美祢社会復帰促進センターと受刑者の食(後編) -紅はるか・受刑米「再誕の丘」-
山口県美祢市にある刑事施設「美祢社会復帰促進センター」。
(美祢社会復帰センター庁舎)
前編に引き続き,美祢社会復帰促進センターと受刑者の食について考えてみたいと思います。
紅はるか
美祢社会復帰促進センターの一般食堂に併設された売店に,センター生(受刑者)が栽培し収穫したサツマイモ「紅はるか」が200円で販売されていました。
(紅はるか(袋詰め))
収穫したてのサツマイモ「紅はるか」です。
大きくてずんぐりとしています。
自宅で蒸し器を使って「紅はるか」を蒸してみました。
(紅はるか)
スイートポテトのような,黄金色のふかし芋ができました。
いただいてみると,見た目どおりの,甘くてねっとりとしたふかし芋に仕上がっていました。
これをつぶして四角い型に詰めれば,そのまま「芋ようかん」になりそうです。
「紅はるか」はもともと甘い「蜜芋」タイプのサツマイモですが,それに,センター生(受刑者)の思いも込められているような気がして,とても甘くて美味しかったです。
刑事施設内の畑で,センター生の皆さんが日々どんなお気持ちで栽培されたのか,想像の世界しかありませんが,そのお気持ちもしっかり受け止め,じっくり味わっていただきました。
受刑米「再誕の丘」
美祢社会復帰促進センターの売店に,受刑米「再誕の丘(さいたんのおか)」と呼ばれる精米・押麦セットが販売されていました。
400g(うち精麦120g)で300円(税抜)でした。
(受刑米「再誕の丘」(包装))
味のある美祢社会復帰促進センターのイラストです。
「再誕の丘」という名称は,センター発行の「再誕の丘だより」によると,「南野知恵子法務大臣(当時)が美祢テクノパークを視察された際,かつて建ち並んでいた炭鉱住宅が美祢社会復帰促進センターに生まれ変わることに因み,『この施設で受刑者が社会復帰するために生まれ変わる』ことを心から願って命名された」とのことです。
この袋詰めの押麦セットに,説明書も同封されていました。
(受刑米「再誕の丘」について)
説明書には,
「近代日本を支え,山口県下に名をはせた大嶺炭田山陽無煙鉱業豊浦住宅は,更生する人を支える美祢社会復帰促進センターに再び生まれ変わりました。『再誕の丘』と呼ばれるこのセンターでは,センター生と呼ばれる受刑者が更生の誓いを胸に生活しています。そのセンター生が毎日食べている受刑米麦めしは,食べた人に毎日を振り返り,自分自身を見つめ直すきっかけを与えてくれます」
とあります。
私はこの受刑米麦めしについて調べ,食べてみることで,受刑者の食の理解を深め,食生活を見つめ直すきっかけにしたいと思いました。
受刑米「再誕の丘」の内容
前編で御紹介した「美祢定食」で味わった麦めしは,一般的な麦めしとは異なり,色が全体的に少し黄色味を帯びていて,少し匂いもあり,米も麦も不揃いで細かい粒の割合が多いものでした。
その印象が強いため,この袋に入っている精米や押麦も,きっと市販のものとは別物だろうと思いつつ中身を観察しました。
(受刑米「再誕の丘」(袋詰め))
この袋詰めを見て,驚いたことが2つあります。
①「押麦の割合が多く見えたこと」
食品表示を見ると,全体量400gのうち押麦が120gとなっているので,米と押麦の割合は7対3ですが,押麦の粒が細かいからか,見た目にはもっと押麦の割合が多いように見えました。
②「米と押麦が一緒に袋詰めされていたこと」
米と押麦が別々に袋詰めされているものと思っていた私は,一緒に袋詰めされていることに驚きました。
なぜなら,市販の押麦は軽く平べったいので水面に浮きやすく,米と押麦を一緒に研ぐと,研ぎ汁を捨てる際,水面に浮いた押麦まで一緒に流れ出てしまうからです。
「これは面倒な作業になるかも」と思いつつ,次のステップに進みました。
受刑米「再誕の丘」の米と押麦
次に,袋詰めの米と押麦を取り出してみました。
(受刑米「再誕の丘」の米と押麦)
米は地産地消の推進もあって,美祢市のブランド米「晴るる(はるる)」が採用されています。
ただ,市販の精米とは異なり,網下の小米が使われています。
そのため,欠けた米が目立ちました。
また,色・艶から見ると,古米もあるのではないかと思いました。
刑事施設向けということで,あえてこうした米が使われているのでしょう。
押麦も欠けていたり,米粒のように細長かったりと,市販の楕円形の平べったい形に揃えられた押麦と比べると,不揃いのものが目立ちました。
御参考までに,市販の米と押麦の写真も掲載します。
(市販の米と押麦)
市販の押麦は,ほぼ形が揃えられていることがわかります。
受刑米「再誕の丘」を研ぐ
次に受刑米「再誕の丘」を研いでみました。
説明書には,
「水で3回程度軽く洗います。3合分の水を入れて炊いてください。通常の米より濁りが多く感じますが味や品質に問題はありません」
と説明されていました。
やはり米と押麦が混ざった状態で米を研ぐようで,押麦が水に浮かぶのではないかと少し不安に思いつつ,水を注ぎました。
(受刑米「再誕の丘」に水を加えた様子)
米より押麦の方が軽いので,表面は押麦ばかり目立っていますが,押麦が水面に浮かんで水切りができない状態にはなりませんでした。
押麦の形の違いだと思います。
通常の米より濁りが多いのは,米だけでなく押麦も一緒に研ぐためでしょう。
米だけ研いで,後から押麦を加えて炊く方が効率的で,米もよく研げるとは思いましたが,説明どおりに炊いて,受刑米「再誕の丘」本来の味を味わうことにしました。
受刑米「再誕の丘」を味わう
受刑米「再誕の丘」を研ぎ,適量の水を加えて炊飯器で炊きました。
出来上がりがこちらです。
(受刑米「再誕の丘」(炊飯))
前編で下手な絵まで描いて御紹介した「美祢定食」の麦めしはまさにこれでした。
アップで撮影してみました。
(受刑米「再誕の丘」(炊飯・拡大))
押麦については,市販のものに比べ,真ん中の黒いスジ(フンドシ・黒条線)が曲がっていたり,切れていて,サイズも不揃いで小さいように思いました。
また,米飯についても,市販のものに比べ,全体的に少し黄色味を帯びているように思いました。
御参考までに,普段私が食べている麦ご飯はこんな感じです。
(麦ご飯)
一般的な米・押麦ですので,そんなに違いはありませんが,受刑米「再誕の丘」に比べ,白くて粒が揃っていることがわかります。
炊き上がった受刑米「再誕の丘」をいただいてみました。
少し糠のにおいがし,粘り気も少なくパサパサした食感なのですが,いわゆる「くさい飯」ではなく,これはこれで美味しいと思いました。
たくさん炊けたので,容器に入れて職場へ持参し,ランチでもいただきました。
(受刑米「再誕の丘」(炊飯・ランチ用))
周りからは変わった人だと言われましたが,なかなか味わえない貴重な食べ物だと認識している私は,一人悦に入ってました。
こんな私こそ,この麦めしをたくさん食べて自分自身を振り返り,見つめ直さなければならないような気もしますが…(笑)
誰にでもすすめられるものではありませんが,食に興味がある方や,食関係の研究者の皆さんには,味わっていただきたいご飯です。
ちなみにこの受刑米「再誕の丘」は,国道316号沿い,JR美祢線・於福駅近くの「道の駅おふく」でも販売されていました。
また,美祢市のふるさと納税の返礼品の1つにもされているようです。
まとめ
締めくくりに,刑を終えて出所した人の現状をまとめておきます。
・全国の刑法犯検挙者中の再犯者率は,直近5年間(※1)で50%弱で推移している
・全国の新受刑者中の再入者率は,直近5年間(※1)で60%弱で推移している
・出所時に適切な住居を確保できないまま出所した人は16.9%(※2)
・保護観察終了時に無職であった人は30.3%(※2)
※1…平成27年~令和元年の5年間,※2…令和元年
こうしたデータから,再犯者・再入所者の割合が高いこと,出所者はその後の生活の基本となる住居と就労(収入)に問題を抱えている場合が多いことがわかります。
せっかく出所できても,きちんとした生活が保証されなければ,また犯罪を犯される可能性が高いため,保護観察官,保護司(ボランティア),更生保護団体,刑務官などの方々がこれらの問題解決に向け,日々活動されています。
受刑者への対応と言えば刑罰を科すイメージが先行しがちですが,こうした人々を中心に,再犯防止を目指し,出所後の支援・更生・人権擁護などにも相当御尽力されているのです。
こうした中,「生きることは食べること」,「人に良いと書いて『食』」と言われるように,日々の食が保証され,きちんとした食生活を送れるかどうかも,受刑者や出所者の反省・立ち直り・豊かな心の形成・自立などを促すためのとても重要な要素となるでしょう。
美味しいもの,贅沢なものを追求するという観点からの「食」ではなく,もっと基本的な,刑事施設内で毎日食事が提供されることへの感謝の気持ちや,出所後は自ら食を確保する必要があるという自覚や自立心を持ってもらう観点からの「食」に注目することからも,問題解決につながることがあるように思います。
<関連サイト>
「美祢社会復帰促進センター」(山口県美祢市豊田前町麻生下10番地)
「道の駅おふく」(山口県美祢市於福町上4383-1)
<関連記事>
「美祢社会復帰促進センターと受刑者の食(前編) -センターの概要,美祢定食,受刑者・出所者の人権について-」
「ひろこうフェスタ in 広島拘置所(前編) -性格テスト,人権・薬物クイズ,拘置所内見学-」
「ひろこうフェスタ in 広島拘置所(後編) -革製品制作体験・刑務所製コッペパン・記念品-」
<参考文献>
リーフレット「美祢社会復帰促進センター」美祢社会復帰促進センター
「再誕の丘だより」美祢社会復帰促進センター
広島法務局・広島矯正管区・中国地方更生保護委員会から御提供いただいた資料・統計データ
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コメント
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この話に続編があるとは!(笑)
受刑者の作業?に農作業もあるんですね。
タンスなんかを作っているイメージしかなかった(^^;
受刑米が買えるのも驚きです。
以前、健康のためと思って、1対1の割合の押麦ご飯を食べていたことがあります。
まずいことはないですが、ボソボソで食べづらかったです。
それに比べたら、受刑米の方が美味しいかもしれません(笑)
投稿: chibiaya | 2021年2月 6日 (土) 22時05分
chibiaya 様
chibiayaさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
前編で御紹介した「美祢定食」の写真が使えなかったので,今回御紹介したサツマイモと受刑米の記事だけにしようかとも思ったのですが,下手なりに頑張って「美祢定食」の絵を描き,2本の記事にしました(^^;)
受刑者の作業には,農園芸のほかにも,ITスキル,調理師,クリーニング,製パンなど多岐にわたり,ホームヘルパー2級・販売士検定・パソコン関連資格などの資格取得も可能なようです。
こうしたところに国・企業・地方自治体が協働して運営する強みがあると言えるでしょうね。
マイナスのイメージで受け取られがちな受刑者用の米を,むしろ積極的に販売されているのは,注目すべき取組みだなと思います。
1対1の割合の麦ご飯ですか~。
刑務所より押麦の割合が高い(笑)
私は今も平日の朝昼晩,毎食麦ご飯です(^-^)
健康食への関心の高まりから,麦ご飯は今や積極的に召し上がる方もおられる時代ですよね。
麦ご飯は体に良いと思いますが,欠点は,特に冷めた時にボソボソになってしまうことで,私は必ず温めて食べています。
押麦の割合が高い麦ご飯と,受刑米のどちらが美味しいか…難しいお話ですが,1つわかったことは,ご飯はとてもシンプルな食べ物なので,割合(量)だけでなく品質によっても味が大きく左右されるということです。
埼玉の全国のアンテナショップなどで,レモンケーキと並んで受刑米も販売してもらえないかな(笑)
追伸:パンの情報,ありがとうございました。役立ちました\(^o^)/
投稿: コウジ菌 | 2021年2月 6日 (土) 23時19分
紅はるかのふかし芋美味しそうですね(^.^)
ドラマとかだと受刑者は滅多に甘い物が食べられない様ですが、自分達が収穫したお芋は食べられるのでしょうか?
麦とろご飯は大好きですが、それ以外は苦手ですね(⌒-⌒; )
玄米も五部だきだとちょっとキツイ感じです( ´∀`)
刑務所で麦とろは出ないでしょうね(⌒-⌒; )
昔は放免という下級刑吏がいた様ですが、今は差別を助長するので難しいでしょうね(*´-`)
投稿: なーまん | 2021年2月 7日 (日) 17時55分
なーまん 様
なーまんさん,こんばんは。
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
写真がお上手ななーまんさんから,美味しそうとおっしゃっていただけるとは,とても嬉しいです(^-^)
受刑者も,自分達で作ったこの紅はるかを食べることができるのかどうか不明ですが,収穫し,食べる喜びを共有することも矯正の1つになるのではないかなと思います。
それをまた栽培にフィードバックさせることも大切なので,恐らく召し上がる機会はあると思います。
今回の受刑米も,麦とろご飯にすれば食べやすいと思います。
玄米も召し上がるんですね!私は面倒なので,麦ご飯オンリーです(^^ゞ
麦とろは,自然薯が変色しやすく,作り置きが難しいので,配食は難しいでしょうね。
刑務所等の夕食は,17時頃と早いようなのですが,その理由は夕食を作る受刑者の刑務作業時間への配慮,衛生面での配慮,適温で給与できるための配慮などがあるそうで,こうした配慮から考えても麦とろは難しいように思います。
「放免」,ネットでは検非違使のもとで犯人を捜査・逮捕する役割を担った刑吏で,前科のある人を雇ったようですね。
初めて知りました。新鮮で,とても興味深く思いました。
さすが,歴史にお詳しいなーまんさん\(^o^)/
投稿: コウジ菌 | 2021年2月 7日 (日) 18時40分