からすみの研究 手作りからすみと長崎の生からすみ -からすみが高価な理由について-
ボラの卵巣から作られ,「日本三大珍味」(※)の1つと称される「からすみ」。
※日本三大珍味…うに,このわた,からすみ
古代ローマ時代に地中海沿岸で食されていた魚卵の保存食が,中国経由で長崎へ伝来し,日本国内でも広まったようです。
からすみは,その形が中国(唐)伝来の墨に似ていることから「唐墨(からすみ)」と呼ばれるようになったと言われています。
今回は,このからすみについてまとめてみたいと思います。
手作りからすみとカサゴ・ホタテ貝柱・野菜のグリエ ソース・オランデーズ
広島市内のフランス料理店で,手作りのからすみを添えた魚料理をいただきました。
料理が出される前に,シェフが作られた特製からすみを見せていただきました。
(手作りからすみ)
20cmはあろうかと思われる大きなからすみが皿に盛られて披露され,びっくりしました。
大きなボラの卵巣で作られたのでしょう。
写真のように,からすみの原形は卵巣が一対になっていて,端っこにボラの身が付いた状態となっています。
このからすみを薄くスライスして添えられた魚料理をいただきました。
「温野菜とカサゴのグリエ ソース・オランデーズ からすみ添え」です。
(温野菜とカサゴのグリエ ソース・オランデーズ からすみ添え)
グリルで焼かれたカサゴ,ホタテの貝柱,アスパラガスなどに,自家製からすみとクレソンがあしらわれています。
ソースは「ソース・オランデーズ(sauce hollandaise)」が中心で,グリルされた魚にたっぷりとかけられており,それに「フュメ・ド・ポワソン(fumet de poisson)」も添えられていました。
「ソース・オランデーズ」は卵黄,澄ましバター,レモン汁,カイエンヌペッパー,塩,こしょうで作られるマヨネーズソースに似た味のソース,「フュメ・ド・ポワソン」は魚を煮出して取っただし汁です。
からすみを加えることで,淡白な白身魚に適度な塩気と凝縮されたコク・旨味が加わり,ソースやだし汁と同等の役割をすることがわかりました。
イタリアンレストランの「カラスミパスタ」の思い出
最近は日本のイタリア料理店でも,イタリアのからすみ「ボッタルガ」を扱っておられるお店をよく見かけるようになりました。
その代表格がパスタ料理で,「カラスミのパスタ」や「ボッタルガのパスタ」として御用意されています。
私は職場の後輩を誘ってイタリアンレストランでランチを食べたことがあるのですが,その時の思い出話を1つ御紹介します。
ランチセットのパスタを選ぶ際,黒板のメニューに「イカスミのパスタ」,「カラスミのパスタ」などたくさんの種類のパスタが用意されていました。
「どれにしようかな…」と悩む後輩。そしてちょっと深刻な顔をして私に,「カラスミのパスタって,やっぱり口の中が真っ黒になりますかね…」と質問してきました。
午後からの勤務を気にしてのことでしょう。
私は笑いを抑えながら「うーん,黒くならないと思うよ。注文してみたら」と答えました。
私は,経験も兼ねて本当にカラスミのパスタを注文してみたらと良いと思ったのですが,お高いと感じたのか,本当に口が黒くなると思ったのか(笑),結局別のパスタを選んでいました。
私がカラスミのパスタを頼んで「スミ」の誤解を解けばよかったことですね。
スミません。
長崎の生からすみ
2021年2月に広島市内のデパートで開催された「長崎の大物産展」へ行きました。
たくさんのお店の中に,長崎市のからすみ専門店「味藤(あじとう)」も出店されていて,からすみのほかに「純生からすみ」も販売されていました。
生のからすみは珍しいと思い,お店の方にお話を伺いました。
「生からすみ」は,ボラの真子(卵巣)をからすみとして干す前に,醤油ベースで調味した食べ物です。
(純生からすみ 説明書き)
上品でやわらかく,女性に人気の商品とのことです。
そのままおつまみとしていただけるほか,バタートーストにのせたり,パスタに和えたり,ご飯にのせて「からすみ丼」にしても美味しくいただけるようです。
山芋の短冊や大根の薄切りに添えて食べるのも美味しいらしく,国際線ファーストクラスの機内食にも採用実績があるとのお話でした。
珍しさに加え,どんな味がするのだろうと興味津々で購入しました。
(純生からすみ(瓶詰め))
卵の一粒一粒がキラキラと黄金色に輝いています。
(純生からすみ)
この生からすみをいただきました。
魚卵の一粒一粒がわかるほどシャリシャリ・プリプリしていて,その食感は数の子とよく似ています。
一方,魚卵一粒あたりの大きさは,たらこ(明太子)と同じくらいです。
つまり,数の子の粒をばらし,その粒をたらこ(明太子)と同程度の大きさにして,醤油漬けにしたようなイメージの魚卵です。
風味はウニ,より具体的には塩漬け・瓶詰めのウニにそっくりです。
きめ細やかで上品な数の子に似た食感で,噛み締めるほどにウニのような芳醇な香りと旨味が楽しめる,高級感あふれた逸品です。
魚卵の一粒一粒をしっかりと味わえるのは「生からすみ」ならではの特権で,干して作られたからすみとは違った生の味わい・食感を楽しむことが出来ました。
高価なので,すみからすみまで一粒残らずいただきました。
なぜからすみは高価なのか
私は子供の頃,父や友人と地元の瀬戸内海でよく釣りをしたのですが,アジやサバ,イワシなどを狙ってサビキ釣りをしていると,たまに大きなボラが釣れることがありました。
私たちも含めて,釣り人は皆「外道(げどう・「釣りの対象外の魚」という意味)だ」と言って海に返していたので,ボラを刺身(洗い)などで食べた経験は数回,興味本位でしかありません。
ボラの身はにおいが強かったり,脂が多かったりすることが理由で,一般的に釣り人からはあまり歓迎されない魚なのですが,その卵巣を加工したからすみとなると,一転して高級珍味扱いとなるから不思議です。
からすみが高価となる主な理由は,
(1)食べて美味しいボラは,生息域が限られること
(2)からすみに適したボラの卵巣(ボラ子)が限られていること
(3)製造にかなりの手間と時間がかかること
(4)からすみが日本三大珍味として高級品扱いとなっていること
にあるでしょう。
海や河口の水面に群れをなして泳いでいるボラは雑食性で,海底・川底の泥を丸呑みするため,汚染された海や川で獲れたものは泥の臭みが強くなります。
そのため,美味しいからすみを作るためには,きれいな海を回遊してきたボラの卵巣を使う必要があり,生息域が限られるため,高価になるのです。
また,原料となるボラの卵巣(ボラ子)においても,その大きさや程度(血管の多さ・切れの有無など)にバラツキがあり,それが価格に反映されます。
さらに,からすみの製造には血抜き,塩漬け,塩抜き,酒漬け,干しなどの工程があり,その1つ1つの工程にかなりの手間と時間がかかるため,最終的にきれいに仕上げることが出来たからすみは高価になってしまうのです。
こうした理由に加え,からすみが日本三大珍味の1つとして高級品となっており,高価でも売れる商品となっていることも理由の1つとなっています。
ボラの魅力をうまく引き出し,高付加価値の食べ物に仕上げたのが「からすみ」なのです。
<関連サイト>
「からすみ専門店 味藤」(長崎県長崎市白木町7-44)
知識の宝庫!目がテン!ライブラリー「大量出現!ボラを食す #670(2003/02/23) 」日本テレビ
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からすみ食べた事ある筈ですが味が思い出せません(´∀`)
キャビアも同じ(⌒-⌒; )
ウニは軍艦巻きにして時々食べますが、ウニ丼食べたいとは思いませんね( ´∀`)
ホヤと日本酒は結構合いますが^_^
数の子も子供の頃は嫌いでしたが、今はお正月用に居酒屋チェーンに送ってもらっています^^
死ぬ前にもう一度からすみ食べてみますかね^_^
瓶詰めお高いのでしょうか?
投稿: なーまん | 2021年2月21日 (日) 12時51分
なーまん 様
なーまんさん,こんにちは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
なーまんさんの御感想,ごもっともだと思います。
珍味=とびきり美味しいとは限りませんし,からすみやキャビアといった高級珍味は大量に食べるわけでもないので,味の満足感よりも,食べたことへの満足感の方が強いのが普通だと思います。
ホヤ,一度食べてみたいと思っているのですが,広島に生のホヤは売っておらず,夏に宮城へ行ったことがないので,まだ食べたことがありません。いつかきっと(^^ゞ
数の子はお正月の食べ物になっていて,お正月以外で見かけることはあまりないですね。
広島ではニシンを食べる機会もあまりありませんし…。
からすみ,日本酒のおつまみとして召し上がると良いと思います。
瓶詰めの生からすみは,1,800円(税込1,944円)でした。
主には,切れ子など,からすみとして商品にならないボラの卵を加工されているからお手頃なのだと思います。
でも,からすみとは違った,生からすみだからこその美味しさがありますので,機会があればお試しください(^^)/
投稿: コウジ菌 | 2021年2月21日 (日) 14時03分
最初に写真が目に飛び込み、今日はニンジンの話題か~と思ったらからすみでした(笑)
からすみ、未体験です。
作る工程は、時間はかかるみたいだけど、そんなに複雑ではないなーという印象です。
じゃあやってみるか!にはなりませんが(^^;)
https://dailyportalz.jp/kiji/want-to-cook-karasumi
投稿: chibiaya | 2021年2月21日 (日) 17時50分
chibiaya 様
chibiayaさん,こんばんは!
いつもコメントいただき,ありがとうございます。
ニンジンの話題は,からすみよりずっと難しそうです~(笑)
からすみ,卵の水分が飛んで,濃厚な旨味がギュッと詰まった感じなので,日本酒好きの人にはたまらないと思います。
お酒の苦手な私が言うのも説得力ないですが(^^ゞ
からすみを作る工程,調べてくださったのですね。ありがとうございます。
デイリーポータルZは興味深い記事が多いですよね。
ボラの卵,市場で販売されているものでもかなり高価です。
近くの海や河口で泳いでいるボラとは違う,きれいな水域で育ったボラの卵が取り扱われているのだと思います。
でも,このデイリーポータルZの記者さんが作られたからすみも,かなり立派なからすみに仕上がっていますね !
鯛の卵で作ったからすみ。これはこれで美味しそうです(^-^)
私もやってみたくなりました(笑)
投稿: コウジ菌 | 2021年2月21日 (日) 22時36分