいて,再犯を繰り返す人もおられるようですが,これは明らかに問題ですね。
受刑者に反省を促し,良心に基づいて,刑務所に頼らず,自ら将来を切り開き,歩んでいける人間になってもらうことが矯正行政の大きな目標だと思います。
今回に終わらず,これからも私なりに考えていきたいと思っております。
貴重な御意見・御感想をお寄せいただき,ありがとうございました。
キメハラ,お人柄の良いなーまんさんには関係のないお話でしたね。
失礼しました<(_ _)>
投稿: コウジ菌 | 2021年1月23日 (土) 23時31分
おはようございます。
これは貴重な体験ですね。
せっかく出所したけど、生活が苦しいからまた戻りたいとまた罪を犯す人がいるとか。
それほど美味しくなくてもそうなんだから、刑務所の食事が美味しいと、戻ればまた…と思う人もいないでもないかもしれません(笑)
それはさておき、写真が公開できないから絵を描くという発想…!脱帽です。
私も絵が下手ですが、そんな苦労をする気力はありません(笑)
投稿: chibiaya | 2021年1月24日 (日) 07時20分
chibiaya 様
chibiayaさん,おはようございます!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
関東は雪が降っているようですね。暖かくしてお過ごしください。
出所者の再犯防止を目指して,きちんとした食事や環境を提供しても,それを居心地のよさと勘違いされ,また刑務所生活に戻りたいと思われては元も子もないですよね。
もちろん,話に聞いているほど刑事施設は恵まれた環境ではないのだと思いますが。
ただ,今回の人権学習を通じて,国は出所者の人権にかなり配慮されていることは間違いないと確信しました。
これは社会復帰して,きちんとした生活を送れるようにすることが再犯防止につながるという考えによるものです。
私は…与えられる食事ばかりの生活はちょっと無理です(^^ゞ
下手な料理の絵を描いてまで記事にしようと思った理由ですが,「美祢定食」を味わうことを一番の目的に,広島からお金と時間をかけて訪問し,それを無駄にしたくなかったからです。
あと,どんな状況でも,私なりの方法で食の情報をみなさんと共有したいと思っているからです。
入所しても食事をブログにアップしたいと言って刑務官さんを困らせそう(笑)
こうしてchibiayaさんからコメントをいただき,やはり記事にして良かったと思いました(^-^)
投稿: コウジ菌 | 2021年1月24日 (日) 10時26分